アルファの私がアルファの皇太子に溺愛執着されていますっ!

高遠すばる

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舞踏会の終わり3

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「な……」
「疑いは晴らさねばなりません。あのドレスをここへ」
 アンリエッタの声に、ヘレンが数人のメイドを連れて、青いシルクのドレスを持ってきた。
 先ほどヘレンによって汚れを取り除かれたドレスはきらめくような美しさを保っている。
「い……インチキだ!そうだ、同じドレスがあるんだろう!」
「これほどの高価なドレスを二つも作る意味は?国庫の金でそんな無駄なことはしない」
 フェリクスがアンリエッタをかばうように立つ。誰の目にもフレッドは劣勢だった。
「アンリエッタの名誉を傷つけることは許さない。発言を撤回してもらおう」
「……ぐ、ぅ」
 悔し気なその様子に、誰かが口を開いた。
「やっぱり嘘だったのね。まあ、そうよね。先日の花祭りでも、フェリクス様とアンリエッタ様は睦まじい様子でしたし」
「新聞にもなっていましたね」
「ああ、あの?」
 若い娘たちが中心になって、花祭りの話題を出す。フェリクスとアンリエッタを称賛する声――それに、会場の空気が塗り替えられていく。
 フレッドが目を血走らせてアンリエッタをにらむ。
「ぐ、ぐぅ……、うわああああっ!」
 フレッドの手がアンリエッタへと向けられる。その手から火の玉が現れ、アンリエッタへと放たれた――瞬間。
 フェリクスの手が、空気を切り裂くように振り払われた。
 フレッドの放った魔法が掻き消え、その場にはただぬるい空気が漂うだけ。
 フェリクスは、アンリエッタを腕に抱き、守るように抱きしめたあと、フレッドへと向き直った。
「お前は――今――アンリエッタに――何をした?」
 フェリクスが、見開いた目にフレッドを映す。あふれるばかりの怒気に気おされたのか、フレッドが一歩、二歩と下がる。フェリクスは一歩も動いていないのに。
「は……?」
「捕らえろ」
 静かな声でフェリクスが言う。どこからともなく現れた衛兵が、フェリクスの命令でフレッドを捕縛する。
「くそっ離せ!なんで俺がこんな目に……」
 フレッドがそんなことを言い募るが、フレッドに同意するものはいなかった。フレッドが、アンリエッタに攻撃しようとしたのは誰の目にも明らかだったからだ。
 突然のことに、招待客は押し黙っている。当たり前だ。めでたい席でこんなことが起きたのだから。連行されていくフレッドの姿が見えなくなっても、ざわめきは収まらない。
 アンリエッタは、なるべく穏やかに見えるように微笑んで、ゆったりとした動きでひとつ、礼を取った。
「皇帝陛下、皇妃殿下、そして招待客の皆様、お騒がせしてしまい、申し訳ありません」
「かまわない。愛するひとが侮辱されては皇太子も止まれなかっただろう。みなにはすまないことをしたが……」
「もしよろしければ、お詫びと、余興に、一曲歌わせてはいただけませんか?」
 アンリエッタは目を細める。アンリエッタの言葉に、皇帝ははたと目を丸くした。けれど、すぐに皇妃と向き合って笑うと「いいだろう。よろしく頼む」とアンリエッタを優しい目で見返した。
「アンリエッタ」
 フェリクスも驚いたような顔をして、だからアンリエッタはふふ、と笑った。
「おお、フリージアの歌姫の歌だって?」
「花祭りでも優勝していたのを見たわ!」
「それが聴けるなんて……!」
 めいめいに興奮の声をあげる招待客たちに、アンリエッタは微笑みを返す。背筋を伸ばして、息を吸って。そうして、アンリエッタは歌い始めた。
 のびやかな声が響く。清廉なアカペラに、その場の人間は聞きほれる。その歌に、フェリクスが目を瞬く。アンリエッタを見つめるフェリクスに、アンリエッタは視線を返した。
 ――そう、覚えている?フェリクス。
 あなたがくれた歌、あなたが最初に私にくれたもの。いつだって私に勇気をくれる、私のはじまりの宝物。
 その歌は、一瞬、調子っぱずれにもきこえる歌だった。けれど、それはアンリエッタの歌に込められた心によって、心に響く不思議な旋律へと変化を遂げる。
 上下に揺れ動く音は、まるで妖精のダンスを思わせて、長く不規則なビブラートは鳥の羽ばたきのようだった。
 短い歌は、すぐに終わる。けれど、聞き入った招待客たちは最初、その歌が終わってもだれも何も話さなかった。
 アンリエッタが息を吐いて、最後にたおやかに一礼をする。そこではっと我に返ったように、招待客たちが拍手をする。ホールが割れんばかりの万雷の拍手に包まれて、アンリエッタは笑った。フェリクスが、感極まったようにアンリエッタを抱きしめるから、拍手は大きくなるばかりだ。
 舞踏会は、こうして幕を閉じた。全員の心に、あふれるほどの感動を残して。

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