元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

高遠すばる

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第七章

悪夢

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 そんなことがあったからだろうか。
 その日、レインは夢を見た。

 銀髪の、緑の目をした青年と、薄青い髪に赤い目をした、レインによく似た女性が、ゆりかごを覗き込んで笑いあっている。

 ――レインは、ゆりかごの中からそれを見ていた。

(お父様?お母様?)

 するりと喉を通り抜けた言葉は、あぶくのように消えて、音にはならなかった。
 でも、レインには確かに、そのふたりが自分を愛していると理解できた。
 そういう、優しい目をしていたから。

 ――レイン、かわいい子、イリスレイン。
 ――私たちの、宝物。

 あたたかな、お湯のような夢。ずっと浸っていたい夢だった。
 けれど、それは最後に、誰かの悲鳴のような声と、視界一杯に広がる誰かの血の色で掻き消えてしまった。

 ――レイン!

 自分を呼ぶ少年の声だけが鮮明で――ああ――だから、何もかも失っても、覚えていたのだと思った。

『忘れるのよ、すべてなくしてしまえ。ヘンリエッタの――ヒロインのための物語に、悪役令嬢はいらない』

 そんな風に、言い聞かされ、何かをすべてを飲まされて、記憶のすべて、何もかもを捨てさせられたとしても、レインという名前だけは。
 意識が浮上する。目が覚めたレインの頬は、涙でぐっしょりと濡れていた。

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