天使な狼、悪魔な羊

駿馬

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第16章 日の差さぬ場所で

9.渦が生まれた日

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今から4年前。ローズ様から『白い渡り鳥』になるのだと言われてから数日後。
教室として使っている小さな部屋で、ローズ様と一緒に『再生の砂』に手を加える作業をしていた。開かれた教室の窓からは、神殿を囲むように植えられた木々と木漏れ日しか見えないけど、鳥の楽しそうな囀りが聞こえてくる。


「今日はここまでにしましょう。シェニカのおかげで『再生の砂』がたくさん増えました。ありがとう」


「ローズ様の力になれて嬉しいです」


机の上には、白と灰色の2種類の砂が詰まった瓶がいくつも並んでいる。
私が白魔法の習得を終えた頃、灰色の砂に魔法をかけて白い砂に変える仕事を手伝うように言われた。この2色の砂は何なのかと尋ねたら、2つとも身体の欠損部分を再生する『再生の砂』と言われるもので、灰色の砂に魔法をかけて改良すると白色になるのだと答えた。
改良したらどうなるのかと聞いてみると、


「灰色のまま再生の治療に使うと、治療した部分は灰色になります。でも、こうして白くした砂だとその人の肌の色になるんです。
これはね、砂の中に休眠状態の物が混じっているからなんですよ。そういう状態の砂が黒色で、白い砂に混じって全体が灰色になっているんですが、こうして治療魔法をかけると、眠った砂が活性化して白色になるんです。砂なのにまるで生き物みたいで不思議でしょう?シェニカもやってみて下さい」

と言われたので、それからずっと私は白い砂にするお手伝いをしている。




「この作業は時間がかかって億劫だったんですよ。でも、シェニカが魔法をかけると砂はみるみる白色になるし、シェニカの作った砂を混ぜると、私がやっても変化が早くなるからとても助かります。
そうそう。ジェネルド殿からまた貰いに来ると連絡が来ました。シェニカが改良した砂を使うと作業が早く終わるから、すっかり手放せなくなったそうです。まったくあの人は、こういう時間がかかる作業は待ってられないんだから」


ローズ様はその時のことを思い出したのか、クスクスと笑った。私はその場面を見ていないけど、せっかちなところがあるジェネルド様なら、そう言いかねないなぁと思ってクスッと笑ってしまった。

この砂はランクAの『白い渡り鳥』が上級の治療魔法をかけても白くならず、ランクS以上の者が魔法をかけて初めて白い砂になる。ランクAの『白い渡り鳥』が白い砂を使った場合、再生した部分は灰色ではなく肌色になると、この時はまだ知らなかった。
ローズ様とジェネルド様は何も言わなかったけど、この砂の変化から私がランクS以上の能力があるということはこの時には知っていたのだ。



「そう言ってもらえると嬉しいです。ジェネルド様はいついらっしゃるのですか?」


「来月、貴女の試験の日に来ますよ。立ち会って祝福したいそうです」


「試験?」


「ええ、『白い渡り鳥』はその能力の高さでランク付けをします。ランクはA、S、SSの3段階で、傭兵と同じで一番高いのはSSです。
ちょうどいいタイミングですから、貴女のこれからの予定を話しておきましょう。試験でランクを見極めた後、18歳の誕生日当日に私が洗礼の儀式を行って、『白い渡り鳥』の額飾りを授けます。そしてその後は、『白い渡り鳥』として世界中の国に挨拶回りに行って、帰国後に護衛と共に旅立ちます」


「挨拶回りですか…。世界中となると、どれくらいかかるんですか?」


「だいたい2、3年というところですね」



それからはいつもと変わらない毎日を送っていたけど、試験日が近づくにつれてローズ様のため息が増えていった。その原因は分からなかったけど、なんとなく聞かない方がいい気がして、私は黙っていることしか出来なかった。

そして試験の当日。私の部屋に迎えに来てくれたローズ様は、どことなく緊張しているのが伝わって来た。
 
 
「シェニカ、今日は貴女の『白い渡り鳥』としてのランクを見極める日です。気をしっかり引き締めて臨んで下さいね」
 

「はい、ローズ様」
 
ローズ様に案内されたのは神殿の中でも1番北にある、頑丈そうな大きな鉄の扉の前だった。何に使う場所なのか不思議に思っていたけど、どうやら『白い渡り鳥』の試験に使われるための部屋だったらしい。

この部屋はいつも鍵がかかっているし、この扉の周辺で誰か居るのも見たことがなかったけど、今は扉の両端に2人の神官が立っている。この2人はローズ様が神殿で治療院を開いている時に護衛をしている人で、ちょっと強面の顔だから私は視線を逸してしまった。喋ったことはないけど、いつも顔を逸してばかりで彼らにはとても申し訳ない。でも、怖いものは怖いんです。ごめんなさい。



