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第20章 渦紋を描く
15.広がる憶測
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今回はファズ視点のお話となります。
■■■■■■■■■
「レオンはリジェット鉱がもし手に入ったら、どんな武器を作りたいの?」
「使い勝手の良い一般的なサイズの剣だな」
「今持ってるような大きな剣じゃなくて?」
「このサイズの剣を作るには相当量のリジェット鉱が必要になるから、ルクトが持ってる剣くらいで十分だ。取り回しもいいしな」
「レオンって一般的なサイズの剣も使えるんだね」
「こういう大剣だけじゃなく、普通の剣も槍も使えるぞ」
「へ~!すごいね!」
「そういや、親が鍛冶職人ならお前も武器を作れるのか?」
「一応修行したが、まともに作れるのは針とか簪を応用した小さな暗器だったな。鍛冶職人の息子なのに、一番出来が良かったのは木で作る剣の鞘だった」
「へぇ。器用だな」
「木工職人さんのところへ修行に行ったの?」
「ガキのころ、親父とよくつるんでた木工屋に入り浸ってたんだ。その頃から色々作らせてもらってたから木工は得意だな。木工職人になろうかとも思ったが、他の世界も見たくなって傭兵になった」
「なるほど~」
まもなくドシェを出発する準備が整うということで、シェニカ様と2人の護衛をロビーの待合ソファにお連れしたのだが、細かなトラブルが重なってしまい、予定よりも少し時間がかかってしまっている。苛立たれても仕方がない状態だが、3人は楽しそうに談笑をして遅れていることを気にしていない。その様子にホッとしながら聞き耳を立てていると、この3人は非常に仲が良いのが伝わってくる。
『赤い悪魔』と関わったのは今回初めてだが、彼は軍人と関わることもなければ、傭兵同士でもつるむこともなく、特に二つ名のついた傭兵同士とは敵対していると聞いていた。しかし、今回神殿にあったシェニカ様の記録を見ると、彼は真面目に護衛の仕事をしているし、二つ名のついた傭兵と一緒に行動していたりしていることから、シェニカ様と関わって性格が丸くなったらしい。
『青い悪魔』も間近で見たのは今回初めてだが、彼も軍人と関わることのない傭兵として有名であるものの、『赤い悪魔』と比べると落ち着いていて、周囲をよく見て自分がどういう役回りを求められているのか正確に把握している。
『青い悪魔』について、ディスコーニ様は「彼には実力と実績もありますし、求められている役回りを正確に把握出来ています。私はもちろん、バルジアラ様だけでなく宰相様も部下にしたいタイプで、傭兵にしておくにはもったいない人物です。
それだけでも十分ですが、彼はシェニカ様と恋愛感情が絡まない、友人として信頼関係を構築しているのが、なによりの強みですね。今後、彼はあちこちの国から引く手数多となるでしょう」と評価していた。
3人の会話を聞いていると、打ち合わせを終えたディスコーニ様がシェニカ様の隣に座った。
「フェアニーブに入った後の細かいことなのですが、話をしてもいいですか?」
「うん、いいよ」
「議場で行われる尋問は、シェニカやルクトさんを始め、私やバルジアラ様など、実際にトラントに向かった者はウィニストラ側の当事者席に座ることになります。トラントに行っていない王太子殿下と文官1名もこの席に座るのですが、当事者席は真実を述べる宣誓をしなければならず、虚偽の発言をすると罪に問われる可能性があります。これについては、面倒かもしれませんがご理解をお願いします」
「うん、いいよ。ルクトも協力してくれる?」
「いいけど。こいつはどうなるんだ?」
「レオンさんは一件に関わってはいないので、宣誓を求められないウィニストラの議席に座ることも出来ますが、宣誓すれば当事者席に座ることも可能です」
「俺に質問されても知らないとしか答えようがないぞ」
「もちろん、正直に『関わっていないから知らない』と返事をすれば問題ありません。真実を述べることが求められるのは、あくまでも今回の大罪に関することなので、関係ないことを聞かれた場合も『今回の件に関係ないから返答しない』と言えば罪に問われることはありません」
