46 / 67
第七章
おお、我らが姫様2
しおりを挟む
ユリウスはすごい、女官たちの考えていることまでわかるんだわ。そう思いながらレインは「じゃあ、お願いします」と使用人たちへ向けて頭を下げた。
「姫様が頭をさげる必要などございません!」
驚いてレインを止めようとする彼らに、レインはにっこり笑う。
「いいえ、これは私のけじめなの。私は今まで公爵令嬢としてあなたたちに一歩引いてしまっていたわ。ごめんなさい。ここに……王城に来るなら、王女としての覚悟が必要だったのに」
「覚悟……ですか?」
「ええ」
レインは背筋を伸ばした。
「あなたたちに大切にしてもらう、それに見合う努力をする覚悟よ」
そう言ってレインは微笑んだ。
使用人たちがそんなレインを見つめてほう、とため息をつく。
ユリウスがそんなレインを見て目を細め、では、と口を開く。
「私は少し陛下と父上と話してくる。何かあったら飛んでくるから、すぐに呼ぶんだよ」
「ユリウス様ったら、私はそんなに子供ではありませんわ」
くすくす笑えば、ユリウスもそのまなざしを優しく緩める。
じゃあ、行ってくるね、とユリウスが踵を返す。その背が見えなくなったころ、不意に声を掛けられて、レインは振り返った。
「愛されておいでですね、姫様」
「ありがとう。ええと……チコ?」
「はい、チコです、姫様」
「ごめんなさい、幼いころの記憶がないの」
しゅんとうなだれるレインに、チコは笑った。
「三歳のころの記憶ですから、忘れているのも仕方のないことです。ましてや、恐ろしい事件があったころのことですもの。むしろ、忘れてしまってもいいのです。ここにいるものは、みーんな承知しておりますからね」
もう一度、初めましてをすればよいのです。チコはそう言ってレインをドレッサーの前へ先導した。
鏡を見ると、赤い目をした少女が、まっすぐにこちらを見返している。
そういえば、顔を隠さなくなったのはいつからだろう。
この目をひとに見せることが、もう、怖くなくなっていることに気付いて、レインははっとした。
レインの髪をくしけずり、どんな髪飾りがいいでしょうか、と女官たちを交えて話すチコは、それに、と胸を張った。
「忘れることは悪いことだという輩は、このチコがお説教してさしあげましょうね」
そう言ってウインクをするチコに、レインもつられて笑う。
「チコ、ありがとう。……では、ふさわしい髪にしてくれる? 髪飾りも、一緒に選んでくれると嬉しいわ」
「せっかくですし、ドレスも新しいものに変えましょう。我々、美しい姫様を飾れる日を、今か今かとお待ちしておりましたのよ」
先ほどベル、と名乗った女官長が両手にたくさんのドレスを抱えてやってくる。よくよく見れば、後ろでダンゼントが笑っていて。
「じゃあ、お願いするわ」
「お任せください!」
女官たちが声をそろえる。それがおかしくて、レインはまた、声をたてて笑ってしまったのだった。
「姫様が頭をさげる必要などございません!」
驚いてレインを止めようとする彼らに、レインはにっこり笑う。
「いいえ、これは私のけじめなの。私は今まで公爵令嬢としてあなたたちに一歩引いてしまっていたわ。ごめんなさい。ここに……王城に来るなら、王女としての覚悟が必要だったのに」
「覚悟……ですか?」
「ええ」
レインは背筋を伸ばした。
「あなたたちに大切にしてもらう、それに見合う努力をする覚悟よ」
そう言ってレインは微笑んだ。
使用人たちがそんなレインを見つめてほう、とため息をつく。
ユリウスがそんなレインを見て目を細め、では、と口を開く。
「私は少し陛下と父上と話してくる。何かあったら飛んでくるから、すぐに呼ぶんだよ」
「ユリウス様ったら、私はそんなに子供ではありませんわ」
くすくす笑えば、ユリウスもそのまなざしを優しく緩める。
じゃあ、行ってくるね、とユリウスが踵を返す。その背が見えなくなったころ、不意に声を掛けられて、レインは振り返った。
「愛されておいでですね、姫様」
「ありがとう。ええと……チコ?」
「はい、チコです、姫様」
「ごめんなさい、幼いころの記憶がないの」
しゅんとうなだれるレインに、チコは笑った。
「三歳のころの記憶ですから、忘れているのも仕方のないことです。ましてや、恐ろしい事件があったころのことですもの。むしろ、忘れてしまってもいいのです。ここにいるものは、みーんな承知しておりますからね」
もう一度、初めましてをすればよいのです。チコはそう言ってレインをドレッサーの前へ先導した。
鏡を見ると、赤い目をした少女が、まっすぐにこちらを見返している。
そういえば、顔を隠さなくなったのはいつからだろう。
この目をひとに見せることが、もう、怖くなくなっていることに気付いて、レインははっとした。
レインの髪をくしけずり、どんな髪飾りがいいでしょうか、と女官たちを交えて話すチコは、それに、と胸を張った。
「忘れることは悪いことだという輩は、このチコがお説教してさしあげましょうね」
そう言ってウインクをするチコに、レインもつられて笑う。
「チコ、ありがとう。……では、ふさわしい髪にしてくれる? 髪飾りも、一緒に選んでくれると嬉しいわ」
「せっかくですし、ドレスも新しいものに変えましょう。我々、美しい姫様を飾れる日を、今か今かとお待ちしておりましたのよ」
先ほどベル、と名乗った女官長が両手にたくさんのドレスを抱えてやってくる。よくよく見れば、後ろでダンゼントが笑っていて。
「じゃあ、お願いするわ」
「お任せください!」
女官たちが声をそろえる。それがおかしくて、レインはまた、声をたてて笑ってしまったのだった。
12
お気に入りに追加
1,943
あなたにおすすめの小説

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる
仙桜可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。
清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。
でも、違う見方をすれば合理的で革新的。
彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。
「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。
「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」
「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」
仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

【完結】地味令嬢を捨てた婚約者、なぜか皇太子が私に執着して困ります
21時完結
恋愛
「お前のような地味な令嬢と結婚するつもりはない!」
侯爵令嬢セシリアは、社交界でも目立たない地味な存在。
幼い頃から婚約していた公爵家の息子・エドワードに、ある日突然婚約破棄を言い渡される。
その隣には、美しい公爵令嬢が――まさに絵に描いたような乗り換え劇だった。
(まあ、別にいいわ。婚約破棄なんてよくあることですし)
と、あっさり諦めたのに……。
「セシリア、お前は私のものだ。誰にも渡さない」
婚約破棄の翌日、冷酷無慈悲と恐れられる皇太子アレクシスが、なぜか私に異常な執着を見せはじめた!?
社交界で“地味”と見下されていたはずの私に、皇太子殿下がまさかの猛アプローチ。
その上、婚約破棄した元婚約者まで後悔して追いかけてきて――
「お前を手放したのは間違いだった。もう一度、俺の婚約者に――」
「貴様の役目は終わった。セシリアは私の妃になる」
――って、えっ!?
私はただ静かに暮らしたいだけなのに、なぜかとんでもない三角関係に巻き込まれてしまって……?
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる