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1章.少女と付喪神

御刀様からの制裁(お仕置き)

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「失礼します!」

 入室許可求めると同時に、血相を変えて入室して来た部下を怒鳴ろうと口を開いた章宏は、続く部下からの報告に口を開いたまま言葉を失った。

「なん、何だと!」

 ガチャンッ!

 座卓に下ろした拳が小刻みに震えだす。
 部下か受けた報告内容を受け入れきれず、頭の中で復唱してから意味を理解した。

「父の意識が戻っただと!?」
「はい、先ほど、早馬で連絡が来ました」

 猜疑心の強い章宏が一番信頼している部下が、偽りを報告することなど無い。

 複雑な表情の部下は、早馬で届いた医師からの報告書を章宏へ手渡し頭を下げる。

「面倒なことになったな」

 診察させていた医師からは、今年の冬まで生存は難しいとまで言われていた父親の、驚くべき回復力は想定外だった。

「外国から取り寄せた神経毒を回復させるとは、当主となる物は御刀様から加護を得られると聞いていたが、しぶとい生命力だな」

 目を吊り上げた章宏は盛大に舌打ちし、座椅子から立ち上がった。

「いや、父には損失の責任を負ってもらうのもいいな。全て父の指示で行った結果、大損失となった。自責の念に駆られた父は自殺をしてしまうだろう。その後、私が高梨家の当主として立て直す、いい筋書だと思わんか」

 座卓の上に散らばる書類を見下ろし、良案だと章宏が同意を求めた部下は愛想笑いのまま傾いでいき、前向きに倒れる。

「な、なん、」

 部屋の漂い出す空気に嫌な予感を抱き、後退った章宏の踵が座椅子の肘掛に当たった。

 額から冷や汗を流す章宏の目が大きく見開かれる。

「ひっ」

 倒れた部下が立っていた空間が歪み、墨汁を垂らしたように漆黒が広がり、人型を形成していく。


「フンッ、愚鈍な者が考えそうな荒唐無稽な筋書だな」
「だ、誰だ、お前……ひいぁ!?」

 恐怖で上擦った声を発した章宏は漆黒をと銀糸を纏った男の後ろ、開いた襖から現れた人物を見て悲鳴を上げて尻もちをついた。

「お、お父さんっ」

 全身を激しく震わせた章宏は「そんな」と小さな声で呟く。

「章宏、貴様……」

 使用人に両肩を支えられて立つ章政は倒れる前に比べて痩せ細り、薄くなり転んだだけで折れてしまいそうな手足と病人と一目で分かる浅黒い肌も相まって、以前の威風堂々とした姿は見る影も無くなり、弱弱しい老人の姿になっていた。

「自責の念に駆られて自殺する、だと? よくもまあ、ふざけた真似をしてくれたな!」
「ひぃっ」

 弱弱しい外見とは真逆、依然と変わらない声量と気迫に圧された、章宏は引き攣った悲鳴を上げた。

「お、お父さんっ⁉ なぜここに! 薬で体が麻痺して動けないはずだ!」

 口から唾を飛ばして問う章宏は、混乱のあまり自分の失言に気が付かない。
 息子自身の口から父親を害していたという事実を伝えられ、怒りで全身を震わす章政の眉間に青筋が浮かぶ。

「貴様が章政に飲ませていた毒は全て解毒した。章政は俺が選び、高梨の当主に据えた男だ。そう簡単には死なせぬよ」
「あ、ああ……貴方様は、まさか」

 腕を組んで自分を見下ろす、人とは思えない異質な銀髪の青年の正体が何なのか理解し、章宏の顔色は青を通り越して白くなっていく。

「貴様と、貴様の息子達が次期当主になることは永遠にない。俺が選んだのは貴様が弑そうとした娘だ」

 冷笑を消した男の銀髪が風も無いのに揺れ、彼の周囲に赤黒い霧が出現する。

「章政だけでなく鈴まで害そうとするとは……俺が手を下さぬとも、妖共に祟り殺されても仕方ない愚行を貴様はした。高梨の血を持っていようが、貴様の血筋は絶えるまで厄を受け続けるだろう」
「ひいっ! お、御赦しを! お父さん、助けてぇ……!」

 赤黒い霧は恐怖で涙を流す章宏に纏わりつき、悲鳴ごと彼の全身を飲み込んでいった。
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