元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

高遠すばる

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第七章

おお、我らが姫様2

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ユリウスはすごい、女官たちの考えていることまでわかるんだわ。そう思いながらレインは「じゃあ、お願いします」と使用人たちへ向けて頭を下げた。

「姫様が頭をさげる必要などございません!」

 驚いてレインを止めようとする彼らに、レインはにっこり笑う。

「いいえ、これは私のけじめなの。私は今まで公爵令嬢としてあなたたちに一歩引いてしまっていたわ。ごめんなさい。ここに……王城に来るなら、王女としての覚悟が必要だったのに」
「覚悟……ですか?」
「ええ」

 レインは背筋を伸ばした。

「あなたたちに大切にしてもらう、それに見合う努力をする覚悟よ」

 そう言ってレインは微笑んだ。
 使用人たちがそんなレインを見つめてほう、とため息をつく。
 ユリウスがそんなレインを見て目を細め、では、と口を開く。

「私は少し陛下と父上と話してくる。何かあったら飛んでくるから、すぐに呼ぶんだよ」
「ユリウス様ったら、私はそんなに子供ではありませんわ」

 くすくす笑えば、ユリウスもそのまなざしを優しく緩める。
 じゃあ、行ってくるね、とユリウスが踵を返す。その背が見えなくなったころ、不意に声を掛けられて、レインは振り返った。

「愛されておいでですね、姫様」
「ありがとう。ええと……チコ?」
「はい、チコです、姫様」
「ごめんなさい、幼いころの記憶がないの」

 しゅんとうなだれるレインに、チコは笑った。

「三歳のころの記憶ですから、忘れているのも仕方のないことです。ましてや、恐ろしい事件があったころのことですもの。むしろ、忘れてしまってもいいのです。ここにいるものは、みーんな承知しておりますからね」

 もう一度、初めましてをすればよいのです。チコはそう言ってレインをドレッサーの前へ先導した。
 鏡を見ると、赤い目をした少女が、まっすぐにこちらを見返している。
 そういえば、顔を隠さなくなったのはいつからだろう。

 この目をひとに見せることが、もう、怖くなくなっていることに気付いて、レインははっとした。
 レインの髪をくしけずり、どんな髪飾りがいいでしょうか、と女官たちを交えて話すチコは、それに、と胸を張った。

「忘れることは悪いことだという輩は、このチコがお説教してさしあげましょうね」

 そう言ってウインクをするチコに、レインもつられて笑う。

「チコ、ありがとう。……では、ふさわしい髪にしてくれる? 髪飾りも、一緒に選んでくれると嬉しいわ」
「せっかくですし、ドレスも新しいものに変えましょう。我々、美しい姫様を飾れる日を、今か今かとお待ちしておりましたのよ」

 先ほどベル、と名乗った女官長が両手にたくさんのドレスを抱えてやってくる。よくよく見れば、後ろでダンゼントが笑っていて。

「じゃあ、お願いするわ」
「お任せください!」

 女官たちが声をそろえる。それがおかしくて、レインはまた、声をたてて笑ってしまったのだった。

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