14 / 67
第二章
庭園にて、タンポポを好きと言いました2
しおりを挟む
ユリウスの手がレインの頭を撫でてくれる。レインははにかんで目を細めた。
「そうか、では、この庭園をタンポポでいっぱいにしよう」
「ええっ!? で、でも、公爵家のお庭にはふさわしくないですっ」
「レインが好きかどうかが大切なんだ。私はレインの好きなものをまたひとつ、知ることができてうれしい」
「好き、というか……」
「というか?」
ユリウスは、レインのゆっくりとした言葉を、ひとつひとつ、しっかり聞いてくれる。それが嬉しい。
「男爵家にいたころ、よく森から失敬して食べていたんです。タンポポは葉も花も食べられますし、土を落とせば根もおいしいんですよ」
まあ、おいしいとは言っても、他の草に比べて、ではあるし、公爵家で出される素晴らしい料理に比べては申し訳ないものなのだが。
思い出しながら言葉を紡いだレインは、言ってしまってから、あ、と思った。
公爵家には――レインの今の身分である、公爵家の令嬢、にはふさわしくない話だった。
やってしまった、とうなだれるレインの髪を、ユリウスの指がすく。
「そう、それで……他にはどんなものを食べていたの?」
ユリウスの手が握りしめられている。怒りだろうか。けれど、そこにレインへのものは感じられなかった。ユリウスは、きっと男爵家の人間に怒っている。
ふと、気になることがあって、レインは尋ねた。
「……引かないんですか」
「レインのことで嫌だと思うことはないよ。むしろ、レインの言葉を、レインの口から、もっと聞きたい」
「……ありがとうございます」
タンベット男爵家では、レインのことを聞くだけでもわずらわしいと言われていたのだ。
だから、レインにはユリウスの態度は新鮮で、心臓をなんだかあたたかくさせるものだった。
「……あれは?」
ふっと、花壇に咲いた大きな花が気になって声をあげた。ユリウスが、レインの隣で足を止める。
「あれ……ああ、ダリアか。これはダリアという花だよ」
「だりあ。こんなにすごいお花、見たことないです。……花びらがいっぱいのところが、タンポポみたい。……もし、もし増やすなら、このお花がいいです。タンポポに似てるし、公爵家には、きっと……」
「好きなものを植えていいと言ったのに。でも、そうか。レインは僕らのことを考えてくれるんだね……」
ユリウスは少し考えていった。
「公爵家の庭師は腕がいい。庭師のダンに言えば、きっと、ダリアも、タンポポも、綺麗に植えてくれる。この庭を管理している彼は、腕がいいんだ」
「……一緒に言ってくれますか?」
「もちろん」
レインがおずおずと尋ねると、ユリウスはにこりと笑って返してくれる。
その顔があんまりやさしくて、レインはそっと胸を押さえた。どきどきする、と思った。
「そうか、では、この庭園をタンポポでいっぱいにしよう」
「ええっ!? で、でも、公爵家のお庭にはふさわしくないですっ」
「レインが好きかどうかが大切なんだ。私はレインの好きなものをまたひとつ、知ることができてうれしい」
「好き、というか……」
「というか?」
ユリウスは、レインのゆっくりとした言葉を、ひとつひとつ、しっかり聞いてくれる。それが嬉しい。
「男爵家にいたころ、よく森から失敬して食べていたんです。タンポポは葉も花も食べられますし、土を落とせば根もおいしいんですよ」
まあ、おいしいとは言っても、他の草に比べて、ではあるし、公爵家で出される素晴らしい料理に比べては申し訳ないものなのだが。
思い出しながら言葉を紡いだレインは、言ってしまってから、あ、と思った。
公爵家には――レインの今の身分である、公爵家の令嬢、にはふさわしくない話だった。
やってしまった、とうなだれるレインの髪を、ユリウスの指がすく。
「そう、それで……他にはどんなものを食べていたの?」
ユリウスの手が握りしめられている。怒りだろうか。けれど、そこにレインへのものは感じられなかった。ユリウスは、きっと男爵家の人間に怒っている。
ふと、気になることがあって、レインは尋ねた。
「……引かないんですか」
「レインのことで嫌だと思うことはないよ。むしろ、レインの言葉を、レインの口から、もっと聞きたい」
「……ありがとうございます」
タンベット男爵家では、レインのことを聞くだけでもわずらわしいと言われていたのだ。
だから、レインにはユリウスの態度は新鮮で、心臓をなんだかあたたかくさせるものだった。
「……あれは?」
ふっと、花壇に咲いた大きな花が気になって声をあげた。ユリウスが、レインの隣で足を止める。
「あれ……ああ、ダリアか。これはダリアという花だよ」
「だりあ。こんなにすごいお花、見たことないです。……花びらがいっぱいのところが、タンポポみたい。……もし、もし増やすなら、このお花がいいです。タンポポに似てるし、公爵家には、きっと……」
「好きなものを植えていいと言ったのに。でも、そうか。レインは僕らのことを考えてくれるんだね……」
ユリウスは少し考えていった。
「公爵家の庭師は腕がいい。庭師のダンに言えば、きっと、ダリアも、タンポポも、綺麗に植えてくれる。この庭を管理している彼は、腕がいいんだ」
「……一緒に言ってくれますか?」
「もちろん」
レインがおずおずと尋ねると、ユリウスはにこりと笑って返してくれる。
その顔があんまりやさしくて、レインはそっと胸を押さえた。どきどきする、と思った。
13
お気に入りに追加
1,943
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました
宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。
しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。
断罪まであと一年と少し。
だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。
と意気込んだはいいけど
あれ?
婚約者様の様子がおかしいのだけど…
※ 4/26
内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる