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1章.少女と付喪神
御刀様からの制裁(お仕置き)
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離れの縁側に腰掛けた鈴は、物干し竿に掛けられて風になびく着物を眺めていた。
視界の端に、じゃれ合う犬と猫に似た二匹の妖の姿がちらつく。
微笑ましい光景でも、二匹が愛玩動物と違うのは胴体が茶釜と毬だということ。
刀の付喪神の影響で、他の付喪神や妖の類を認識出来るようになった鈴が妖達に驚いて悲鳴を上げていたのは最初の一日だけで、すぐに妖が見える環境にも慣れた。
因みに、刀の付喪神から「好きに呼べ」と言われ、瞳の色から彼を“あか”と呼ぶことにした。
【お嬢―】
毬の胴体に猫の顔と手足を生やした妖と競争をしていた茶釜の犬は、鈴の足元まで走って来ると千切れんばかりに尻尾を振って縁側に飛び乗った。
【お嬢、嬉しそうだね】
【いいことがあったの?】
縁側の板に手を掛けて、毬猫も顔を上げて鈴を見上げる。
にっこり笑った鈴は、茶釜犬と毬猫の頭を交互に撫でた。
「さっき女中さんが来てね。頂き物のお饅頭をお裾分けしてくれたの。一緒に食べようか」
横に置いていた饅頭が入った包みを手に持ち、嬉しそうに目を輝かせる二匹に見せた。
「お饅頭なんて久し振りだな。そうだ、お茶を淹れてくるね」
饅頭の包みを手にした鈴は立ち上がり、台所へ向かおうとして縁側に座る二匹に背を向けた。
「ああー!」
気配も音も無く、障子の向こうから伸びて来た手が鈴の持っていた包みを鷲掴み、奪い取っていく。
障子から姿を現した背の高い緋は、包みを掴んだ手を上げて意地の悪い笑みを浮かべた。
「コレは俺への供物として受け取っておく」
「緋さん酷い!」
取り返そうと背伸びをする鈴を嘲笑い、緋は更に高く手を掲げて彼女の手から逃れる。
「意地悪! 返して、よ?」
跳び上がって取り返そうとする鈴の手をかわし、緋は大きく開いた彼女の口の中へ何かを放り込んだ。
「甘い?」
口の中へ放り込まれ、舌の上に乗った物は桃の香りと上品な甘さをしていて、口を閉じた鈴の頬がほころぶ。
「フンッ、小娘はこれでも食っていろ。ほらっ」
「わぁ、金平糖!」
手の平に乗せられた小さな包みを開くと、大粒の桃色、白色、黄色の三粒の金平糖が入っていた。
初めて見る大粒の金平糖の可愛らしさと、口の中に広がる甘さで、鈴の頭からは緋に取り上げられた饅頭のことは消えていた。
「美味しい~」
嬉しそうに頬をゆるませて、鈴は包み紙の中の金平糖を摘まみ口に頬張る。
何か言いたげにしている茶釜と鞠の妖は心配そうに上目づかいで鈴を見るが、無表情で強い圧を放つ緋に圧し負けて閉口する。
鈴が全ての金平糖を口に入れたのを確認し、緋は妖達から視線を外した。
【お嬢ー、そろそろ続きをしましょうよー】
「あ、そうだった。裁縫の続きをするんだった」
奥の部屋から甲高い女の声が聞こえ、妖との約束を思い出した鈴は緋を見上げた。
「行ってこい」
「うん。金平糖美味しかったよ。緋さんありがとう」
蔵から出て来て離れに住み着いた妖は、挙って鈴の世話を焼こうとする。
世話を焼こうとする妖の一匹、裁縫箱の妖に裁縫を習いに室内へ入っていく鈴の背中を見送り、緋は襖を閉めた。
***
鈴から奪い取った包みを開き、饅頭を一つ摘まんだ緋は器用に片眉を上げた。
「ありがとう、か。全く持って危機感が足りぬ娘だ」
【ヒヒイロ様~】
縁側へよじ登った毬猫は、尻尾と耳を垂らして緋の足元に座った。
【ヒヒイロ様、どうしてお嬢から饅頭を奪ったの? オイラも食べたかったのに。それにお嬢に食べさせたのってさぁアレでしょ。お嬢は、次期御当主になるのにこっちに引き入れても、いいの?】
【いいなぁお饅頭~独り占めは駄目ですよ~】
縁側の板に前足を掛けた茶釜犬も恨めしそうに顔を覗かせ、何も気付かない妖達を見下ろした緋は呆れたように息を吐く。
「この菓子には毒が入っている」
【ええ⁉】
【うわぁ⁉】
驚きのあまり、大きく仰け反った茶釜犬は後ろへひっくり返った。
「妖が食べてもどうにもならぬとも、只人の鈴に食わせることは出来ぬ。饅頭一つに入っているのは微量だが、全て食べたら弱い娘の体では耐えきれない。急性中毒を起こしどうなることか。俺と契約を結んだ娘を弑そうとするなど……くくく、愚かなことを考えたな」
ボウッ!