「扉を開きなさい」

強面の神官2人にローズ様がそう声をかけると、2人は扉をゆっくりと押し開いた。大きな扉が真ん中から割れてゆっくりと左右に開き始めると、部屋の中央部にこの神殿の神官長であるユオシ様と見知った2人の顔を見た時は自然と笑顔になった。でも扉が完全に開かれると、部屋の右隅の方に知らない人が6人も座っていたことに気付いて、私はどういうことなのかと困惑した。



「ローズ様、ジェネルド様達以外はいない予定だったのでは?」
 
黒い旅装束に膝裏まである緑色の上着。菜切り包丁を大きくしたような、平べったい大剣を背中に携えた傭兵スタイルがよく似合う、背も横幅も大きな深緑色のいがぐり頭の青年と、白いローブに映えるような明るい茶色を短髪にし、お伽噺に出てくる王子様のような眩しい顔の男性がいた。整った彼の額には、細長い銀の2本のプレートが額の中央にある赤い玉を中心に斜めに交差し、それを囲むように青、黄、緑、黒の玉が四方に伸びるプレートに配置されている独特のデザインだ。この人がジェネルド様とその護衛だ。
立ち会うのはこの2人だけと聞いていたのに、神官長特有の服を着た人が5人。黒く長い三つ編みを胸に流した、少女にも見える若いローブ姿の女性の、合わせて6人は私が知らない人だ。

 
 

「その予定だったのですけどね…。他の立会人は意図せず増えてしまったのです」
 
ローズ様に尋ねると「はぁ…」と深いため息を吐いて、入り口で固まってしまった私の背を押して中に入るように促した。私とローズ様が部屋に入ると、扉はゆっくりと閉められた。
 

円形で小ホールのような広さがあるこの部屋には、窓がひとつもない。そのかわり、室内にはいくつも魔力の光が灯されていて、まるで太陽の下に居るような明るさがある。
部屋の左の方には、普通の椅子と大きな白い布が掛けられた机があり、中央部には2脚の椅子が机の方を向いて並べられていて、ジェネルド様と護衛、ユオシ様の3人が立って何やら小声で喋っている。右の方には机の方を向いて8脚の椅子が一列に並べられている。知らない人達はそこに座っていたけど私が部屋に入ると全員が立ちあがった。



「シェニカはそっちの椅子に座りなさい。皆さんも着席して下さい」

ローズ様の言われた通りに部屋の左に進んで椅子に座ると、目の前にある大きな白い布がかけられた机がすごく気になった。
一体布の下には何があるのだろう、そう思っていると誰かがコホンと咳をしたので視線を上げると、ローズ様とユオシ様が部屋の中央の椅子の前に立っていた。向かい側の椅子の列には、端からジェネルド様と護衛、5人の神官長、黒髪の女性の順で座っていた。



「ローズ様、是非自己紹介をさせて下さい」

知らない人達の中でも1番年上のような真っ白の髪を撫で付けた神官長がそう言うと、ローズ様は溜息を吐いて小さく頷いた。するとその人は立ち上がって私にニッコリと笑顔を向けた。


「初めましてシェニカ様。私はサザベルの首都で神官長を務めておりますリベラーデと申します。
今回、ローズ様の秘蔵っ子が試験を受けると言うことで、無理を言って同席させて頂きました。どうぞ我々のことはお気になさらず試験に臨んで下さい。
我が国は海に面していますので気性が荒いとよく揶揄されるのですが、実際にはそんなことはございません。海の幸や観光名所にも恵まれていますので、旅立った後はお気軽にお立ち寄り下さい」
 
 
私はなんと返事をしていいか分からなかったので、小さく頷くだけにしておいた。その反応で良かったのか分からないけど、その隣に居た人が着席したリベラーデ神官長と入れ替わるように立ち上がった。



「シェニカ様、はじめまして。私はトラントの首都で神官長を務めているベラルスと申します。我が国は古い歴史のある国で、学術の本などがたくさんありますので是非お立ち寄り下さい」
 
このベラルス神官長は、白地に赤い十字が入った大きな帽子を被っている。年齢はよく分からないけど、普通にしていても眉間に皺が刻まれているから、そこそこ年齢のいったおじさんのようだ。
この帽子は神官長だけが被ることを許されているものだけど、大きいし、邪魔だしと被る人はあまり居ないらしい。不評だからか帽子の着用義務はないらしく、被っていなくても問題ないそうだ。
ローズ様は、「大きいだけの目立つ帽子を被る人は、『俺は神官長だぞ!』と自慢したい見栄っ張りな人なのですよ」と言っていた。だから、このベラルス様は見栄っ張りなんだろう。



