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舞踏会の終わり2
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ひとつ時間がたつごとに、フェリクスの好きなところが増えていく。これが、恋をするということなんだわ、と、アンリエッタははにかんだ。
最後に髪を優雅なシニヨンに結い上げてもらい、そこにもダイヤの髪飾りをつける。フリージアの花をかたどった髪飾りは、アンリエッタの銀髪に映えて美しい。
アンリエッタは立ち上がり、フェリクスのもとへ歩み寄った。
「どうかしら?」
「……ァ……きれいだ……アンリエッタ……」
くるりと回るアンリエッタに顔を赤くしてそう言うフェリクスは、まぶしいものを見るかのようにアンリエッタを見て目を細めた。
しばしそうして、顔を見合わせて。さし出された手に自分のそれを重ねると、フェリクスが力強く握ってくれる。
「アンリエッタ」
「ん……」
そんなことを思っていたからか、隙があったのか。
かすめるようなキスをされて、アンリエッタは顔を赤らめる。ふいに、フェリクスが言った。「アンリエッタ、何度だって言うよ。僕は君を愛している」
「私も愛しているわ、フェリクス」
「ああ――……」
フェリクスは、かみしめるように目を閉じた。ややあって、その空色の目にアンリエッタのアメジストを映して口を開く。
「フレッド・オークはあの部屋から逃げていた。まだ何かしてくる可能性が高い。……僕と一緒に、戦ってくれるかい?」
「――ええ!」
アンリエッタはその目をまっすぐに見返して答えた。
その反応に、フェリクスは満足げに頷いてアンリエッタの手を引いた。
頼ってもらえることが、こんなにうれしい。隣に立てているのだと実感した。いつかの日に、アンリエッタがフェリクスを支えたいと願った夢がかなったようだった。
扉が開く。拍手とともに迎えられ、アンリエッタはその顔に完璧な笑顔を浮かべる。
そんなアンリエッタの美しさに、会場の招待客たちからため息が漏れる。遠目に、ユーグとクラリスが拍手をしてくれているのが見えた。クラリスの顔は少し青ざめているが、この場から離れる気はないらしかった。それに、勇気をもらえた気がする。
「皆様、お待たせして申し訳ありません。皆様を驚かせようと、慣れないサプライズを計画してしまいましたの。それでは引き続き、今夜をお楽しみください」
優美に一礼するアンリエッタに、招待客たちがなるほど、そうだったのか、とめいめいに頷く。これでうまくまとまりそうだ、そう思ったときだった。
「こんなのは茶番だ!」
がなるような声が会場に響く。アンリエッタがその声のしたほうを見ると、ふう、ふう、と息を荒げた青年――フレッド・オークがアンリエッタと、その隣にいるフェリクスをにらみつけていた。
ざわめく招待客たちに、フレッドはその顔をにたりと歪め、笑みを浮かべる。
自分の優位を疑わぬ――そして、アンリエッタたちを破滅させようとしている笑みだった。
「アンリエッタはさっき俺といたんだ。二人っきりでな。皇太子の婚約者は不貞を働いている、ということだ」
フレッドの言葉を信じた視線がアンリエッタに突き刺さる。アンリエッタはすっと背筋をただした。
「不貞などしておりません」
「なら、さっきのドレスを見せてもらおうか。本当に着替えただけなら汚れてなんかいないはずだ。あの部屋は埃っぽかったからなあ」
埃っぽかった、というフレッドの言葉に、視線の種類がふたつに分かれる。
ひとつはアンリエッタを変わらず疑う視線――そして、もうひとつはアンリエッタを労わるような視線だった。
埃だらけの部屋にアンリエッタが自分から行くわけがない。つまり、フレッドの言っていることが本当だとして、それはフレッドが無理矢理にアンリエッタをそうした、ということに他ならない。
それを疑ってフレッドに視線を向ける人々の目は厳しい。
けれど、もう捨て鉢になっているのか、フレッドは自分ごとアンリエッタを破滅させんと口から唾を飛ばして叫ぶように言った。
「さあ、見せてみろよ……ッ」
「フレッド……!」
遠くで、フレッドの父親が青ざめた顔をしている。おそらく、ここでアンリエッタを言及しようとすることは、フレッドの独断なのだろう。
