乙女ゲームのヒロインに転生したけど恋の相手は悪役でした!?

高遠すばる

文字の大きさ
上 下
27 / 40
ガーデンパーティー編

彼女の前でしか笑えない

しおりを挟む
 クロエ・アーデルハイトはご満悦だった。
 というのも、親友であるリーゼロッテがクロヴィスと話す機会を得た、上に、よりが戻ってきているからだ。まあ、戻ってきているもなにも、喧嘩別れというわけではないのだが。

 クロヴィスによろしくと頼まれた。そう、リーゼロッテに話したことは正しくはあるが全てではない。
 正確には、クロエがリーゼロッテと仲良くなったあたりで、クロヴィスに釘を刺されたのだ。くれぐれもリーゼロッテを守れ、くれぐれもよろしく、と。それで、クロエはリーゼロッテを取り巻く環境が、ただ平穏なものではないと理解したのだ。
 リーゼロッテの表情が抜け落ちているのを、簡単に納得できたのもそれが理由である。

 公爵令息の突然の来訪に、クロエの一家は心臓が飛び出る思いだった。
 菓子折りは美味しかったのでゆるしたが、正直なところ、クロヴィスはリーゼロッテのストーカーではないかと思うくらいだった。
 そのくらい、あの時のクロヴィスは真剣だったし、鬼気迫っていた。

「ティーゼ先輩が笑ってらっしゃるわ!」
「嘘でしょう?氷の王太子にも勝る冷たい美貌の方でしたのに……」

 そんな声を聞いて、クロエは振り返った。
 趣味の悪い、けばけばしいドレスに化粧をした令嬢たちは、たしかクロヴィスのファンだ。婚約者のいないクロヴィスを狙っていると聞いたこともある。
 婚約者のいない令嬢たちに大人気の生徒会の三本柱、生徒会長アルブレヒト王太子と、副会長の公爵令息ヴィルヘルム、書記のクロヴィスが中心になってまとめあげたこのパーティーは、なるほどたしかにとてもしつらえがいいが、やはり手が回らないところもあるのだろう。
 参加者の服装の質はそこまででもないようだ。
 お金をかければ良いというものではないのである。
 クロエは、自分がコーディネートしたリーゼロッテを思い返してうふふと笑った。

 綺麗で可愛いリーゼロッテ。優しくて、強い、そしてその強さの下に弱さを隠した、クロエの大事な友達は、ひそかな人気のご令嬢だ。
 だからこそ、もうすでにクロヴィスに外堀を埋められていてもおかしくはない。
 そのくらいクロヴィスの愛は重い。
 リーゼロッテもクロヴィスを好きだからまあ、まあ、だが、それはそれとして、リーゼロッテの周囲を片っ端から牽制していくあの独占欲はちょっと引くレベルだ。

 ーーそれを知らないんだろうなあ。

 なおもクロヴィスの笑顔にはしゃぐ令嬢たちを見やってクロエは遠い目をした。
 クロヴィスが笑うのは、リーゼロッテのことに関してだけなんだよ。なんて、思うなどする。

「ちょっと、相手の子、あの転入生じゃない?」
「たしか……ティーゼ家の養子の……」
「ぐ……美人だからって……」

 ローストビーフの列に並んだクロエは、その声の主を見られない。けれど、やはり他から見てもリーゼロッテは可愛いのだなあ、なんて思った。
 あんなにかわいいから、クロエはリーゼロッテの侍女になりたいと思ってもいいはずだった。
 ただ、それは何か違うとも思った。
 

 リーゼロッテは、なにかと手を差し出す。
 握って欲しいんだろうかと思って握手を返すと、驚いたようにその手が震える、不思議な子だった。
 ああ、そっか。クロエは、リーゼロッテと手を繋ぎたかったから、友達になったのだった。


 順番が回ってくる。ベリーのソースのかかった美味しそうなローストビーフを取り皿にとって、近くのサラダを盛り付ける。なかなかに見栄えが良くできた。

 きっと喜んでもらえる、そう思って、席に帰る。
 そこで、リーゼロッテは照れて逃げ出してしまったとのたまったクロヴィスに白い目を向けてあきれ返り、どうしてそこで押さないんですかと叱り飛ばしーー。
 すん、と冷たい顔を崩さないクロヴィスが、たしかに……と反省してみせたのに、おや、と片眉をあげてみたりして。
 その時は、クロエはこのまま全てがうまくいくような気がしていた。


 リーゼロッテが帰ってこない。それに気づいた時は、何もかもが遅かった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...