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1巻
1-3
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落ち着かない気持ちのまま入学式は開始され、学園長挨拶の後、新入生代表の言葉へと続く。
新入生代表は前と同じく、一学年上の王太子の婚約者である公爵令嬢だった。
前のエミリアには遠い存在だった公爵令嬢と同じA組になったとはいえ、身分学力ともに上位の公爵令嬢の不興を買う真似はしてはならない。
緊張で体を強張らせたエミリアは、A組生徒達と一緒に担任教師に連れられてクラスへ向かった。
教室の入口付近で、自分の席を確認しようとしていた生徒が立ち止まり、エミリアは立ち止まった生徒の後頭部に顔面を思いっきりぶつけた。
「きゃあっ、なに?」
「いたっ、す、すみません」
顔面、特に鼻の痛みで呻きながらエミリアは顔を上げる。
エミリアがぶつかった相手、後頭部を押さえた女子生徒も何事かと振り向く。
「ひっ、ああっ、大変申し訳ありませんでした!」
振り向いた女子生徒の顔を見て、息を呑んだエミリアは慌てて頭を下げた。
毛先を緩く巻いた艶やかな金髪、青い色の瞳に切れ長の目をしたきつめな美人、イブリア・ゼンペリオン公爵令嬢。
揺れた髪から香るのはフローラルな香りで、美人は髪からも良い匂いがするのだと知った。
「い、いえ、急に立ち止まったわたくしも悪かったですし、貴女は大丈夫ですか?」
「私は……あ、」
鼻の奥から何かが流れる感覚がして、鼻水が垂れたのかと人差し指で鼻の下を擦ると、指先に鮮血が付いた。
(うわぁー! ヤバイ!)
A組の中でも一番気を付けた方がいい生徒、イブリアとの初対面で彼女にぶつかった挙句、鼻血を出すとは最悪な印象をクラスメイト達へ植え付けてしまった。
羞恥と痛みと絶望感から、涙目になったエミリアは鼻血が垂れる鼻を両手で押さえる。
目を開いたイブリアは、エミリアの指の間から見える赤色ですぐに状況を察し、鼻を押さえるエミリアへスカートのポケットから取り出したハンカチをそっと差し出す。
「止まるまで押さえていてください」
「ふ、ふみません……」
微笑んだイブリアは、今にも泣きそうになっているエミリアの背中を撫でる。
きつそうな性格をしているように見える外見とは裏腹に、ぶつかったことに腹を立てず鼻血を出したエミリアを気遣ってくれた。
イブリアの優しさに泣きそうになりつつ、周囲にいる女子達からの視線が怖くて、エミリアは身を縮こまらせた。
鼻血を出しただけでも目立ったのに、イブリアに気遣われ、ハンカチで鼻を押さえながら教室に入ったせいで、思いっきりクラスメイトの注目を浴びてエミリアの胃がキリキリ痛みだす。
鼻血で赤く染まったハンカチで鼻を押さえ、俯いたエミリアは身を縮めて席についた。
(はぁー入学早々、鼻血で目立ってしまうなんて……)
悪目立ちしたせいで女子達から睨まれ、鼻血のせいで男子達にも引かれた。
高位貴族と分かる雰囲気の女子達は、口元に手を当てて何やらひそひそと話している。配られた座席表でエミリアの名前を確認しているのだ。
今度こそは平和な学園生活を送れることを願っていたのに、平穏とは言い難い学園生活になりそうだと、エミリアは肩を落とした。
全員が席に着いたタイミングで、教卓前に立った背の高い男性教師は両手を叩く。
「今日から君たちの担任となるトルース・マキノビだ。こう見えても心の年齢は君たちと一緒だと思っている。これから一年、共に学び、青春の汗を流そう! よろしくな!」
教卓へ両手を突いて元気よく挨拶したのは、腰まである黒髪を後ろで一括りにして縛り、銀縁眼鏡をかけた魔術師風の正装姿のトルース先生。
担当教科は魔法学全般で、数年前は国王直属の魔術師団副長だったらしい。
魔術師にしては筋肉質な体躯を持ち、白い歯を見せて笑うトルース先生へ、一部の気の強そうな女子達は冷ややかな視線を向け、ノリの良さそうな男子と女子から笑いが起こる。
前の学園生活では、授業以外では関わったことはないとはいえ、トルース先生はこんな陽気な性格だっただろうかと、エミリアは首を傾げた。
「じゃあ、順番に自己紹介を始めるぞ。まずはお前からだ」
名指しされた男子生徒は、驚きの声を上げた後、恥ずかしそうに椅子から立ち上がった。
次々にクラスメイトが自己紹介をし終え、自分の順番が近付きエミリアは焦る。
座席表通りに座っているエミリアの前の席は、イブリア・ゼンペリオンなのだ。
「イブリア・ゼンペリオンです。これから一年間、クラスの皆様と一緒に学べることを楽しみにしています。よろしくお願いします」
背筋を伸ばして堂々と話すイブリアは、記憶以上に凛としていてさすがだと、エミリアは感心した。
生まれ持った気品、長年の努力で培った彼女の高貴で知的な雰囲気は、未来の王妃の姿を想像させた。
イブリアが一礼をすると、クラス中から盛大な拍手が巻き起こる。
女子達が羨望の眼差しでイブリアを見ている中、家名からして印象の悪いエミリアが自己紹介をしなければならない。憂鬱な気分でエミリアは拍手が止むのを待った。
「エミリア・グランデです。一年間よろしくお願いします」
少し震えた声で挨拶をしたエミリアは、冷たい視線をひしひしと感じながら椅子に座った。
「グランデといったらあの、グランデ伯爵ですか?」
「デビュタントの舞踏会はいらっしゃらなかったから、どんな方かと気になっていましたわ」
「私は屋敷に引きこもっている変わり者、という噂を聞きましたわ」
静まりかえった教室内では、小声でも女子達の声がはっきりエミリアの耳へ届く。