挨拶を終えたベラルス神官長が座ると、その隣に座る葡萄色の短髪で中性的な顔立ちの若い青年が椅子から立ちあがった。
この人は私を見ると、星が飛ぶようなウィンクをしてきた。ウインクなんかして、何がしたいのだろうか。

 
「私はミルビナの首都で神官長を務めておりますアビと申します。観光はこれと言って何もない国ですが、南国ならではのフルーツの産地として有名です。是非一度お越しください」



アビ神官長と入れ替わって立ちあがったのは、黄緑色の髪を高い位置でポニーテールにした、浅黒い肌につり上がった細い目が特徴の、神官長というよりは軍人みたいな身体が大きな壮年の男性だ。この人は胸に手を当てると、私に向かって深々と頭を下げた。

「私はドルトネアの首都で神官長を務めるダルべジッドです。我が国は観光資源のない国ですが、護衛に最適な者が多くいます。最近は『白い渡り鳥』様を誘拐しようとする賊も出てきていると聞きます。旅の途中で身の危険を感じた時は、是非我が国で追加の護衛を紹介させて下さい」 
 

ダルベジッド神官長が椅子に座ると、その隣にいた神官長の服を着た女性が立ちあがった。細身で綺麗なその人は、私のお母さん世代くらいに見える。黒髪を綺麗なお団子頭にしたこの人は、私を見るとゾッとするような綺麗な微笑みを浮かべた。笑顔なのにどうしてゾッとしたのかは分からないけど、何となくこの人は「怖い」と思った。


「わたくしはロスカエナの首都で神官長を務めておりますミャジャです。我が国は刺繍の技術がとても高いので、ワンピースなどの洋服からドレスまで超一流の物が揃っております。シェニカ様の気に入る物が必ずありますので、是非お立ち寄り下さい」
 

「は、はい…」
 
5人の神官長は椅子に座った後もにこやかな顔をしているが、何だかあんまり関わりたくない気がする。
 
ジェネルド様とは反対側の一番端。ミャジャ神官長の隣に座る三つ編みの女性は、こちらを真顔でジッと見ているだけで自己紹介などはしなかった。ちょっと不気味な感じがする人だと思ったけど、神官長達よりも試験のことで頭がいっぱいで、特に気にもならなかった。
 


 
「では試験を始めましょう。シェニカ。ここに材料と調合法を書いた本がありますから、この通りに作って下さい」
 

「はい」
 
ローズ様は私に薄っぺらい本を渡すと、中央に置かれた椅子の方に歩いて行った。今度は扉を開いてくれた2人の神官が近寄ってきて、机の上にかけてあった白い布を音も立てずに丁寧に剥いだ。
机の上にあったのは、ゴソゴソと蠢く革袋が2つ、何も入っていない2本の細長いガラス瓶、大量のお花が活けられそうなガラスの大きな花瓶、真新しいコルク栓が綺麗な小さな小瓶、手拭き用のタオルだった。
 
 

とりあえず動いている革袋が気になって、本を机の上において袋の口をちょっと開けてみると、蜘蛛と蠍がそれぞれの袋にぎっしりと生きたまま入っていて驚いた。こういう虫は解毒の授業の時に何度も見ているから抵抗はないけど、この試験の時に使うということは解毒薬を作るのだろうか?

本を手にとってみると表紙にも背表紙にも題名がなく、最初のページを捲るとそこには材料などの準備するものが書かれているだけで、何の効果があるとか、完成品の名前は記されていない。
何を作るのか分からないけど、今後の自分の人生を左右する試験だからと、自分の今持ちうる力をかけて丁寧に作り上げようと決意した。


 
本を開いて一度深呼吸をすると、まず最初に蠍の入った革袋を手に持って浄化の魔法をかけた。すると、蠢いていた革袋は静かになり、液体がたっぷり溜まった感じがした。その革袋の中身を細長い瓶に移すと、赤い液体が瓶の真ん中くらいまで溜まった。
今度は蜘蛛の入った革袋を手に取って、同じように浄化の魔法をかけて細長い瓶に移すと、黒い液体が赤い液体と同じくらい溜まった。その2つの液体を大きな花瓶に入れると、赤い液体は黒い液体に色を消されることなく、赤黒い色に変化し生臭い独特の臭いがした。

その液体に上級の治療魔法をかけていくと、白い煙を上げながら中身はどんどん減っていき、やがて花瓶の底には薄い水たまりのような量だけ残った。
アルビン・スコーピオンとニニアラガの毒を同時に受けた人を治療したことがあるけど、解毒の魔法をかける前に治療魔法をかけても体内で蒸発することはなかった。でも、瓶に入れた蜘蛛と蠍の体液に治療魔法をかけると、こうして蒸発するのかとぼんやりと思った。


