アルファの私がアルファの皇太子に溺愛執着されていますっ!

高遠すばる

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舞踏会にて2

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「よくぞ参った。フェリクス。そしてアンリエッタ・アリウム侯爵令嬢」
 鷹揚に頷いて参上した二人を迎えた皇帝は、老齢でありながら優美なおもてに笑みを浮かべ、同じく笑顔の皇妃をアンリエッタの前に促した。
「父上、母上、こちらが僕の婚約者のアンリエッタです」
「ええ、存じていてよ。本当にかわいらしい子……。いい子を連れてきたわね、フェリクス」
 皇妃が嬉しそうにアンリエッタの手を取る。その顔には一片の悪意も見えない。
「はじめまして、アンリエッタちゃん。あなたを待っていたのよ。書類の上でしか知らなかったから、これから仲良くしてくれると嬉しいわ」
「こ、光栄に存じます……っ!」
 思いがけない優しい言葉につっかえてしまったアンリエッタを、皇妃は微笑まし気なまなざしで見つめてくる。あたたかな表情に、アンリエッタは戸惑った。
「見目だけでなく内面も素晴らしい人ですよ。僕のアンリエッタは」
「ま、お熱いこと。あなたがそこまでのろけるなんて……人は変わるものね」
「お前が誰にも興味を持たぬから、世継の心配をしておったが、この分だと大丈夫そうだな」
 皇帝も、皇妃も、アリウム侯爵家が没落したkとおを知らないわけがないだろう。しかし、二人はそれを気にした風もなく好意的なまなざしを向けてくださる。これは、アンリエッタの願望が見せた幻覚だろうか。
 フェリクスのことを好きだと認めたものの、アンリエッタの抱える問題は何一つ解決していない。家の力のなくなったアンリエッタが持つものは、フェリクスの番という立場だけで、それは事実だった。
 だから、アンリエッタには、なんの理由もなくこのような目で見てもらえるとはまったく思えなかったのだ。
「それでは、あとで」
「ええ、また。あとでもっとじっくり紹介してちょうだいな」
 皇太子とその婚約者とはいえど、こうした舞踏会の場で長々とあいさつする時間は許されていない。アンリエッタが混乱の中にいるうちに、皇帝夫妻へのあいさつが切り上げられる。
 最初の曲であるカドリルが流れ出し、ファーストダンスが始まることがわかった。
 アンリエッタに、皇帝夫妻の御前を辞したフェリクスが向き直る。
「アンリエッタ、踊れるかい?」
「もちろんよ」
 ダンスは好きだ。音楽に合わせて体を動かすのは心が浮き立つ。素晴らしいダンスの名手というわけではないが、何事も努力してきたアンリエッタは当然ダンスの訓練も積んできた。
 だから、人並み以上には踊れる自信があった。
「なら、踊ろう、アンリエッタ。皆が僕たちに注目している。君を品定めする人たちに見せつけて差し上げよう」
 フェリクスの手に導かれ、アンリエッタはホールの中央に進み出る。
 フェリクスの言葉通り、アンリエッタとフェリクスに視線が集まっているのを感じた。
 アンリエッタは背筋を伸ばした。フェリクスのこういう表情は知っている。試験の結果が出るとき、アンリエッタを見つめる目――アンリエッタに、期待している顔だ。
 結局、アンリエッタは一度だってフェリクスに勝てなかったわけだが……それでも、フェリクスがこういう顔をするたび、やってやるわ、という気持ちになるのだった。
「それは、とっても素敵ね」
 フェリクスの手をとって、アンリエッタが動き出す。
 ふいに、あの告白の後、アンリエッタを突き放したフェリクスを思いだした。
 ――僕が君にそう言わせたんだね。
 そう言って、雨の中、暗い顔をしてアンリエッタを拒絶したフェリクスに、アンリエッタはパニックに陥った。その時のことを考えると、今も胸の奥がしくしくと痛む。
 どうして想いを受けとってもらえなかったのかわからなかった。
 フェリクスだってアンリエッタを愛してくれている。そう信じていたからこそアンリエッタは傷ついたのだ。
 青いドレスがふわりと広がる。まるで花のように見えるそれは、東方から輸入した絹を使って最新の型で作った逸品だ。
 縫い付けられた真珠がアンリエッタとフェリクスの動きに合わせてきらきらと輝く。
 アンリエッタは微笑んだ。フェリクスと踊るのが楽しかった。アンリエッタだって下手なわけではない。けれど、フェリクスのリードは、カドリルに慣れたアンリエッタをも楽しませるほど巧みなものだった。
 それは、カドリルの最中、組を交換してからより顕著にわかる。
 カドリルは二組のペアが組を交換しながら踊るダンスだ。短い時間で次々にペアを入れ替える。だからこそ、フェリクスがほかの人より格段に、技巧に優れているとわかるのだった。
 最後にまた同じ組に戻ってくる。アンリエッタは笑みとともにまたフェリクスの手を取った。
 その時だった。フェリクスが、アンリエッタを抱き上げたのだ。
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