冷笑を浮かべた緋の手の上にある饅頭が炎に包まれ、瞬く間に塵と化し吹き抜けた風に飛ばされていった。
視界の端に、じゃれ合う犬と猫に似た二匹の妖の姿がちらつく。
微笑ましい光景でも、二匹が愛玩動物と違うのは胴体が茶釜と毬だということ。
刀の付喪神の影響で、他の付喪神や妖の類を認識出来るようになった鈴が妖達に驚いて悲鳴を上げていたのは最初の一日だけで、すぐに妖が見える環境にも慣れた。
因みに、刀の付喪神から「好きに呼べ」と言われ、瞳の色から彼を“あか”と呼ぶことにした。
【お嬢―】
毬の胴体に猫の顔と手足を生やした妖と競争をしていた茶釜の犬は、鈴の足元まで走って来ると千切れんばかりに尻尾を振って縁側に飛び乗った。
【お嬢、嬉しそうだね】
【いいことがあったの?】
縁側の板に手を掛けて、毬猫も顔を上げて鈴を見上げる。
にっこり笑った鈴は、茶釜犬と毬猫の頭を交互に撫でた。
「さっき女中さんが来てね。頂き物のお饅頭をお裾分けしてくれたの。一緒に食べようか」
横に置いていた饅頭が入った包みを手に持ち、嬉しそうに目を輝かせる二匹に見せた。
「お饅頭なんて久し振りだな。そうだ、お茶を淹れてくるね」
饅頭の包みを手にした鈴は立ち上がり、台所へ向かおうとして縁側に座る二匹に背を向けた。
「ああー!」
気配も音も無く、障子の向こうから伸びて来た手が鈴の持っていた包みを鷲掴み、奪い取っていく。
障子から姿を現した背の高い緋は、包みを掴んだ手を上げて意地の悪い笑みを浮かべた。
「コレは俺への供物として受け取っておく」
「緋さん酷い!」
取り返そうと背伸びをする鈴を嘲笑い、緋は更に高く手を掲げて彼女の手から逃れる。
「意地悪! 返して、よ?」
跳び上がって取り返そうとする鈴の手をかわし、緋は大きく開いた彼女の口の中へ何かを放り込んだ。
「甘い?」
口の中へ放り込まれ、舌の上に乗った物は桃の香りと上品な甘さをしていて、口を閉じた鈴の頬がほころぶ。
「フンッ、小娘はこれでも食っていろ。ほらっ」
「わぁ、金平糖!」
手の平に乗せられた小さな包みを開くと、大粒の桃色、白色、黄色の三粒の金平糖が入っていた。
初めて見る大粒の金平糖の可愛らしさと、口の中に広がる甘さで、鈴の頭からは緋に取り上げられた饅頭のことは消えていた。
「美味しい~」
嬉しそうに頬をゆるませて、鈴は包み紙の中の金平糖を摘まみ口に頬張る。
何か言いたげにしている茶釜と鞠の妖は心配そうに上目づかいで鈴を見るが、無表情で強い圧を放つ緋に圧し負けて閉口する。
鈴が全ての金平糖を口に入れたのを確認し、緋は妖達から視線を外した。
【お嬢ー、そろそろ続きをしましょうよー】
「あ、そうだった。裁縫の続きをするんだった」
奥の部屋から甲高い女の声が聞こえ、妖との約束を思い出した鈴は緋を見上げた。
「行ってこい」
「うん。金平糖美味しかったよ。緋さんありがとう」
蔵から出て来て離れに住み着いた妖は、挙って鈴の世話を焼こうとする。
世話を焼こうとする妖の一匹、裁縫箱の妖に裁縫を習いに室内へ入っていく鈴の背中を見送り、緋は襖を閉めた。
***
鈴から奪い取った包みを開き、饅頭を一つ摘まんだ緋は器用に片眉を上げた。
「ありがとう、か。全く持って危機感が足りぬ娘だ」
【ヒヒイロ様~】
縁側へよじ登った毬猫は、尻尾と耳を垂らして緋の足元に座った。
【ヒヒイロ様、どうしてお嬢から饅頭を奪ったの? オイラも食べたかったのに。それにお嬢に食べさせたのってさぁアレでしょ。お嬢は、次期御当主になるのにこっちに引き入れても、いいの?】
【いいなぁお饅頭~独り占めは駄目ですよ~】
縁側の板に前足を掛けた茶釜犬も恨めしそうに顔を覗かせ、何も気付かない妖達を見下ろした緋は呆れたように息を吐く。
「この菓子には毒が入っている」
【ええ⁉】
【うわぁ⁉】
驚きのあまり、大きく仰け反った茶釜犬は後ろへひっくり返った。
「妖が食べてもどうにもならぬとも、只人の鈴に食わせることは出来ぬ。饅頭一つに入っているのは微量だが、全て食べたら弱い娘の体では耐えきれない。急性中毒を起こしどうなることか。俺と契約を結んだ娘を弑そうとするなど……くくく、愚かなことを考えたな」
ボウッ!
冷笑を浮かべた緋の手の上にある饅頭が炎に包まれ、瞬く間に塵と化し吹き抜けた風に飛ばされていった。
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