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夏の日に少年に恋をしたシーグラスのお話

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 「わたし」が生まれたのは、あなたに見つめられたから。榛色をした何気ない視線がわたしを射抜いたその瞬間に、わたしはこの眼を開き、心臓を動かした。

「わあ!きれい!宝石だよ!おかあさん!」

 波打ち際で、わたしを拾い上げ、あなたはわたしをやさしく撫でた。

「危ないよ、ーーーくん、手を切っちゃうわ」
 
 大きなひとが、あなたの手を引いた。あなたの手を、わたしはその時「見」た。
 柔らかな色、あれは血の色。わたしも触れたかった。だから、神様にお願いをしたのだ。

 ーーおねがいします、かみさま。
 ーーあのひとに会いたい。
 ーー手に触れたい。

 どれだけ願ったのだろう。いつかわたしは擦り切れて、粉々の粒子になって、海を漂い、上昇気流に乗って積乱雲とダンスして、あなたの元にたどり着いた。

「ああーーああ……」
 
 あなただ!あなただ!あなただ!
 忘れもしない、その眼差し、わたしはようやくあなたに触れられる。
 かみさまは、まばたきひとつ分の間だけの魔法を下さった。
 溶けてしまいそうな手を伸ばす。それだけでもう、涙が溢れてしまいそうだった。

「きみは……」

 しわがれた声がしいんと響く。伸ばした手があなたのすっかり冷えた手を包み込んだ、その瞬間に、あなたが言った。

「……宝石みたいじゃのう…ああ、きれいじゃ、きれいじゃ」

 わたしはまばたきをした。ぽたりと何か硬いものが、わたしのほおをつたい落ちる。
 
 ーーそのまばたきの一瞬が、わたしにとって、この世の中でなにより尊い宝石だった。

「おじいちゃん、どうしたの……えっ、この磨りガラス、なに?」
「わしのなあ、はつこいの宝石じゃ…」

 夢見るような目をした老人は、幼いあの日に見つけた海辺のガラスを弱々しい力で握りしめ、その榛色の目から、一筋の涙を流した。
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