グランデ伯爵家に対する評価は知っていたし覚悟していたとはいえ、一年間、彼女達から冷たい視線を浴びせられるのかと思うと、少し悲しくなった。
「エミリアさん」
一通りクラスメイト達の自己紹介が終わり、十分間の休憩時間になるとすぐに、イブリアは立ち上がりエミリアの方を振り返った。
身分の高い女子生徒、イブリアがエミリアに話しかけたことに驚き、女子達は足を止める。
「デビュタントの舞踏会ではお会いできなかったから、同じクラスになって嬉しいわ。これから仲良くしましょうね」
「イブリア様、先程はハンカチをありがとうございました。後日、新しいハンカチをお返しします」
周囲の冷たい視線から助けてくれた感謝を伝えたいが、今は今で注目されている。いたたまれなさでイブリアと目を合わせられず、エミリアは頭を下げることで応えた。
その後も気の休まる時は訪れず、ホームルームを終えて放課後になる頃には、エミリアは心身ともに疲れ果てていた。
「エミリアさん、カフェでお話をしませんか?」
配布された教科書と学園での規則、行事予定が書かれた冊子を鞄に入れていたエミリアに声をかけてきたのは、バートン伯爵家次女、クレア・バートンだ。
「この後、ですか?」
緩く癖のある赤茶色の髪と橙色の瞳をしたクレアは、イブリアの取り巻きの一人でエミリアの斜め後ろの席だった。
明日以降の交友関係を考えたら参加した方がいい、とは分かっていても今のエミリアの体調では体が悲鳴を上げる。
「すみません、実はずっと体調が悪くて……また誘っていただけますか?」
申し訳なさを前面に出してエミリアは頭を下げる。
「あぁ、そうでしたね。私こそエミリアさんの顔色が悪いのに気が付かなくて、ごめんなさい」
申し訳なさそうに、クレアは眉尻を下げて首を横に振った。
「エミリアさん、お一人で帰れますか?」
「大丈」
「エミリア」
エミリアの声を廊下から教室へ入って来た男子生徒の声が遮った。
「……ダルス?」
どうしたのかと、目を瞬かせるエミリアの側まで来たダルスは、周囲の視線を無視して、教室内を横切って机の上に置かれた鞄を持つ。
「帰るぞ」
一応最低限の礼儀はあるらしく、クレアに対しては「じゃあ」と軽く頭を下げたダルスは、エミリアの返事を待たずに扉へ向かって歩き出す。
「あっ! ちょっと待って! 皆さん、ありがとうございます。明日からよろしくお願いします」
クレアとクラスメイト達へ頭を下げ、慌ててエミリアは廊下へ出て行ったダルスを追いかけた。
「ダルス、どうして教室に来たの?」
「お前……鼻血、出したんだろ」
「え?」
隣に並んだエミリアの顔を見ず、前を向いたままダルスはぶっきらぼうに答える。
(まさか、心配してA組まで来てくれたの?)
意外すぎるダルスの行動に、返す言葉が浮かんでこなかった。
エミリアの鞄と自分の鞄を肩に担ぎ、ダルスは無言で女子寮への道を歩く。
グランデ伯爵家にいた頃は、顔を合わせる度に悪戯と嫌味の言葉を繰り返していたダルスと、ノアの鉄壁の護衛で守られていたエミリア。
初めて互いと周囲を警戒することもなく、二人だけで歩いた。
女子寮前でダルスと別れ、自室へ戻ったエミリアをメイド服姿のノアが出迎える。
「お嬢様、お帰りなさいませ。入学式はどうでしたか?」
「A組のクラスメイト達は優秀な方々ばかりだったわ。皆さんの前で鼻血を出したし……明日からやっていけるか不安だわ」
鞄をノアに手渡して、ソファーへ座ったエミリアは両手を上げて大きく伸びをした。
「放課後にお茶に誘われて嬉しかったけど、疲れたしどうしようって困っていたら、ダルスが来てくれたんだ。寮の前まで一緒に帰ったんだよ。喧嘩しなかったのは初めてかもしれない」
「……坊っちゃんが?」
鞄の中から書類を出していたノアの手が止まり、顔から表情が消える。
「あら、お嬢様、制服に皺がついてしまいます。まず着替えてください」
「分かったわ」
黙り込むノアに気付かず、エミリアは欠伸をしてソファーから立ち上がり、ジャケットを脱いでハンガーを手にしたメリッサに手渡した。
「これもお願いね」
「はい、お嬢様」
ワンピースの脇にあるファスナーを下ろして脱ぎ、メリッサに手渡して上はブラウス、下はブルマ姿になったエミリアはハッと顔を上げた。
「ノア、あのさ、私着替えたいの」
メイドの姿でも、魔法で姿を変えているだけで本来のノアは男性、心も体も男性だった。
「お嬢様、ノアールですよ。着替えの服は用意してあります」
「えーと、だからね。着替えたいから、その」
頬をほんのり染めて恥ずかしがるエミリアに、一瞬だけ目を開いたノアはワンピースをハンガーに掛けて口角を上げた。
「今更何を恥ずかしがっているのですか? 屋敷にいた頃は、私の前であろうと平気で着替えていたでしょう。それにお嬢様の着替えなど見慣れています」
「ううっ、ノアがノアールの姿になってから何か急に恥ずかしくなって。ノアールはノアだって分かっているのに変な感じ。部屋が変わったからかな? 恥ずかしいから、こっちを見ないでね」
「それは、失礼しました」
クスリと笑ったノアは、ワンピースを掛けたハンガーをメリッサに渡し、彼女に目配せをした。
頷いたメリッサは音もなく奥の部屋へと姿を消す。
背中を向けてブラウスを脱ぐ、エミリアの背中を注視したノアは目を細めた。
「お嬢様」
ブラジャーのサイドベルトがエミリアの背中、肩紐が彼女の肩に食い込んでいるのに気付き、ノアはそっと手を伸ばす。
「ひゃっ」
ノアの指先が肩甲骨付近を滑り落ちていき、ブラジャーのホックをトントンとつつく。
「採寸したのは三月前でしたね、少し余裕を持たせて作らせたのですが、少しきつくなっています。早急に新しいサイズで作らせなければ、お嬢様に悪い虫が付きかねない」