ページを捲ると、今までは調合法を書いた文字ばかりだったのに、蠍と蜘蛛に浄化の魔法をかけて外殻が溶け落ちる様子を描いたリアリティのある絵があった。その絵がやたらと印象に残って、時間が経った今でも忘れられない。

そして私が教わった白魔法の呪文とはまったく違う、何の魔法なのかも分からない呪文をかけると、赤黒い僅かな水たまりは無色透明に変化し臭いがなくなった。
キュポンとコルク栓を抜いてそれを小瓶に移すと、ポタポタと6滴落ちた。コルク栓を閉めれば完成だ。
 
 

「出来ました」
 
部屋の中央、ローズ様の横に座っていたユオシ様に小瓶を渡すと、強張った顔のユオシ様は震える手でそれを受け取った。立ち上がってコルク栓を抜き、瓶の口の上でゆっくりと手を仰いで臭いを嗅ぐと、顔を強張らせたまま栓を閉めた。



「かっ、完成品は……無色透明で臭いがない!で、では連れて参れ」
 
ユオシ様の驚きを含んだ言葉に反応するように、息を飲む音がそこかしこから聞こえた。それと同時に、強面の神官の1人がユオシ様にお辞儀をして外に出て行った。
何が始まるのか困惑しながら周囲を見渡すと、椅子に座っている見知った2人とローズ様は眉間に皺を寄せて厳しい表情だし、知らない6人は困惑した表情で互いに顔を見合わせていた。


それから間を置かずに再び扉が開かれると、出て行った神官が大きな板を取り付けた台車を押して部屋に入ってきた。その板の上には、猿轡を噛ませられた上半身裸の男性が目隠しをされていて、身体を大の字の状態で磔にされていた。部屋の中央で立ったままの私とユオシ様の前まで運ばれた男性は、見たところ健康そうだし毒に冒されている感じはない。何のために磔にされて、ここに連れてこられたのだろうか。



「みなさま、お集まり下さい」

ユオシ様がそう言うと、そこにいた全員が男性の周りを取り囲むように集まり始めた。
男性の頭の位置にユオシ様が立ち、その左手側には知らない6人がズラリと並んだ。ユオシ様の右手側には台車を押してきた神官、ローズ様、私、ジェネルド様とその護衛が並んだ。




「では、効果を試します」

ユオシ様の右にいた神官が猿轡と目隠しを外すと、彼は扉の方に歩いていった。そしてユオシ様が小瓶の栓を開けると、そこに棒を入れて男性の胸にポトリと一滴落とした。
 
 
 
 
「ぐあああああ!!!!!」
 
男性の絶叫が響き渡ると同時に、液体が落ちた場所から一瞬で頭の先から足手の先まで身体がどす黒く変色し、その身体から白い煙が立ち上り始めた。
磔にされた全身はビクンビクンと痙攣し、目はこれ以上無いほど見開かれて口から白い泡を吹いている。皮膚は変色しただけで出血していないけど、内部で肉が焼けているのか嫌な臭いを微かに発しながら、身体が急速に縮んでシワシワの身体に変化した。
 
 
「助けて…くれ…。魔力が…なくなって…苦しい…」
 
か細く苦しそうな声で呻き声を上げ、男性の目から溢れた透明な涙が、黒く変色した肌を濡らした。
 
 
 
男性を取り囲んだ全員が彼を見たまま絶句して固まっている中、5人の神官長達は口々に信じられない言葉を言い始めた。
 
 
「素晴らしい…」
 
「なんと言うことだ。これは本当に『聖なる一滴』なのか?」
 
「ランクSS、いや、それ以上だ。ランクなど付けられぬ」
 
「ローズ様。シェニカ様との時間をすぐにでも取ってくれますよね?」
 
「ローズ様、ユオシ殿。シェニカ様にその小瓶を返す前に、みんなに見えるように回して下さいませんか?どのようなものか間近で見たいですわ」
 
 
 
何が起こったのか分からなかった私は、絶句したままぐるりと周りを見渡すと、ローズ様とユオシ様は口に手を当てて信じられない物を見た様に男性に視線を向けたまま固まっている。
5人の神官長は顔を引きつらせながらも歓喜の表情を浮かべ、苦しむ男性を見ながら時折私に気味の悪い笑顔を向けてくる。
私の隣にいる見知った2人は目をまん丸にして苦しみ続ける磔の男性を見ているし、向かい側の黒髪の女性は驚いた顔をしているけど、幼さの残る黒い目で私をジッと見ていた。
 
 
ーー素晴らしい?『聖なる一滴』?私は解毒薬を作ったんじゃなかったの?この5人の神官長達はなぜ、嬉しそうに笑っていられるの?


