竜帝陛下と私の攻防戦

えっちゃん

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08.少しずつ変わっていく

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 横断歩道に自販機や踏切、標識と店先に掲げられている電子掲示板。
 道すがら様々な物に興味を示し、その都度、好奇心旺盛のベルンハルトは用途や構造について佳穂を質問攻めにしていたため、徒歩三十分以内のファストファッションブランド店へ辿り着くのに一時間以上の時間がかかってしまった。

「いらっしゃいませー」

 出入り口の自動ドアが開き、冷房がきいた店内からのほどよく冷えた風に迎え入れられて、佳穂は汗だくの額をハンカチで拭う。
 炎天下の下を一緒に歩いたベルンハルトは、汗を全くかかないで平然としているのが信じられない。流石皇帝陛下といったところか。

 興味深いそうに店内を見渡すベルンハルトを置いてメンズ服コーナーまで歩き、佳穂は服を畳み直していた男性店員へ声をかけた。

「すみません。私だと男性の服はよく分からないので、あちらにいる彼に似合う服をコーディネートしてくれませんか?」

 男性店員は佳穂の後ろにいるベルンハルトを見て、一瞬目を丸くしてから愛想のよい態度で新着商品棚へ二人を案内し、次々に服を組み合わせ始める。

「裾直しの必要は無いと思いますけど、念のため試着してみます?」

 勧められるまま試着室へ入り、和装から洋装へ着替え試着室のカーテンを開いたベルンハルトを見て……佳穂の口から感嘆の息が漏れた。
 店員が言う通り、ベルンハルトが履いているジーンズは裾直しの必要は無かった。
ジーンズ購入時は毎回裾直ししている佳穂からしたら、羨ましいかぎりだと思う。
 変哲もないTシャツにジーンズなのに、洗練された服に見えるのは着る人が見目麗しいからか。

「裾直し不要だなんて羨ましいです。私なんか裾を直してもらわなければ履けないのに」
「フッ、確かに。初めてお前を見た時は子どもかと思ったな」

 年齢よりも幼く見られることを以前から気にしていた佳穂は、ムッとしてベルンハルトを睨む。
 睨まれても涼しい顔のまま、ベルンハルトは試着室のカーテンを閉めた。


「ありがとうございました。またおこしください」

 男性店員にコーディネートしてもらった服数点を購入して、ずっしり重い大きい紙袋を持って佳穂は出入口へ向かう。

「よこせ」

 出入口へ差し掛かる前に横から延びてきた手が、佳穂が両手で持つ紙袋を奪うように持ち手を握った。

「ベルンハルトさん?」

 突然のことに吃驚して、佳穂は目を丸くして紙袋を持ったベルンハルトを見上げてしまった。

「重いですよ?」
「この程度は重さの内に入らん」

 大きい紙袋の底を地面に擦らないように両手で持っていた佳穂とは違い、片手で軽々と紙袋を持ったベルンハルトはスタスタと歩き出した。

「ベルンハルトさん、ありがとうございます」

 小走りで駆け寄りお礼を伝えれば、ベルンハルトは意外だと言わんばかりに少しだけ目を見開き眉間に皺を寄せ、どう反応するか困惑している顔になっていく。

「どうかしました?」
「っ、何でもない」

 首を傾げた佳穂を置いてベルンハルト歩き出した。


 外出の目的の一つベルンハルトの服を購入し、後はスーパーへ行って帰るだけだ。直ぐ近くにあるスーパーへ向かおうとして、佳穂は「あっ」と思い出した。

(そうだ、商店街に寄るっておばさんに言っちゃったな)

 すっかり忘れていたが、おばさんに商店街へ寄るように言われていたのだ。
スーパーのタイムサービスの時間には間に合わなくなるが、おばさんネットワークで変な噂をたてられるよりはマシだろう。



 古めかしいアーケードをくぐり、昔ながらの商店と若者向けの雑貨屋や服屋が混在する商店街へ向かう。
 商店街には不釣り合いな銀髪外国人には少々違和感を覚えつつ、辺りを見渡す彼の楽しげな様子に胸を撫で下ろした。
 アーケードをくぐって直ぐに店を構える豆腐屋の店先では、出来上がったばかりの油揚げを店頭に並べていた割烹着を着たお婆さんが二人に気付きにこやかに手を振る。

「佳穂ちゃんいらっしゃい~」

 豆腐屋看板娘、背が低く可愛いお婆さんも佳穂が幼い頃からの顔見知りだった。
世話好きでお喋り好きなお婆さんに捕まると話が長いのだ。

「田中さんから聞いたわよ。あらやだー本当にイケメンねぇ。ちょっと寄ってきなよ」

 ベルンハルトを見てほんのり頬を染めたお婆さんに手招きされてしまい、佳穂は苦笑いを浮かべた。



 
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