両手でブラジャーのサイドベルトへ触れたノアは、慣れた手つきでホックを外して一段外側のホックにかけ替える。
(サイズを確認されているだけなのに、何でこんなに恥ずかしいの? 鎮まれ私の心臓! あっ)
顔を赤くして俯くエミリアの頭頂部にノアの唇が触れる。
偶然触れたであろう、ノアの唇の感触がしっかりと伝わってきて、エミリアの心臓が大きく跳ねた。
「ノ、ノア? どうしたの?」
「いえ、お嬢様はまだまだ成長期なのだと思っただけです」
振り返ったエミリアの赤くなった頬を、人差し指の腹で一撫でしたノアはクスリと笑う。
用意していたキャミソールをエミリアの頭から被せて着せ、次いで部屋着のブラウスを羽織らせるとボタンを留めていった。
(さすがに鼻血を拭いたハンカチを返すわけにはいかないけど、ここまで上質な絹のハンカチと同等のハンカチ、新品なんて持っていないわ)
洗面所から出て来たエミリアは、染みが残ったハンカチを手に落胆の表情を浮かべていた。
「お嬢様、どうされました?」
沈んでいるエミリアに気付いたノアが声をかける。
「ノアール、今から新しいハンカチを買いに行ってもらえないかな」
「新しいハンカチ、ですか?」
「鼻血を出した時にイブリア様、ゼンペリオン公爵令嬢が貸してくれたの。鼻血を拭いたハンカチだし、洗って返すわけにはいかないでしょう」
陰口を言われるのも蔑視されるのも、覚悟していたし平気だと思っていた。でも、庇ってくれたイブリアとお茶に誘ってくれたクレアには、嫌われたくなかった。
手洗いしたハンカチを見て、ノアは身を屈めて冷たくなったエミリアの手に自分の手を重ねる。
「分かりました。すぐに同等以上のハンカチを用意しましょう。だから、泣かないで」
「泣いてなんか、いない」
自分でも分かっていなかった涙に、動揺するエミリアの目尻に溜まった涙を人差し指で拭い、ノアがやわらかく微笑む。彼の仕草と表情に別の意味で動揺したエミリアをよそに、ノアはメリッサに声をかけた。
「お嬢様を頼む」
「はい。お気をつけて」
そのまま部屋を出て行くノアにメリッサは頭を下げる。
目を見開いて固まっていたエミリアは、ドアが閉まる音で我に返り、ハンカチを持っていない方の手で、ノアに涙を拭われた目元に触れた。
女子寮を出て学園とは反対方向の並木道を歩き、ノアは学園敷地外へ続く門をくぐり抜けた。
学園内に張り巡らされている結界から完全に抜け、人通りのほとんどない路地に入る。
建物の陰へ移動して、纏っていたノアールの偽装を解いた。
顔にかかる銀髪を片手で掻き上げ、タイを引き抜きシャツのボタンを外して襟元を寛げたノアは、目を伏せて周囲の気配を探る。人の気配も監視魔法の気配も周囲には無いことを確認し、右手に魔力を込めて軽く握りゆっくりと開く。
開いた手の中には、仄かに発光する黒革の小さな手帳が出現していた。
手帳から栞を抜き、指先で数ページ捲って書かれている内容を確認したノアは、目を細めて口角を上げる。
「ふ、王太子の婚約者、国王の遠縁にあたるゼンペリオン公爵家の娘か。是非、お嬢様の味方になってもらおう」
パタンと音を立てて手帳を閉じると、手帳はノアの手の中で空気に溶けるように消えた。
「公爵令嬢の心を掴むために、最高級のハンカチをお返ししよう」
ふわりとノアの周囲に風が巻き起こり、足元に光が広がっていき魔法陣を描いていく。
完成した魔法陣が輝き、瞬く間にノアの姿は消えていた。
***
入学式から一月が経った頃、生徒会主催の新入生歓迎会が開かれることとなった。
(もう一月経ったのね。この歓迎会では、確か……)
生徒会役員が一年生専用掲示板に張り出したポスターを見て、エミリアは生徒会役員と初めて関わる行事内容を思い出していた。
新入生歓迎会は、一年生へ向けたクラブ活動の紹介や他学年との交流を目的としていた。
決まった曜日の放課後に行われるクラブは、運動部から料理研究クラブ、演劇部などがあり、興味を持った生徒は身分に関係なく入ることが出来る。
中には、紹介の際に大掛かりな装置を使用するクラブもあり、前のエミリアの記憶では演劇部の紹介時に誤作動した天井の照明器具が突然外れ、シンシアの上に落ちてくる。
偶然、近くにいたイーサンが駆け寄り、シンシアを抱きかかえて避けて、彼女を助けるのだ。
幸いにも大事には至らなかったとはいえ、シンシアを庇ったイーサンは割れた硝子の破片で腕に擦り傷、床に打ち付けた肩に打撲を負う。その後、二人揃って保健室へ向かい、保健室内で何が起きたのか、イーサンはシンシアを意識するようになった、らしい。
この事故がきっかけとなり、二人の距離が近付いていったのだと、前の学園生活中、学園新聞クラブのゴシップ好きな女子生徒が教えてくれた。
(イーサン様とシンシアさんが恋に落ちる過程はどうでもいいけど、少しでも二人に関わったら「嫉妬している」って嫌がらせの犯人にされそうだわ。幸いダルスはシンシアさんには興味ないって言ってたし、あとは私自身が関わらないようにしないと)
短慮で面倒くさがりのダルスは、幼い頃から「合わない」と判断すると相手を意識の外に追いやる。
そのダルスが「興味ない」と言う、つまり合わない相手のことを覚えているのは、違う意味で気になっているからだ。好意どころか、シンシアのことは「ヤバイ女」と評していたため、徹底的に反りが合わないのだろう。
A組とC組ではフロアが違うため、C組へ行かなければシンシアとは顔を合わせることもなく、彼女の人となりは分からない。
「エミリアさん、どうしたの?」
ポスターを見て、停止しているエミリアに金髪の女子生徒が声を掛ける。
「ひぁっ、イ、イブリア様、今の薬草学の配合で分からないことがあって……」
大きく肩を揺らしたエミリアは、声を掛けてきたイブリアへ愛想笑いを返す。