「ローズ様、各国への挨拶回りはじっくりと時間をかけて頂けますよね?」

「アビ殿の仰る通りです。挨拶回りは通常なら2、3年ほどですが、シェニカ様に限っては4年。いや5年はかけてしっかりと繋がりを作るのが良いかと。我が国にお立ち寄りの時には、シェニカ様に相応しい男性を紹介しますので、お気に召しましたら是非とも夫にお迎え下さい」
 
「リベラーデ殿、結婚は旅立ちの日を迎えてからというのがルールですよ。
シェニカ様、旅のお洋服は是非わたくしにすべておまかせくださいませ。採寸のために、しばらくここに滞在させて頂きますわ。その時、女同士で色んなお話をしましょう?シェニカ様には是非とも教えて差し上げたい素敵なお話がありますの。ローズ様、構いませんよね」

「ミャジャ殿だけズルいですよ。ドルトネアは優秀な傭兵や退役軍人がおりますので、必ずシェニカ様のお役に立てると思います。シェニカ様が護衛に何を求めるのか、詳しいお話を聞かせて下さいませ。旅立ちの日までに見繕いましょう」

「皆さん抜け駆けは禁止ですよ。ここは平等に参りましょう。トラントから持ってきた美味しい紅茶の茶葉がありますので、シェニカ様を囲んで今から全員で話を伺おうではありませんか」
 


ーー目の前で苦しんでいる人がいるのに、この人達は何を言っているの?ローズ様はどうしてその男性を助けようとしないの?

混乱したままだった私は、狂気の笑顔を浮かべた人達がこっちに向かってくるのがスローモーションで見えた。彼らから逃げようと身体を動かそうとしたけど、手は動くのに足は言うことを聞かなかった。


「シェニカ?!」

私は助けてもらいたくて自分の右隣に居た人の腕を掴むと、全身から力が抜けて目の前が真っ暗になった。
 










 
 
「シェニカ、目が覚めましたか?」
 
「ローズ…様?」
 
目を開けて声のした方を見ると、窓から差し込む夕日を浴びたローズ様が私のすぐ近くに置かれた椅子に座っていた。私はどうなったのかと状況を確認してみると、ここは見慣れた私の部屋でベッドに横になっていた。
寝たままでは失礼と思い、けだるい身体に力を入れながら上体を起こすと、立ちあがったローズ様は私の背中にクッションを当てて背もたれを作ってくれた。
 
 
 
「そのままで大丈夫です。貴女はあの場で気絶したので部屋に運びました」

「ご迷惑をおかけしました…」
 
私が非礼を詫びると、椅子に座ったローズ様は首を左右に振った。
 
 
 
「良いのですよ。無理もありません」
 

「ローズ様、あの…」
 

「あの試験について聞きたいのでしょう?あれは『白い渡り鳥』のみが作れる『聖なる一滴』と呼ばれる毒薬です」

 
「ど、毒薬…?」
 
私が作ったのは解毒薬ではなく、あんな凄惨な被害を生む毒薬だったなんて…。どうして教えてくれなかったのだろう。




「身を守る力が少ない『白い渡り鳥』が、自分の身を守る時に使う毒薬なのですよ。あの毒薬は日持ちしないので毎日作ることになります」
 
ローズ様の言葉に私は耳を疑った。私の気持ちが顔に出ていたのか、ローズ様の顔が困ったような表情になった。
 



「ローズ様、みんなあんな危険な毒薬を毎日作っているのですか?どうして作る前に教えてくれなかったのですか?私はてっきり解毒薬かと…」


「この『聖なる一滴』は、悪用を避けるために神官長と『白い渡り鳥』しか知らされないものなのです。事前に話すと、仲の良い巫女や神官に口を滑らせるかもしれないので、試験の日まで教えないようになっているのです。
そして『聖なる一滴』を作るのは、『白い渡り鳥』の身を守るために必要な仕事。私も昔は毎日作っていました」


「そうなんですか…」

ローズ様が現役の時も、他の『白い渡り鳥』の人達も、あんな恐ろしい毒薬を毎日作っているなんて信じられない。例え身の危険を感じる場面になっても、凄惨な結果になるのだと知った私には恐ろしくて使えそうにない。





「試験の結果、貴女のランクはつけないことになりました」
 

「え?」
 

「ランクがつけられなかったのですよ。ランクSS以上の能力が認められたということです。こんなことは初めてです。
今いる『白い渡り鳥』のほとんどはランクA。ランクSの私やジェネルド殿が作る毒薬の効果は、貴女の結果とは違うのです」
 

