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第八章
救出されて
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屋敷の入り口に集まっていた騎士たちが屋敷の中に駆け入っていく。
見覚えのある顔の彼らは、アンダーサン公爵家と王家の騎士たちだった。
まもなく、わめき散らすオリバーが引き立ててこられ、反応のない使用人たちが保護された。
「くそ、離せ! 俺は王子だぞ!」
オリバーが叫ぶが、騎士たちはそんなオリバーの抵抗など意識にとどめるほどでもないようで、オリバーの抵抗にその体を揺らがせもしない。オリバーは腕に縄をかけられ、罪人然とした様子で馬車にのせられ、引き立てられていった。
そうして次に、騎士がダンゼントに抱き留められたヘンリエッタへと視線を向けた。
「ヘンリエッタ・コックス嬢ですね。あなたにも逮捕命令が出ております」
「はい……」
「待って! ヘンリエッタは……義母に脅迫されていたの、情状酌量の余地があるわ……!」
レインの言葉に、ユリウスがおや、という顔をする。
「レインと、コックス嬢、君たちの間で、何か話せたことがあるんだね」
「はい、ユリウス」
レインのきっぱりとした言葉に、ユリウスが微笑む。
「わかった。きちんと調べて、真実を明らかにする」
「……ヘンリエッタは……」
「今日は、護送しなければならないだろう」
「そんな……」
レインは眉尻を下げた。そんなレインに、ユリウスも困ったような顔をする。
そんな空気を破ったのは、今まさに話題になっていたヘンリエッタだった。
「大丈夫よ。……いいえ、大丈夫です。レイン様」
ヘンリエッタは笑って言った。どこか、つきものが落ちたような顔をして。
「私だって悪いことをしました。オリバー様に協力して、レイン様を陥れようとしてほかにも、たくさん……それは、本当のことだから、きちんと罪を償います。そうしないと、おかあさんに会えない」
「ヘンリエッタ、あなたの、本当のお母様は、今どこに?」
「私の故郷の村にいるはずです。毎年、生きてる証拠として髪だけ渡されていました。……レイン様」
「ええ、助けるわ。必ず。あなたのお母様を」
「……ありがとうございます」
ヘンリエッタは涙声で言った。
頭を下げて、おとなしく馬車に乗り込む。
「ユリウス、ヘンリエッタの故郷の村に、彼女の本当のお母様がいらっしゃるんです。人質として。……今すぐ、人をやってもらえますか」
「ああ。では騎士をひとり遣ろう。ダンゼント、任されてくれるか」
「は。お任せください。馬で駆ければすぐです」
本当は、自分が行きたい。行って、ヘンリエッタの実の母親の無事を確認したい。けれどレインが行けば目立ってしまって、ヘンリエッタの母親の無事が保証されない。
身分というのはままならないものだ。
レインが目を伏せると、ユリウスがそっとレインの肩に手を置いて、撫でてくれる。
その手があたたかくて、許されているような気持ちになって、レインは小さくうなずいた。
ふと見ると、アレンが騎士の一人に抱かれて眠っている。緊張することばかりだったから、安全な場所について安心してしまったのだろう。
その寝顔の安らかさに、レインはほ、と笑みを浮かべた。夜明けが朝へと変わる。
青い空が、レインたちの上に、高く、高くある。終わったのだわ、と思って、レインはユリウスの胸にそっと頭を預けたのだった。
見覚えのある顔の彼らは、アンダーサン公爵家と王家の騎士たちだった。
まもなく、わめき散らすオリバーが引き立ててこられ、反応のない使用人たちが保護された。
「くそ、離せ! 俺は王子だぞ!」
オリバーが叫ぶが、騎士たちはそんなオリバーの抵抗など意識にとどめるほどでもないようで、オリバーの抵抗にその体を揺らがせもしない。オリバーは腕に縄をかけられ、罪人然とした様子で馬車にのせられ、引き立てられていった。
そうして次に、騎士がダンゼントに抱き留められたヘンリエッタへと視線を向けた。
「ヘンリエッタ・コックス嬢ですね。あなたにも逮捕命令が出ております」
「はい……」
「待って! ヘンリエッタは……義母に脅迫されていたの、情状酌量の余地があるわ……!」
レインの言葉に、ユリウスがおや、という顔をする。
「レインと、コックス嬢、君たちの間で、何か話せたことがあるんだね」
「はい、ユリウス」
レインのきっぱりとした言葉に、ユリウスが微笑む。
「わかった。きちんと調べて、真実を明らかにする」
「……ヘンリエッタは……」
「今日は、護送しなければならないだろう」
「そんな……」
レインは眉尻を下げた。そんなレインに、ユリウスも困ったような顔をする。
そんな空気を破ったのは、今まさに話題になっていたヘンリエッタだった。
「大丈夫よ。……いいえ、大丈夫です。レイン様」
ヘンリエッタは笑って言った。どこか、つきものが落ちたような顔をして。
「私だって悪いことをしました。オリバー様に協力して、レイン様を陥れようとしてほかにも、たくさん……それは、本当のことだから、きちんと罪を償います。そうしないと、おかあさんに会えない」
「ヘンリエッタ、あなたの、本当のお母様は、今どこに?」
「私の故郷の村にいるはずです。毎年、生きてる証拠として髪だけ渡されていました。……レイン様」
「ええ、助けるわ。必ず。あなたのお母様を」
「……ありがとうございます」
ヘンリエッタは涙声で言った。
頭を下げて、おとなしく馬車に乗り込む。
「ユリウス、ヘンリエッタの故郷の村に、彼女の本当のお母様がいらっしゃるんです。人質として。……今すぐ、人をやってもらえますか」
「ああ。では騎士をひとり遣ろう。ダンゼント、任されてくれるか」
「は。お任せください。馬で駆ければすぐです」
本当は、自分が行きたい。行って、ヘンリエッタの実の母親の無事を確認したい。けれどレインが行けば目立ってしまって、ヘンリエッタの母親の無事が保証されない。
身分というのはままならないものだ。
レインが目を伏せると、ユリウスがそっとレインの肩に手を置いて、撫でてくれる。
その手があたたかくて、許されているような気持ちになって、レインは小さくうなずいた。
ふと見ると、アレンが騎士の一人に抱かれて眠っている。緊張することばかりだったから、安全な場所について安心してしまったのだろう。
その寝顔の安らかさに、レインはほ、と笑みを浮かべた。夜明けが朝へと変わる。
青い空が、レインたちの上に、高く、高くある。終わったのだわ、と思って、レインはユリウスの胸にそっと頭を預けたのだった。
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