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帝都に建つ巨大な皇城の地下、多重結界によって閉ざされた広大な地下神殿。
広大な神殿は、支柱に括りつけられた特殊な魔石を使用した限られた灯り以外の光源は無いのに、四方の壁が仄かに発光して辺りを照らしていた。
帝都中の魔力が集まるこの場所は、特別な極限られた者のみ立ち入ることを許されているため、皇城に勤めるほとんどの者は存在を知らない。
空間の中央、幾何学模様が刻まれた金属の支柱と床に描かれた魔法陣の周囲に立ち、主の帰還を待ちわびていた頭に角が生えた小柄な老人と尖った耳と褐色の肌と紫紺の瞳のスーツを着た若い男性は、空気の揺れを感じ取り姿勢を正した。
パアアアアー
魔法陣が光り輝き出し、光は支柱の幾何学模様を金色に輝かせる。
支柱上部にはめ込まれた、魔力を凝縮した魔石を原動力とした大掛かりな装置が起動し、小柄な老人男性とスーツの男性と向かい合う形で控えていた長いひげを蓄えた老人男性は、片手で持つ杖を高く上げて詠唱を始めた。
老人の背後にいたローブを頭からかぶった二人の魔術師は、魔法陣へ向けて両手をかざして魔力を送り老人の詠唱を補助する。
バチバチバチィ!
輝く魔法陣の中心が歪み、表面に稲妻を纏わせた漆黒の球体が発生する。
球体が膨らんでいき、直径4メートルほどの大きさになると中から鉄鋼に覆われた腕が出現した。
「帝王様」
老人が魔法陣の手前まで歩み寄り、球体から姿を現した甲冑の男に話しかける。
「女神様のご様子は……お変わりなかったようですね」
漆黒の球体から現れた帝王の纏う雰囲気から、鉄仮面の上から彼の感情を読み取るのは老人には慣れたもの。
言葉にしなくても、毎回、異世界から戻って来た帝王の機嫌は良い。
今回は上機嫌なことが伝わってきて、老人の口元もほころんだ。
「首尾よくエナジーは手に入りましたか?」
「ああ、手に入れた」
帝王は開いた右手の平の中に、ピンク色のエナジーが詰まった小瓶を出現させた。
「おおっ! これは! 今回も素晴らしい上質なエナジーですね!」
小瓶に入ったエナジーを目にして、魔術師達を後ろへ下がらせた長いひげを蓄えローブを着た老人は、歓喜の声を上げた。
「これだけの量があれば、時空の歪を生じさせて隕石を呼び寄せることも、多重魔法による大爆発で国の一つくらい簡単に潰せそうです。明日、日の出と共に連合軍との戦闘を開始し、一気に殲滅させるのはどうでしょう」
エナジーを使い、魔術師達が開発した魔術式を試すことを目論んで瞳を輝かせる魔術師を見下ろし、帝王は口元に手を当てた。
「ふむ、明日は……人族は祝日やらだと聞いた。国によっては祭りが行われる、か」
『週の真ん中にある祝日は、特別な気分になるのよ。ラッキーデーってやつ?』
卓上カレンダーの“祝日”を書かれた日にちを指差し笑顔で祝日の過ごし方を説明する陽菜の姿が脳裏に浮かび、帝王は鉄仮面に覆われた口元を笑みの形に動かした。
「祝日の間は、一時休戦しろ」
「「えええ!?」」
帝王からの命令は想定外過ぎて、頭に角が生えた老人と魔術師の老人二人の叫び声が重なる。
その場に居た者達も驚愕のあまり口と目を大きく開いて帝王を見詰めた。
「フンッ、一気に壊滅させてはつまらん。異世界の勇者とやらは、先の戦で負傷しているのだろう? 手負いの勇者を倒してもつまらんだけだ」
「なるほど、回復した勇者を一気に叩き潰すのですか。さすが帝王様ですね。では祝日の間は休戦するよう、将軍達へ通達しましょう」
一歩前へ出たスーツの男性の言葉で、驚愕の表情で固まっていた老人達が動き出す。
「そ、そうですね」
「分かりました。待機している魔術師達にも、明日は休養するように伝えましょう」
「ああ」
小瓶を魔術師の老人へ渡した帝王は、追い払うように軽く手を振るう。
顔を見合わせて頷いた老人達は、帝王へ向かって一礼すると地下空間から出て行った。
一気に静まり返る地下空間に居るのは帝王と、側近である見た目は幼さが残るダークエルフの青年のみ。
「帝王様、何故、慈悲を与えようと?」
「戦よりも優先したいことが出来た。次、異世界へ渡る前に手配したいものがあってな。貴様にしか頼めぬ」
戦よりも優先だと言う帝王から“手配したいもの”が何なのか知らされ、青年は先ほどの老人達と同じくらい驚愕の表情になった。
「……はい?」
脳内で数回言われたことを復唱して、ようやく帝王が求めるモノが何なのか理解した青年の顔色は悪く、両手は震えていた。
「帝王様……何故ソレを、えー、用途をお聞きしても、よろしいでしょうか?」
そのモノを贈るような相手は、数多くいる後宮の女達の中には思い浮かばず、まさか帝王が自分で使用するとは思いたくもない。
青白い顔色になった青年が若干引いているのを感じ取り、帝王の機嫌は急降下していく。
「貴様は俺の決定に不満があるのか?」
「い、いえっ申し訳ございません。直ぐに情報を集め、最上級のモノを手配しましょう」
声に含まれた帝王の怒りに焦り、上擦った声で答え頭を下げた青年は脱兎のごとくその場から駆け出した。
広大な神殿は、支柱に括りつけられた特殊な魔石を使用した限られた灯り以外の光源は無いのに、四方の壁が仄かに発光して辺りを照らしていた。
帝都中の魔力が集まるこの場所は、特別な極限られた者のみ立ち入ることを許されているため、皇城に勤めるほとんどの者は存在を知らない。
空間の中央、幾何学模様が刻まれた金属の支柱と床に描かれた魔法陣の周囲に立ち、主の帰還を待ちわびていた頭に角が生えた小柄な老人と尖った耳と褐色の肌と紫紺の瞳のスーツを着た若い男性は、空気の揺れを感じ取り姿勢を正した。
パアアアアー
魔法陣が光り輝き出し、光は支柱の幾何学模様を金色に輝かせる。
支柱上部にはめ込まれた、魔力を凝縮した魔石を原動力とした大掛かりな装置が起動し、小柄な老人男性とスーツの男性と向かい合う形で控えていた長いひげを蓄えた老人男性は、片手で持つ杖を高く上げて詠唱を始めた。
老人の背後にいたローブを頭からかぶった二人の魔術師は、魔法陣へ向けて両手をかざして魔力を送り老人の詠唱を補助する。
バチバチバチィ!
