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第二章
愛しているだけではいけない(ユリウス視点)
しおりを挟む「おひいさまがタンポポが好きとは、儂は驚きましたぞ。先代女王陛下と同じです」
「ダンは先代女王陛下に仕えていたんだったか」
「ええ。騎士団長になる前から、近衛騎士としてお仕えしておりました。恐れ多いながらも、娘のように思って……あの頃は、儂の人生で最も輝かしい日々でした」
温室の外、東屋にはメイドにお茶を出されて喜んでいるレインが見える。
少し肉がついただろうか。紅色に染まる頬を見るたびに、ユリウスは安心する心地になる。
「タンポポは民のようなものです。雑草としてみる人間には価値がわからない。タンポポだと知っていればただの草ではなくなる」
「人もそうだ。民草のことをひとまとめにして捕らえる為政者がいる一方、彼らを個としてとらえる為政者がいる。……レインは、きっと後者だ」
ダンの言葉尻を掬うように、ユリウスは静かに言った。ダンが頷く。
「僕は、レインはそんな女王になると思っているよ」
「ああ、やっぱり、王家にお返しになるのですか?」
「あそこを安全にしてからだ」
「隣には、ユリウス様が立たれるのですよね?」
「……どうだろう。王家から打診が来ている。公爵家の養女を第一王子の婚約者に、と」
「ああ。今の王家は求心力が弱いですからね。先代女王陛下のカリスマがずば抜けていたばかりに。弟である現国王陛下は気が優しい方ですが、優しすぎるきらいがある。今のうちに、有力貴族であるアンダーサン公爵家とのつながりを作っておきたいんでしょう」
「僕と第一王子、同じ従弟という立場でも、レインの足場を固めるなら……それに、レインに女王という重荷を背負わせないためには、第一王子の方がいいんだ。きっと」
「……そうですか」
ダンは静かに言った。
「おひいさまを愛しているのは、間違いなくユリウス様だとは、思いますがね」
じょうろを片付けながら、ダンが言う。その腰はしゃんと伸びており、腰が曲がった老人とは思えなかった。
「……愛している、だけじゃ幸せにできないんだよ。ダンゼント元騎士団長」
ユリウスのつぶやきは、ダンの後ろにも届かない。
ただむなしく消えていくだけだった。
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