A組学級委員長であり、王太子の婚約者でもあるイブリアと仲良くなれるとは思ってもいなかったため、未だに彼女と話す時は緊張する。
「様、なんていらないと言っているでしょう? 博識のエミリアさんにも分からないこともあるのね」
イブリアは、毛先を緩く巻いた金髪、青い色の瞳に切れ長の目、といった外見のせいで高飛車な性格かと思いきや、話してみると面倒見がよく、可愛いものが大好きだ。特にエミリアのことは、入学初日に鼻血を出して印象深かったのか、後日、お礼の言葉と共に渡したノアの用意した可愛い兎が刺繍されたファンシーなハンカチを気に入ったからか、何かと気にかけてくれる。
「分からないことがあるのなら、放課後一緒に図書館へ行きましょう」
イブリアの言葉を遮るように勢いよく教室の扉が開いた。
「エミリア・グランデ嬢はいるか!?」
扉を開いた男子生徒は、教室内にいた生徒が一斉に振り向くほどの大声でエミリアの名を呼んだ。
腕に生徒会役員の腕章を着け、燃えるように赤い髪と赤銅色の瞳をした長身の男子生徒。
驚いた生徒達が下がり、教室の入口からエミリアの席まで一直線の道が出来た。
「イーサン様?」
二年前に顔を合わせた時よりも随分背が伸びたイーサンは、記憶にある婚約破棄を宣言した時の姿と重なって見えて、エミリアの声に若干の戸惑いが混じる。
「貴女が、エミリア嬢か?」
大声で登場したのに、エミリアの姿を見た途端、イーサンも戸惑いを見せた。エミリアを頭の先から見下ろしたイーサンの視線は、制服の上からでも分かる豊かな胸のあたりで止まる。
「イーサン様、女子をじろじろ見るのは失礼ではありませんか?」
視線に戸惑うエミリアを庇うように手を伸ばし、イブリアはイーサンの視線を遮る。
「それは、失礼した」
イブリアに睨まれたイーサンは凝視していた視線を逸らす。
「お久しぶりです。イーサン様」
「ああ、君が入学したのは知っていたが、進級してから生徒会役員としての仕事が忙しくて顔を見に来られなかった」
顔を見に来られないのなら、手紙や従者伝いに連絡する等の連絡手段はあったはずだ。それをしなかったのは、関心がなかったか対応するのが面倒だと思っていたからだ。
名ばかりの婚約者と連絡を取り合うのが面倒くさいと思っているのはエミリアも同じ。むしろ、訪ねて来てくれてありがとうと感謝したいくらいだった。
「生徒会役員をされていることは承知しております。学業優先でかまいません。私のことはお気になさらず、ご友人との時間を大切にしてください。私も勉学に励んでいこうと思っています」
「あ、ああ。分かってもらえて良かった」
今まで放置していたというのに、「婚約者だと公言する気も、積極的に関わるつもりもない」と直球で言うエミリアに対して、何故かイーサンの声は沈んでいた。
イーサンが口を開こうとした時に授業開始前の予鈴が鳴り響き、彼は軽く会釈をしてからくるりと背を向けて歩き出す。教室の扉を出る前に一度だけ振り向き、エミリアと視線を合わせた。
イーサンの姿が完全に見えなくなると、イブリアはエミリアの肩に触れていた手を外す。
「エミリアさん、イーサン様と婚約しているの? わたくしはイーサン様とは幼い頃から知り合いだけれど、彼に婚約者がいたという話は聞いたこともなかったわ」
「幼い頃に親同士が決めた婚約です。互いへの興味関心が薄いのは仕方ないでしょう。それにグランデ伯爵家と縁続きとなって、嬉しいと思う方はあまりいないでしょうし」
利益になることなら汚い手も使う守銭奴の父親と、伯爵夫人の立場を利用し享楽に走り他の貴族夫人達から敬遠されている継母。引きこもりの娘と我儘で頭の悪い息子。
多少尾ひれがついているとはいえ、グランデ伯爵家の評判は貴族達に広まっている。
犯罪すれすれの行為をする両親の行いは、自分でも顔を顰めたくなるくらい酷いもので、そんな家の娘であるエミリアと関わりたくないと思うのは当然だと、苦笑いした。
「ですが、あの態度は婚約者としてあるまじきものだと思います。エミリアさんに励ましの言葉一つかけず突き放すだなんて。殿下に伝えて説教をしてもらいますわ」
そっとエミリアの手を握ったイブリアは、イーサンの姿が消えた教室の扉を睨んだ。
新入生歓迎会当日。
二年A組所属の王太子も生徒会役員として参加することもあり、身分と成績、将来性もある生徒会役員達を前にした一年女子達は色めき立っていた。
大ホールに集まった一年生を前にして、壇上に上がった生徒会役員が一年間の主な行事や、生徒会規則、委員会活動の紹介をした後、各クラブのクラブ長、副クラブ長がクラブの活動内容を説明する。
生徒会役員と交代して、壇上に上がったクラブ長によるクラブ説明は運動クラブから文化クラブまで順調に進み、ついにシンシアの上に照明が落下する演劇クラブの出番になった。
(シンシアさんとイーサン様を結びつけた、天井から落下する照明は……あれね)
天井を見上げたエミリアは、固定部が外れかかり不安定になっている照明を見付けて、目を凝らす。
多くの怪我人が出るならば、事前に天井の照明を点検してほしいと生徒会の投書箱へ投書したが、前のエミリアの記憶が正しければ、落下した照明器具で怪我をするのはイーサンのみ。
先日、教室を訪れて「婚約者扱いは出来ない」と告げたも同然のイーサンへの意地悪から投書しないのではなく、エミリアにはイーサンとシンシアの出会いを邪魔する気がなかったのだ。
(穏便に婚約を解消してもらえるなら、私はお二人を応援するわ)
つらつらとそんなことを考えていると、突然、天井の照明が消えてホールの一部が暗くなり、周囲を見渡していた生徒から悲鳴が上がった。
「きゃー! 落ちるわ!?」
ガシャーン!
