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2章.あやかし探偵俱楽部の事件簿
眠れない夜
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中庭の騒ぎの後、加害者である川合さんと被害者で負傷した女子の手当や、目撃してしまった女子数人が体調不良を訴えたため、授業は全て中止となった。
「暴れた女子は、体調が悪くて錯乱していただけだ。このことは口外無用だ。いいね」
「……はい。分かりました」
他の目撃者と同様に、鈴と万智子は二人の男性教師から事情を訊かれた後、外部に漏らさないように何度も釘を刺されてから寮へと戻った。
「職員さんたちが話しているのを聞いちゃったんだけど、川合さんに襲われた女子は、縫合する傷も無く幸い軽症で済んだって。でもすごく怯えていて、しばらくは実家に帰って休養するそうよ。川合さんの方は、まだ意識が戻ってないって。川合さんの方が実家の格が上とはいえ、襲い掛かって怪我をさせてしまったしこの後、賠償とか大変でしょうね」
御手洗から遠回りして、職員の部屋の前を通って自室に戻って来た万智子は、腕組みをして椅子に座った。
「そうなんだ。賠償のことは分からないけど、すごく怖かっただろうし休養して傷と心を癒してほしいわ」
襲われた女子の恐怖に染まった顔が脳裏に浮かび、鈴は膝の上に置いた手を握り締める。
「それに、川合さんはまだ目を覚まさないのね……」
(川合さんは黒い靄に操られていたって緋さんは言っていた。操られていたとしても、人間離れした動きをしていたし体への負担は大きかったんだろうな。意識が戻って自分のやったことを知ったら、ショックで倒れてしまうかもしれないわ)
編入したての鈴は、隣のクラスの川合さんとは挨拶しかしたことはなかったが、クラスメイトの話では彼女は控え目な“深窓の令嬢”だということだ。
「あの時、襲い掛かって来た時の川合さんは動物みたいな動きをしていたでしょ? 顔付も鬼みたいだったし……これはきっと妖の仕業だわ!」
瞳を輝かせた万智子は握り締めた右手を高く上げる。
「妖って、何でもかんでも妖のせいにしなくてもいいでしょう。川合さんのことは先生達に任せましょう」
「駄目よ! 休職した今田先生も暴れた川合さんも、きっと妖が絡んでいたのよ。それでね、最近様子がおかしくなった方はいないか、妙な出来事はなかったか、調査しようと思っているの。もちろん鈴は手伝ってくれるわね!」
息継ぎなく一気に言い切った万智子は、顔を引き攣らせて後退った鈴の手を勢いよく握った。
「え、手伝うって、私は」
「妖探偵倶楽部の一員として、手伝ってくれるよね!」
「……前向きに考えておくわ」
拒否の言葉を言い終わる前に、顔を近付けてきた万智子からかぶせるように言われてしまい、断れきれなかった鈴は片手で顔を覆った。
***
昼間の出来事を思い返して寝ようとしない万智子を宥め、ベッドに横にさせてから数時間経った深夜。
隣のベッドで眠る万智子が熟睡しているのを確認して、鈴は体を起こしベッドから抜け出した。
窓を覆うカーテンを半分開いて、薄暗い室内に月明かりを入れた鈴は学習椅子に腰かける。
「子狐ちゃん」
ポンッ
音と共に机の上に現れた子狐は、鈴の右手に頭を擦り付けた。
【鈴、寝られないの?】
「色々考えていたら寝られなかくなったの。ねぇ、川合さんはどうなってしまうの?」
鈴に頭を撫でられて、目を細めていた子狐の左耳がピクリと揺れる。
【昼間のヤツは、ヒヒイロの妖力に煽られて操られていただけだし、無理矢理動かされた体が回復したら目が覚めるよ。鈴は高梨の血筋だし視えちゃっているから、学園内で妖を見かけても近付くなよ。ヒヒイロが来てから学園にいる弱い妖は怯えているし、人に対して敵意を持っているヤツはさらに攻撃的になっているんだ。ヒヒイロは鈴に危険が及ぶって考えないんだから、ぐえっ】
気配無く鈴の背後から伸びて来た手が、腕組みして話していた子狐の首根っこを摘まみ上げた。
摘まみ上げた相手の圧を感じ取り、子狐は目を白黒させて手足をばたつかせる。
