普通のOLは猛獣使いにはなれない

えっちゃん

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OLは猛獣に翻弄される

  予期しなかった再会と強引な彼②

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 がちゃりっ。
 後部座席のドアを老婦人が開け、紗智子は身を屈めて車の中に足を踏み入れた。

「失礼します、きゃあっ」

 伸びてきた手に二の腕を掴まれ、勢いよく後部座席へ転がり込んだ。

 二の腕を掴んだ人物は、悲鳴を上げた紗智子の体を抱き留めて自分の膝の上へと乗せる。
 反射的に目蓋を閉じた紗智子の耳に、ドアが閉まる音が聞こえて反射的に身を縮めこませた。

(あ、この香りは……)

 金曜日の夜から日曜日の夜までの間で、すっかり嗅ぎ慣れてしまった香りと火薬の匂い。
 2種類の香りが紗智子の全身を包み込んだ。

 黒塗りの車に引きずり込まれた恐怖よりも、抱き締められる安心感から紗智子は強張らせていた体の力を抜いて、閉じていた目蓋を開いた。

「……定時に終わらせたようだな」

 抱き締めている相手の顔は、逆行になっていてよく見えないが聞き覚えのある低い声と赤い瞳で、彼だと分かった。

「クロードさん、吃驚させないでください」
「面白い案内だったろう?」
「誰かに見られた、通報されています」

 車が駐車している場所が、老婦人の探していたレストランではなく人気の無い場所で良かったと、紗智子は内心息を吐く。
 誰かに見られたら、「黒塗りの高級車に乗った怪しい男に女性が拉致された」と、大事になっていただろう。

「定時退社したのは、クロードさんがそうしろって連絡して来たでしょう?」
「ああ」

 抱き締める腕の力が少しだけゆるみ、紗智子はクロードの胸に手を当てて二人の間に隙間を作る。
 乗せられている膝の上から座席へ移動しようと試みるも、腰に回されたクロードの腕の力は強くて簡単には外れてくれず、諦めて彼に寄りかかった。

「急に連絡してきてどうしたんですか? お仕事が終わったら帰国するんじゃなかった?」
「仕事が予定よりも早く終わった。明朝この国を立つつもりだが……空いた時間を紗智子と過ごそうと思ってな」
「え?」

 余った時間を潰すために連絡して来ただけ、発言に深い意味はないと分かっていても、紗智子の心臓の鼓動が速くなっていく。

「いつもだけど、急に来るのは駄目です。私にも予定があってですね。ちょ、ちょっと」

 肩を抱いていたクロードの手が下がっていき、スカートの裾を捲り上げて裾が広がったペチパンツの裾から中へ、侵入していく。

「やっ、止めて。ここは、車の中よ」

 太股を這うように撫でるクロードの手を押さえようとしても、人差し指と中指の先でショーツのクロッチ部を撫でられてしまい、紗智子は体を揺らした。

(声、声を出しちゃ駄目! 運転席に聞こえちゃう!)

 後部座席で繰り広げられている戯れは、仕切りの無い運転席に座る男性へ伝わっているはずなのに、彼は置物のように微動だにしない。

「んんっ」

 羞恥から涙目になる紗智子は、クロッチの上部、敏感なクリトリスを布越しに撫でられてしまい、漏れそうになる声は唇をきつく結んで堪えた。
 不意にクリトリスを撫でていた指が止まる。

「……予定とは、どんなものだ?」
「はぁはぁ、スーパーの特売日、買い物をするつもりで、あっ」

 答えている途中でクリトリスを撫でる指の動きが再開され、甘い声を出してしまった紗智子は慌てて口を閉じる。

「それは悪かったな。買えなかった物は、後で好きなだけ買ってやる。仕事を終えたばかりで、気分が高揚しているんだ。少し付き合え」
「待って」

 クツリと喉を鳴らしたクロードは、ショーツに触れる手を押さえようとする紗智子の唇を、甘噛みするように口付けた。
 口付けに気を取られ、押さえる力が弱くなったのを見計らったクロードの手が動いて、ショーツのクロッチをずらして湿り気を帯びた下生えに触れる。

(もう駄目っ!)

 ぐー。

 力を入れた紗智子の腹部から、腹の音が車内に響き……クロードの動きが止まる。
 自分の腹の音が鳴ったと気付き、顔を逸らした紗智子は羞恥で全身を真っ赤に染めて俯いた。

「くっ、お前の部屋に食事を用意させておく」
「……いえ、コンビニかスーパーに寄ってもらえると、ありがたいです」

 耳まで赤く染めて俯く紗智子に触れていた手を離して、笑いを堪えたクロードは運転席に座る男性に英語とは違う言語で話しかけた。
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