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第七章
第二王子アレン1
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ドレスは黄色、ユリウスの目の、琥珀色に少し似ている。
ヒールのないフラットな編み上げシューズを履いて、デコルテはあまり見せないで、とお願いしたレインの容貌に合わせ、えりのつまったAラインのドレスを着せ付けてもらった。
娘らしくハーフアップにした髪に、ユリウスからもらったサファイアのイヤリングに合わせた、サファイアでできた花の髪飾りをつける。
それはひとつひとつの花弁が雫のお形をとっている、細かな細工のされた見事なものだった。
アンダーサン公爵家の使用人の腕もすごいが、王城の使用人の技術もすごい。
「ありがとう、とっても素敵だわ」
「もったいないお言葉です」
やり遂げた顔をしている女官やメイドに笑いかけて礼を言うと、女官長であるのにレインの世話を引き受けると宣言したベルが謙遜する。しかし、その顔には隠しきれない笑顔がにじんでいる。
その時だった。部屋に、高く澄んだ幼い声が聞こえて来たのは。
「ワァ……きれいネェ」
「アレン殿下!」
ベルが声の主のもとに駆け寄る。
「まあ、女性の着替えの場に来てはいけませんよ」
「アレン殿下?」
レインが振り返ると、扉の隣をよちよちと歩きながら、幼い金髪の子供がこちらを見上げて目を丸くしているのが見えた。
「すみません、姫様。さ、アレン殿下、お部屋にお戻りになりましょうね」
「ヤ、なの!」
「いいわ、ベル、チコ」
レインはそっとアレンと呼ばれた子供の前にしゃがみ込んだ。そうすると、アレンの琥珀色の目がきらきらと輝いて、その口はもう一度「きれいネェ」と繰り返した。
――アレン・グレイウォード。オリバーの弟王子。まだ幼く、それゆえにレインとは会ったことがなかった。邪気のない、無垢な顔でレインを見上げるアレンはかわいらしい。不仲というわけではないだろうが、オリバーはアレンのことをほとんど口にしなかった。
「アレン王子、お歳はいくつ?」
「ンとね、あのネ……3ちゃい!」
三本の指を突き出してにこにこと笑うアレンは、レインに「おねえちゃまは?」と尋ね返した。
「私はレイン――イリスレインというの。十八歳よ。アレン王子、よろしくね」
「よろちく、おねがいし……マス!」
「まあ、言葉が上手ね」
「エヘヘ……おべんきょ、しまちた!」
アレンはレインに抱き着こうとして、その手を止めた。
レインが豪奢なドレスを着ているから、皺をつけてはいけない、と思ったのかもしれない。生まれたばかりの時に母が亡くなったらしいアレンは、女官に育てられたという。……こんなに幼いのに、思慮深い子だ。
レインは両手を差し出した。
アレンはいいの?というようにレインと、レインの腕とを見比べていたが、レインが笑って頷くと満面の笑みになってレインの胸に飛び込んできた。
レインはそのままアレンを抱き上げて、頭を撫でる。小さな体はやわらかく、あたたかい。
愛しさがこみあげてくるようだった。ふいに、その時ノックの音が部屋に響いた。
「はい」
「レイン、入ってもいいかい?」
ヒールのないフラットな編み上げシューズを履いて、デコルテはあまり見せないで、とお願いしたレインの容貌に合わせ、えりのつまったAラインのドレスを着せ付けてもらった。
娘らしくハーフアップにした髪に、ユリウスからもらったサファイアのイヤリングに合わせた、サファイアでできた花の髪飾りをつける。
それはひとつひとつの花弁が雫のお形をとっている、細かな細工のされた見事なものだった。
アンダーサン公爵家の使用人の腕もすごいが、王城の使用人の技術もすごい。
「ありがとう、とっても素敵だわ」
「もったいないお言葉です」
やり遂げた顔をしている女官やメイドに笑いかけて礼を言うと、女官長であるのにレインの世話を引き受けると宣言したベルが謙遜する。しかし、その顔には隠しきれない笑顔がにじんでいる。
その時だった。部屋に、高く澄んだ幼い声が聞こえて来たのは。
「ワァ……きれいネェ」
「アレン殿下!」
ベルが声の主のもとに駆け寄る。
「まあ、女性の着替えの場に来てはいけませんよ」
「アレン殿下?」
レインが振り返ると、扉の隣をよちよちと歩きながら、幼い金髪の子供がこちらを見上げて目を丸くしているのが見えた。
「すみません、姫様。さ、アレン殿下、お部屋にお戻りになりましょうね」
「ヤ、なの!」
「いいわ、ベル、チコ」
レインはそっとアレンと呼ばれた子供の前にしゃがみ込んだ。そうすると、アレンの琥珀色の目がきらきらと輝いて、その口はもう一度「きれいネェ」と繰り返した。
――アレン・グレイウォード。オリバーの弟王子。まだ幼く、それゆえにレインとは会ったことがなかった。邪気のない、無垢な顔でレインを見上げるアレンはかわいらしい。不仲というわけではないだろうが、オリバーはアレンのことをほとんど口にしなかった。
「アレン王子、お歳はいくつ?」
「ンとね、あのネ……3ちゃい!」
三本の指を突き出してにこにこと笑うアレンは、レインに「おねえちゃまは?」と尋ね返した。
「私はレイン――イリスレインというの。十八歳よ。アレン王子、よろしくね」
「よろちく、おねがいし……マス!」
「まあ、言葉が上手ね」
「エヘヘ……おべんきょ、しまちた!」
アレンはレインに抱き着こうとして、その手を止めた。
レインが豪奢なドレスを着ているから、皺をつけてはいけない、と思ったのかもしれない。生まれたばかりの時に母が亡くなったらしいアレンは、女官に育てられたという。……こんなに幼いのに、思慮深い子だ。
レインは両手を差し出した。
アレンはいいの?というようにレインと、レインの腕とを見比べていたが、レインが笑って頷くと満面の笑みになってレインの胸に飛び込んできた。
レインはそのままアレンを抱き上げて、頭を撫でる。小さな体はやわらかく、あたたかい。
愛しさがこみあげてくるようだった。ふいに、その時ノックの音が部屋に響いた。
「はい」
「レイン、入ってもいいかい?」
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