天井からぶら下がっていた照明が突然落下し、ホール内の生徒と教師達は一時騒然となった。
幸いにも、落下地点にいた生徒は大した怪我もせずに済んだため、新入生歓迎会は照明器具の欠片の片付けのために一時中断した。
詳しい状況が分かるにつれて、今回、照明の落下は同じでも、二つ違うことがあるとエミリアは気づく。ひとつめは、落下したのがシンシアではなくダルスの上だったこと。ふたつめは、ダルスが直前で落下に気付き、上手く避けたため、怪我もなく誰にも庇われなかったことだった。
エミリアは視線を巡らせて、生徒会役員と共に舞台の上へ移動して動き回るイーサンを見つける。
名ばかりとはいえ、婚約者の弟の上に照明器具が落ちたのに、落下時に近くにいたイーサンはダルスの側へ行くこともせず、心配もしないらしい。
エミリアもダルスに対して決して良い思い出があるわけではないが、最近はまともなコミュニケーションが取れていることも事実、C組の生徒が集まっている場所へと向かうことにした。
新入生代表は前と同じく、一学年上の王太子の婚約者である公爵令嬢だった。
前のエミリアには遠い存在だった公爵令嬢と同じA組になったとはいえ、身分学力ともに上位の公爵令嬢の不興を買う真似はしてはならない。
緊張で体を強張らせたエミリアは、A組生徒達と一緒に担任教師に連れられてクラスへ向かった。
教室の入口付近で、自分の席を確認しようとしていた生徒が立ち止まり、エミリアは立ち止まった生徒の後頭部に顔面を思いっきりぶつけた。
「きゃあっ、なに?」
「いたっ、す、すみません」
顔面、特に鼻の痛みで呻きながらエミリアは顔を上げる。
エミリアがぶつかった相手、後頭部を押さえた女子生徒も何事かと振り向く。
「ひっ、ああっ、大変申し訳ありませんでした!」
振り向いた女子生徒の顔を見て、息を呑んだエミリアは慌てて頭を下げた。
毛先を緩く巻いた艶やかな金髪、青い色の瞳に切れ長の目をしたきつめな美人、イブリア・ゼンペリオン公爵令嬢。
揺れた髪から香るのはフローラルな香りで、美人は髪からも良い匂いがするのだと知った。
「い、いえ、急に立ち止まったわたくしも悪かったですし、貴女は大丈夫ですか?」
「私は……あ、」
鼻の奥から何かが流れる感覚がして、鼻水が垂れたのかと人差し指で鼻の下を擦ると、指先に鮮血が付いた。
(うわぁー! ヤバイ!)
A組の中でも一番気を付けた方がいい生徒、イブリアとの初対面で彼女にぶつかった挙句、鼻血を出すとは最悪な印象をクラスメイト達へ植え付けてしまった。
羞恥と痛みと絶望感から、涙目になったエミリアは鼻血が垂れる鼻を両手で押さえる。
目を開いたイブリアは、エミリアの指の間から見える赤色ですぐに状況を察し、鼻を押さえるエミリアへスカートのポケットから取り出したハンカチをそっと差し出す。
「止まるまで押さえていてください」
「ふ、ふみません……」
微笑んだイブリアは、今にも泣きそうになっているエミリアの背中を撫でる。
きつそうな性格をしているように見える外見とは裏腹に、ぶつかったことに腹を立てず鼻血を出したエミリアを気遣ってくれた。
イブリアの優しさに泣きそうになりつつ、周囲にいる女子達からの視線が怖くて、エミリアは身を縮こまらせた。
鼻血を出しただけでも目立ったのに、イブリアに気遣われ、ハンカチで鼻を押さえながら教室に入ったせいで、思いっきりクラスメイトの注目を浴びてエミリアの胃がキリキリ痛みだす。
鼻血で赤く染まったハンカチで鼻を押さえ、俯いたエミリアは身を縮めて席についた。
(はぁー入学早々、鼻血で目立ってしまうなんて……)
悪目立ちしたせいで女子達から睨まれ、鼻血のせいで男子達にも引かれた。
高位貴族と分かる雰囲気の女子達は、口元に手を当てて何やらひそひそと話している。配られた座席表でエミリアの名前を確認しているのだ。
今度こそは平和な学園生活を送れることを願っていたのに、平穏とは言い難い学園生活になりそうだと、エミリアは肩を落とした。
全員が席に着いたタイミングで、教卓前に立った背の高い男性教師は両手を叩く。
「今日から君たちの担任となるトルース・マキノビだ。こう見えても心の年齢は君たちと一緒だと思っている。これから一年、共に学び、青春の汗を流そう! よろしくな!」
教卓へ両手を突いて元気よく挨拶したのは、腰まである黒髪を後ろで一括りにして縛り、銀縁眼鏡をかけた魔術師風の正装姿のトルース先生。
担当教科は魔法学全般で、数年前は国王直属の魔術師団副長だったらしい。
魔術師にしては筋肉質な体躯を持ち、白い歯を見せて笑うトルース先生へ、一部の気の強そうな女子達は冷ややかな視線を向け、ノリの良さそうな男子と女子から笑いが起こる。
前の学園生活では、授業以外では関わったことはないとはいえ、トルース先生はこんな陽気な性格だっただろうかと、エミリアは首を傾げた。
「じゃあ、順番に自己紹介を始めるぞ。まずはお前からだ」
名指しされた男子生徒は、驚きの声を上げた後、恥ずかしそうに椅子から立ち上がった。
次々にクラスメイトが自己紹介をし終え、自分の順番が近付きエミリアは焦る。
座席表通りに座っているエミリアの前の席は、イブリア・ゼンペリオンなのだ。
「イブリア・ゼンペリオンです。これから一年間、クラスの皆様と一緒に学べることを楽しみにしています。よろしくお願いします」
背筋を伸ばして堂々と話すイブリアは、記憶以上に凛としていてさすがだと、エミリアは感心した。
生まれ持った気品、長年の努力で培った彼女の高貴で知的な雰囲気は、未来の王妃の姿を想像させた。
イブリアが一礼をすると、クラス中から盛大な拍手が巻き起こる。
女子達が羨望の眼差しでイブリアを見ている中、家名からして印象の悪いエミリアが自己紹介をしなければならない。憂鬱な気分でエミリアは拍手が止むのを待った。
「エミリア・グランデです。一年間よろしくお願いします」
少し震えた声で挨拶をしたエミリアは、冷たい視線をひしひしと感じながら椅子に座った。
「グランデといったらあの、グランデ伯爵ですか?」