「なら俺も宣誓して当事者席にいるよ」
「分かりました。では返答の仕方を書いたメモを後で渡しますね。それと、尋問前にフェアニーブの議場内を見学できるそうですが、興味はありますか?」
「中を見れるのか!?」
『青い悪魔』は興奮したのか、ソファに座ったまま前のめりになった。彼の反応はシェニカ様と『赤い悪魔』も意外だったらしく、びっくりした様子で彼を見ている。
「興味ある?」
「トーン木を使った最大級の作品だと有名なんだよ。ゆっくり見る機会なんてないし、一般人は入れない場所だから、絶対見た方がいいぞ」
「そうなんだ、じゃあ見学させてもらおっか。ルクトもいい?」
「いいよ」
シェニカ様と『赤い悪魔』の表情から察するに、トーン木がお分かりになっていないらしい。稀少な木材ではないが、木工職人か建築に関わる者しか知らないようなマイナーな木材だから、それが当然の反応だと思う。
「初日のスケジュールなのですが、客室で朝食を食べたあと、議場横にある当事者控室に移動し、そこで各国代表者が議場に集まるのを待ちます。すべての国が集まったら、議場に移動して議長が尋問の開催を宣言し、当事者席に座る者が1人1人宣誓文を読み上げることになります。その後、トラント国王や4人の『白い渡り鳥』様を議場に呼び、議長が各国から受け付けた質問を投げかける、という形になります。
尋問はお昼の食事休憩で区切る形で午前の部、午後の部の2部に分けています。シェニカは初日の午前の部だけ出席して、午後は夕方まで茶会に出席。2日目以降は午前、午後ともに茶会に出席してもらい、シェニカに返答してもらうことがあれば書面で回答してもらう、という形で進めたいと思います」
「尋問に出席するのは初日の午前だけでいいの? 茶会に出席する人は、その時間尋問に出席できないよね。大丈夫?」
「茶会と尋問を同時進行にしても良い、というのは多数決で決まったので、気にする必要はありません。茶会に出席している間、その国の大使らがしっかり見届けていますし、尋問の内容は速記官が記録した書類を配布するので大丈夫ですよ」
「そうなんだ。なら良かった」
「私が尋問や会議でシェニカの側を離れている間、シェニカの警備はトゥーベリアス殿とその副官5人で行います。また、シェニカの身の回りの手配のために、私の副官の中から3人を常につけておきますので、何かあったら遠慮なく言って下さい。
茶会ではお茶やお菓子が出るので、夕食の時間を決めていません。ルクトさんとレオンさんも、空腹になった時に外で控えている私の副官達に言って下さい。これが茶会の進行予定表です」
「セゼルが最初なんだね」
「順番はくじ引きで決めましたが、挨拶回りの時と同様に、最初の国だけはシェニカの生国と決めました」
「そうなんだ」
「あと、神官長たちとの面会ですが。シェニカが声をかけてくれれば、すぐにでも集まってもらえると思いますので、日程はシェニカが決めて問題なさそうです」
「じゃあ初日の夜にしようかな」
「ではそのように手配しますね。知り合いや仲良くなった方と個人的に話したい時、シェニカの使う客室に呼ぶことも出来ますが、フェアニーブにある小会議室で話すことも出来ます。必要があれば手配しますので、副官達に言って下さいね。
他にも何か異変を感じたり、困ったことがあればすぐに声をかけてください。決して1人にはならないように」
「いつも色々手配してくれてありがとう」
今日も仲睦まじいご様子に安心する一方、ディスコーニ様のご卒業をいつ祝えるのか気になってしょうがない。急かすわけにも策略に嵌めることも出来ず、なかなか進まない関係をただ見守るしかないのがもどかしい。
そんなことを思っていたら、少し離れたロビー席に座るハルディアルド一行の視線が気になった。若い王太子は腕を組み、不満そうな顔でディスコーニ様を観察し、時折隣に座る文官と話している。どうやらシェニカ様が自分に気付かないのは、ディスコーニ様のせいだと思っているようだ。
ここ最近、お2人の親しいご様子を見た他国の者たちは、「シェニカ様がディスコーニ様の身を案じ、『聖なる一滴』を渡しているのではないか」と勝手に想像を膨らませ、それが事実のように広がっている。その話はフェアニーブに向かっている我々だけでなく、陛下の耳にまで入ったようで、ディスコーニ様はバルジアラ様だけでなく陛下にまで、そのような事実があるか確認された。
