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第六章
婚約破棄への序章
しおりを挟むあの、階段からヘンリエッタが落ちた事件のあと、レインはしばらく屋敷で療養することになった。処分を受けたわけではない。ただ、レインが行きたくないと駄々をこねたのだ。
ユリウスに失望されるかと思ったそれは、意外にも簡単に受け入れられた。
ただ、卒業式とそのあとのパーティーだけは参加すると決めた。
ユリウスが作ってくれたドレスとイヤリングを無駄にしたくなかったからだ。ドレスくらいなんでもない、というユリウスに「記念ですから」と笑ったレインに、ユリウスは何か言おうとしていたようだった。
けれど、失望の言葉が吐き出されれば今度こそ起き上がれないと思ったレインが、その言葉を後回しにさせたのだった。
そうして、今日は卒業式当日。なんとか参加した卒業式のあと、歯を食いしばって帰ってきたレインを侍女たちはみな案じたけれど、レインは微笑んでそれを黙殺した。
夜までには元気になるわ、と着付けを頼んだメイドは何度もレインに甘いお菓子をすすめてくれたし、髪を担当するメイドはレインの髪にいい香りの香油を塗ってくれた。
顔を隠す眼鏡と、長い前髪を許してくれた。ユリウスも、何も言わなかった。
体調不良でエスコートできなくなったらしいオリバーの代わりに、レインのエスコートを引き受けてくださったユリウスはとても美しかった。
レインが目の覚めるような深い青色のドレスを着ているのに対し、ユリウスは胸ポケットのスカーフをレインの髪色と同じ、薄青色にしてくれた。サファイアのイヤリングを見て、微笑んでくれる。
それがどれほど嬉しかったのか、きっとユリウスには想像もできないだろう。
そして、思ってもいないのだ。レインが、あさましくも罪深い想いを、ユリウスに抱いているだなんて。
このパーティーが終わったら、レインはユリウスの手を離れ、オリバーに嫁ぐ。
その時が、永遠に来なければいいのに、と思った。
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