元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

高遠すばる

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第六章

あなたこそ私の陽光

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 星が瞬き、満天の空を流れている。
 ほとんど振動のない、快適な帰りの馬車で、レインは優しく自分の頭を撫で続けているユリウスを振り仰いだ。

「私は、本当に王女なのですか」
 レインの言葉に、ユリウスが頷く。その白いおもては静かだった。まるで、感情を押し込めているみたいに。

「ああ、そうだ。レイン。お前はこの国の、先代女王の遺児。この国の、正統な後継者だ」

「そうです、か……」
 予想はしていたことだった。あの卒業パーティーの騒動で、何度も繰り返されていたことだ。自分が王女なのだと察しない方が難しかった。

「私の名前……本当の名前は、イリスレイン、というのですね」
「そうだ」
「先代女王陛下と王配殿下については、学んだので存じております。病を得られて崩御した先代女王陛下と、同時期に落馬事故で亡くなられた王配殿下……」
「……」
「でも、本当はきっと、違うのでしょう……? 私は誘拐されたと聞きました。それと、先代女王陛下と王配殿下の死が別の出来事だとは思えません」

 レインの言葉に、ユリウスはぐう、と奥歯を噛んだように見えた。
 飲み込んで、しかし口にしようとして、またやめて。しばらく口を開けたり閉じたりを繰り返したあと、しばしの沈黙があり――ややあって、ユリウスは言葉を発した。

「……そうだ」
「先代女王陛下と、王配殿下の最期についてお聞きしても……?」
「……王配殿下は、誘拐事件の時に負った傷がもとで……居合わせ、君を追いかけようとして攻撃された私をかばって、亡くなられた」

 ユリウスはここでレインを見やった。レインの赤い目と、ユリウスの琥珀色の目、視線が交わる。ユリウスの目は、己の行動を悔いているようだった。

「先代女王陛下は、イリスレインと王配殿下、大切な人をふたり、同時に失ってから心労で伏せられて……」
「儚くなった……と……」
「……」

 レインは胸を押さえた。

「私は、親不孝な子供だったでしょう。父も母も、苦しめた末に死なせてしまうだなんて……」
「――違う!」

 ユリウスは立ちあがった。はずみで馬車が揺れる。

「……ッ」

 ユリウスの両の腕がレインを抱きしめる。服越しの腕は冷たく、震えていた。

「お兄様……」
「違う、レイン。君は何も悪くない。咎を受けるべきは、君を攫った暴漢と、その手引きをした侍女――……そして、無謀にも、暴漢に立ち向かった私だけだ」

 ユリウスがくぐもった声で言う。
 レインを抱きしめて、まるですがるみたいに、祈るみたいにして、レインに君は悪くないんだ、と告げる。

「お兄様だって、悪くありません」
「しかし……」
「王配殿下が亡くなったのは、お兄様のせいではありません」

 レインはきっぱりと言った。

「……きっと、お兄様はそれで、ずっと私への罪悪感がおありだったんですね。それで私を守ろうと……」
「違う。それは、違う」

 ユリウスが顔をあげた。
「私が君を守りたいのは、君を愛しているからだ、レイン。罪悪感からなどではない」

 ユリウスの目がレインを映す。琥珀色の目が今は赤くて、ああ、なんて優しいひとなんだろうか、と思った。自罰的で、責任感が強くて。だからレインを守ることに必死なのだろう、と。
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