「デビュタントの舞踏会はいらっしゃらなかったから、どんな方かと気になっていましたわ」
「私は屋敷に引きこもっている変わり者、という噂を聞きましたわ」
静まりかえった教室内では、小声でも女子達の声がはっきりエミリアの耳へ届く。
グランデ伯爵家に対する評価は知っていたし覚悟していたとはいえ、一年間、彼女達から冷たい視線を浴びせられるのかと思うと、少し悲しくなった。
「エミリアさん」
一通りクラスメイト達の自己紹介が終わり、十分間の休憩時間になるとすぐに、イブリアは立ち上がりエミリアの方を振り返った。
身分の高い女子生徒、イブリアがエミリアに話しかけたことに驚き、女子達は足を止める。
「デビュタントの舞踏会ではお会いできなかったから、同じクラスになって嬉しいわ。これから仲良くしましょうね」
「イブリア様、先程はハンカチをありがとうございました。後日、新しいハンカチをお返しします」
周囲の冷たい視線から助けてくれた感謝を伝えたいが、今は今で注目されている。いたたまれなさでイブリアと目を合わせられず、エミリアは頭を下げることで応えた。
その後も気の休まる時は訪れず、ホームルームを終えて放課後になる頃には、エミリアは心身ともに疲れ果てていた。
「エミリアさん、カフェでお話をしませんか?」
配布された教科書と学園での規則、行事予定が書かれた冊子を鞄に入れていたエミリアに声をかけてきたのは、バートン伯爵家次女、クレア・バートンだ。
「この後、ですか?」
緩く癖のある赤茶色の髪と橙色の瞳をしたクレアは、イブリアの取り巻きの一人でエミリアの斜め後ろの席だった。
明日以降の交友関係を考えたら参加した方がいい、とは分かっていても今のエミリアの体調では体が悲鳴を上げる。
「すみません、実はずっと体調が悪くて……また誘っていただけますか?」
申し訳なさを前面に出してエミリアは頭を下げる。
「あぁ、そうでしたね。私こそエミリアさんの顔色が悪いのに気が付かなくて、ごめんなさい」
申し訳なさそうに、クレアは眉尻を下げて首を横に振った。
「エミリアさん、お一人で帰れますか?」
「大丈」
「エミリア」
エミリアの声を廊下から教室へ入って来た男子生徒の声が遮った。
「……ダルス?」
どうしたのかと、目を瞬かせるエミリアの側まで来たダルスは、周囲の視線を無視して、教室内を横切って机の上に置かれた鞄を持つ。
「帰るぞ」
一応最低限の礼儀はあるらしく、クレアに対しては「じゃあ」と軽く頭を下げたダルスは、エミリアの返事を待たずに扉へ向かって歩き出す。
「あっ! ちょっと待って! 皆さん、ありがとうございます。明日からよろしくお願いします」
クレアとクラスメイト達へ頭を下げ、慌ててエミリアは廊下へ出て行ったダルスを追いかけた。
「ダルス、どうして教室に来たの?」
「お前……鼻血、出したんだろ」
「え?」
隣に並んだエミリアの顔を見ず、前を向いたままダルスはぶっきらぼうに答える。
(まさか、心配してA組まで来てくれたの?)
意外すぎるダルスの行動に、返す言葉が浮かんでこなかった。
エミリアの鞄と自分の鞄を肩に担ぎ、ダルスは無言で女子寮への道を歩く。
グランデ伯爵家にいた頃は、顔を合わせる度に悪戯と嫌味の言葉を繰り返していたダルスと、ノアの鉄壁の護衛で守られていたエミリア。
初めて互いと周囲を警戒することもなく、二人だけで歩いた。
女子寮前でダルスと別れ、自室へ戻ったエミリアをメイド服姿のノアが出迎える。
「お嬢様、お帰りなさいませ。入学式はどうでしたか?」
「A組のクラスメイト達は優秀な方々ばかりだったわ。皆さんの前で鼻血を出したし……明日からやっていけるか不安だわ」
鞄をノアに手渡して、ソファーへ座ったエミリアは両手を上げて大きく伸びをした。
「放課後にお茶に誘われて嬉しかったけど、疲れたしどうしようって困っていたら、ダルスが来てくれたんだ。寮の前まで一緒に帰ったんだよ。喧嘩しなかったのは初めてかもしれない」
「……坊っちゃんが?」
鞄の中から書類を出していたノアの手が止まり、顔から表情が消える。
「あら、お嬢様、制服に皺がついてしまいます。まず着替えてください」
「分かったわ」
黙り込むノアに気付かず、エミリアは欠伸をしてソファーから立ち上がり、ジャケットを脱いでハンガーを手にしたメリッサに手渡した。
「これもお願いね」
「はい、お嬢様」
ワンピースの脇にあるファスナーを下ろして脱ぎ、メリッサに手渡して上はブラウス、下はブルマ姿になったエミリアはハッと顔を上げた。
「ノア、あのさ、私着替えたいの」
メイドの姿でも、魔法で姿を変えているだけで本来のノアは男性、心も体も男性だった。
「お嬢様、ノアールですよ。着替えの服は用意してあります」
「えーと、だからね。着替えたいから、その」
頬をほんのり染めて恥ずかしがるエミリアに、一瞬だけ目を開いたノアはワンピースをハンガーに掛けて口角を上げた。
「今更何を恥ずかしがっているのですか? 屋敷にいた頃は、私の前であろうと平気で着替えていたでしょう。それにお嬢様の着替えなど見慣れています」
「ううっ、ノアがノアールの姿になってから何か急に恥ずかしくなって。ノアールはノアだって分かっているのに変な感じ。部屋が変わったからかな? 恥ずかしいから、こっちを見ないでね」
「それは、失礼しました」
クスリと笑ったノアは、ワンピースを掛けたハンガーをメリッサに渡し、彼女に目配せをした。
頷いたメリッサは音もなく奥の部屋へと姿を消す。
背中を向けてブラウスを脱ぐ、エミリアの背中を注視したノアは目を細めた。
「お嬢様」
ブラジャーのサイドベルトがエミリアの背中、肩紐が彼女の肩に食い込んでいるのに気付き、ノアはそっと手を伸ばす。
「ひゃっ」
ノアの指先が肩甲骨付近を滑り落ちていき、ブラジャーのホックをトントンとつつく。
「採寸したのは三月前でしたね、少し余裕を持たせて作らせたのですが、少しきつくなっています。早急に新しいサイズで作らせなければ、お嬢様に悪い虫が付きかねない」