輝く魔法陣の中心が歪み、表面に稲妻を纏わせた漆黒の球体が発生する。
球体が膨らんでいき、直径4メートルほどの大きさになると中から鉄鋼に覆われた腕が出現した。
「帝王様」
老人が魔法陣の手前まで歩み寄り、球体から姿を現した甲冑の男に話しかける。
「女神様のご様子は……お変わりなかったようですね」
漆黒の球体から現れた帝王の纏う雰囲気から、鉄仮面の上から彼の感情を読み取るのは老人には慣れたもの。
言葉にしなくても、毎回、異世界から戻って来た帝王の機嫌は良い。
今回は上機嫌なことが伝わってきて、老人の口元もほころんだ。
「首尾よくエナジーは手に入りましたか?」
「ああ、手に入れた」
帝王は開いた右手の平の中に、ピンク色のエナジーが詰まった小瓶を出現させた。
「おおっ! これは! 今回も素晴らしい上質なエナジーですね!」
小瓶に入ったエナジーを目にして、魔術師達を後ろへ下がらせた長いひげを蓄えローブを着た老人は、歓喜の声を上げた。
「これだけの量があれば、時空の歪を生じさせて隕石を呼び寄せることも、多重魔法による大爆発で国の一つくらい簡単に潰せそうです。明日、日の出と共に連合軍との戦闘を開始し、一気に殲滅させるのはどうでしょう」
エナジーを使い、魔術師達が開発した魔術式を試すことを目論んで瞳を輝かせる魔術師を見下ろし、帝王は口元に手を当てた。
「ふむ、明日は……人族は祝日やらだと聞いた。国によっては祭りが行われる、か」
『週の真ん中にある祝日は、特別な気分になるのよ。ラッキーデーってやつ?』
卓上カレンダーの“祝日”を書かれた日にちを指差し笑顔で祝日の過ごし方を説明する陽菜の姿が脳裏に浮かび、帝王は鉄仮面に覆われた口元を笑みの形に動かした。
「祝日の間は、一時休戦しろ」
「「えええ!?」」
帝王からの命令は想定外過ぎて、頭に角が生えた老人と魔術師の老人二人の叫び声が重なる。
その場に居た者達も驚愕のあまり口と目を大きく開いて帝王を見詰めた。
「フンッ、一気に壊滅させてはつまらん。異世界の勇者とやらは、先の戦で負傷しているのだろう? 手負いの勇者を倒してもつまらんだけだ」
「なるほど、回復した勇者を一気に叩き潰すのですか。さすが帝王様ですね。では祝日の間は休戦するよう、将軍達へ通達しましょう」
一歩前へ出たスーツの男性の言葉で、驚愕の表情で固まっていた老人達が動き出す。
「そ、そうですね」
「分かりました。待機している魔術師達にも、明日は休養するように伝えましょう」
「ああ」
小瓶を魔術師の老人へ渡した帝王は、追い払うように軽く手を振るう。
顔を見合わせて頷いた老人達は、帝王へ向かって一礼すると地下空間から出て行った。
一気に静まり返る地下空間に居るのは帝王と、側近である見た目は幼さが残るダークエルフの青年のみ。
「帝王様、何故、慈悲を与えようと?」
「戦よりも優先したいことが出来た。次、異世界へ渡る前に手配したいものがあってな。貴様にしか頼めぬ」
戦よりも優先だと言う帝王から“手配したいもの”が何なのか知らされ、青年は先ほどの老人達と同じくらい驚愕の表情になった。
「……はい?」
脳内で数回言われたことを復唱して、ようやく帝王が求めるモノが何なのか理解した青年の顔色は悪く、両手は震えていた。
「帝王様……何故ソレを、えー、用途をお聞きしても、よろしいでしょうか?」
そのモノを贈るような相手は、数多くいる後宮の女達の中には思い浮かばず、まさか帝王が自分で使用するとは思いたくもない。
青白い顔色になった青年が若干引いているのを感じ取り、帝王の機嫌は急降下していく。
「貴様は俺の決定に不満があるのか?」
「い、いえっ申し訳ございません。直ぐに情報を集め、最上級のモノを手配しましょう」
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