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OLは猛獣に翻弄される
03.猛獣との長い夜が始まる
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自宅マンションの手前、人目の付かない場所で車は停車し、車から降りた運転手の男性が後部座席の扉を開いた。
「送ってくれてありがとうございました」
クロードに続いて車を降りた紗智子は運転手の男性に頭を下げる。
「っ!?」
男性は口を半開きにした表情になり何かを言いかけるが、紗智子の横に立つクロードからの圧力を感じ取り口を噤んだ。
「行くぞ」
眉間に皺を寄せたクロードは、紗智子の手首を掴んでマンションの入り口へ向かう。
マンションの入り口の扉に入る前に、紗智子は首を動かして走り去って行く車に再び頭を下げた。
(クロードさん、え? 手を繋いでる!?)
無言で階段を上がるクロードの手が動き、自然な動きで紗智子の手首ではなく彼女の指に自分の指を絡ませて握る。
強引な展開になって手を掴まれたことはあっても、指を絡ませて手を繋ぐこと、しかもクロードから繋いでくるのは初めてだった。
(どうして急にこんなことするの? どうしよう、緊張してきた)
何か会話をしなければと気持ちが焦っても、ちょうどいい会話が浮かんで来ない。
いつもなら、長く感じる階段も手を繋いでいる緊張からか、あっという間に自室の前へ着いてしまった。
ガチャガチャ。
開錠した玄関扉を開けた瞬間、漂ってくる美味しそうな香りに、驚いて紗智子は動きを止めた。
後ろに立つクロードの顔を見上げると、彼はしたり顔で口角を上げた。
「わぁー」
リビングダイニングに広がる光景に、紗智子は感嘆の声を上げた。
ダイニングテーブルの上に並ぶのは、カットされたバケットと御櫃に入ったご飯。
コンソメスープ、ワカメと豆腐入りの味噌汁、豚肉の生姜焼き、ビーフシチュー、グラタン、目玉焼きハンバーグとシーザーサラダ。さらに、ミネラルウォーターとフルーツティーと赤白のワインボトルまで用意されていたのだ。
「でも、どうしてこんなにあるの?」
和食と洋食が入り混じった料理は全て紗智子の好きなものだ。とはいえ、テーブルに並べられている品数の多さに困惑する。
「紗智子が食べたいと言っていたと、部下から聞いた料理を全て用意させた」
「私が食べたいと言っていた料理?」
いつどこで、これだけの料理を食べたいと言ったのだろうか。首を傾げた紗智子は、記憶を探って考える。
「はっ! もしかして、今朝のこと?」
今朝、地下鉄の駅前のレストラン、老婦人が探していたレストランの前を通りがかった時に、設置されていたボードに貼られていた写真付きランチメニューが美味しそうで、横断歩道の信号待ちをしていた時に食い入るようにボードを見ていたのだ。
改めて見ると、テーブルに並ぶ料理はレストランのランチメニューと同じだった。
(確かに「美味しそう」とか「食べたいな」って呟いていたわ。あれをクロードさんの部下に見られて聞かれたってこと!? 食い意地が張っていると思われたかな。は、恥ずかしい)
熱が集中して赤くなる両頬を手で隠し、紗智子はクロードに背を向けた。
改めてテーブルに並ぶ料理を見ると、全ての料理から湯気が立ち上っており熱々なのが分かる。
深呼吸して美味しそうな香りを吸い込むと、静かになっていた腹の虫が一斉に空腹を訴え出す。
「……このお料理はいつ用意させたの?」
「食事を用意させておくと言っただろう。明日が休日ならホテルに部屋を用意したが、お前は明日も仕事だからな」
「美味しそうなお料理、ありがとうございます」
車内で盛られた時は困ったけれど、出来立ての食事を用意してくれたこと、翌日が仕事だと一応配慮してくれる気遣いは嬉しい。
上目遣いで紗智子はクロードと視線を合わせる。
「それと……お仕事、お疲れさまでした」
「ああ」
無表情だったクロードの口元が僅かにほころんでいく。
(え、うわぁ!)
