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第七章

罰と残された謎

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 レインは強くなった。レインを知らないものは、はレインを無条件に血筋だけで愛されている姫君だと思うだろう。
 けれど、血統の良さだけで愛される、だなんてそんなはずありはしない。
 レインはいつだって、前を向くために一生懸命だ。
 その気高いひたむきさに心を打たれるから、誰もが彼女を好きになる。
 もう、レインはユリウスだけに守られるべき存在ではないのかもしれない。

「……リウス」
「……レイン……」
「ユリウス!」
「……なんですか、父上」
「ああ、よかった。聞こえていた」

 執務室。ほっとしたような、からかうような声音で、ユリウスの父である前アンダーサン公爵が言う。ユリウスはこのつかみどころのない父に対応するのが面倒になって、それで、と切り返した。

「譲位の話に何か問題でも?」
「いいや、その話は驚くほどスムーズだ」

 前アンダーサン公爵が執務机に肘をつき、ユリウスを見やる。

「それよりも、私も久々にレインに会いたくてね」

 前アンダーサン公爵に続けるように、別の執務机で書類に署名をしていた国王がいいなあ、それ、とつぶやいた。

「私も会いたいなあ。卒業パーティーではほとんど話せなかったし……。私には王子二人で姫はいなかったから、イリスレインが輝いて見えたよ。姫というものはあんなに可憐なのだねえ」
「姫だから、ではなく、レインだから、ですよ」

 世界中の姫君がレインほどの逸材であったなら、どこも戦なんかしないだろう。
 後で会わせますから、さっさと書類を片付けてください、と目の前の現国王と王位継承権第一位の前公爵を睥睨し、ユリウスは王位継承の際に必要な手続きを進めていく。

「……ところで、くだんの三人は」

 書類から目を離さず、ユリウスはひとつ、確認した。
 前アンダーサン公爵が手を動かしながら言う。

「オリバーは今も荒れている。物の破壊を繰り返し、暴れてしかたがないので北の塔に幽閉しているが、このままだと辺境に飛ばすことになるかもしれない」

 それに国王が沈痛な表情を浮かべる。やはり血のつながった親子であるゆえに、切り捨てるには情が邪魔をするのかもしれなかった。

「コックス子爵夫人はおとなしい。娘のほうもだ。子爵は何も知らなかったらしく、幼い息子にも罪はないから、連帯責任とは言え、その二人の罰はあまり重くない。……だが、まあ、先は明るくないだろうが」
「社交界では敬遠されるでしょうね。息子の教育次第、というところでしょうか」
「そうだな……。夫人と娘は、イリスレインのお披露目後に北の修道院へ送るのだったか」

 ユリウスの言葉に、国王が思いだすように言った。
 ユリウスが頷くと、国王は目を伏せた。犯罪者にまで同情する彼は、やはり王には向いていない。それを自覚しているのだろう。国王は書類にまたひとつサインをして、それ以上何も言わなかった。

 戒律に厳しく、冬も寒い北の修道院は過酷だ。レインを傷つけ、貶めたものには充分な罰になるだろう。ただ、母親である子爵夫人にはまだ余罪がある。イリスレイン誘拐の手引きをした罪を加算した後は、その修道院からも移動し、より重い罰を受けることになるはずだ。

「これでひと段落ですかね」
「そうだな」

 前アンダーサン公爵と国王が頷きあって書類をまとめる。
 ユリウスもうなずいて、ペンを置いた。

 ――はたして、本当にそうだろうか。

 相槌をうちはしたが、まだわからないことがある。
 取り調べの時にヘンリエッタが言った「ヒロイン」「乙女ゲーム」「悪役令嬢」「ハーレムルート」という言葉。ひとつひとつの単語は推測できるのに、そのつながりの意味が分からない。そのわからないもののために、イリスレインが攫われたというのなら……。

 ユリウスはぐっと奥歯を噛んだ。
 まだ終わっていない。なにかがまだ、残っている。そう思った。

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