「俺のせいにするな」
「緋さん?」
首を動かして見上げてくる鈴と目を合うと、緋は子狐を万智子の眠るベッドへ放り投げた。
「暴れた女子は、体調が悪くて錯乱していただけだ。このことは口外無用だ。いいね」
「……はい。分かりました」
他の目撃者と同様に、鈴と万智子は二人の男性教師から事情を訊かれた後、外部に漏らさないように何度も釘を刺されてから寮へと戻った。
「職員さんたちが話しているのを聞いちゃったんだけど、川合さんに襲われた女子は、縫合する傷も無く幸い軽症で済んだって。でもすごく怯えていて、しばらくは実家に帰って休養するそうよ。川合さんの方は、まだ意識が戻ってないって。川合さんの方が実家の格が上とはいえ、襲い掛かって怪我をさせてしまったしこの後、賠償とか大変でしょうね」
御手洗から遠回りして、職員の部屋の前を通って自室に戻って来た万智子は、腕組みをして椅子に座った。
「そうなんだ。賠償のことは分からないけど、すごく怖かっただろうし休養して傷と心を癒してほしいわ」
襲われた女子の恐怖に染まった顔が脳裏に浮かび、鈴は膝の上に置いた手を握り締める。
「それに、川合さんはまだ目を覚まさないのね……」
(川合さんは黒い靄に操られていたって緋さんは言っていた。操られていたとしても、人間離れした動きをしていたし体への負担は大きかったんだろうな。意識が戻って自分のやったことを知ったら、ショックで倒れてしまうかもしれないわ)
編入したての鈴は、隣のクラスの川合さんとは挨拶しかしたことはなかったが、クラスメイトの話では彼女は控え目な“深窓の令嬢”だということだ。
「あの時、襲い掛かって来た時の川合さんは動物みたいな動きをしていたでしょ? 顔付も鬼みたいだったし……これはきっと妖の仕業だわ!」
瞳を輝かせた万智子は握り締めた右手を高く上げる。
「妖って、何でもかんでも妖のせいにしなくてもいいでしょう。川合さんのことは先生達に任せましょう」
「駄目よ! 休職した今田先生も暴れた川合さんも、きっと妖が絡んでいたのよ。それでね、最近様子がおかしくなった方はいないか、妙な出来事はなかったか、調査しようと思っているの。もちろん鈴は手伝ってくれるわね!」
息継ぎなく一気に言い切った万智子は、顔を引き攣らせて後退った鈴の手を勢いよく握った。
「え、手伝うって、私は」
「妖探偵倶楽部の一員として、手伝ってくれるよね!」
「……前向きに考えておくわ」
拒否の言葉を言い終わる前に、顔を近付けてきた万智子からかぶせるように言われてしまい、断れきれなかった鈴は片手で顔を覆った。
***
昼間の出来事を思い返して寝ようとしない万智子を宥め、ベッドに横にさせてから数時間経った深夜。
隣のベッドで眠る万智子が熟睡しているのを確認して、鈴は体を起こしベッドから抜け出した。
窓を覆うカーテンを半分開いて、薄暗い室内に月明かりを入れた鈴は学習椅子に腰かける。
「子狐ちゃん」
ポンッ
音と共に机の上に現れた子狐は、鈴の右手に頭を擦り付けた。
【鈴、寝られないの?】
「色々考えていたら寝られなかくなったの。ねぇ、川合さんはどうなってしまうの?」
鈴に頭を撫でられて、目を細めていた子狐の左耳がピクリと揺れる。
【昼間のヤツは、ヒヒイロの妖力に煽られて操られていただけだし、無理矢理動かされた体が回復したら目が覚めるよ。鈴は高梨の血筋だし視えちゃっているから、学園内で妖を見かけても近付くなよ。ヒヒイロが来てから学園にいる弱い妖は怯えているし、人に対して敵意を持っているヤツはさらに攻撃的になっているんだ。ヒヒイロは鈴に危険が及ぶって考えないんだから、ぐえっ】
気配無く鈴の背後から伸びて来た手が、腕組みして話していた子狐の首根っこを摘まみ上げた。
摘まみ上げた相手の圧を感じ取り、子狐は目を白黒させて手足をばたつかせる。
「俺のせいにするな」
「緋さん?」
首を動かして見上げてくる鈴と目を合うと、緋は子狐を万智子の眠るベッドへ放り投げた。
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