皮肉なものでなくごく自然な表情、クロードのやわらかな微笑みを直視した紗智子は目を瞬かせた。
「送ってくれてありがとうございました」
クロードに続いて車を降りた紗智子は運転手の男性に頭を下げる。
「っ!?」
男性は口を半開きにした表情になり何かを言いかけるが、紗智子の横に立つクロードからの圧力を感じ取り口を噤んだ。
「行くぞ」
眉間に皺を寄せたクロードは、紗智子の手首を掴んでマンションの入り口へ向かう。
マンションの入り口の扉に入る前に、紗智子は首を動かして走り去って行く車に再び頭を下げた。
(クロードさん、え? 手を繋いでる!?)
無言で階段を上がるクロードの手が動き、自然な動きで紗智子の手首ではなく彼女の指に自分の指を絡ませて握る。
強引な展開になって手を掴まれたことはあっても、指を絡ませて手を繋ぐこと、しかもクロードから繋いでくるのは初めてだった。
(どうして急にこんなことするの? どうしよう、緊張してきた)
何か会話をしなければと気持ちが焦っても、ちょうどいい会話が浮かんで来ない。
いつもなら、長く感じる階段も手を繋いでいる緊張からか、あっという間に自室の前へ着いてしまった。
ガチャガチャ。
開錠した玄関扉を開けた瞬間、漂ってくる美味しそうな香りに、驚いて紗智子は動きを止めた。
後ろに立つクロードの顔を見上げると、彼はしたり顔で口角を上げた。
「わぁー」
リビングダイニングに広がる光景に、紗智子は感嘆の声を上げた。
ダイニングテーブルの上に並ぶのは、カットされたバケットと御櫃に入ったご飯。
コンソメスープ、ワカメと豆腐入りの味噌汁、豚肉の生姜焼き、ビーフシチュー、グラタン、目玉焼きハンバーグとシーザーサラダ。さらに、ミネラルウォーターとフルーツティーと赤白のワインボトルまで用意されていたのだ。
「でも、どうしてこんなにあるの?」
和食と洋食が入り混じった料理は全て紗智子の好きなものだ。とはいえ、テーブルに並べられている品数の多さに困惑する。
「紗智子が食べたいと言っていたと、部下から聞いた料理を全て用意させた」
「私が食べたいと言っていた料理?」
いつどこで、これだけの料理を食べたいと言ったのだろうか。首を傾げた紗智子は、記憶を探って考える。
「はっ! もしかして、今朝のこと?」
今朝、地下鉄の駅前のレストラン、老婦人が探していたレストランの前を通りがかった時に、設置されていたボードに貼られていた写真付きランチメニューが美味しそうで、横断歩道の信号待ちをしていた時に食い入るようにボードを見ていたのだ。
改めて見ると、テーブルに並ぶ料理はレストランのランチメニューと同じだった。
(確かに「美味しそう」とか「食べたいな」って呟いていたわ。あれをクロードさんの部下に見られて聞かれたってこと!? 食い意地が張っていると思われたかな。は、恥ずかしい)
熱が集中して赤くなる両頬を手で隠し、紗智子はクロードに背を向けた。
改めてテーブルに並ぶ料理を見ると、全ての料理から湯気が立ち上っており熱々なのが分かる。
深呼吸して美味しそうな香りを吸い込むと、静かになっていた腹の虫が一斉に空腹を訴え出す。
「……このお料理はいつ用意させたの?」
「食事を用意させておくと言っただろう。明日が休日ならホテルに部屋を用意したが、お前は明日も仕事だからな」
「美味しそうなお料理、ありがとうございます」
車内で盛られた時は困ったけれど、出来立ての食事を用意してくれたこと、翌日が仕事だと一応配慮してくれる気遣いは嬉しい。
上目遣いで紗智子はクロードと視線を合わせる。
「それと……お仕事、お疲れさまでした」
「ああ」
無表情だったクロードの口元が僅かにほころんでいく。
(え、うわぁ!)
皮肉なものでなくごく自然な表情、クロードのやわらかな微笑みを直視した紗智子は目を瞬かせた。
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○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
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