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フリージア帝国1
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花女神フリージアを主としてあがめるこの国――フリージア帝国は、暖かく、美しく丈夫な花や上質なハーブの育ちやすい気候だ。
国の北部には良質な魔鉱石を算出する鉱山が多くあり、フリージア帝国はそれらの特産品を貿易の主な品として国庫を潤していた。
また、国民のほとんどが魔法を使える魔法使いであり、魔鉱石も手伝ってフリージア帝国は大陸一の魔法国家として有名だった。
これは、国民が生まれたときから魔鉱石が近くにあるという環境が理由なのだといわれている。この魔鉱石があるのは、かつて、古代の魔法民族であるハイエルフ族がここで暮らしていたために、その魔力の残滓が石となり地下深くに眠ったからだ。
そのハイエルフが人間と番い、子をなし、混ざり合った結果が今の貴族だとも言われている。ハイエルフの第二性はすべてアルファ。男女という性差のみで生殖をする珍しい種族だった。――というのはさておき、そのハイエルフを祖とする帝国民、それもとくに、高位貴族にはアルファが多い。歴史の中で、自然と優秀なアルファが統治する側に回っていったからだ。
この世界には男女という第一性以外に、アルファ、ベータ、オメガという三種の第二性がある。
一番多いベータ、平凡で、人間の血が濃く出た人々。
次に多いアルファは、ハイエルフの血を濃く継いできた、いわゆる支配階級。
そして、オメガというのが、この国どころか世界でも少ない比率でしか存在しない、アルファの番となれる性別だ。
番というのは、アルファがオメガのうなじを噛むことによって成立する婚姻契約のようなものだ。普通の婚姻と違うのは、それがアルファによる一方的な行為でも成立してしまうことと、アルファからは一方的に解除できてしまうということだ。
番を失ったオメガは衰弱し、死んでしまうこともあるという。そのため、オメガは無理な番契約を結ばれないよう、その首を幅の広いチョーカーで守っているのである。
オメガはその性質上、ひどく弱く、また定期的に来る発情期という期間において、自分の意志とは関係なくアルファを誘引してしまうことから、基本的に家から出ることがない。
突然変異のように一定確率で生まれるオメガたちは、アルファと番うと優秀なアルファを産みやすいために、非常に大切にされる。それなのに、自力で生きていけないからと言って社会的地位の低い、矛盾のある存在だ。
だが、ほんの三年ほど前、今の王太子によってオメガの社会的地位を上げる政策が施行された。
簡単に言えば、オメガを守るための一定水準の警備体制を整えた学園ならば、オメガを通わせられるというもの。現時点ではそういった学園は帝国にひとつしかないが、この政策――まだ試験的なものらしい――が成功すれば、オメガやアルファ、ベータの垣根なく、学び舎に通い、好きな職に就き、社会的な地位を上げられる。
この政策にはベータというアルファ以外の性別にも可能性を広げると同時に、アルファだから、ベータだから、などという性差による差別偏見をなくすという目的も含まれていた。
そんな学園こそ、ここ、フリージア帝国の中央、カルミア都にあるフリージア学園であった。
晴れ渡る空が青々とまぶしい。雲ひとつない快晴の春の日のこと。
フリージア学園に通う少女がひとり、きっ、とにらむようにして掲示板を見つめている。
――それは美しい少女だった。
年のころは17、18だろうか。社交界デビューしたばかりのみずみずしさがある顔立ちをしている。紫の目はきらきらと輝き、彼女の気の強さと矜持の高さを示していた。長い銀のまつ毛に縁どられた目は大きく美しい。
鼻はつまんだように高く、白磁の肌に、自然と赤みがさして、その健康さを物語っている。
サクランボのような唇はつややかで、銀糸の髪には癖もない。頭に飾ったシンプルな花飾りが少女の清楚さを際立たせている。
またそれらすべてのパーツが、一流の人形職人でも再現できないほど完璧に配置されて。一言でいえば透き通るような美少女がそこにいた。
