元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

高遠すばる

文字の大きさ
上 下
22 / 67
第四章

昔の話(ユリウス視点)

しおりを挟む

 これはユリウスがまだ七歳のころの話だ。
 ユリウスが、守るべき姫君に出会ったときの話。

 先代の女王がユリウスの一家を城へ呼んだ。王族にのみ入ることが許された私的な庭園。そこには今の国王もいたと思う。少し小雨が降っていたが、先代女王の提案で、傘をさしてで外に出た。

 まだ皺の一つもおない美しい女王は、王配との間に生まれたばかりの一人娘を見せる、という名目で、彼女の弟たちを呼んだのだ。

 この国は長子相続制だ。女王は二人の弟を持つ姉だった。と同時に、そのカリスマ性と、優れた政治の腕によって、民から慕われた、まさしく王と呼べる存在だった。

 そんな彼女が、初めての子供である姫君――イリスレインを抱いたときだけ母の顔になったのを、よく覚えている。

「ほら、ユーリ、ごらん。この子の目にも、私と同じ、王の証である暁の虹が宿っているのよ」
「わあ……」

 暁の虹、とは、王家の人間に受け継がれる特異な虹彩のことだ。普段は赤い色をしているが、陽の光が当たった時だけ虹が浮かぶその不思議な虹彩を、その特徴の通り、暁の虹、と呼んだ。

 王家に出る特徴、とは言っても、全員に出るわけではない。ある王の子全員に出た記録もあれば、三世代わたって一人も現れなかった記録もある。王籍をはずれたものの子孫には現れないことも有名な話だ。その虹彩を宿したものは名君であることが多く、それをもって王家の証、ではなく王の証、と呼んでいる。

 先代女王の目にも、暁の虹が宿っていた。

「かわいい……」
「だろう? 私とあの人の子だからね。世界一かわいいお姫様だよ」

 こわごわと触れた頬は柔らかく、ふくふくと赤くて、まるでリンゴのようだった。
 そしてまつ毛は長く、薄青い髪は柔らかでつやつやしていて、先代女王の言葉通り、ずば抜けてかわいらしい赤子だった。

「きゃうー!」
「わ……!」

 イリスレインは、ユリウスを見ると笑ってその指を掴んだ。
 その力は強いのに、びっくりするほど頼りない、小さな手に、ユリウスはくぎ付けになった。
 ユリウスは、一目ぼれした体の弱い令嬢――ユリウスの母を娶りたいがために、若いうちに臣籍降下した王弟の子だった。愛情をこめて育てられたが、その出自ゆえ、守られてばかりで、同年代の子供も鍛えたベンジャミンくらいで、こんなに愛くるしく、ふわふわの存在がいるのかと驚いた。

 それは、ユリウスが人生で初めて抱いた庇護欲だった。

「僕、この子が幸せになれるよう、絶対に守ります!」
「ふふ、それは頼もしいなあ」

 先代女王はきゃっきゃ、と笑うイリスレインと、そんなイリスレインをいとおしく見つめるユリウスに微笑んだ。ふと顔をあげると、雨が止んでいる。
 空には虹が浮かんでいた。

「雨が上がると、虹が出るだろう? これが見たかったんだ」

 先代女王は笑って言った。虹は王家の証なのだ、と。
 こんな幸せが永遠に続くと、その時のユリウスは疑いもしなかった。

しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙桜可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

紡織師アネモネは、恋する騎士の心に留まれない

当麻月菜
恋愛
人が持つ記憶や、叶えられなかった願いや祈りをそっくりそのまま他人の心に伝えることができる不思議な術を使うアネモネは、一人立ちしてまだ1年とちょっとの新米紡織師。 今回のお仕事は、とある事情でややこしい家庭で生まれ育った侯爵家当主であるアニスに、お祖父様の記憶を届けること。 けれどアニスはそれを拒み、遠路はるばるやって来たアネモネを屋敷から摘み出す始末。 途方に暮れるアネモネだけれど、ひょんなことからアニスの護衛騎士ソレールに拾われ、これまた成り行きで彼の家に居候させてもらうことに。 同じ時間を共有する二人は、ごく自然に惹かれていく。けれど互いに伝えることができない秘密を抱えているせいで、あと一歩が踏み出せなくて……。 これは新米紡織師のアネモネが、お仕事を通してちょっとだけ落ち込んだり、成長したりするお話。 あるいは期間限定の泡沫のような恋のおはなし。 ※小説家になろう様にも、重複投稿しています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間

夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。 卒業パーティーまで、残り時間は24時間!! 果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

処理中です...