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第八章
お披露目パーティー1
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日が落ちて幾分か経つ、大広間の控室。
今日はレインの王女としてのお披露目のパーティーだ。
レインはデビュタントの令嬢が迷うような純白のドレスに身を包み、ネーム・コールマンに自分の名前が呼ばれるのを待っていた。
レインの首元を飾るのは雫をかたどったサファイアが連なったネックレス。イヤリングとそろいのデザインのそれは、つい先だってユリウスから贈られたものだ。
レインは公爵令嬢としてのデビューはしていたが、それとはまた規模も空気も違ったパーティーに緊張してしまう。
なにせ、今夜のパーティーは誘拐され、死んだと思われていた先代女王の唯一の姫のお披露目である。それが、いま最も権勢を誇っているアンダーサン公爵令嬢として生きていた、と明かされたのだから、人々がレインに――イリスレインに抱く興味は生半可なものではない。
大広間へ続く扉の向こうから人々のさざめきが聞こえてくるようで、レインは知らず、緊張で高鳴る胸をそっと押さえた。
「レイン、大丈夫だよ」
ユリウスが微笑んで、レインの背を優しく叩く。
レインはユリウスの顔を仰ぎ見て、ほっと息をついた。ユリウスは、ユリウスの髪色に合わせた群青のタキシードを着ていて、ところどころにレインの髪と同じ、薄青い色の差し色をしていた。
よく見て見ればその意匠は雨の雫のような形になっていて、レインの身に着けているイヤリングやネックレスと取り合わせているのだとわかった。
互いの色を身に着けているのだと気づいたレインの頭は途端にゆだってしまって、暗い室内でもわかるくらいに赤く染まった。この暗がりにごまかされてはくれないかと、赤く染まった頬を恥ずかしく思ったレインは念じたけれど、ユリウスの微笑からしてごまかせてはいないのだろう。
「レインはかわいいね」
「ゆ、ユリウス様……!」
顔が熱い。やはりユリウスに隠し事はできない。
ユリウスはそうやって恥ずかし気にうつむくレインに優しく、言い聞かせるように言った。
「これからはユリウスでいい。レイン、君と私は婚約者で――夫婦になるのだから」
「――ゆ、りうす……様」
「はは、今すぐにでなくていいよ」
急な提案にレインが耳まで赤くして、ようよう口にした――けれど結局敬称をつけてしまった――呼び名に、ユリウスは苦笑する。
「急には、無理ですっ!」
「うんうん、そうだね」
レインの言葉に、ユリウスがまた笑う。かわいいものを、かわいくてしかたないと愛でるように見つめられて、レインはどう言えばいいのかわからなかった――と。
「先代女王陛下の王女――イリスレイン王女殿下、並びに、その婚約者のアンダーサン公爵閣下のおなーりー!」
ネーム・コールマンがレインたちの名前を呼んだ。それを聞いて、打ち合わせで知ってはいたけれど、レインは不思議に思う。
今まではずっと、レインの名前が呼ばれるのはユリウスのあとで、あくまでユリウスがメインだった。
レインには公爵令嬢という地位以外何もなくて、あくまでもユリウスの添え物みたいな扱いだった。――それが、今は逆に――もちろん、ユリウスが添え物なわけがないけれど!――なっている。
(これが、女王になるということ)
レインはきっぱりと定まってしまった序列――王位継承権をまじまじと確認した気がして、小さく息を呑んだ。
ユリウスがレインに手を差し出す。
「さ、行こうか、レイン」
「……はい、ユリウス様」
ユリウスの手のひらに手を重ねて、レインはゆっくりと前を向いた。
今日はレインの王女としてのお披露目のパーティーだ。
レインはデビュタントの令嬢が迷うような純白のドレスに身を包み、ネーム・コールマンに自分の名前が呼ばれるのを待っていた。
レインの首元を飾るのは雫をかたどったサファイアが連なったネックレス。イヤリングとそろいのデザインのそれは、つい先だってユリウスから贈られたものだ。
レインは公爵令嬢としてのデビューはしていたが、それとはまた規模も空気も違ったパーティーに緊張してしまう。
なにせ、今夜のパーティーは誘拐され、死んだと思われていた先代女王の唯一の姫のお披露目である。それが、いま最も権勢を誇っているアンダーサン公爵令嬢として生きていた、と明かされたのだから、人々がレインに――イリスレインに抱く興味は生半可なものではない。
大広間へ続く扉の向こうから人々のさざめきが聞こえてくるようで、レインは知らず、緊張で高鳴る胸をそっと押さえた。
「レイン、大丈夫だよ」
ユリウスが微笑んで、レインの背を優しく叩く。
レインはユリウスの顔を仰ぎ見て、ほっと息をついた。ユリウスは、ユリウスの髪色に合わせた群青のタキシードを着ていて、ところどころにレインの髪と同じ、薄青い色の差し色をしていた。
よく見て見ればその意匠は雨の雫のような形になっていて、レインの身に着けているイヤリングやネックレスと取り合わせているのだとわかった。
互いの色を身に着けているのだと気づいたレインの頭は途端にゆだってしまって、暗い室内でもわかるくらいに赤く染まった。この暗がりにごまかされてはくれないかと、赤く染まった頬を恥ずかしく思ったレインは念じたけれど、ユリウスの微笑からしてごまかせてはいないのだろう。
「レインはかわいいね」
「ゆ、ユリウス様……!」
顔が熱い。やはりユリウスに隠し事はできない。
ユリウスはそうやって恥ずかし気にうつむくレインに優しく、言い聞かせるように言った。
「これからはユリウスでいい。レイン、君と私は婚約者で――夫婦になるのだから」
「――ゆ、りうす……様」
「はは、今すぐにでなくていいよ」
急な提案にレインが耳まで赤くして、ようよう口にした――けれど結局敬称をつけてしまった――呼び名に、ユリウスは苦笑する。
「急には、無理ですっ!」
「うんうん、そうだね」
レインの言葉に、ユリウスがまた笑う。かわいいものを、かわいくてしかたないと愛でるように見つめられて、レインはどう言えばいいのかわからなかった――と。
「先代女王陛下の王女――イリスレイン王女殿下、並びに、その婚約者のアンダーサン公爵閣下のおなーりー!」
ネーム・コールマンがレインたちの名前を呼んだ。それを聞いて、打ち合わせで知ってはいたけれど、レインは不思議に思う。
今まではずっと、レインの名前が呼ばれるのはユリウスのあとで、あくまでユリウスがメインだった。
レインには公爵令嬢という地位以外何もなくて、あくまでもユリウスの添え物みたいな扱いだった。――それが、今は逆に――もちろん、ユリウスが添え物なわけがないけれど!――なっている。
(これが、女王になるということ)
レインはきっぱりと定まってしまった序列――王位継承権をまじまじと確認した気がして、小さく息を呑んだ。
ユリウスがレインに手を差し出す。
「さ、行こうか、レイン」
「……はい、ユリウス様」
ユリウスの手のひらに手を重ねて、レインはゆっくりと前を向いた。
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