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出会い編
悪役ってこんなにかわいいの!?
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「僕の名前は、クロヴィス。クロヴィス・ティーゼ……」
自信なさげに俯いて自己紹介するクロヴィスという少年のことを、リーゼロッテはよく知っていた。
ぱちん!と頭で何かがはじけ、思い出すのは中肉中背、黒髪の女が小さな画面でプレイしていた乙女ゲームというもの。
「仔犬の学園」とシンプルなタイトルだったそのソフトは、特に攻撃的なライバルなどもおらず、学園生活を送る過程で攻略対象と恋に落ち、そのままエンディングを迎えるゲームだ。
ーーと思いきや、その瞬間、通称裏面と呼ばれた第2章ルートに突入する。そして、元孤児のヒロインが攻略対象と協力して、国の乗っ取りを画策する悪役を打ち負かすのが真エンドだ。
その悪役こそ、このクロヴィス・ティーゼ。
犬を信奉するこの国で、犬を嫌い、全方面への劣等感ゆえに国を乗っ取ろうとした人間だ。
……ったはずなのだが、今目の前にいるクロヴィスは、とてもそんなことをするようには見えなかった。
そりゃあ、小さい頃から悪人とは限らないわけで!わかってるわかってる!
などとひとりごち、そうだ!とリーゼロッテはクロヴィスに向けて手を差し出した。
名案を思いついた。
「クロヴィス、私はリーゼロッテ!これから私とあなた、友達になりましょう!」
「友達……?」
「そう!ずっと一緒にいるの、互いを大事にするの。それが友達」
「一緒……」
ずっとぴったりと一緒にいれば、クロヴィスが道を踏み外すこともない!そんな浅はかな気持ちでクロヴィスに友達になろうと言ったリーゼロッテは、クロヴィスの目に一瞬よぎったなにかに気づかなかった。
それはきっと、執着とか、そういう、なにか重たい物の種だったのだけれど、リーゼロッテはこの先しばらくそれに気づくことができない。
義父になる予定だった人は、ティーゼ侯爵と名乗り、がははと豪快に笑った。
ダンディな紳士だと思ったけれど、こうしてみるとちょっと熊に似ている。
「友達、友達か。それじゃあ、娘じゃなくて、もっと違う形でうちに来てもらおうかな」
ティーゼ侯爵は、そう言ってリーゼロッテの頭をポンポンと撫でた。
父親がいたら、こんな感じだったのかもしれない。
なんて思ったリーゼロッテは、その手にどこか懐かしさのようなものを感じて微笑んだ。
その様子を見るなり、なぜか焦った様子のクロヴィスが、リーゼロッテの手を両手で包み込む。ぎゅっと力のこもった手を見て、リーゼロッテはなんだかクロヴィスが可愛くなってしまった。
「そんなに掴まなくても、これからずぅっとずうっと一緒なんだから、大丈夫よ」
「あ、うん、えっと、でも」
かあっと頬を染めたクロヴィスは、リーゼロッテの顔をちらちらと見ながら手にますます力を込めた。
ちょっと痛いかも?なんて思ったけれど、可愛いクロヴィスがしたことだから、と、それすらなんだかいとしくなって、リーゼロッテは白い歯を見せて笑った。
その笑顔をぽうっと見ていたクロヴィスが、やがて嬉しそうに、うん、と微笑む。
瞬間、リーゼロッテの庇護欲が爆発した。
ーーわたしがあなたを守ってあげる。
リーゼロッテは、掴まれていない、空いた片手で包み込むようにして、クロヴィスの体を抱きしめた。
この選択が、どのように転ぶのか、そのころまだまたま幼かったリーゼロッテには、選択の結果を想像することはできなかった。
自信なさげに俯いて自己紹介するクロヴィスという少年のことを、リーゼロッテはよく知っていた。
ぱちん!と頭で何かがはじけ、思い出すのは中肉中背、黒髪の女が小さな画面でプレイしていた乙女ゲームというもの。
「仔犬の学園」とシンプルなタイトルだったそのソフトは、特に攻撃的なライバルなどもおらず、学園生活を送る過程で攻略対象と恋に落ち、そのままエンディングを迎えるゲームだ。
ーーと思いきや、その瞬間、通称裏面と呼ばれた第2章ルートに突入する。そして、元孤児のヒロインが攻略対象と協力して、国の乗っ取りを画策する悪役を打ち負かすのが真エンドだ。
その悪役こそ、このクロヴィス・ティーゼ。
犬を信奉するこの国で、犬を嫌い、全方面への劣等感ゆえに国を乗っ取ろうとした人間だ。
……ったはずなのだが、今目の前にいるクロヴィスは、とてもそんなことをするようには見えなかった。
そりゃあ、小さい頃から悪人とは限らないわけで!わかってるわかってる!
などとひとりごち、そうだ!とリーゼロッテはクロヴィスに向けて手を差し出した。
名案を思いついた。
「クロヴィス、私はリーゼロッテ!これから私とあなた、友達になりましょう!」
「友達……?」
「そう!ずっと一緒にいるの、互いを大事にするの。それが友達」
「一緒……」
ずっとぴったりと一緒にいれば、クロヴィスが道を踏み外すこともない!そんな浅はかな気持ちでクロヴィスに友達になろうと言ったリーゼロッテは、クロヴィスの目に一瞬よぎったなにかに気づかなかった。
それはきっと、執着とか、そういう、なにか重たい物の種だったのだけれど、リーゼロッテはこの先しばらくそれに気づくことができない。
義父になる予定だった人は、ティーゼ侯爵と名乗り、がははと豪快に笑った。
ダンディな紳士だと思ったけれど、こうしてみるとちょっと熊に似ている。
「友達、友達か。それじゃあ、娘じゃなくて、もっと違う形でうちに来てもらおうかな」
ティーゼ侯爵は、そう言ってリーゼロッテの頭をポンポンと撫でた。
父親がいたら、こんな感じだったのかもしれない。
なんて思ったリーゼロッテは、その手にどこか懐かしさのようなものを感じて微笑んだ。
その様子を見るなり、なぜか焦った様子のクロヴィスが、リーゼロッテの手を両手で包み込む。ぎゅっと力のこもった手を見て、リーゼロッテはなんだかクロヴィスが可愛くなってしまった。
「そんなに掴まなくても、これからずぅっとずうっと一緒なんだから、大丈夫よ」
「あ、うん、えっと、でも」
かあっと頬を染めたクロヴィスは、リーゼロッテの顔をちらちらと見ながら手にますます力を込めた。
ちょっと痛いかも?なんて思ったけれど、可愛いクロヴィスがしたことだから、と、それすらなんだかいとしくなって、リーゼロッテは白い歯を見せて笑った。
その笑顔をぽうっと見ていたクロヴィスが、やがて嬉しそうに、うん、と微笑む。
瞬間、リーゼロッテの庇護欲が爆発した。
ーーわたしがあなたを守ってあげる。
リーゼロッテは、掴まれていない、空いた片手で包み込むようにして、クロヴィスの体を抱きしめた。
この選択が、どのように転ぶのか、そのころまだまたま幼かったリーゼロッテには、選択の結果を想像することはできなかった。
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