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花祭りの歌姫1
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楽し気な音楽が秋晴れの空を駆け上がっていく。
アンリエッタは、ヘレン達、城の使用人が用意してくれたワンピースの裾をふわりとひらめかせて石畳を歩いた。
薄赤いワンピースに革の編み上げブーツに身を包んだアンリエッタのブラウスの襟とワンピースの裾には、花女神を象徴するフリージアの花の刺繍が目立って、白いケープに縫い付けられたフードとともにアンリエッタのみつあみにした銀糸の髪から人目を逸らしていた。アンリエッタの透き通るように美しい容姿は人目を引く。だからこそ、服に視線を集中させてごまかしましょう、と言ったのはクラリスだ。
そう、この服を選んでくれたのはフェリクスだ。クラリスはアンリエッタの侍女になりたいのだと言って、学園の放課後や休日に頻繁に来ては勉強をしたり訓練を積んだり、あるいはアンリエッタにオメガとしてのアドバイスをしてくれたり、とできるだけアンリエッタのそばにいてくれる。
フェリクスと、その側近であるユーグの署名入りの皇城立ち入り許可証を見たときの驚きは忘れられない。
もちろん、番のいないオメガだから発情期の時などは来られない。それでも、フェリクスが整えた「性の垣根なく学べる」という制度はオメガであるクラリスがここに来ることを比較的簡単にしてくれた。
花祭りでは花女神にちなんで、人々は体のどこかに花飾りをつける。
フェリクスは、城下町によくいる裕福な庶民が着る服の胸元のポケットに赤いコスモスの生花を、アンリエッタはケープの留め具として、この季節にはないフリージアの生花の代わりに、フリージアをかたどったアメジストにチョコレート色のコスモスの生花をあしらった大ぶりの花飾りを身に着けていた。石畳の上を、こつこつと靴音を鳴らして歩く。
花祭りで浮足立った心が、アンリエッタの気持ちを軽くしてくれる。
――と、石畳の隙間につま先をひっかけ、アンリエッタの体が傾ぐ。
アンリエッタは思わず、次に来るだろう衝撃に目を閉じる。しかし、その体が地面に叩きつけられることはなかった。とさ、と軽い音をさせて抱き留められる。自分を包み込むフェリクスの匂いにかあっと頬が熱くなる。
「危ないよ、アンリエッタ」
「フェリクス……ありがとう」
たくましい胸板は鍛えている証だろう。それにもどぎまぎしてしまって、アンリエッタがフェリスから目を逸らすと、フェリクスが腕をさし出してきた。
「フェリクス……?」
「また転ぶといけないから」
そう言って微笑むフェリクスの顔は優しい。
転ばないために、と言われては、まさに今躓いた手前、腕をとらないわけにもいかない。
――自分は何を言いわけしているのだろう。
顔の熱さが引いてくれない。アンリエッタはフェリクスの腕に自分の手を添えた。
二人そろって、腕を組んで歩く。まるきり恋人同士の行為にどきどきと胸が高鳴るのをやめられない。
ごまかすようにかぶりを振って、周囲へ視線を巡らせる。
すると、綿菓子の屋台が目に入った。
綿菓子とは、砂糖で作られた最近はやりの菓子だ。火魔法で砂糖を熱し、焦げないように調整しながら、風魔法によって空中ですばやくかき混ぜて作る綿菓子はまるで雲のような見た目をしていて、子供に人気の屋台菓子だった。
日持ちしないためにこうした催しでしか食べられない綿菓子は、アンリエッタのあこがれだ。なぜなら、アンリエッタは綿菓子を食べたことがないから。
毎年欲しいとは思うのだが、いつも長い列ができるほど並んでいて買えないのだ。
しかし今日は珍しく客が一通りはけた後なのか、列が短いように見える。
じっと見ていると、ふと、フェリクスがアンリエッタを柔らかなまなざしで見つめていることに気付いた。
