元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

高遠すばる

文字の大きさ
上 下
53 / 67
第八章

お披露目パーティー1

しおりを挟む
 日が落ちて幾分か経つ、大広間の控室。
 今日はレインの王女としてのお披露目のパーティーだ。
 レインはデビュタントの令嬢が迷うような純白のドレスに身を包み、ネーム・コールマンに自分の名前が呼ばれるのを待っていた。

 レインの首元を飾るのは雫をかたどったサファイアが連なったネックレス。イヤリングとそろいのデザインのそれは、つい先だってユリウスから贈られたものだ。

 レインは公爵令嬢としてのデビューはしていたが、それとはまた規模も空気も違ったパーティーに緊張してしまう。
 なにせ、今夜のパーティーは誘拐され、死んだと思われていた先代女王の唯一の姫のお披露目である。それが、いま最も権勢を誇っているアンダーサン公爵令嬢として生きていた、と明かされたのだから、人々がレインに――イリスレインに抱く興味は生半可なものではない。

 大広間へ続く扉の向こうから人々のさざめきが聞こえてくるようで、レインは知らず、緊張で高鳴る胸をそっと押さえた。

「レイン、大丈夫だよ」

 ユリウスが微笑んで、レインの背を優しく叩く。
 レインはユリウスの顔を仰ぎ見て、ほっと息をついた。ユリウスは、ユリウスの髪色に合わせた群青のタキシードを着ていて、ところどころにレインの髪と同じ、薄青い色の差し色をしていた。
 よく見て見ればその意匠は雨の雫のような形になっていて、レインの身に着けているイヤリングやネックレスと取り合わせているのだとわかった。

 互いの色を身に着けているのだと気づいたレインの頭は途端にゆだってしまって、暗い室内でもわかるくらいに赤く染まった。この暗がりにごまかされてはくれないかと、赤く染まった頬を恥ずかしく思ったレインは念じたけれど、ユリウスの微笑からしてごまかせてはいないのだろう。

「レインはかわいいね」
「ゆ、ユリウス様……!」

 顔が熱い。やはりユリウスに隠し事はできない。
 ユリウスはそうやって恥ずかし気にうつむくレインに優しく、言い聞かせるように言った。

「これからはユリウスでいい。レイン、君と私は婚約者で――夫婦になるのだから」
「――ゆ、りうす……様」
「はは、今すぐにでなくていいよ」

 急な提案にレインが耳まで赤くして、ようよう口にした――けれど結局敬称をつけてしまった――呼び名に、ユリウスは苦笑する。

「急には、無理ですっ!」
「うんうん、そうだね」

 レインの言葉に、ユリウスがまた笑う。かわいいものを、かわいくてしかたないと愛でるように見つめられて、レインはどう言えばいいのかわからなかった――と。

「先代女王陛下の王女――イリスレイン王女殿下、並びに、その婚約者のアンダーサン公爵閣下のおなーりー!」

 ネーム・コールマンがレインたちの名前を呼んだ。それを聞いて、打ち合わせで知ってはいたけれど、レインは不思議に思う。

 今まではずっと、レインの名前が呼ばれるのはユリウスのあとで、あくまでユリウスがメインだった。
 レインには公爵令嬢という地位以外何もなくて、あくまでもユリウスの添え物みたいな扱いだった。――それが、今は逆に――もちろん、ユリウスが添え物なわけがないけれど!――なっている。

(これが、女王になるということ)

 レインはきっぱりと定まってしまった序列――王位継承権をまじまじと確認した気がして、小さく息を呑んだ。
 ユリウスがレインに手を差し出す。

「さ、行こうか、レイン」
「……はい、ユリウス様」

 ユリウスの手のひらに手を重ねて、レインはゆっくりと前を向いた。

しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙桜可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

【完結】地味令嬢を捨てた婚約者、なぜか皇太子が私に執着して困ります

21時完結
恋愛
「お前のような地味な令嬢と結婚するつもりはない!」 侯爵令嬢セシリアは、社交界でも目立たない地味な存在。 幼い頃から婚約していた公爵家の息子・エドワードに、ある日突然婚約破棄を言い渡される。 その隣には、美しい公爵令嬢が――まさに絵に描いたような乗り換え劇だった。 (まあ、別にいいわ。婚約破棄なんてよくあることですし) と、あっさり諦めたのに……。 「セシリア、お前は私のものだ。誰にも渡さない」 婚約破棄の翌日、冷酷無慈悲と恐れられる皇太子アレクシスが、なぜか私に異常な執着を見せはじめた!? 社交界で“地味”と見下されていたはずの私に、皇太子殿下がまさかの猛アプローチ。 その上、婚約破棄した元婚約者まで後悔して追いかけてきて―― 「お前を手放したのは間違いだった。もう一度、俺の婚約者に――」 「貴様の役目は終わった。セシリアは私の妃になる」 ――って、えっ!? 私はただ静かに暮らしたいだけなのに、なぜかとんでもない三角関係に巻き込まれてしまって……?

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間

夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。 卒業パーティーまで、残り時間は24時間!! 果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

処理中です...