「どういう…ことですか?」
 

「ランクAの者が作る毒薬は、薬が触れた部分とその周辺が黒く変色し、痛みを伴いながら痺れて穏やかに魔力が抜けていくだけ。ランクSの者が作る毒薬は、その結果が急速に進みます。ランクSSは痛みや痺れ、変色の範囲が少し広がり、一瞬で魔力が枯渇すると言われています。
他の者が作ると赤黒い色で生臭い独特の臭いがするのに、貴女の作ったものは無色透明の無臭。そして貴女の結果はそれを遥かに超えているのです」
 

「そんな…」
 

「それだけ質の良い白魔法が使えるということなんでしょう。喜ばしい結果なんでしょうが、余りにも壮絶な結果で私も素直におめでとうとまだ言えません」
 

「ローズ様…。私はもうあの毒薬は作りたくありません」
 
苦しむ男性を思い出すと、カタカタと身体が震え出してしまう。
震える私に気付いたローズ様は、布団の上にあった私の手を取って、手の甲を落ち着かせるように優しく何度もさすってくれた。


 
「気持ちは分かります。でも、貴女の身を守るためには必要な物なのです。必要悪として受け入れるしかありません」

 
「でも…」

 
「そうだ。作りたくないのなら、毎日作らなくて済むように保存出来れば良いのでは?普通の魔法だと保存はできませんが、魔道書の魔法なら出来るかもしれませんよ」

 
「はい。やってみます」
 
便利魔法で保存出来るなら毎日作る必要がなくなる。でも、あんな惨状になってしまうのならば、もう使いたくない。そう思いながらも渡された小瓶を受け取ると、私はその場で魔法をかけた。

 

「良く出来ましたね。効果がちゃんとあるか試してみます」
 
私がそれを渡すと、ローズ様は大事にハンカチで包んでローブの胸内ポケットに仕舞った。そして、私の頭を優しく撫でてくれた。
 
 
 
「ローズ様、この毒薬に解毒薬はないのですか?」
 

「ありません。昔はあったようですが、解毒薬に必要な薬草がもう絶滅して存在しないのです」
 

「そんな…。じゃあ試験の時に毒を受けた人はどうなるんですか?」
 

「彼は元々死刑囚。近いうちに処刑されるでしょう。しばらくは外野がうるさいので、この部屋で鍵をかけて大人しくしていて下さい。部屋の外からも鍵をかけますが、私以外の人の声に反応しないように」


とんでもないことをしてしまったのだという罪悪感、狂気の笑顔を浮かべた神官長達が手を伸ばして迫って来る恐怖に襲われて、涙がどんどん溢れてきた。
私が泣き始めたことに気付いたローズ様は、私の涙と音にならない嗚咽が治まるまで、ギュッと抱き締めて背中を優しく擦ってくれた。



「ローズ様、なんとか解毒薬を作ることは出来ないでしょうか」


「薬草はありませんが、作り方を書いたレシピは持っています。それを明日持ってきましょう」


「お願いします」
 
その夜。ベッドの上で目を閉じていたけど、苦しむ男性の姿が忘れられなくて眠れなかった。深夜になった頃、横になっているのが嫌になって、明かりも灯さず月明かりもない真っ暗な部屋を手探りで歩いて机に突っ伏した。


いくら身を守るためとはいえ、出来ればもう2度とあの毒薬なんて使いたくない。なんとか解毒薬を作ることが出来ないだろうか、使わずに済む方法はないだろうか。もう2度と苦しむ姿を見ないで済む方法はないだろうかと、答えの出ないことをずっと考えた。
 





ーーコンコンコン。

ドアがノックされた音で目が覚めると、いつの間にか窓から陽の光が入ってきていた。机に突っ伏したまま朝まで眠ってしまっていたらしい。


「シェニカ、食事を持ってきましたよ」

ローズ様の声に椅子から立ち上がると、身だしなみを整えながらドアを開けた。すると、疲れた顔をしたローズ様が食事を乗せたお盆を持って部屋に入ってきて、今まで突っ伏していた机の上に食事を置いた。


「わざわざ持ってきて頂いて、ありがとうございます」

私がお礼を言うと、ローズ様は私に椅子に座るように促した。この部屋には椅子は1つしかないからローズ様が座る場所がないと思っていると、ローズ様は立ったまま喋りだした。


「預かった『聖なる一滴』ですが、昨晩私が試してみたところ効果は薄れていませんでした。これで毎日作る必要はなくなりましたね」


「はい…」

効果があったと言うことは、また誰かが犠牲になったのか。そう思うと、目に涙が滲んできた。ローズ様は私が泣きそうな状態に気付いたのか、座った私の目尻にシワシワの指を当てて涙を拭ってくれた。



