アルファの私がアルファの皇太子に溺愛執着されていますっ!

高遠すばる

文字の大きさ
上 下
22 / 61

性転換と悩み2

しおりを挟む
「アンリエッタ」
「フェリクス、私、オメガになったの。……あなたの番になったの」
「……ああ」
「ごめんなさい、うまく、喜べないの」
「それは当たり前だ。君が自分を責めるのは違う」
 フェリクスが、取り返しのつかないことをした、という顔で、アンリエッタの目を見返す。
 けれど、アンリエッタが次の言葉を口にした瞬間、フェリクスのまなざしは豹変した。
「オーク様、とは、結婚しやすくなるわね」
 オメガだもの、きっと、誰の子でも孕めるのだわ。そう言ったアンリエッタに、フェリクスは空色の目を暗く陰らせた。
「アンリエッタ、今、なんて?」
「え……」
「君は僕の番だ。だから彼と結婚する日は永遠にこないよ」
「それでも、契約が」
「まだ署名していないならどうとでもできる。アンリエッタ、君の家も、僕がなんとかする。だから、あいつと結婚するなんて、冗談でももう言わないでくれ」
 フェリクスの指先は冷たく、アンリエッタの頬を撫でる手はどこかぎこちない。
 それでも――それでも、その顔が陰鬱に陰り、アンリエッタをどろどろとした目で見つめてくるさまには、背筋が震える心地がした。
 夕暮れは闇にそまり、気づけば紫に暮れている。
「君は、僕以外と子を作ることはできないし、僕がそうさせない。アンリエッタ……」
「それでも、皇帝陛下や、皇妃殿下は突然のことに驚きになるわ。婚約者だって決まる年ごろでしょう」
「その婚約者が君なら何も問題がない」
「問題、あるわ……。没落した侯爵家の令嬢を、皇太子妃になんてできない」
「僕は君以外いらないから」
 フェリクスが言葉を続ける。けれど、アンリエッタは突然の変化と宣言に、自分の立場がぐらついてしまって、もう自分で自分の感情がうまく表せなかった。
 悲しい?安心した?嬉しい?そのどれでもあって、どれでもなかった。
「わたし、は」
 アンリエッタは言った。
「今、すごくみじめだわ……」
 性別を変えることでしか救えないと思われたこと、そして、フェロモンに充てられていたとはいえ、ビッチングを許した自分の軽薄さへの怒りが胸にふつふつと湧き上がる。
 けれど、なによりも、アンリエッタはみじめだった。
「私は、あなたにもう、なにもあげられないのに……!」
 アンリエッタはそう言って、シーツに顔を伏せた。
 泣いても何も変わらない。フェリクスを困惑させるだけだ。そうわかっているのに、オメガの脆弱な涙腺は、その涙を止めてはくれなかった。
 嗚咽を漏らして泣くアンリエッタをの背を、フェリクスがやさしくさすってくれる。
 彼は、後悔しているのだろうか。
 アンリエッタを性転換させること以外で、アンリエッタを助けられないと思ったのだろうか。
 それなら――それなら、もっとみじめだ。
「出ていって」
「アンリ、」
「出て行って……!」
 アンリエッタは、叫ぶように言った。これ以上一緒にいて、自尊心を打ち砕かれたくなかった。
 アンリエッタの言葉に、フェリクスが何か言おうとした気配を感じる。口を、開けて、閉じて、また開けて。吐息の音が、アンリエッタにフェリクスの逡巡を教えてくれた。
「……わかった。薬湯は飲んで、どうか、無理はしないで」
「……ええ」
 それだけ言って、フェリクスはアンリエッタに背を向けた。
 扉の音が二度して、完全に扉の閉まったのを確認すると、アンリエッタはゆるゆると顔をあげた。
 流れた涙の触れた場所が突っ張ってぴりぴりと痛い。
 気づけば、アンリエッタは歌を歌っていた。調子はずれの、おかしな歌。
 いつかあなたが――フェリクスが教えてくれた歌を、そのまま歌う。
 第二性なんてなければ、なにか、変わっていただろうか。こんなふうにギクシャクと動きがとれないようになりたかったわけじゃなかった。
「私、あなたみたいになりたかったのよ、フェリクス」
 強くて素敵な、アンリエッタの尊敬するアルファ。フェリクスのように、かっこいいひとになりたかった。
 しばらくして、ノックの音が聞こえてくる。
 フェリクスが戻ってきたのかも、とおびえて返事をしないでいると、扉の向こうから「アンリエッタ様、食事のお支度をしてもよろしいでしょうか」と聞こえてきた。
 そこでようやく「ええ、お願いします」と返せたアンリエッタは、部屋に入ってきた侍女に目を瞬いた。
 侍女は、ひとり。おそらくはベータなのだろう。何のにおいもしなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

処理中です...