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2章.あやかし探偵俱楽部の事件簿
獣憑き②
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「うぎゃぎゃぎゃ!」
「ひぃ、あぁあ……」
睨んでいた鈴から倒れている女子生徒のもとへ戻った川合さんは、恐怖と痛みで悲鳴を上げた女子生徒を見下ろし楽しそうに口角を上げて笑う。
「うああー!」
口元を赤く染めた川合さんが大きく口を開き、動けないでいる女子生徒の肩に噛みつく。
噛みつかれた痛みで、女子の声が弱弱しくなっていく。
(このままで見ていたら、襲われている子は重傷を負ってしまうし、操られている川合さんも人の世界に戻ってこれなくなっちゃう!)
震える体を叱咤して、鈴は渡り廊下の柱に手をつくと大きく息を吸い込んだ。
「やめなさい!」
【鈴! 駄目だよアイツには届かない! こなくそっ!】
ボンッ!
子狐が放った火の玉は、川合さんの体から出て来た黒色の靄によって防がれて、彼女には届かない。
【ぐるるる……】
川合さんの動きが止まり、女子生徒の肩から口を外すと上半身を起こしてゆっくりと振り返った。
「ひぃっ」
渡り廊下の柱の影から顔を出した万智子は、振り返った川合さんを顔を見て悲鳴を漏らす。
口の周りを赤く染め、乱れた着物に血を飛び散らした川合さんの姿は、万智子が愛読している妖怪辞典に載っている鬼女そのものだった。
「か、川合さんは妖なの?」
作り物とは違う、本物の怪異を前にした恐怖から万智子は体を震わせた。
「万智子さん、下がっていて。川合さんじゃないわね。貴女、誰なの! 今すぐ川合さんから離れなさい!」
鈴の声に答えるように、口を笑みの形に動かした川合さんの口と鼻から黒色の靄が漏れ出て、彼女の体を覆いつくした。
「何あれ⁉」
「万智子さんは先に逃げて!」
「ちょっと! 何言っているのよ! あっ」
鈴の側に戻ろうとした万智子の肩に子狐が飛び乗り、動きを止めた彼女の目から光が消える。
【鈴の言う通り戻っていて】
尻尾を振った子狐が肩から飛び下りると、万智子は足元をふらつかせながら教室の方へと歩き出した。
【鈴も逃げなよ。ちょっと疲れるけど本気を出すから。コイツを消してやるんだ!】
「駄目。川合さんをこのままにしておけないわ。早くアレを分離させなきゃ」
唸り声を上げる川合さんは、歯を剥き出しにして鈴と子狐を威嚇する。
敵と認識した鈴に飛び掛かろうと、川合さんは体勢を低くして大きく口を開けた。
「近付くな」
【ぎゃあっ!?】
気配も足音も無く、渡り廊下の柱の影から現れた男性の手が、川合さんの頭を鷲掴みにする。
【がああ! ぐぎゃああ!】
シュウウウ……
鷲掴みにされた川合さんの顔は苦悶に歪み、全身から放たれていた黒い靄は霧散していった。
「この娘は俺のモノだ。お前ごときが触れていいモノではない。消えろ」
柱の影から姿を現した緋が冷たく言い放つと、川合さんの周りに紅蓮の炎が出現した。
【ぎいゃああああー!!】
紅蓮の炎は、川合さんの口と鼻から噴き出した黒色の靄を包み込むように大きく膨れ上がり、瞬く間に消えた。
トサッ!
口を半開きにして白目を剥いた川合さんは、糸が切れた操り人形のようにうつ伏せに地面へ倒れた。
「緋さん、どうなったの? 川合さんは大丈夫なの?」
「この娘は、悪意を持った妖が使役したモノに取り込まれ、操られていただけだ。校舎中に漂う瘴気の主は、生徒の中でも強い精気の持ち主である鈴を狙ったのだろう」
「妖が私を狙ったの?」
「ああ。だが、俺が鈴に手出しさせるわけないだろう」
胸元に両手を当てる鈴の頭に手を置き、無表情のままで淡々と言う緋の手の平は言葉とは違ってあたたかかった。
「……うん。ありがとう」
緋の大きな手で撫でられると、恐怖心が和らいでいくのを感じた鈴は目を細めた。
「火廣先生! 鈴、大丈夫?」
血相を変えた数人の教師と教室へ戻っていた万智子が駆け付ける前に、鈴の頭を撫でていた緋の手が離れていく。
川合さんと彼女に襲われて気を失っていた女子は、教師が運んできた担架に乗せられて医務室へ搬送されていった。
「ひ、火廣先生、何が起こったのでしょうか?」
「私は通りがかっただけですから、詳しい事情は暴れた女子に訊かないとわかりません。被害者と目撃者がいる以上、有耶無耶にするわけにはいかないでしょうね」
顔色の悪い副学長からの問いに、淡々と答える緋の視線は校舎の三階、三年生の教室へ向けられていた。
「ひぃ、あぁあ……」
睨んでいた鈴から倒れている女子生徒のもとへ戻った川合さんは、恐怖と痛みで悲鳴を上げた女子生徒を見下ろし楽しそうに口角を上げて笑う。
「うああー!」
口元を赤く染めた川合さんが大きく口を開き、動けないでいる女子生徒の肩に噛みつく。
噛みつかれた痛みで、女子の声が弱弱しくなっていく。
(このままで見ていたら、襲われている子は重傷を負ってしまうし、操られている川合さんも人の世界に戻ってこれなくなっちゃう!)
