アルファの私がアルファの皇太子に溺愛執着されていますっ!

高遠すばる

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ままならない恋5

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「なんなんだ、奴は。会うたびに君をおかしな目で見て、体に触れようとする」
「……彼はベータよ。アルファの私をそんな目で見ることに意味はないでしょう」
 吐き捨てるように言ったフェリクスに、力なくアンリエッタは返した。
 最近、アンリエッタの行く先々に現れて、まるでアンリエッタを自分のものにしたかのような態度をとるフレッド。彼の目的はわからないが、気分のいいものではない。
「退学にしてやればいいんだ。成績だってすれすれだろうに」
「皇帝となる人が、民草にそんなことを言ってはいけないわ、フェリクス。それに、私は結果としてなにもされていない。あなたがかばってくれたもの」
「……君が、そういうなら」
 アンリエッタが言い募ると、フェリクスはまだ留飲が下がらないようでいながらも、ひとまずその目に見てわかるほどの、烈火のごとき怒りを収めた。
 フェリクスはアンリエッタを大切にしてくれる。アンリエッタだって、フェリクスに成績で負けているのが悔しくてかみついてしまうだけなのだ。
 こういう、自分のために怒ってくれるフェリクスの気持ちが、今はありがたかった。
「……教室に、戻ろうか。ユーグ、ゴデチア嬢を送ってくれ。僕はアンリエッタと教室に帰る」
「承知しました」
「アンリエッタ様、お気をつけて」
「ありがとう。皆様、お騒がせしてしまい、すみません。どうぞ食事をお続けになって」
 食堂に残る生徒たちに声をかけ、アンリエッタ達は食堂を出た。フェリクスが先導する先は、中庭だ。人気の少ない木立の陰にあるベンチ。そこを通るのかと思うと、フェリクスは突然、ぴたりと足を止めた。その表情は暗い。
「ごめん、アンリエッタ。あの男が来ることは予想できていたのに、君に会わせてしまった」
「……どうしてフェリクスが謝るの?オーク様が何も問題を起こしていない以上、あなたが何かすることはできないわ。それに、私はあなたが自分本位にオーク様を罰しなかったことが嬉しいの」
「……君が、君が困るからだ」
 フェリクスは言った。その空色の目が、雨の前の空のように曇っている。わずかに煙った目を伏せて、フェリクスはアンリエッタの手を取った。
「君が、あの男に目をつけられているから、だから、余計なことをしてあの男に口実を与えないようにけん制することしかできない。オーク家は爵位こそないけれど、国でも有数の資産家だ。退学すればいい、と言ったけれど、皇太子でしかない僕には、そういう私刑を与えることは許されない。与えれば、きっとやつはそれを逆手にとって君に無礼なことをするだろう」
 中庭の、みずみずしい木の葉がさらさらと揺れた。
 フェリクスの手に力がこもる。アルファの、男性の、力強い手。
 アンリエッタはその手をもう片方の手でそうっと撫でて微笑んだ。
「いいのよ。オーク様がどうしたって、私に直接手は出せないわ。私だってアルファよ?自衛くらいできます。それよりも、フェリクスが立派な皇帝になれそうで、次のアリウム侯爵家当主としては心強いわ。平民でもが力を持てるようになったのは、あなたが特権階級や性別の格差なく暮らせるように働きかけたからだもの」
「そんなこと!あんなやつが君に触れようとするようになるとわかっていれば――……」
 アンリエッタは、つ、とフェリクスの唇に人差し指を当てた。
「それ以上、言わないで、フェリクス。それはあなたの功績。私にはできなかったこと。誇って」
「……ッ」
 フェリクスは、一瞬言葉に詰まったようだった。けれど、次の言葉を、迷う様子はなくて。
「そんなこと、できるわけない。だって僕は君が好きなんだ!アンリエッタ」
 フェリクスはそう言って空色のまぶしいまなざしでアンリエッタを射抜いた。
 アンリエッタは苦笑する。心臓が拍動する。とくん、とくん、と速いリズムで。ああ、私、フェリクスのことを好きだわ、と思った。
「聞かなかったことにするわ、フェリクス。私は次期侯爵、あなたは次期皇帝。簡単に子供を作ることができない関係は、歓迎されるべきではない。帝国のためにもね」
「――僕はッ」
 フェリクスはアンリエッタの手を両手で包みなおした。そのさまは、決してこの手を離すまいとしているかのようですらあった。
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