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第五章
婚約への後悔2(ユリウス視点)
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「……」
「自分は、未来の王妃の母親になるんだって。ただまあ、それを言ってるのが夫人本人だけなもんで、最近は病院をすすめられてるそうですね」
「そうだな……そのはずだ」
ヘンリエッタの母親は、いつごろからか、社交場に現れては「自分は未来の王妃の外戚だ」などと吹聴することが増えたという。ヘンリエッタの母親――コックス子爵夫人は夫の間に数年前、男の子が生まれているが、まだ手のかかる自分の子供より、愛人の産んだ娘に執心なのは不思議なことだ。また、その子爵夫人は、結婚してすぐは普通の人間だったという。結婚後、足の骨にひびが入る程度のけがをしたらしいが、それだけで人格が変わるほどの衝撃を受けるだろうか。
ますますわからない。
ユリウスは考え込み、ペンを握って新しい紙にさらさらと書き込んだ。
怪我の前後や結婚してから、夫人に近付いたものがいるかもしれない、と思ったのだ。
ユリウスは書き終わったものを折りたたみ、封筒に入れて封をすると、ベンジャミンに手渡した。
「これを、父上に。今は王都の近くにいるらしいから、なるべく早く、渡しておいてくれ。私はレインが攫われたあの日の警備状況について、もう一度記録を探してみるつもりだ」
「承知いたしました。……なあ、本当に、おひいさまの婚約を、そのままにしておいていいのか?」
「そうするしかないだろう。決まった婚約なのだから。……あの日の決断を後悔しても……」
ベンジャミンの気づかわし気な視線に、ユリウスは首を横に振った。
そう、王家からの婚約を許可したのはユリウスだ。それを今さら覆すなど、レインの評判にもかかわる。
ぐっと奥歯を噛んだユリウスに、ベンジャミンが続ける。
「おひいさまがそれで幸せになれるって?」
「結婚後に、幸せにするために、今調査をしているんだ、コックス子爵令嬢を排除して、王家に危険などないように……」
「――見損なったぞ、ユリウス・アンダーサン」
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ますますわからない。
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そう、王家からの婚約を許可したのはユリウスだ。それを今さら覆すなど、レインの評判にもかかわる。
ぐっと奥歯を噛んだユリウスに、ベンジャミンが続ける。
「おひいさまがそれで幸せになれるって?」
「結婚後に、幸せにするために、今調査をしているんだ、コックス子爵令嬢を排除して、王家に危険などないように……」
「――見損なったぞ、ユリウス・アンダーサン」
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