元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

高遠すばる

文字の大きさ
上 下
58 / 67
第八章

サファイアの導き1(ユリウス視点)

しおりを挟む
「レインがいない……!?」
「はい、もうお休みになっていると思って確認しに行きましたところ、どこにもいらっしゃらなくて……」

 深夜に、慌てたようにユリウスの泊まる客室に転がり込んできた女官長ベルにより、婚約者であるレインの不在を伝えられたユリウスは、目を見開いて呆然と口を開いた。

 急いで駆け付けたレインの部屋はも向けの殻で、しかし、レインが勝手に城の外に出たうえ、戻らないこともありえない。レインの好きな中庭にもレインの姿はなく、ユリウスは眉根を寄せた。

「まさか、さらわれた……?」

 最悪の想像が脳裏をよぎる。だが、この王城でどうやって王女を攫うというのだろう。
 ユリウスの言葉に、その場に沈黙が降りる。

 レインの居住区一帯の護衛を任されていたダンゼント騎士団長が、青い顔をして絞り出すように言った。

「わしのせいだ……わしが、おひいさまの部屋に張り付いておれば……」
「女王になるまではレインのプライベートを尊重しよう、と言ったのは私だ。ダンゼント騎士団長が気に病むことではない」

 ユリウスは、そこまで言って、はっととあることに気づいた。

「……どうして、レインの部屋にも、中庭にも、争ったような跡がないんだ?」

 ユリウスのこめかみを汗が伝う。レインを早く取り戻し、安選させてやりたいと、焦りばかりが先行する。

「閣下!」

 その時、他の王族の居住区にレインがいる可能性を考えて確認をしてきたチコが戻ってきた。その顔は暗く、震えた声でチコは言う。

「アレン様もいないのです……!」
「な……」
「そして、投獄されていたコックス子爵令嬢と、北の塔にいるはずのオリバー第一王子の姿も……看守は殺されていて……ひ……ッ」
「ユーリ、落ち着け、おやじも」

 いきり立つダンゼントを息子であるベンジャミンが押さえた。
 しかし、ユリウスには声をかけただけ。ユリウスは、自分でも凍えるほど冷たい表情をしている自覚があった。だからこそ、手を出すのは逆効果だと思ったのだろう。

 チコの悲鳴の理由も、おそらくそうだ。

「ユリウス……」
「大丈夫だ。少なくとも、頭は落ち着いている」
「……そうか。……まだ、オリバー王子とコックス子爵令嬢が犯人と決まったわけじゃないが……」
「だが、十中八九」
「……あの二人だろう。ここまでやるとは、俺も思わなかったが」

 犯人はおそらく、オリバーとヘンリエッタだ。その手引きで入ってきた何者かによって、レインとアレンは攫われたのだろう。アレンはレインの抵抗を封じる人質かもしれない。

 夜明けが近い。レインがいなくなってから、少なくとも五時間は経っている。
 レインへ続く手がかりを追って中庭を探していたユリウスは、中庭の向こう、使用人用の門から繋がる馬車道に、きらりと輝くものを見た気がして、そちらへ足を進めた。

 その馬車道へ出ると、数人の子供たちがこぞって何かを集めている。
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 4

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

処理中です...