震える体を叱咤して、鈴は渡り廊下の柱に手をつくと大きく息を吸い込んだ。
「やめなさい!」
【鈴! 駄目だよアイツには届かない! こなくそっ!】
ボンッ!
子狐が放った火の玉は、川合さんの体から出て来た黒色の靄によって防がれて、彼女には届かない。
【ぐるるる……】
川合さんの動きが止まり、女子生徒の肩から口を外すと上半身を起こしてゆっくりと振り返った。
「ひぃっ」
渡り廊下の柱の影から顔を出した万智子は、振り返った川合さんを顔を見て悲鳴を漏らす。
口の周りを赤く染め、乱れた着物に血を飛び散らした川合さんの姿は、万智子が愛読している妖怪辞典に載っている鬼女そのものだった。
「か、川合さんは妖なの?」
作り物とは違う、本物の怪異を前にした恐怖から万智子は体を震わせた。
「万智子さん、下がっていて。川合さんじゃないわね。貴女、誰なの! 今すぐ川合さんから離れなさい!」
鈴の声に答えるように、口を笑みの形に動かした川合さんの口と鼻から黒色の靄が漏れ出て、彼女の体を覆いつくした。
「何あれ⁉」
「万智子さんは先に逃げて!」
「ちょっと! 何言っているのよ! あっ」
鈴の側に戻ろうとした万智子の肩に子狐が飛び乗り、動きを止めた彼女の目から光が消える。
【鈴の言う通り戻っていて】
尻尾を振った子狐が肩から飛び下りると、万智子は足元をふらつかせながら教室の方へと歩き出した。
【鈴も逃げなよ。ちょっと疲れるけど本気を出すから。コイツを消してやるんだ!】
「駄目。川合さんをこのままにしておけないわ。早くアレを分離させなきゃ」
唸り声を上げる川合さんは、歯を剥き出しにして鈴と子狐を威嚇する。
敵と認識した鈴に飛び掛かろうと、川合さんは体勢を低くして大きく口を開けた。
「近付くな」
【ぎゃあっ!?】
気配も足音も無く、渡り廊下の柱の影から現れた男性の手が、川合さんの頭を鷲掴みにする。
【がああ! ぐぎゃああ!】
シュウウウ……
鷲掴みにされた川合さんの顔は苦悶に歪み、全身から放たれていた黒い靄は霧散していった。
「この娘は俺のモノだ。お前ごときが触れていいモノではない。消えろ」
柱の影から姿を現した緋が冷たく言い放つと、川合さんの周りに紅蓮の炎が出現した。
【ぎいゃああああー!!】
紅蓮の炎は、川合さんの口と鼻から噴き出した黒色の靄を包み込むように大きく膨れ上がり、瞬く間に消えた。
トサッ!
口を半開きにして白目を剥いた川合さんは、糸が切れた操り人形のようにうつ伏せに地面へ倒れた。
「緋さん、どうなったの? 川合さんは大丈夫なの?」
「この娘は、悪意を持った妖が使役したモノに取り込まれ、操られていただけだ。校舎中に漂う瘴気の主は、生徒の中でも強い精気の持ち主である鈴を狙ったのだろう」
「妖が私を狙ったの?」
「ああ。だが、俺が鈴に手出しさせるわけないだろう」
胸元に両手を当てる鈴の頭に手を置き、無表情のままで淡々と言う緋の手の平は言葉とは違ってあたたかかった。
「……うん。ありがとう」
緋の大きな手で撫でられると、恐怖心が和らいでいくのを感じた鈴は目を細めた。
「火廣先生! 鈴、大丈夫?」
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川合さんと彼女に襲われて気を失っていた女子は、教師が運んできた担架に乗せられて医務室へ搬送されていった。
「ひ、火廣先生、何が起こったのでしょうか?」
「私は通りがかっただけですから、詳しい事情は暴れた女子に訊かないとわかりません。被害者と目撃者がいる以上、有耶無耶にするわけにはいかないでしょうね」
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