ディスコーニ様はそのような事実はないと正直にお答えになっていたものの、今後の駆け引きが優位に進められる可能性を考え、他国には名言を避ける形で対応することにした。そのため、ウィニストラの周辺国は慌てふためき、戦況に困っている国はディスコーニ様はもちろん、王太子殿下や妃殿下に近付いて、譲ってもらおうと画策している。
今は本当に持っていないとしても、今後は『聖なる一滴』を貰う日が来るかもしれない。そうなった場合、ディスコーニ様はバルジアラ様の影響力を超えてしまい、軍内部の統制に混乱をきたすことも考えられる。また、中央から弾かれた貴族たちは、ディスコーニ様にクーデターを計画させようとする可能性もあり、陛下や殿下、宰相様らとの関係にも影響を与えかねない。
ただ、戦場に行くという仕事である以上、必ず生きて帰れるとは言えない。それは仕方がないとは言え、国のため、バルジアラ様のため、仲間たちのため、恩のあるシェニカ様のためにも、ディスコーニ様だけでも生き残って頂きたい。だから、シェニカ様の『聖なる一滴』は欲しいところだが、それ以外の影響を考えると頭が痛い。
「この数の国と茶会とか。どんだけ時間がかかるんだよ」
『赤い悪魔』はシェニカ様から渡された茶会の進行予定表を見ると、苛立った様子で言葉を漏らした。書類を眺めていく内に嫌な印象を抱く国があったのか、時折眉間に皺を寄せている。その様子が気になったのか、彼の隣に座る『青い悪魔』も書類を覗き込むと、その量の多さに驚いていた。
「全ての国と長話をする必要はありません。気の合う国もあれば、そうでない国もありますから、どこかで篩にかける必要が出てくると思います」
「篩にかけるか…」
「進行予定表はあくまでも目安ですので、各国は前倒しになる場合や遅れる場合も想定して準備します。話したくない国があれば早々に切り上げ、興味のある国があれば長めに話してみる、という形で大丈夫です。
では準備が出来たようなので行きましょうか」
ディスコーニ様たちの前を歩いて出口へ向かっていると、扉の横で控えているトゥーベリアス様が、今日もシェニカ様に向かって笑顔を浮かべていらっしゃった。
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「今持ってるような大きな剣じゃなくて?」
「このサイズの剣を作るには相当量のリジェット鉱が必要になるから、ルクトが持ってる剣くらいで十分だ。取り回しもいいしな」
「レオンって一般的なサイズの剣も使えるんだね」
「こういう大剣だけじゃなく、普通の剣も槍も使えるぞ」
「へ~!すごいね!」
「そういや、親が鍛冶職人ならお前も武器を作れるのか?」
「一応修行したが、まともに作れるのは針とか簪を応用した小さな暗器だったな。鍛冶職人の息子なのに、一番出来が良かったのは木で作る剣の鞘だった」
「へぇ。器用だな」
「木工職人さんのところへ修行に行ったの?」
「ガキのころ、親父とよくつるんでた木工屋に入り浸ってたんだ。その頃から色々作らせてもらってたから木工は得意だな。木工職人になろうかとも思ったが、他の世界も見たくなって傭兵になった」
「なるほど~」
まもなくドシェを出発する準備が整うということで、シェニカ様と2人の護衛をロビーの待合ソファにお連れしたのだが、細かなトラブルが重なってしまい、予定よりも少し時間がかかってしまっている。苛立たれても仕方がない状態だが、3人は楽しそうに談笑をして遅れていることを気にしていない。その様子にホッとしながら聞き耳を立てていると、この3人は非常に仲が良いのが伝わってくる。
『赤い悪魔』と関わったのは今回初めてだが、彼は軍人と関わることもなければ、傭兵同士でもつるむこともなく、特に二つ名のついた傭兵同士とは敵対していると聞いていた。しかし、今回神殿にあったシェニカ様の記録を見ると、彼は真面目に護衛の仕事をしているし、二つ名のついた傭兵と一緒に行動していたりしていることから、シェニカ様と関わって性格が丸くなったらしい。
『青い悪魔』も間近で見たのは今回初めてだが、彼も軍人と関わることのない傭兵として有名であるものの、『赤い悪魔』と比べると落ち着いていて、周囲をよく見て自分がどういう役回りを求められているのか正確に把握している。
