アルファの私がアルファの皇太子に溺愛執着されていますっ!

高遠すばる

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断罪(フェリクス視点)

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「くそ、どうして俺がこんな目に合わないといけないんだ……ッ!」
 舞踏会も終わり、招待客も帰った。
 別室で手首を拘束されて、衛兵に囲まれ、それでも不機嫌さを隠す様子もないフレッドが悪態をつく。
 それはその場にやってきたフェリクスに対しても同じだった。
「フレッド・オーク。お前の処遇は、皇太子であり、アンリエッタ・アリウム侯爵令嬢の婚約者である僕に一任された。申し開きがあるなら聞こう」
「は、そんなものあるわけないでしょう。それに、皇太子妃ならまだしもただの婚約者をああ言っただけで重罪になるはずがない。あのあばずれ……いけしゃあしゃあとごまかしやがって……」
 フレッドは目をぎらつかせ、フェリクスに挑発的なまなざしを向ける。
 しかし、すぐにフェリクスが顔色ひとつ変えないのを不思議に思ったのか、その顔にいぶかし気な表情を浮かべた。
「……皇太子殿下も薄情ですね。婚約者のことをこう言われて、それに言い返すこともしない」
「……」
 フェリクスはひとつ息をした。深く吸って、吐き、フレッドを睥睨する。
「アンリエッタへの侮辱だけでは足りないというんだな。ならば、罪をひとつ、増やしてやろう。……この顔に、見覚えがあるな?」
 フェリクスが視線で促すと、衛兵たちによって守られるようにして男がひとり、連れてこられた。
 痩せてはいるが足取りはしっかりしている。その顔に、フレッドは目を見開いた。
「お、お前は……」
「証言してくれるか?」
「はい」
 フェリクスに言われ、連れてこられた男が、フレッドを恐ろしいものを見るような目で見て、口を開いた。
「私はここにいるフレッド・オークとその父親であるルドルフ・オークに騙され、財産を奪われた後、奴隷として売られました」
「ほかに売られたものは?」
「娘と……妻が……。ほかにも大勢……。私と同じように、この父子に陥れられた者たちです」
 フレッドはぎらついた目で男をにらみつけている。それをかばうように立ち、フェリクスは言葉を返す。
「あなたの妻子は先ほど保護したと伝達が来た。二人とも無事だそうだ。ほかの者に関しても、できるかぎり早く助ける」
「ああ……なんと……!ありがとうございます、皇太子殿下……」
 男――商人は、フェリクスに感謝を述べてあがめるようにうずくまり、顔を覆って涙を流した。
 その背をさすってやりながら、フェリクスはフレッドに向き直る。
「ほかにも証人は大勢いる。それに、舞踏会の間にオーク商会から押収した帳簿には、人身売買の証拠があった。……お前の父親、ルドルフ・オークもすでに牢の中だ。白を切るならそこで聞こう。ひとつひとつ、つまびらかにすればいい」
 フェリクスはそう言って、衛兵に目配せをする。
 心得たように部屋を出ていく衛兵たちと商人に、なぜ、と目を白黒させたフレッドは、しかし監視の目が消えたとわかると、瞬間、フェリクスに襲い掛かった。
 ――が。
「なんで……なんで当たらねえ!」
 フレッドの手に付けられた枷ごと振り上げられたこぶしは、フェリクスの張った障壁によってすべてはじかれる。
 微動だにせずそれを成したフェリクスに逆上したフレッドがさらに殴りかかろうとするも、フェリクスはその手をぱし、と音を立てて掴み、フレッドを放り投げるように、その場に引き倒した。
「ぐう……っ!!」
 フレッドが背中を床へとしたたかに打ち付け、うめき声をあげる。
 フレッドは、上から自分を見下ろすフェリクスをにらみつけ――フェリクスの静かな怒りに満ち満ちた目を見た瞬間、言葉をうしない、目を見開いた。
 歯をがちがちと鳴らし、震えだすフレッドに、フェリクスは静かに歩みよった。
 先ほど腹を煮えたぎらせた怒りがまだ残っている――フェリクスは、冷徹なまなざしをフレッドに向けたまま、口を開いた。
「僕を薄情だと言ったな」
 フェリクスの目が青く、激情にかられて炯々と輝く。
「婚約者を侮辱されたくらいで――?ああ、そうだ。侮辱したな、お前、アンリエッタを」
 フェリクスはフレッドに触れてもいない。それなのに、フレッドの震えはひどくなるばかりだ。
「人払いをしていてよかった。これを、この場で言うことになるのだから」
 フェリクスはまた一歩。フレッドとの距離を詰めた。
「アンリエッタと二人になったと言ったな。それで彼女を追い詰めようとしたのだろうが。それにかかわった令嬢たちはもう拘束している。そして、こちらにはアンリエッタを慕う協力者がいる」
 エルナ・マロウ――アンリエッタの居場所を教えてくれた使用人だ。彼女がアンリエッタの不利になることをすることはないだろう。
 フェリクスは、フレッドの耳元に顔を近づけ、囁くように言った。
「もう一度でも、その口からアンリエッタの名を出してみろ。僕はお前を死よりつらい目に合わせる用意がある」
「ひ……」
 フレッドの股間から、じゅわ、と黄色いものが漏れだす。
 異臭を放つそれを冷たく見下ろして、フェリクスはもういい、と部屋の外に待機させていた衛兵を呼ぶために踵を返す。
 その背を追うように、小さく、震えた声が落とされた。
「こんなふうになったのは、うまくいかなかったのは……俺が、ベータだからか……だから、全部……」
「ベータだから、ではない」
 フェリクスは、振り返らず答えた。
「お前だから――第二性にこだわって、他者を傷つけたお前だから、行きつくところまで行ってしまった、お前だから、こうなった。それだけだ。フレッド・オーク」
 扉が開く。中から入ってきた衛兵たちに頷いて、フェリクスは部屋を出た。
 よどんだ空気の中、すすり泣くような声が、フェリクスの背後に響いていた。

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