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君が困ったら僕が助ける(フェリクス視点)1
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「アンリエッタ……?」
挨拶に来る人々もまばらになり、フェリクスはアンリエッタのいるはずの隣を振り返る。しかし、そこにアンリエッタはいなかった。
フェリクスの声を聞いて、周囲の貴族たちもアンリエッタの姿が見えないことに気付いたらしい。ざわつく会場に、フェリクスの額に一粒の汗が浮かぶ。
皇太子の婚約者の不在に、少しずつざわめきが広がっていく。これはまずい。懸念していたことはすぐさま現実になった。招待客の一人が、ホールに響くような大声でアンリエッタの不在を明らかにしたのだ。
「アンリエッタ様はご自身の婚約披露パーティーを放り出して行方知れずとは、将来の皇太子妃としての自覚が足りないのでは?」
そこにいたのは、ハインツ・オークという名の壮年の男だった。フレッド・オークの父で、オーク商会の会頭。国でも有数の豪商である彼はアンリエッタの家を没落させた張本人だ。もっとも、その証拠は今この場で手元にははない。皇族である立場上、招待したくないという個人的な感情を優先させることはできず、オーク商会のトップである彼ら父子を招待しないわけにはいかなかった。だから、ハインツ・オークがここにいることはおかしくない。
けれど、その表情が孕む底意地の悪い悪意の色は、フェリクスにひとつの疑念を抱かせた。
「みなさんもそう思いますよね?」
ハインツは、同意を求めるように、周囲の貴族や大商人といった招待客に投げかける。
アンリエッタのひととなりを知る高位貴族はハインツの発言を鵜呑みにはしていないようだが、そうでない低位貴族や爵位のないものは、アンリエッタを直接知らないこともあって、ハインツに同意するようなそぶりを見せた。
「アンリエッタ様がそんな責任感のないことをするはずは……」
「いや、でも……」
「オメガに性転換したのは、皇太子妃になりたかったからだと聞いたぞ」
「アンリエッタ様が画策したってか?それこそまさかだ」
わかれる意見に、フェリクスは歯噛みする。
ハインツに有利にことが進みすぎている。まるで、事前に周到に準備されていたかのような……。そこで、はっとフェリクスは気づいた。
いつもこういうパーティーで父親の近くにいるフレッドの姿が、今日はないことに。
会場に来ていないわけはないだろう。つまり。
「ハインツ・オーク……。フレッド・オークはどこだ……?」
「存じ上げませんね……。まあ、しかし息子は愛しい女人と再会した様子でしたので今頃は“本当の婚約者”と仲良くしているかもしれませんなァ」
「き、さま――……!」
小声でつぶやかれた言葉によって、フェリクスの頭に血が上る。つまりだ。アンリエッタはフレッドにどこかへ攫われたのだ。
それも、フェリクスが気づかぬうちに。――守れなかったのだ。
重苦しい後悔と、番を傷つけられた――傷つけられんとしている状況に、フェリクスの、アルファとしての本能が燃え滾る。今すぐにこの男を縊り殺してしまってもおかしくはないほど、フェリクスは怒りに支配されていた。その時だった。思わずつかみかかろうとした手を制すものがあった。
「落ち着いてください、殿下。ここで手を出せば、あなたの立場が悪くなるだけです。そうすれば、彼らの思惑通りになってしまう。アリウム侯爵令嬢がを、お救いできなくなります」
小さくささやかれた言葉に、フェリクスははっと我に返った。急速に頭が冷えていく。
「ユーグ……」
「私もいます」
「ゴデチア嬢……」
フェリクスの眼前には、フェリクスとハインツの間を遮るようにして、ユーグとクラリスが立っていた。
挨拶に来る人々もまばらになり、フェリクスはアンリエッタのいるはずの隣を振り返る。しかし、そこにアンリエッタはいなかった。
フェリクスの声を聞いて、周囲の貴族たちもアンリエッタの姿が見えないことに気付いたらしい。ざわつく会場に、フェリクスの額に一粒の汗が浮かぶ。
皇太子の婚約者の不在に、少しずつざわめきが広がっていく。これはまずい。懸念していたことはすぐさま現実になった。招待客の一人が、ホールに響くような大声でアンリエッタの不在を明らかにしたのだ。
「アンリエッタ様はご自身の婚約披露パーティーを放り出して行方知れずとは、将来の皇太子妃としての自覚が足りないのでは?」
そこにいたのは、ハインツ・オークという名の壮年の男だった。フレッド・オークの父で、オーク商会の会頭。国でも有数の豪商である彼はアンリエッタの家を没落させた張本人だ。もっとも、その証拠は今この場で手元にははない。皇族である立場上、招待したくないという個人的な感情を優先させることはできず、オーク商会のトップである彼ら父子を招待しないわけにはいかなかった。だから、ハインツ・オークがここにいることはおかしくない。
けれど、その表情が孕む底意地の悪い悪意の色は、フェリクスにひとつの疑念を抱かせた。
「みなさんもそう思いますよね?」
ハインツは、同意を求めるように、周囲の貴族や大商人といった招待客に投げかける。
アンリエッタのひととなりを知る高位貴族はハインツの発言を鵜呑みにはしていないようだが、そうでない低位貴族や爵位のないものは、アンリエッタを直接知らないこともあって、ハインツに同意するようなそぶりを見せた。
「アンリエッタ様がそんな責任感のないことをするはずは……」
「いや、でも……」
「オメガに性転換したのは、皇太子妃になりたかったからだと聞いたぞ」
「アンリエッタ様が画策したってか?それこそまさかだ」
わかれる意見に、フェリクスは歯噛みする。
ハインツに有利にことが進みすぎている。まるで、事前に周到に準備されていたかのような……。そこで、はっとフェリクスは気づいた。
いつもこういうパーティーで父親の近くにいるフレッドの姿が、今日はないことに。
会場に来ていないわけはないだろう。つまり。
「ハインツ・オーク……。フレッド・オークはどこだ……?」
「存じ上げませんね……。まあ、しかし息子は愛しい女人と再会した様子でしたので今頃は“本当の婚約者”と仲良くしているかもしれませんなァ」
「き、さま――……!」
小声でつぶやかれた言葉によって、フェリクスの頭に血が上る。つまりだ。アンリエッタはフレッドにどこかへ攫われたのだ。
それも、フェリクスが気づかぬうちに。――守れなかったのだ。
重苦しい後悔と、番を傷つけられた――傷つけられんとしている状況に、フェリクスの、アルファとしての本能が燃え滾る。今すぐにこの男を縊り殺してしまってもおかしくはないほど、フェリクスは怒りに支配されていた。その時だった。思わずつかみかかろうとした手を制すものがあった。
「落ち着いてください、殿下。ここで手を出せば、あなたの立場が悪くなるだけです。そうすれば、彼らの思惑通りになってしまう。アリウム侯爵令嬢がを、お救いできなくなります」
小さくささやかれた言葉に、フェリクスははっと我に返った。急速に頭が冷えていく。
「ユーグ……」
「私もいます」
「ゴデチア嬢……」
フェリクスの眼前には、フェリクスとハインツの間を遮るようにして、ユーグとクラリスが立っていた。
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