「それと。シェニカの『聖なる一滴』の効果や形状は、試験の結果として世界中の神官長に公表されます。結果が公表されるのは諦めるしかありませんが、重要なのは保存可能なことです。
保存が可能と知れば悪用したがる者が必ず出てきますが、保存が出来ることは私とユオシ殿、そしてジェネルド殿と護衛の4人だけしか知りません。そして具体的な保存方法を知っているのは、あの魔法のことを知っている私とジェネルド殿とその護衛だけです。貴女の将来を守るため、保存可能なことを秘密にすると4人で血判状をしたためました。

ただし、万が一ジェネルド殿の護衛が保存について知っていると情報が漏れた場合、『なんで護衛風情が知っていて、神官長が知らないのか!』と、貴女やジェネルド殿達に煩く騒ぎ立てる者が出てきます。なので、ユオシ殿にはジェネルド殿の護衛が知っているとは伝えていません。彼に何か言われたら口裏を合わせておいて下さいね」



「はい、分かりました」

血判状というのは、何かをする時に裏切りを防ぐために交わすもので、家族や友人といった近しい人の立ち会いのもと、誓いの言葉を書いた紙に自分の血で名前を書き、ネームタグに血を塗って血判状に押しつける。その血判状の誓いを破った時、その誓いを交わした他の者から殺害されても罪に問われないという代物だ。

血判状は代表者に対して1枚、自分用に1枚作ることになっていて、代表者は集まった血判状を大事に保管し、血判状を出した全員の名前を記載した目録をみんなに発行する。
でも、ローズ様の言葉の意味を考えると、ユオシ様に渡す目録にはジェネルド様の護衛の名前を記載しないということだから、彼を信用していないということだ。
ローズ様はジェネルド様達とは年に1度くらいしか会わないのに、どうして毎日顔を合わせているユオシ様以上に信用しているのだろうか。私の目にはユオシ様が慎ましくて良い人にしか映っていないから、とても不思議だったけど理由を聞くことは出来なかった。でも、結果的にユオシ様が裏切っていたのだから、ローズ様は彼の本質を見抜いていたのだろう。


ちなみに、裏切りが起きて殺人が起きてしまった場合、本当にその人が裏切ったのか、誰が殺したのかということは血判状に名を連ねた者だけが調べて判断することになっているので、通常なら治安を取り締まっている軍でもそれを見せられると介入出来ない。そして殺害したことを周囲の人に知られても、咎められることもないし、堂々と胸を張って生活できる。
誓いをした自分以外の人に謀略を図られて殺されてしまうかもしれないリスクがあるから、軽い気持ちで出来るものではない。血判状というのは「結束を示すためにする命がけの誓い」なのだ。
そんな血判状を私のためにしたためてくれたのかと思うと、当時は4人の心遣いに心から感謝した。




「それと、これが解毒薬のレシピです」


「ありがとうございます」
 

レシピを受け取ると、ローズ様は私をいつになく真剣な目で見てきた。





「シェニカの『聖なる一滴』を受けた者は、解毒薬でも回復しませんでした」


「え?薬草が絶滅しているんですよね。どうして回復しなかったと分かるのですか?解毒薬があるんですか?!」


「私が『白い渡り鳥』になった時、解毒薬に使う薬草は既に絶滅していましたが、先人が作った解毒薬をいくつか貰いました。その解毒薬は、私が作った『聖なる一滴』についてはきちんと解毒出来た確かな物です。それが1つだけ残っていたので使ってみましたが、まったく効果はありませんでした。それと、念のために解毒の魔法も治療魔法もかけてみましたが、こちらも効果はありませんでした。
あくまで私の予想ですが、シェニカの『聖なる一滴』の効果と他の『白い渡り鳥』の毒薬の効果はまったく違うものなので、その解毒薬がきちんと効果を発揮するとは思えません」


「そんな……」


「身体に治療魔法をかけても、毒の影響なのか一向に回復の見込みはありませんでしたし、焼けただれた部分を切断して『再生の砂』で身体を作るにしても、魔力が枯渇していると出来ません。
治療できない貴女の『聖なる一滴』は、身に危険が迫った時には切り札となるでしょう。悪用されると被害は甚大ですが、貴女ならばきちんと管理できるはず。上手く付き合いなさい」


「ローズ様、私はそれでもこの解毒薬を作りたいです」


このレシピに書いてある解毒薬が私の『聖なる一滴』に効果がないなら、私が毒薬を使わなければ良いのだ。でも現役の『白い渡り鳥』が『聖なる一滴』を使っているのなら、これから先、どこかで治療を求められるかもしれない。その時、この解毒薬がなければ治せないのなら、私が作って助けてあげたい。


「分かりました。あの神官長達がしばらくはここに居座る様子ですから、部屋の外に出してあげることは出来ません。欲しいものがあれば遠慮なく言いなさい」






私はローズ様の言葉に甘えて昔の薬草辞典を貸してもらい、便利魔法を使って必要な薬草を再生して解毒薬の調合をなんとか出来ないかと試行錯誤を始めた。
そして試験の日から2週間が経ったある日。私はようやく部屋の外に出るのを許可された。