『青い悪魔』について、ディスコーニ様は「彼には実力と実績もありますし、求められている役回りを正確に把握出来ています。私はもちろん、バルジアラ様だけでなく宰相様も部下にしたいタイプで、傭兵にしておくにはもったいない人物です。
それだけでも十分ですが、彼はシェニカ様と恋愛感情が絡まない、友人として信頼関係を構築しているのが、なによりの強みですね。今後、彼はあちこちの国から引く手数多となるでしょう」と評価していた。
3人の会話を聞いていると、打ち合わせを終えたディスコーニ様がシェニカ様の隣に座った。
「フェアニーブに入った後の細かいことなのですが、話をしてもいいですか?」
「うん、いいよ」
「議場で行われる尋問は、シェニカやルクトさんを始め、私やバルジアラ様など、実際にトラントに向かった者はウィニストラ側の当事者席に座ることになります。トラントに行っていない王太子殿下と文官1名もこの席に座るのですが、当事者席は真実を述べる宣誓をしなければならず、虚偽の発言をすると罪に問われる可能性があります。これについては、面倒かもしれませんがご理解をお願いします」
「うん、いいよ。ルクトも協力してくれる?」
「いいけど。こいつはどうなるんだ?」
「レオンさんは一件に関わってはいないので、宣誓を求められないウィニストラの議席に座ることも出来ますが、宣誓すれば当事者席に座ることも可能です」
「俺に質問されても知らないとしか答えようがないぞ」
「もちろん、正直に『関わっていないから知らない』と返事をすれば問題ありません。真実を述べることが求められるのは、あくまでも今回の大罪に関することなので、関係ないことを聞かれた場合も『今回の件に関係ないから返答しない』と言えば罪に問われることはありません」
「なら俺も宣誓して当事者席にいるよ」
「分かりました。では返答の仕方を書いたメモを後で渡しますね。それと、尋問前にフェアニーブの議場内を見学できるそうですが、興味はありますか?」
「中を見れるのか!?」
『青い悪魔』は興奮したのか、ソファに座ったまま前のめりになった。彼の反応はシェニカ様と『赤い悪魔』も意外だったらしく、びっくりした様子で彼を見ている。
「興味ある?」
「トーン木を使った最大級の作品だと有名なんだよ。ゆっくり見る機会なんてないし、一般人は入れない場所だから、絶対見た方がいいぞ」
「そうなんだ、じゃあ見学させてもらおっか。ルクトもいい?」
「いいよ」
シェニカ様と『赤い悪魔』の表情から察するに、トーン木がお分かりになっていないらしい。稀少な木材ではないが、木工職人か建築に関わる者しか知らないようなマイナーな木材だから、それが当然の反応だと思う。
「初日のスケジュールなのですが、客室で朝食を食べたあと、議場横にある当事者控室に移動し、そこで各国代表者が議場に集まるのを待ちます。すべての国が集まったら、議場に移動して議長が尋問の開催を宣言し、当事者席に座る者が1人1人宣誓文を読み上げることになります。その後、トラント国王や4人の『白い渡り鳥』様を議場に呼び、議長が各国から受け付けた質問を投げかける、という形になります。
尋問はお昼の食事休憩で区切る形で午前の部、午後の部の2部に分けています。シェニカは初日の午前の部だけ出席して、午後は夕方まで茶会に出席。2日目以降は午前、午後ともに茶会に出席してもらい、シェニカに返答してもらうことがあれば書面で回答してもらう、という形で進めたいと思います」
「尋問に出席するのは初日の午前だけでいいの? 茶会に出席する人は、その時間尋問に出席できないよね。大丈夫?」
「茶会と尋問を同時進行にしても良い、というのは多数決で決まったので、気にする必要はありません。茶会に出席している間、その国の大使らがしっかり見届けていますし、尋問の内容は速記官が記録した書類を配布するので大丈夫ですよ」
「そうなんだ。なら良かった」
「私が尋問や会議でシェニカの側を離れている間、シェニカの警備はトゥーベリアス殿とその副官5人で行います。また、シェニカの身の回りの手配のために、私の副官の中から3人を常につけておきますので、何かあったら遠慮なく言って下さい。
