アルファの私がアルファの皇太子に溺愛執着されていますっ!

高遠すばる

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性転換と悩み4

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「フェリクス様は、アンリエッタ様をはっきりとした同意なしにビッチングなさいましたが、アンリエッタ様が責められぬよう、ご自分のせいだと宣言されたことだけは、褒めて差し上げてもいいと思いましたわ」
「怒って……いないの?」
「もちろん怒っておりますわ。好いた相手にそんなことをするなんて、フェリクス様にはあとでお説教をしなければなりません」
「そ、そうではなくて……。私に、対して」
「アンリエッタ様に、ですか?どうして?」
不思議な顔をして首をかしげるヘレンに、アンリエッタは目を瞬いた。
「それは……私のせいで、フェリクス様が悪く言われてしまうかもしれないから」
「好きな相手に不名誉をかぶせるなんて、そんなことをしたら私はフェリクス様のお尻を叩かねばなりませんでしたわ。アンリエッタ様、アンリエッタ様はなにも悪くございません。それを心においていてくださいませ」
「……わかったわ。……ありがとう、ヘレン」
アンリエッタの言葉に、ヘレンの顔が緩む。
そうして胸を押さえ、ヘレンはほっとしたように言った。
「ああ、よかった。フェリクス様がお好きになったのが、アンリエッタ様のような方で」
「待って、私、そんな風に言われる人間じゃあ」
アンリエッタが焦って言うと、ヘレンはゆるくかぶりを振った。
「いいえ、フェリクス様がこんなによい方を連れてこられたのですもの。大切にお育てしたかいがありましたわ」
「連れてこられた、って……婚約者でもないのに」
アンリエッタがそう言うと、ヘレンは申し訳なさそうに眉を下げた。
「アンリエッタ様がそうおっしゃっても、婚約は決定事項だと思われます。アルファとオメガの番というのは、切っても切れないものですし、フェリクス様に番ができることを、皇家のみなさまは待ち望んでおられました。……そして、これが最大の理由ですが、もし、婚約せずに番を解消、となったとき、傷つくのはアンリエッタ様です。番解消はオメガにとって負担が大きく、衰弱死してしまうこともあります。フェリクス様がそれをよしとするとは思えません」
ヘレンは、そう言って、深く頭を下げた。
「アンリエッタ様には望まない婚姻かと存じます。しかし、どうか、フェリクス様のために婚約を受け入れてはいただけないでしょうか」
「ま、まって、ヘレン。私は……」
「お願いします、アンリエッタ様……」
すがるようなヘレンの様子に、アンリエッタはそれ以上を口にすることができなかった。
だって、どうして言えるだろう。
今さら、身分も財産も失った自分が、フェリクスの隣に並ぶ自信がない、なんて。
アンリエッタはどこまでも惨めだった。フェリクスが自分を好いてくれているのは知っているし、今までは性別さえ違っていれば、とさえ思っていた。
けれど、今は状況が違うのだ。どれほど周囲が許し、本人が望んでも、一国の皇太子の婚姻というものは簡単ではない。身分も財も、器量も手腕もなくては務まらない。
少なくとも、アンリエッタは身分も財も失った不完全な自分が、フェリクスの隣にならんでふさわしいとは思えなかった。
フェリクスが好きだ、愛している。けれど――……いつかかならずフェリクスが困るような、そんな選択はしたくなかった。オメガに比べて、番を解消してもアルファにはそれほどの苦しみはない。だから、アンリエッタが苦しむだけなら、それでいいじゃないかと思うのだ。
――私が困ったら、フェリクスが助けてくれるんでしょう?
いつか、そう言ったことを思い出す。
そう、フェリクスは、アンリエッタが困ったから助けてくれたのだ。
……そう思わないと、アンリエッタはやり切れない。
同情と責任感で婚約を結んでもらう、なんて、そんな悲しくてみじめったらしいこと、アンリエッタはしたくはなかった。
「考える時間を、くれないかしら……」
黙りこくり、ややあってそれだけを小さな声で返したアンリエッタに、ヘレンは嫌な顔をしなかった。
それは、アンリエッタへの思いやりなのだと思う。
本当は、フェリクスのために婚約を受け入れてほしいのだろう。アンリエッタだって、自分が婚約を受け入れればすべて丸く収まるのだと理解している。
ごまかすように口に含んだブドウもリンゴも、まったく味がしない。
「ええ、ええ……いきなりのことですものね、私が気を急きすぎました。ごゆっくりお考えください」
自分の中の自尊心を守るためにそうしたアンリエッタに、ヘレンはどこまでも優しい。アンリエッタはヘレンが食事の片づけをする間、ずっと黙してうつむいていた。

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