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心臓が止まりそうなくらいの衝撃②
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台所と引き戸を挟んだ隣の部屋、居間のダイニングテーブルの上へ珈琲を淹れたマグカップを置いた。
少し濃い目になった珈琲は、黒々した見た目のためか青年は嫌そうに眉を寄せる。
「砂糖とミルクはお好みで入れてください」
ダイニングチェアに座った彼は、珈琲を見て怪訝そうな表情になる。
多目の砂糖とミルクを入れて、佳穂が一口飲んだのを確認してから彼は見様見真似でミルクと砂糖入れ、マグカップへ口をつけた。
足を悪くした今は亡き祖母のため、五年前に畳をフローリングにリフォームしてある居間は日本家屋の我が家唯一の洋室。
洋室とはいえ、最悪な初対面がなければ見惚れるくらい美形な外国人が居るのは、もの凄く違和感があった。
「……どうやら此処は俺にとっては異世界というやつらしいな」
「へっ?」
珈琲を飲み干して、気だるげに口を開いた青年の言葉に、佳穂は間の抜けた声を出してしまった。
「貴方は此処ではない世界からやって来たと言うの?」
「そうだ。此方へ来る前の俺は、謀反を企む輩へ奇襲をかけて一掃していた。隠し扉の奥にある部屋で妙な魔術書を見付けたのだ。何か仕掛けがあるのかと試しに魔力を注いだら……此処へ来ていた。此処の大気も精霊の力も、俺のいた世界とはまるで違う。女、お前はトルメニア帝国の名は知らぬだろう」
謀反、奇襲という物騒な言葉が聞こえた気もしたが、深くは考えないようにして佳穂は青年の問いに素直に頷く。
地球上の全ての国名を知っているわけではないが、トルメニアなんて国も“帝国”と国名につく国は世界史で習った数ヵ国以外知らないし、近世では存在しないはず。
佳穂の反応を見ていた青年は、視線を壁際の液晶テレビと空気清浄機へ移す。
「この家にあるものは、この俺が知らぬ妙なものに溢れているからな。此処が異世界とやらでなければ説明がつかない」
傷を共有する事実を泣くほど味わった今、彼が異世界から来たのは納得するしかない。
それよりも佳穂には引っ掛かることがあった。
それを指摘したら彼の機嫌を損ねるのではないかと、たっぷり十数秒悩んだ末に覚悟を決めた。
「あの、よく分かったような分からないような感じですが、一つだけよろしいでしょうか?」
ごくりっ、佳穂は唾を飲み込む。
「私の名前は“女”ではありません。私は、佐々木佳穂、あ、佳穂が名前です。職業は大学生、学生です。あの、貴方のお名前と、肩書きを教えてもらってもいいですか?」
緊張で噛みそうになりながら言うと、無表情で佳穂を見ていた青年は僅かに口の端を上げた。
「俺は、ベルンハルト・リレイ・トルメニア。肩書きは、トルメニア帝国皇帝だ」
「皇帝陛下?」
身に付けている服や剣は、見るからに高級の一品。
きっちりと手入れされている輝く銀髪、人とは思えない整った顔立ちから彼は一般人ではないだろうと、高位の権力者だろうなとは想像していた。しかし、まさか皇帝陛下だったとは。
皇帝陛下が下町の、ただの一般人の家に来るとか小説や漫画じゃあるまいし、この先どうしたらいいのか。
「やたら偉そうだし強そうだし、美形だしセレブなオーラ出しまくりだし、やっぱり警察に通報した方がいいのかな……」
「……おい」
ぶつぶつ呟いて両手で顔を覆った佳穂は、不機嫌な声で我に返る。
「それは全て誉め言葉だと、受け取っていいのか?」
「ひぃっ声に出ていた!? ごめんなさい~!」
口元は笑みを形作っていてもベルンハルトの目は全く笑ってはおらず、彼から発せられる針で刺すような強烈な圧力に佳穂の背中は寒くなった。
少し濃い目になった珈琲は、黒々した見た目のためか青年は嫌そうに眉を寄せる。
「砂糖とミルクはお好みで入れてください」
ダイニングチェアに座った彼は、珈琲を見て怪訝そうな表情になる。
多目の砂糖とミルクを入れて、佳穂が一口飲んだのを確認してから彼は見様見真似でミルクと砂糖入れ、マグカップへ口をつけた。
足を悪くした今は亡き祖母のため、五年前に畳をフローリングにリフォームしてある居間は日本家屋の我が家唯一の洋室。
洋室とはいえ、最悪な初対面がなければ見惚れるくらい美形な外国人が居るのは、もの凄く違和感があった。
「……どうやら此処は俺にとっては異世界というやつらしいな」
「へっ?」
珈琲を飲み干して、気だるげに口を開いた青年の言葉に、佳穂は間の抜けた声を出してしまった。
「貴方は此処ではない世界からやって来たと言うの?」
「そうだ。此方へ来る前の俺は、謀反を企む輩へ奇襲をかけて一掃していた。隠し扉の奥にある部屋で妙な魔術書を見付けたのだ。何か仕掛けがあるのかと試しに魔力を注いだら……此処へ来ていた。此処の大気も精霊の力も、俺のいた世界とはまるで違う。女、お前はトルメニア帝国の名は知らぬだろう」
謀反、奇襲という物騒な言葉が聞こえた気もしたが、深くは考えないようにして佳穂は青年の問いに素直に頷く。
地球上の全ての国名を知っているわけではないが、トルメニアなんて国も“帝国”と国名につく国は世界史で習った数ヵ国以外知らないし、近世では存在しないはず。
佳穂の反応を見ていた青年は、視線を壁際の液晶テレビと空気清浄機へ移す。
「この家にあるものは、この俺が知らぬ妙なものに溢れているからな。此処が異世界とやらでなければ説明がつかない」
傷を共有する事実を泣くほど味わった今、彼が異世界から来たのは納得するしかない。
それよりも佳穂には引っ掛かることがあった。
それを指摘したら彼の機嫌を損ねるのではないかと、たっぷり十数秒悩んだ末に覚悟を決めた。
「あの、よく分かったような分からないような感じですが、一つだけよろしいでしょうか?」
ごくりっ、佳穂は唾を飲み込む。
「私の名前は“女”ではありません。私は、佐々木佳穂、あ、佳穂が名前です。職業は大学生、学生です。あの、貴方のお名前と、肩書きを教えてもらってもいいですか?」
緊張で噛みそうになりながら言うと、無表情で佳穂を見ていた青年は僅かに口の端を上げた。
「俺は、ベルンハルト・リレイ・トルメニア。肩書きは、トルメニア帝国皇帝だ」
「皇帝陛下?」
身に付けている服や剣は、見るからに高級の一品。
きっちりと手入れされている輝く銀髪、人とは思えない整った顔立ちから彼は一般人ではないだろうと、高位の権力者だろうなとは想像していた。しかし、まさか皇帝陛下だったとは。
皇帝陛下が下町の、ただの一般人の家に来るとか小説や漫画じゃあるまいし、この先どうしたらいいのか。
「やたら偉そうだし強そうだし、美形だしセレブなオーラ出しまくりだし、やっぱり警察に通報した方がいいのかな……」
「……おい」
ぶつぶつ呟いて両手で顔を覆った佳穂は、不機嫌な声で我に返る。
「それは全て誉め言葉だと、受け取っていいのか?」
「ひぃっ声に出ていた!? ごめんなさい~!」
口元は笑みを形作っていてもベルンハルトの目は全く笑ってはおらず、彼から発せられる針で刺すような強烈な圧力に佳穂の背中は寒くなった。
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