茶会ではお茶やお菓子が出るので、夕食の時間を決めていません。ルクトさんとレオンさんも、空腹になった時に外で控えている私の副官達に言って下さい。これが茶会の進行予定表です」
「セゼルが最初なんだね」
「順番はくじ引きで決めましたが、挨拶回りの時と同様に、最初の国だけはシェニカの生国と決めました」
「そうなんだ」
「あと、神官長たちとの面会ですが。シェニカが声をかけてくれれば、すぐにでも集まってもらえると思いますので、日程はシェニカが決めて問題なさそうです」
「じゃあ初日の夜にしようかな」
「ではそのように手配しますね。知り合いや仲良くなった方と個人的に話したい時、シェニカの使う客室に呼ぶことも出来ますが、フェアニーブにある小会議室で話すことも出来ます。必要があれば手配しますので、副官達に言って下さいね。
他にも何か異変を感じたり、困ったことがあればすぐに声をかけてください。決して1人にはならないように」
「いつも色々手配してくれてありがとう」
今日も仲睦まじいご様子に安心する一方、ディスコーニ様のご卒業をいつ祝えるのか気になってしょうがない。急かすわけにも策略に嵌めることも出来ず、なかなか進まない関係をただ見守るしかないのがもどかしい。
そんなことを思っていたら、少し離れたロビー席に座るハルディアルド一行の視線が気になった。若い王太子は腕を組み、不満そうな顔でディスコーニ様を観察し、時折隣に座る文官と話している。どうやらシェニカ様が自分に気付かないのは、ディスコーニ様のせいだと思っているようだ。
ここ最近、お2人の親しいご様子を見た他国の者たちは、「シェニカ様がディスコーニ様の身を案じ、『聖なる一滴』を渡しているのではないか」と勝手に想像を膨らませ、それが事実のように広がっている。その話はフェアニーブに向かっている我々だけでなく、陛下の耳にまで入ったようで、ディスコーニ様はバルジアラ様だけでなく陛下にまで、そのような事実があるか確認された。
ディスコーニ様はそのような事実はないと正直にお答えになっていたものの、今後の駆け引きが優位に進められる可能性を考え、他国には名言を避ける形で対応することにした。そのため、ウィニストラの周辺国は慌てふためき、戦況に困っている国はディスコーニ様はもちろん、王太子殿下や妃殿下に近付いて、譲ってもらおうと画策している。
今は本当に持っていないとしても、今後は『聖なる一滴』を貰う日が来るかもしれない。そうなった場合、ディスコーニ様はバルジアラ様の影響力を超えてしまい、軍内部の統制に混乱をきたすことも考えられる。また、中央から弾かれた貴族たちは、ディスコーニ様にクーデターを計画させようとする可能性もあり、陛下や殿下、宰相様らとの関係にも影響を与えかねない。
ただ、戦場に行くという仕事である以上、必ず生きて帰れるとは言えない。それは仕方がないとは言え、国のため、バルジアラ様のため、仲間たちのため、恩のあるシェニカ様のためにも、ディスコーニ様だけでも生き残って頂きたい。だから、シェニカ様の『聖なる一滴』は欲しいところだが、それ以外の影響を考えると頭が痛い。
「この数の国と茶会とか。どんだけ時間がかかるんだよ」
『赤い悪魔』はシェニカ様から渡された茶会の進行予定表を見ると、苛立った様子で言葉を漏らした。書類を眺めていく内に嫌な印象を抱く国があったのか、時折眉間に皺を寄せている。その様子が気になったのか、彼の隣に座る『青い悪魔』も書類を覗き込むと、その量の多さに驚いていた。
「全ての国と長話をする必要はありません。気の合う国もあれば、そうでない国もありますから、どこかで篩にかける必要が出てくると思います」
「篩にかけるか…」
「進行予定表はあくまでも目安ですので、各国は前倒しになる場合や遅れる場合も想定して準備します。話したくない国があれば早々に切り上げ、興味のある国があれば長めに話してみる、という形で大丈夫です。
では準備が出来たようなので行きましょうか」
ディスコーニ様たちの前を歩いて出口へ向かっていると、扉の横で控えているトゥーベリアス様が、今日もシェニカ様に向かって笑顔を浮かべていらっしゃった。
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