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第一章
奴隷だったお姫様
しおりを挟む「旦那様」
家令が主人であるアンダーサン公爵の執務室へやってきた。
父のもとで勉強しているユリウスに気付いて、深く礼をする家令は、アンダーサン公爵が促すと、沈痛な表情で話し始めた。
「お嬢様の健康状態ですが、肺炎はほぼ完治しつつあります。打撲による骨折はもう少し……」
「そうか、快方には向かっているのだな」
「はい。……旦那様、いったいあのお嬢様は何をされていたのですか。よほど強い怨恨がなければあのようにはされますまい、人のする所業とは思えません、まだお小さいお嬢様をあれほど痛めつける理由とは……」
家令は、レインの遠慮がちうに浮かべる笑顔を思い出したのか、ぐっと辛そうに眉をひそめた。
「八年前、女王陛下が亡くなっただろう」
「はい。たったひとりの幼い姫様を亡くされて、心労がたたって亡くなったとお聞きしております」
「姫君は、亡くなったのではない、誘拐されたのだ」
アンダーサン公爵が厳しい顔で言う。ユリウスは手を握りしめた。八年前のあの日、誘拐犯の手により、ユリウスの手のひらからすり抜けていった、小さい、愛しいだけの少女を思い出して。
「まさか……」
家令ははっと息を呑む。
アンダーサン公爵が頷き、それですべてを察したのだろう。胸を押さえ、驚いたように目を見開いている。
「……レインの目は、赤い。けれど日の光が当たると、虹が浮かぶように七種類の色を浮かべるんだ」
ユリウスは小さく、声を潜めるように言った。この家令は、ユリウスが生まれる前から務めている、忠義にあつい男だった。
「王家の……暁の虹……!」
家令は驚き、アンダーサン公爵が頷いた。
それに家令は涙ぐんで、何度も、何度も首肯している。
「姫君は、本当に、まことの姫君でいらしたのですね……」
「大切にしてあげてほしい。ユリウスのいとこであり、先代女王の唯一の姫君であるイリスレイン王女の存在を、まだ公開することはできない。タンベット男爵は実行犯だが、それを操っていたものがいるはずなのだからね……」
そこで、アンダーサン公爵はユリウスに向き直った。
「わかったな?だから、彼女を必ず守るんだ」
「当然です――命に代えても」
ユリウスは静かに頭を下げた。言われずとも、レインは必ず守る。ユリウスの愛する、何より大切な存在なのだから。
「そろそろ行きます。レインの勉強が終わる時間なので」
「ああ、行ってきなさい」
アンダーサン公爵が執務へ戻る。すれ違った家令に見送られ、ユリウスはこの頃レインが見せてくれるようになった、ほのかな、はにかむような笑みを思い出し、ゆるりとまなざしを緩めたのだった。
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