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23.竜帝陛下のおねだり
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何と返したらいいのか困惑する佳穂の頬に手のひらを添え、ベルンハルトは目を細めた。
「目が覚めなかったらと思うと、焦燥感のあまり狂いそうになっていた。カホを受け入れないこの世界を壊そうかとも思っていた」
怖い発言をしているのに、甘い響きを含んだ声で愛を囁くように言われ、佳穂は口を開いたまま固まる。
(この人は、誰なの?)
砂糖菓子を食べた後のように口の中が甘くなる。
体を密着させて蕩けた目で、甘い台詞を吐いた彼は誰なのだろう。
初対面では、鬼を彷彿させた殺気を撒き散らしていた危険人物とは思えない。
甘い雰囲気を放っているのは、気のせいでも自意識過剰ではないと断言できるくらい佳穂に対するに愛情を全面に出し、蕩ける微笑みを向けてくるのは本当にベルンハルト本人なのかと、彼を凝視してしまった。
壁際に立つ護衛の騎士や侍女は、気配を消して二人のやり取りを見守っていた。
彼等の表情に変化はなくとも、普段の皇帝とは違う姿を目撃してしまい動揺していることは、全員の青ざめた顔色が物語っている。
唯一、アマリエだけは微笑ましいものを見るような優しい眼差しを二人に向けていた。
ギャラリーに囲まれているのに、甘い雰囲気を撒き散らしてイチャイチャするのは恥ずかしくて、佳穂の全身は羞恥で真っ赤に染まる。
「此方の世界へ戻ってから、すでに十日は経っている。そろそろ彼方の世界の和食が恋しくなった、カホ? どうした?」
体を縮こませて少しでも離れようとする佳穂の肩へ腕を回し、折角できた隙間は無くなる。
佳穂の困惑は察しているだろうベルンハルトは、愉しそうに口角を上げた。
初めて口付けられてから、初めて体を重ねた時、ベルンハルトは佳穂への好意を隠そうとはしなくなっていた。
以前に比べて彼の性格が変わっているのは、本気で「欲しい」と思っているから。
密着しているからこそ伝わってくる“愛しい”という甘い蜜の様な彼の感情と、至近距離で放たれる色気で目眩がしてきた。
「わ、私、長い間、眠っていたのですね。お世話になったお礼をしたいです。そうですね。食べたいのでしたら和食を作りましょうか?」
“姫様”として祭り上げられ上げ膳据え膳をされるよりも、和食を食べたいと言うベルンハルトのために料理を作るのは、何もしないで過ごすよりずっと気が楽だと判断した。
料理をすると佳穂が伝えた後、嬉しそうに口元を綻ばせたベルンハルトは彼女を抱き締めて顔中に口付けを落とした。
押し倒されそうな勢いでベルンハルトに触れられ、羞恥心から半泣きになった佳穂が彼に横抱きにされて部屋へ戻って来たのは、それから一時間後だった。
自分の身に起こった展開についていけず、精神的な疲労と筋力の低下からか足元がふら付く。
更に、「陛下からの贈り物でございます」と、侍女からリボンでラッピングされたワンピースとフリルいっぱいの可愛らしいエプロンを手渡された時は、動揺のあまり「うひぃっ」と変な声を出してしまった。
(これって、まさか?)
以前、エンターテイメント文化と電気街が融合した街へベルンハルトと遊びに行ったことがあった。
街頭でチラシ配りのフリフリミニスカートの可愛いメイドを見かけ、目を細めて彼女を見ていたベルンハルトの発言を思い出した。
「ああいう趣向も面白いな。お前も着てみたらどうだ?」
あの時は、ハイハイと聞き流していたがワンピースは佳穂の体型にピッタリなサイズだった。まさかベルンハルトが特別に作らせたのか。
皇帝陛下がそんな思春期男子の妄想みたいな、個人的な思いでわざわざメイド服を作らせるのだろうか。
(この水色地のワンピースが、あの時見たメイドさんの着ていたメイド服に似ているのは、きっと偶然よね)
きっとではなく、偶然だと思いたい。
見かけたメイドのスカートは膝上丈だったけれども、渡されたワンピースのスカート丈はフリルを足したら膝下だから違う……はず。
「目が覚めなかったらと思うと、焦燥感のあまり狂いそうになっていた。カホを受け入れないこの世界を壊そうかとも思っていた」
怖い発言をしているのに、甘い響きを含んだ声で愛を囁くように言われ、佳穂は口を開いたまま固まる。
(この人は、誰なの?)