ならば、何を恐れることがあるだろう。フレッドの手口はもうよくわかっている。
アンリエッタはその唇に笑みをはいて「よろしいでしょう」と口にした。
最後に髪を優雅なシニヨンに結い上げてもらい、そこにもダイヤの髪飾りをつける。フリージアの花をかたどった髪飾りは、アンリエッタの銀髪に映えて美しい。
アンリエッタは立ち上がり、フェリクスのもとへ歩み寄った。
「どうかしら?」
「……ァ……きれいだ……アンリエッタ……」
くるりと回るアンリエッタに顔を赤くしてそう言うフェリクスは、まぶしいものを見るかのようにアンリエッタを見て目を細めた。
しばしそうして、顔を見合わせて。さし出された手に自分のそれを重ねると、フェリクスが力強く握ってくれる。
「アンリエッタ」
「ん……」
そんなことを思っていたからか、隙があったのか。
かすめるようなキスをされて、アンリエッタは顔を赤らめる。ふいに、フェリクスが言った。「アンリエッタ、何度だって言うよ。僕は君を愛している」
「私も愛しているわ、フェリクス」
「ああ――……」
フェリクスは、かみしめるように目を閉じた。ややあって、その空色の目にアンリエッタのアメジストを映して口を開く。
「フレッド・オークはあの部屋から逃げていた。まだ何かしてくる可能性が高い。……僕と一緒に、戦ってくれるかい?」
「――ええ!」
アンリエッタはその目をまっすぐに見返して答えた。
その反応に、フェリクスは満足げに頷いてアンリエッタの手を引いた。
頼ってもらえることが、こんなにうれしい。隣に立てているのだと実感した。いつかの日に、アンリエッタがフェリクスを支えたいと願った夢がかなったようだった。
扉が開く。拍手とともに迎えられ、アンリエッタはその顔に完璧な笑顔を浮かべる。
そんなアンリエッタの美しさに、会場の招待客たちからため息が漏れる。遠目に、ユーグとクラリスが拍手をしてくれているのが見えた。クラリスの顔は少し青ざめているが、この場から離れる気はないらしかった。それに、勇気をもらえた気がする。
「皆様、お待たせして申し訳ありません。皆様を驚かせようと、慣れないサプライズを計画してしまいましたの。それでは引き続き、今夜をお楽しみください」
優美に一礼するアンリエッタに、招待客たちがなるほど、そうだったのか、とめいめいに頷く。これでうまくまとまりそうだ、そう思ったときだった。
「こんなのは茶番だ!」
がなるような声が会場に響く。アンリエッタがその声のしたほうを見ると、ふう、ふう、と息を荒げた青年――フレッド・オークがアンリエッタと、その隣にいるフェリクスをにらみつけていた。
ざわめく招待客たちに、フレッドはその顔をにたりと歪め、笑みを浮かべる。
自分の優位を疑わぬ――そして、アンリエッタたちを破滅させようとしている笑みだった。
「アンリエッタはさっき俺といたんだ。二人っきりでな。皇太子の婚約者は不貞を働いている、ということだ」
フレッドの言葉を信じた視線がアンリエッタに突き刺さる。アンリエッタはすっと背筋をただした。
「不貞などしておりません」
「なら、さっきのドレスを見せてもらおうか。本当に着替えただけなら汚れてなんかいないはずだ。あの部屋は埃っぽかったからなあ」
埃っぽかった、というフレッドの言葉に、視線の種類がふたつに分かれる。
ひとつはアンリエッタを変わらず疑う視線――そして、もうひとつはアンリエッタを労わるような視線だった。
埃だらけの部屋にアンリエッタが自分から行くわけがない。つまり、フレッドの言っていることが本当だとして、それはフレッドが無理矢理にアンリエッタをそうした、ということに他ならない。
それを疑ってフレッドに視線を向ける人々の目は厳しい。
けれど、もう捨て鉢になっているのか、フレッドは自分ごとアンリエッタを破滅させんと口から唾を飛ばして叫ぶように言った。
「さあ、見せてみろよ……ッ」
「フレッド……!」
遠くで、フレッドの父親が青ざめた顔をしている。おそらく、ここでアンリエッタを言及しようとすることは、フレッドの独断なのだろう。
ならば、何を恐れることがあるだろう。フレッドの手口はもうよくわかっている。
アンリエッタはその唇に笑みをはいて「よろしいでしょう」と口にした。
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