その少女が、掲示板に貼られた先日の中間試験の結果をにらみつけて悔し気に顔をゆがめている。そのような顔ですらいたく秀麗で、周囲の学生たちはため息をついてそんな少女を見つめていた。
国の北部には良質な魔鉱石を算出する鉱山が多くあり、フリージア帝国はそれらの特産品を貿易の主な品として国庫を潤していた。
また、国民のほとんどが魔法を使える魔法使いであり、魔鉱石も手伝ってフリージア帝国は大陸一の魔法国家として有名だった。
これは、国民が生まれたときから魔鉱石が近くにあるという環境が理由なのだといわれている。この魔鉱石があるのは、かつて、古代の魔法民族であるハイエルフ族がここで暮らしていたために、その魔力の残滓が石となり地下深くに眠ったからだ。
そのハイエルフが人間と番い、子をなし、混ざり合った結果が今の貴族だとも言われている。ハイエルフの第二性はすべてアルファ。男女という性差のみで生殖をする珍しい種族だった。――というのはさておき、そのハイエルフを祖とする帝国民、それもとくに、高位貴族にはアルファが多い。歴史の中で、自然と優秀なアルファが統治する側に回っていったからだ。
この世界には男女という第一性以外に、アルファ、ベータ、オメガという三種の第二性がある。
一番多いベータ、平凡で、人間の血が濃く出た人々。
次に多いアルファは、ハイエルフの血を濃く継いできた、いわゆる支配階級。
そして、オメガというのが、この国どころか世界でも少ない比率でしか存在しない、アルファの番となれる性別だ。
番というのは、アルファがオメガのうなじを噛むことによって成立する婚姻契約のようなものだ。普通の婚姻と違うのは、それがアルファによる一方的な行為でも成立してしまうことと、アルファからは一方的に解除できてしまうということだ。
番を失ったオメガは衰弱し、死んでしまうこともあるという。そのため、オメガは無理な番契約を結ばれないよう、その首を幅の広いチョーカーで守っているのである。
オメガはその性質上、ひどく弱く、また定期的に来る発情期という期間において、自分の意志とは関係なくアルファを誘引してしまうことから、基本的に家から出ることがない。
突然変異のように一定確率で生まれるオメガたちは、アルファと番うと優秀なアルファを産みやすいために、非常に大切にされる。それなのに、自力で生きていけないからと言って社会的地位の低い、矛盾のある存在だ。
だが、ほんの三年ほど前、今の王太子によってオメガの社会的地位を上げる政策が施行された。
簡単に言えば、オメガを守るための一定水準の警備体制を整えた学園ならば、オメガを通わせられるというもの。現時点ではそういった学園は帝国にひとつしかないが、この政策――まだ試験的なものらしい――が成功すれば、オメガやアルファ、ベータの垣根なく、学び舎に通い、好きな職に就き、社会的な地位を上げられる。
この政策にはベータというアルファ以外の性別にも可能性を広げると同時に、アルファだから、ベータだから、などという性差による差別偏見をなくすという目的も含まれていた。
そんな学園こそ、ここ、フリージア帝国の中央、カルミア都にあるフリージア学園であった。
晴れ渡る空が青々とまぶしい。雲ひとつない快晴の春の日のこと。
フリージア学園に通う少女がひとり、きっ、とにらむようにして掲示板を見つめている。
――それは美しい少女だった。
年のころは17、18だろうか。社交界デビューしたばかりのみずみずしさがある顔立ちをしている。紫の目はきらきらと輝き、彼女の気の強さと矜持の高さを示していた。長い銀のまつ毛に縁どられた目は大きく美しい。
鼻はつまんだように高く、白磁の肌に、自然と赤みがさして、その健康さを物語っている。
サクランボのような唇はつややかで、銀糸の髪には癖もない。頭に飾ったシンプルな花飾りが少女の清楚さを際立たせている。
またそれらすべてのパーツが、一流の人形職人でも再現できないほど完璧に配置されて。一言でいえば透き通るような美少女がそこにいた。
その少女が、掲示板に貼られた先日の中間試験の結果をにらみつけて悔し気に顔をゆがめている。そのような顔ですらいたく秀麗で、周囲の学生たちはため息をついてそんな少女を見つめていた。
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