アルファの私がアルファの皇太子に溺愛執着されていますっ!

高遠すばる

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舞踏会の終わり1

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「まあ……まあ……!アンリエッタ様、本当にほかにお怪我はされていないんですよね!?」
 フェリクスによって控室に運ばれた、埃だらけのアンリエッタを見て、ヘレンは卒倒しそうなくらいに顔を青ざめさせた。
 ぺたぺたとアンリエッタの体に触れ、アンリエッタの背中にひどい打ち身、頭に髪が抜けたことによる傷口があるのに気づいてからはそれはますますひどくなり、もはや紙のように蒼白になっている。
「ええ、大丈夫よ」
「はやくお休みになってください。侍医を呼んでまいります」
「あの、そのことなんだけれど……パーティーの場に、戻りたいの。部屋に別の夜会用ドレスがあるから、それを着付けてくれるかしら」
「なんですって……!?」
 アンリエッタの言葉に、ヘレンは目を丸くした。そして、アンリエッタの顔と、フェリクスの顔を見比べ、信じられない、と言いたげにアンリエッタを見上げてくる。
「だめです!お怪我をなさっているのですよ、それも、こんなに赤くなって……」
「ええ。わかっているわ。けれどね、ヘレン、ここで私が急にいなくなれば、婚約披露の場から抜け出したという汚名が本当のことになってしまうの。それに、オーク商会のこともあるわ。私の不在をかさに着て、何かを言い出すかもしれない。私がいなければ、言わせたい放題よ。私は、フェリクスが不利になることはしたくないの。だからね、おねがい……」
 フェリクスがアンリエッタの背中を見てぐっと手を握る。それに「見た目より痛くないの」とほほ笑みを返して、アンリエッタは言った。
「フェリクス、クラリスとユーグ様は、私の不在をごまかしてくれているんでしょう?」
「ああ、そうだ」
「なら、私ももうひと踏ん張りしなくちゃ。危ない橋を渡らせてしまっているもの。クラリスたちにも、あなたにも」
「そんなことは。みんな、君が大切なんだ」
「だからこそ、よ。私を守ろうとしてくれているんだから、私だってがんばるわ」
「アンリエッタ……」
 フェリクスは案じるような表情を浮かべた後、ややあって、小さく、そうか、とつぶやいた。
「わかった。けれど、つらくなったらすぐに言うんだ。僕もぎりぎりまで治癒魔法をかけるけれど、それでも痛みまでは取り除けないから」
「ええ、ありがとう、フェリクス」
 アンリエッタはにっこりと笑って言った。
 控室内に備え付けられている衝立の中に移動して、ヘレンがアンリエッタの着付けをしてくれるのに身を任せる。
 ヘレンはアンリエッタの青いドレスをまずは脱がせ、それを衣装箱の中にしまう前に、なにか魔法をかけた。
 ヘレンが指先を今度はアンリエッタに向ける。そうすると、アンリエッタの体から、埃が小さな鳥となって屑籠へ向かった。ドレスからも、埃が鳥となって羽ばたいていくのが見える。
「まあ……」
「私の魔法は、これだけなのですよ。魔法が昔からあまり得意じゃありませんで……。けれど、今はこの魔法が使えてよかったと思います。アンリエッタ様を綺麗にお直しして差し上げられるのですから」
 ふふ、と、ヘレンは顔に皺を寄せ、笑う。このような魔法の使い方は聞いたことがない。唯一無二の魔法だわ、と思って、アンリエッタは心から「ヘレンはすごいのね」と口にした。ヘレンは、その言葉に目をまたたく。得心したように頷いた。
「ああ、なるほど……」
 ヘレンが言う。
「幼いころ、何にも興味を示されなかったフェリクス様が変わった理由が、わかった気がします」
「え?どういうこと……?」
「ふふ、アンリエッタ様は、素直で、心がおきれいで、お優しい方だ、ということです」
 ヘレンの言葉の意味が、よく分からない。
 首をかしげるアンリエッタを、フェリクスが優しいまなざしで見ながら「そうだろう」と頷いている。
 やっぱりわけがわからない。
 そんなアンリエッタをよそに、ドレスの着付けが終わった。
 白い、何重にもチュールを重ねたふわふわのドレスには、小粒のダイヤがちりばめられており、室内の明かりを反射してきらきらと輝いている。
 アクセントに結ばれたリボンは空色で、フェリクスの目の色をまた使ってくれたことが嬉しい。……けれど、こんなドレスをアンリエッタは持っていなかったはずだ。
 不思議に思うアンリエッタに、ヘレンがこれはですね、と楽し気に口を開く。
「フェリクス様が、アンリエッタ様の昨年の誕生日に用意していらしたドレスです。フェリクス様の個人資産で仕立てたのはいいものの、誕生日にこれは重過ぎる、とユーグ様に止められていましたねぇ……」
「フェリクスが?」
「ヘレン!」
 部屋の反対側に座っているフェリクスから焦ったような声がとんで来る。
 その様子からして、ヘレンの言葉は本当なのだろう。そして、それにフェリクスは照れているのだ。――なんてかわいらしいひとなのかしら、とアンリエッタは思った。
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