「はぁ、やっとあの人達は帰りましたよ。まったくしつこい連中でした」


「ローズ様、守って頂いてありがとうございます」


「愛弟子を守るのは師の役目です。ですが、あの人達の相手をして私も色々考えることが出来ました。
シェニカよくお聞きなさい。本当ならば洗礼を受けて正式な『白い渡り鳥』になった後、世界中に挨拶回りに行く予定でしたが、貴女にはそれをさせないことにしました」


「え?」


「旅の道中では、神殿に行って滞在日数や次の行き先などを伝えるようになっています。でも、行き先などを伝えるのは義務ではないし、貴女ならば『再生の砂』を自分で増やせるので、神殿に行く必要性はないでしょう。神殿に近付くべきではありません」


ローズ様の言っていることが理解出来なくて、そのままの状態で固まった。


「そんな不安な顔をしないで。貴女を突然1人で世界に放り出すことになってしまいますが、これから旅立ちの日まで私がしっかりと教えますから安心なさい」


「はい…」

ローズ様は優しい手で私の頭を撫で、ギュッと抱き締めてくれた。



それからは『白い渡り鳥』としての振る舞いや、特権、禁止事項などの指導を受けながら研究を続けると、解毒薬に必要な薬草の再生に成功した。でも、その薬草を使ってきちんと効果があるのかは、『聖なる一滴』を受けた人に試してみないといけない。
でも、私はあの光景をもう一度見るのが怖くて、結局その解毒薬に効果があるのか分からないまま、ローズ様から洗礼を受けて『白い渡り鳥』となり、旅立ちの前日を迎えてしまった。


元々私物なんてほとんどなかったので、6年間使った神殿の部屋を片付けても、あまり部屋の中は変わらなかった。この部屋ともお別れなのかとベッドに腰掛けて思い出に浸っていると、ローズ様が外から鍵を開けて部屋に入ってきた。
ベッドから立ち上がって出迎えようとすると、ローズ様は手でベッドに戻るように合図をした。

その通りにまたベッドの縁に座ると、ローズ様は私の前に立った。穏やかな微笑を浮かべて私の額飾りに触れ、頭を優しく撫でてくれた。



「6年間、本当によく頑張りましたね。怪我や病気になった人は、身分に関係なく治療の手を欲しています。治療を拒否することも出来ますが、可能な限り治療を施してあげて下さいね」


「ローズ様の教えは、しっかりと身に染み渡っていますから大丈夫です」


私が自信を持ってそう言うと、ローズ様は嬉しそうに笑ってくれた。神殿に来てから6年、私は友達に会うことも実家に帰省することも出来なかったけど、ずっとローズ様にくっついて白魔法や便利魔法、色んな話を聞いてきた。第2の親でもあり尊敬すべき先輩でもあるローズ様は、私の憧れる『白い渡り鳥』でもある。現役時代のローズ様を見ることが出来なかったのが残念だ。



「何かあったらこれで手紙を送りなさい。すぐに対応しましょう」


ローズ様が差し出したのは乳白色のカケラで、そこには大小様々な赤い三日月が薔薇のような模様を作っている。薔薇に見えるなんてローズ様らしいなと思いながら大事に受け取ると、胸ポケットから自分のカケラを取り出してローズ様に渡した。

私が洗礼を受ける前日、護衛付きだけどやっと外出許可が出た。6年ぶりに見た町は全然変わっていなくて、ウキウキした気持ちでこのカケラを作った。もし見慣れない町に変わっていたら、私は取り残されたようでとても寂しかったと思う。でも、そうじゃなかったことに、長閑な田舎町らしさを感じてとても嬉しかった。




カケラをローブの内ポケットに仕舞ったローズ様は、私を立ち上がらせるとギュッと手を握った。どうしたのかと思ってローズ様の顔を見ると、ちょっと泣きそうな顔をしていた。


「これが私の最後の教えです。今まで散々神殿に近付くな、王族や貴族、将軍、神官長といった人達をすぐに信用するなと教えてきました。
でも、中には純粋に貴女を心配し、想ってくれる人が出て来るでしょう。貴女がしっかりとその人を判断し、味方を作っていきなさい。
貴女の人生は貴女のもの。私が自由に生きたように、貴女も自分を信じて楽しく旅をするのですよ。鳥のように自分の意思で自由に生きなさい」


「はい」


その翌日。私は故郷の町に背を向けて、ローズ様から受け継いだ額飾りを何度も触りながら『白い渡り鳥』としての第一歩を踏み出した。

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