両手でブラジャーのサイドベルトへ触れたノアは、慣れた手つきでホックを外して一段外側のホックにかけ替える。
(サイズを確認されているだけなのに、何でこんなに恥ずかしいの? 鎮まれ私の心臓! あっ)
顔を赤くして俯くエミリアの頭頂部にノアの唇が触れる。
偶然触れたであろう、ノアの唇の感触がしっかりと伝わってきて、エミリアの心臓が大きく跳ねた。
「ノ、ノア? どうしたの?」
「いえ、お嬢様はまだまだ成長期なのだと思っただけです」
振り返ったエミリアの赤くなった頬を、人差し指の腹で一撫でしたノアはクスリと笑う。
用意していたキャミソールをエミリアの頭から被せて着せ、次いで部屋着のブラウスを羽織らせるとボタンを留めていった。
(さすがに鼻血を拭いたハンカチを返すわけにはいかないけど、ここまで上質な絹のハンカチと同等のハンカチ、新品なんて持っていないわ)
洗面所から出て来たエミリアは、染みが残ったハンカチを手に落胆の表情を浮かべていた。
「お嬢様、どうされました?」
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「新しいハンカチ、ですか?」
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「分かりました。すぐに同等以上のハンカチを用意しましょう。だから、泣かないで」
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「はい。お気をつけて」
そのまま部屋を出て行くノアにメリッサは頭を下げる。
目を見開いて固まっていたエミリアは、ドアが閉まる音で我に返り、ハンカチを持っていない方の手で、ノアに涙を拭われた目元に触れた。
女子寮を出て学園とは反対方向の並木道を歩き、ノアは学園敷地外へ続く門をくぐり抜けた。
学園内に張り巡らされている結界から完全に抜け、人通りのほとんどない路地に入る。
建物の陰へ移動して、纏っていたノアールの偽装を解いた。
顔にかかる銀髪を片手で掻き上げ、タイを引き抜きシャツのボタンを外して襟元を寛げたノアは、目を伏せて周囲の気配を探る。人の気配も監視魔法の気配も周囲には無いことを確認し、右手に魔力を込めて軽く握りゆっくりと開く。
開いた手の中には、仄かに発光する黒革の小さな手帳が出現していた。
手帳から栞を抜き、指先で数ページ捲って書かれている内容を確認したノアは、目を細めて口角を上げる。
「ふ、王太子の婚約者、国王の遠縁にあたるゼンペリオン公爵家の娘か。是非、お嬢様の味方になってもらおう」
パタンと音を立てて手帳を閉じると、手帳はノアの手の中で空気に溶けるように消えた。
「公爵令嬢の心を掴むために、最高級のハンカチをお返ししよう」
ふわりとノアの周囲に風が巻き起こり、足元に光が広がっていき魔法陣を描いていく。
完成した魔法陣が輝き、瞬く間にノアの姿は消えていた。
***
入学式から一月が経った頃、生徒会主催の新入生歓迎会が開かれることとなった。
(もう一月経ったのね。この歓迎会では、確か……)
生徒会役員が一年生専用掲示板に張り出したポスターを見て、エミリアは生徒会役員と初めて関わる行事内容を思い出していた。
新入生歓迎会は、一年生へ向けたクラブ活動の紹介や他学年との交流を目的としていた。
決まった曜日の放課後に行われるクラブは、運動部から料理研究クラブ、演劇部などがあり、興味を持った生徒は身分に関係なく入ることが出来る。
中には、紹介の際に大掛かりな装置を使用するクラブもあり、前のエミリアの記憶では演劇部の紹介時に誤作動した天井の照明器具が突然外れ、シンシアの上に落ちてくる。
偶然、近くにいたイーサンが駆け寄り、シンシアを抱きかかえて避けて、彼女を助けるのだ。
幸いにも大事には至らなかったとはいえ、シンシアを庇ったイーサンは割れた硝子の破片で腕に擦り傷、床に打ち付けた肩に打撲を負う。その後、二人揃って保健室へ向かい、保健室内で何が起きたのか、イーサンはシンシアを意識するようになった、らしい。
この事故がきっかけとなり、二人の距離が近付いていったのだと、前の学園生活中、学園新聞クラブのゴシップ好きな女子生徒が教えてくれた。
(イーサン様とシンシアさんが恋に落ちる過程はどうでもいいけど、少しでも二人に関わったら「嫉妬している」って嫌がらせの犯人にされそうだわ。幸いダルスはシンシアさんには興味ないって言ってたし、あとは私自身が関わらないようにしないと)
短慮で面倒くさがりのダルスは、幼い頃から「合わない」と判断すると相手を意識の外に追いやる。
そのダルスが「興味ない」と言う、つまり合わない相手のことを覚えているのは、違う意味で気になっているからだ。好意どころか、シンシアのことは「ヤバイ女」と評していたため、徹底的に反りが合わないのだろう。
A組とC組ではフロアが違うため、C組へ行かなければシンシアとは顔を合わせることもなく、彼女の人となりは分からない。
「エミリアさん、どうしたの?」
ポスターを見て、停止しているエミリアに金髪の女子生徒が声を掛ける。
「ひぁっ、イ、イブリア様、今の薬草学の配合で分からないことがあって……」
大きく肩を揺らしたエミリアは、声を掛けてきたイブリアへ愛想笑いを返す。
A組学級委員長であり、王太子の婚約者でもあるイブリアと仲良くなれるとは思ってもいなかったため、未だに彼女と話す時は緊張する。
「様、なんていらないと言っているでしょう? 博識のエミリアさんにも分からないこともあるのね」
イブリアは、毛先を緩く巻いた金髪、青い色の瞳に切れ長の目、といった外見のせいで高飛車な性格かと思いきや、話してみると面倒見がよく、可愛いものが大好きだ。特にエミリアのことは、入学初日に鼻血を出して印象深かったのか、後日、お礼の言葉と共に渡したノアの用意した可愛い兎が刺繍されたファンシーなハンカチを気に入ったからか、何かと気にかけてくれる。
「分からないことがあるのなら、放課後一緒に図書館へ行きましょう」
