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第七章
第二王子アレン2
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ユリウスの声だった。「もちろんです」とレインが返すと扉が開かれる。
――と、扉の向こうから入ってきたユリウス以外の二人の人物に、レインは目を丸くした。
「お義父様、国王陛下……!」
あわててアレンを抱いたまま臣下の礼をとろうとするレインを手で制して、国王は微笑む。
「いいんだ、イリスレイン。ここにいるのは君の家族だからね」
「おとうたま!」
「おや、アレン、ここにいたのかい」
レインの腕から飛び出して父親のもとに走るアレンは、父王に抱き上げられ、ほおずりをされてその笑顔を輝かせた。
それ微笑み返し、国王がふっとレインを振り返る。
「イリスレイン、私の息子がすまなかったね」
オリバーのことを言っているのだ、とすぐに分かった。レインははい、ともいいえ、とも言えずにあいまいに頷く。
「ユリウスが、君とオリバーとの婚約を解消したのは知っているね? 解消するとき……と言っても、あの勢いは婚約破棄に近いものがあったが……、ユリウスに、私はならば君と婚約をする代わりの人間を見つけてこい、と言ったんだ。そうすれば解消されることもないだろうと……」
本当に、申し訳ないことだったと思うよ。そう言って、国王はアレンを降ろし、頭を下げた。
アレンは不思議そうに父王を見上げている。
「けれど、ユリウスは私がそう言うと、代わりの婚約者には自分がなる、言ってね。驚いたよ。ユリウスの目は本気だったから。本気で、君を傷つける人間には容赦しない、という目だった。だから私も、血がつながらないとはいえ兄妹だろう、という言葉が出なくなってしまってね」
国王はレインを見つめた。まっすぐなまなざしは、国王としてではなく――きっと、レインの身内としてのものだった。
「イリスレイン。君は今、幸せかい」
「――はい」
迷うことなど何もない。レインはためらいなく頷いた。国王が、にっこりと笑顔になって「そうか、そうか」と安堵したように言った。
「おとうたま、どうちた……ノ?」
「イリスレインが、今幸せだという話だよ」
その問答こそが幸せそうで、レインはなぜか胸が痛んだ。痛む?いいや、痛いというほどじゃない。ただ細い針で刺されたような、ちくりとした感覚が合っただけだ。
レインはその光景から目を離さないまま、ぼうっとして「ユリウス様」と尋ねた。
「レイン?」
「私の……私の父は、どんな方でしたか?」
「……優しい方だったよ。目の色は緑で、髪は銀で。……レインに、雰囲気がよく似ていた」
「……思い出せないことが、申し訳ないです」
ユリウスの言葉に、やっぱり何も思いだせることがなくて、レインは視線を下に下げた。
ユリウスがそっとレインの背を撫でて言う。
「無理に思いだそうとしなくていいし、思い出せないことをすまなく思う必要なんてないよ、レイン」
ユリウスは穏やかに言った。優しい声音だった。
「レイン、言い忘れたけれど」
「ユリウス様?」
「そのドレスも、髪も、よく似合っている」
「……ありがとうございます、ユリウス様」
レインは微笑んだ。ユリウスの、気分を変えてようとしてくれる言葉が嬉しかった。
――と、扉の向こうから入ってきたユリウス以外の二人の人物に、レインは目を丸くした。
「お義父様、国王陛下……!」
あわててアレンを抱いたまま臣下の礼をとろうとするレインを手で制して、国王は微笑む。
「いいんだ、イリスレイン。ここにいるのは君の家族だからね」
「おとうたま!」
「おや、アレン、ここにいたのかい」
レインの腕から飛び出して父親のもとに走るアレンは、父王に抱き上げられ、ほおずりをされてその笑顔を輝かせた。
それ微笑み返し、国王がふっとレインを振り返る。
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オリバーのことを言っているのだ、とすぐに分かった。レインははい、ともいいえ、とも言えずにあいまいに頷く。
「ユリウスが、君とオリバーとの婚約を解消したのは知っているね? 解消するとき……と言っても、あの勢いは婚約破棄に近いものがあったが……、ユリウスに、私はならば君と婚約をする代わりの人間を見つけてこい、と言ったんだ。そうすれば解消されることもないだろうと……」
本当に、申し訳ないことだったと思うよ。そう言って、国王はアレンを降ろし、頭を下げた。
アレンは不思議そうに父王を見上げている。
「けれど、ユリウスは私がそう言うと、代わりの婚約者には自分がなる、言ってね。驚いたよ。ユリウスの目は本気だったから。本気で、君を傷つける人間には容赦しない、という目だった。だから私も、血がつながらないとはいえ兄妹だろう、という言葉が出なくなってしまってね」
国王はレインを見つめた。まっすぐなまなざしは、国王としてではなく――きっと、レインの身内としてのものだった。
「イリスレイン。君は今、幸せかい」
「――はい」
迷うことなど何もない。レインはためらいなく頷いた。国王が、にっこりと笑顔になって「そうか、そうか」と安堵したように言った。
「おとうたま、どうちた……ノ?」
「イリスレインが、今幸せだという話だよ」
その問答こそが幸せそうで、レインはなぜか胸が痛んだ。痛む?いいや、痛いというほどじゃない。ただ細い針で刺されたような、ちくりとした感覚が合っただけだ。
レインはその光景から目を離さないまま、ぼうっとして「ユリウス様」と尋ねた。
「レイン?」
「私の……私の父は、どんな方でしたか?」
「……優しい方だったよ。目の色は緑で、髪は銀で。……レインに、雰囲気がよく似ていた」
「……思い出せないことが、申し訳ないです」
ユリウスの言葉に、やっぱり何も思いだせることがなくて、レインは視線を下に下げた。
ユリウスがそっとレインの背を撫でて言う。
「無理に思いだそうとしなくていいし、思い出せないことをすまなく思う必要なんてないよ、レイン」
ユリウスは穏やかに言った。優しい声音だった。
「レイン、言い忘れたけれど」
「ユリウス様?」
「そのドレスも、髪も、よく似合っている」
「……ありがとうございます、ユリウス様」
レインは微笑んだ。ユリウスの、気分を変えてようとしてくれる言葉が嬉しかった。
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