砂糖菓子を食べた後のように口の中が甘くなる。
体を密着させて蕩けた目で、甘い台詞を吐いた彼は誰なのだろう。
初対面では、鬼を彷彿させた殺気を撒き散らしていた危険人物とは思えない。
甘い雰囲気を放っているのは、気のせいでも自意識過剰ではないと断言できるくらい佳穂に対するに愛情を全面に出し、蕩ける微笑みを向けてくるのは本当にベルンハルト本人なのかと、彼を凝視してしまった。
壁際に立つ護衛の騎士や侍女は、気配を消して二人のやり取りを見守っていた。
彼等の表情に変化はなくとも、普段の皇帝とは違う姿を目撃してしまい動揺していることは、全員の青ざめた顔色が物語っている。
唯一、アマリエだけは微笑ましいものを見るような優しい眼差しを二人に向けていた。
ギャラリーに囲まれているのに、甘い雰囲気を撒き散らしてイチャイチャするのは恥ずかしくて、佳穂の全身は羞恥で真っ赤に染まる。
「此方の世界へ戻ってから、すでに十日は経っている。そろそろ彼方の世界の和食が恋しくなった、カホ? どうした?」
体を縮こませて少しでも離れようとする佳穂の肩へ腕を回し、折角できた隙間は無くなる。
佳穂の困惑は察しているだろうベルンハルトは、愉しそうに口角を上げた。
初めて口付けられてから、初めて体を重ねた時、ベルンハルトは佳穂への好意を隠そうとはしなくなっていた。
以前に比べて彼の性格が変わっているのは、本気で「欲しい」と思っているから。
密着しているからこそ伝わってくる“愛しい”という甘い蜜の様な彼の感情と、至近距離で放たれる色気で目眩がしてきた。
「わ、私、長い間、眠っていたのですね。お世話になったお礼をしたいです。そうですね。食べたいのでしたら和食を作りましょうか?」
“姫様”として祭り上げられ上げ膳据え膳をされるよりも、和食を食べたいと言うベルンハルトのために料理を作るのは、何もしないで過ごすよりずっと気が楽だと判断した。
料理をすると佳穂が伝えた後、嬉しそうに口元を綻ばせたベルンハルトは彼女を抱き締めて顔中に口付けを落とした。
押し倒されそうな勢いでベルンハルトに触れられ、羞恥心から半泣きになった佳穂が彼に横抱きにされて部屋へ戻って来たのは、それから一時間後だった。
自分の身に起こった展開についていけず、精神的な疲労と筋力の低下からか足元がふら付く。
更に、「陛下からの贈り物でございます」と、侍女からリボンでラッピングされたワンピースとフリルいっぱいの可愛らしいエプロンを手渡された時は、動揺のあまり「うひぃっ」と変な声を出してしまった。
(これって、まさか?)
以前、エンターテイメント文化と電気街が融合した街へベルンハルトと遊びに行ったことがあった。
街頭でチラシ配りのフリフリミニスカートの可愛いメイドを見かけ、目を細めて彼女を見ていたベルンハルトの発言を思い出した。
「ああいう趣向も面白いな。お前も着てみたらどうだ?」
あの時は、ハイハイと聞き流していたがワンピースは佳穂の体型にピッタリなサイズだった。まさかベルンハルトが特別に作らせたのか。
皇帝陛下がそんな思春期男子の妄想みたいな、個人的な思いでわざわざメイド服を作らせるのだろうか。
(この水色地のワンピースが、あの時見たメイドさんの着ていたメイド服に似ているのは、きっと偶然よね)
きっとではなく、偶然だと思いたい。
見かけたメイドのスカートは膝上丈だったけれども、渡されたワンピースのスカート丈はフリルを足したら膝下だから違う……はず。
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