はっとアンリエッタは居住まいを正す。物欲しげに見えていただろうか。
アンリエッタは、ヘレン達、城の使用人が用意してくれたワンピースの裾をふわりとひらめかせて石畳を歩いた。
薄赤いワンピースに革の編み上げブーツに身を包んだアンリエッタのブラウスの襟とワンピースの裾には、花女神を象徴するフリージアの花の刺繍が目立って、白いケープに縫い付けられたフードとともにアンリエッタのみつあみにした銀糸の髪から人目を逸らしていた。アンリエッタの透き通るように美しい容姿は人目を引く。だからこそ、服に視線を集中させてごまかしましょう、と言ったのはクラリスだ。
そう、この服を選んでくれたのはフェリクスだ。クラリスはアンリエッタの侍女になりたいのだと言って、学園の放課後や休日に頻繁に来ては勉強をしたり訓練を積んだり、あるいはアンリエッタにオメガとしてのアドバイスをしてくれたり、とできるだけアンリエッタのそばにいてくれる。
フェリクスと、その側近であるユーグの署名入りの皇城立ち入り許可証を見たときの驚きは忘れられない。
もちろん、番のいないオメガだから発情期の時などは来られない。それでも、フェリクスが整えた「性の垣根なく学べる」という制度はオメガであるクラリスがここに来ることを比較的簡単にしてくれた。
花祭りでは花女神にちなんで、人々は体のどこかに花飾りをつける。
フェリクスは、城下町によくいる裕福な庶民が着る服の胸元のポケットに赤いコスモスの生花を、アンリエッタはケープの留め具として、この季節にはないフリージアの生花の代わりに、フリージアをかたどったアメジストにチョコレート色のコスモスの生花をあしらった大ぶりの花飾りを身に着けていた。石畳の上を、こつこつと靴音を鳴らして歩く。
花祭りで浮足立った心が、アンリエッタの気持ちを軽くしてくれる。
――と、石畳の隙間につま先をひっかけ、アンリエッタの体が傾ぐ。
アンリエッタは思わず、次に来るだろう衝撃に目を閉じる。しかし、その体が地面に叩きつけられることはなかった。とさ、と軽い音をさせて抱き留められる。自分を包み込むフェリクスの匂いにかあっと頬が熱くなる。
「危ないよ、アンリエッタ」
「フェリクス……ありがとう」
たくましい胸板は鍛えている証だろう。それにもどぎまぎしてしまって、アンリエッタがフェリスから目を逸らすと、フェリクスが腕をさし出してきた。
「フェリクス……?」
「また転ぶといけないから」
そう言って微笑むフェリクスの顔は優しい。
転ばないために、と言われては、まさに今躓いた手前、腕をとらないわけにもいかない。
――自分は何を言いわけしているのだろう。
顔の熱さが引いてくれない。アンリエッタはフェリクスの腕に自分の手を添えた。
二人そろって、腕を組んで歩く。まるきり恋人同士の行為にどきどきと胸が高鳴るのをやめられない。
ごまかすようにかぶりを振って、周囲へ視線を巡らせる。
すると、綿菓子の屋台が目に入った。
綿菓子とは、砂糖で作られた最近はやりの菓子だ。火魔法で砂糖を熱し、焦げないように調整しながら、風魔法によって空中ですばやくかき混ぜて作る綿菓子はまるで雲のような見た目をしていて、子供に人気の屋台菓子だった。
日持ちしないためにこうした催しでしか食べられない綿菓子は、アンリエッタのあこがれだ。なぜなら、アンリエッタは綿菓子を食べたことがないから。
毎年欲しいとは思うのだが、いつも長い列ができるほど並んでいて買えないのだ。
しかし今日は珍しく客が一通りはけた後なのか、列が短いように見える。
じっと見ていると、ふと、フェリクスがアンリエッタを柔らかなまなざしで見つめていることに気付いた。
はっとアンリエッタは居住まいを正す。物欲しげに見えていただろうか。
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