イブリアの言葉を遮るように勢いよく教室の扉が開いた。
「エミリア・グランデ嬢はいるか!?」
扉を開いた男子生徒は、教室内にいた生徒が一斉に振り向くほどの大声でエミリアの名を呼んだ。
腕に生徒会役員の腕章を着け、燃えるように赤い髪と赤銅色の瞳をした長身の男子生徒。
驚いた生徒達が下がり、教室の入口からエミリアの席まで一直線の道が出来た。
「イーサン様?」
二年前に顔を合わせた時よりも随分背が伸びたイーサンは、記憶にある婚約破棄を宣言した時の姿と重なって見えて、エミリアの声に若干の戸惑いが混じる。
「貴女が、エミリア嬢か?」
大声で登場したのに、エミリアの姿を見た途端、イーサンも戸惑いを見せた。エミリアを頭の先から見下ろしたイーサンの視線は、制服の上からでも分かる豊かな胸のあたりで止まる。
「イーサン様、女子をじろじろ見るのは失礼ではありませんか?」
視線に戸惑うエミリアを庇うように手を伸ばし、イブリアはイーサンの視線を遮る。
「それは、失礼した」
イブリアに睨まれたイーサンは凝視していた視線を逸らす。
「お久しぶりです。イーサン様」
「ああ、君が入学したのは知っていたが、進級してから生徒会役員としての仕事が忙しくて顔を見に来られなかった」
顔を見に来られないのなら、手紙や従者伝いに連絡する等の連絡手段はあったはずだ。それをしなかったのは、関心がなかったか対応するのが面倒だと思っていたからだ。
名ばかりの婚約者と連絡を取り合うのが面倒くさいと思っているのはエミリアも同じ。むしろ、訪ねて来てくれてありがとうと感謝したいくらいだった。
「生徒会役員をされていることは承知しております。学業優先でかまいません。私のことはお気になさらず、ご友人との時間を大切にしてください。私も勉学に励んでいこうと思っています」
「あ、ああ。分かってもらえて良かった」
今まで放置していたというのに、「婚約者だと公言する気も、積極的に関わるつもりもない」と直球で言うエミリアに対して、何故かイーサンの声は沈んでいた。
イーサンが口を開こうとした時に授業開始前の予鈴が鳴り響き、彼は軽く会釈をしてからくるりと背を向けて歩き出す。教室の扉を出る前に一度だけ振り向き、エミリアと視線を合わせた。
イーサンの姿が完全に見えなくなると、イブリアはエミリアの肩に触れていた手を外す。
「エミリアさん、イーサン様と婚約しているの? わたくしはイーサン様とは幼い頃から知り合いだけれど、彼に婚約者がいたという話は聞いたこともなかったわ」
「幼い頃に親同士が決めた婚約です。互いへの興味関心が薄いのは仕方ないでしょう。それにグランデ伯爵家と縁続きとなって、嬉しいと思う方はあまりいないでしょうし」
利益になることなら汚い手も使う守銭奴の父親と、伯爵夫人の立場を利用し享楽に走り他の貴族夫人達から敬遠されている継母。引きこもりの娘と我儘で頭の悪い息子。
多少尾ひれがついているとはいえ、グランデ伯爵家の評判は貴族達に広まっている。
犯罪すれすれの行為をする両親の行いは、自分でも顔を顰めたくなるくらい酷いもので、そんな家の娘であるエミリアと関わりたくないと思うのは当然だと、苦笑いした。
「ですが、あの態度は婚約者としてあるまじきものだと思います。エミリアさんに励ましの言葉一つかけず突き放すだなんて。殿下に伝えて説教をしてもらいますわ」
そっとエミリアの手を握ったイブリアは、イーサンの姿が消えた教室の扉を睨んだ。
新入生歓迎会当日。
二年A組所属の王太子も生徒会役員として参加することもあり、身分と成績、将来性もある生徒会役員達を前にした一年女子達は色めき立っていた。
大ホールに集まった一年生を前にして、壇上に上がった生徒会役員が一年間の主な行事や、生徒会規則、委員会活動の紹介をした後、各クラブのクラブ長、副クラブ長がクラブの活動内容を説明する。
生徒会役員と交代して、壇上に上がったクラブ長によるクラブ説明は運動クラブから文化クラブまで順調に進み、ついにシンシアの上に照明が落下する演劇クラブの出番になった。
(シンシアさんとイーサン様を結びつけた、天井から落下する照明は……あれね)
天井を見上げたエミリアは、固定部が外れかかり不安定になっている照明を見付けて、目を凝らす。
多くの怪我人が出るならば、事前に天井の照明を点検してほしいと生徒会の投書箱へ投書したが、前のエミリアの記憶が正しければ、落下した照明器具で怪我をするのはイーサンのみ。
先日、教室を訪れて「婚約者扱いは出来ない」と告げたも同然のイーサンへの意地悪から投書しないのではなく、エミリアにはイーサンとシンシアの出会いを邪魔する気がなかったのだ。
(穏便に婚約を解消してもらえるなら、私はお二人を応援するわ)
つらつらとそんなことを考えていると、突然、天井の照明が消えてホールの一部が暗くなり、周囲を見渡していた生徒から悲鳴が上がった。
「きゃー! 落ちるわ!?」
ガシャーン!
天井からぶら下がっていた照明が突然落下し、ホール内の生徒と教師達は一時騒然となった。
幸いにも、落下地点にいた生徒は大した怪我もせずに済んだため、新入生歓迎会は照明器具の欠片の片付けのために一時中断した。
詳しい状況が分かるにつれて、今回、照明の落下は同じでも、二つ違うことがあるとエミリアは気づく。ひとつめは、落下したのがシンシアではなくダルスの上だったこと。ふたつめは、ダルスが直前で落下に気付き、上手く避けたため、怪我もなく誰にも庇われなかったことだった。
エミリアは視線を巡らせて、生徒会役員と共に舞台の上へ移動して動き回るイーサンを見つける。
名ばかりとはいえ、婚約者の弟の上に照明器具が落ちたのに、落下時に近くにいたイーサンはダルスの側へ行くこともせず、心配もしないらしい。
エミリアもダルスに対して決して良い思い出があるわけではないが、最近はまともなコミュニケーションが取れていることも事実、C組の生徒が集まっている場所へと向かうことにした。
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