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第14.5章 国が滅亡する時
7.復活と始動
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身を潜めながら転々と移動し、大罪人の烙印を押されて1年半が経ったある日。
虫も鳴かない静かな夜更けに、偵察と情報収集に出ていたナディアが自分の休んでいたテントに入ってきて、寝袋に入った自分の隣に胡座をかいて座った。
「ジル、この先のヤンゴートにサザベルのユドが来ている。予定だと奴らは10日後に山の上の街道を移動してトラントとの関所に行く。その時にこの場所に勘付くかもしれないから、 早目に移動した方が良い」
「ユドですか。たしかにここに留まるのは危険ですね。駐屯地に次期将軍を送り込むようになったということは、順調にサザベル寄りの政策が進んでいるんですね」
「流石に将軍レベルが駐屯地に陣取ることになるのはトライトが反対したが、国王はその意見を全く取り合わなかった。これから先、将軍レベルの奴らが街道を行くようになれば、街道沿いに留まるのは危険になる。森の奥に良い場所がないか調べてくる」
「ええ、頼みます。流石にユドくらいのレベルになると、見つかったら一巻の終わりです」
トラントとの関所と地方都市ヤンゴートを結ぶ街道の途中、山道から森の奥に入った場所に今の仮住まいの集落を構えた。
仮住まいに使っているテントは森に紛れるように深緑色のものを使っているし、街道が通る山の上から見ても、よほど目の良い人でなければ見つけることが出来ないだろう。
山の上は見晴らしの良い場所だが、傾斜のきつい山道を徒歩で行く者はほとんどおらず、大半の者は乗り合い馬車か馬での移動だ。徒歩なら数時間かけて登る山道だが、馬なら1時間少しで山を越えられるから山の上で休憩する者もいない。
でも、ユドのような実力者なら何気ない景色の中の僅かな異変を感じ取り、確認のためにこの場所に来るかもしれない。
マードリア兵や特別部隊の兵士、駐屯地で働く下っ端のサザベル兵なら何とかなるかもしれないが、流石に将軍に内定している有名副官となると、この不自由な身体では抵抗するだけ無駄だ。
『白い渡り鳥』様に出会える僅かな可能性にかけて街道に近い森の奥を移動していたが、ユドのような者達が街道を往来するようになれば今後はもう難しい。
今度は森の奥、誰も近寄らない山の中くらいしかないだろう。ナディアの偵察も時間がかかりそうだ。
「それと、使い物にならないお飾りの将軍3人は特別部隊の奴と交代になった」
「そろそろ1回目に送った者達が成長しましたか…」
「今のマードリア軍は完全に腑抜けの形骸化。お前達が見たら怒りを覚える程だろう」
「上級兵士だった者と有能な中級兵士はこちらにいますからね。トライトとその副官だった5人も、近いうち将軍職を交代となりそうですね。彼らが軍にいる間にクーデターを起こさなければ。時間がありませんね…」
刻々と残り時間が迫っているのに、どうにもならない状況が一向に変わらない。危機感と焦りに頭がいっぱいになり始めた翌日。
快晴の空の下、目と喉を奪われた元将軍達の剣の稽古を見ていると、何やら集落の入り口付近でいつにない空気と小さなざわめきを感じた。
それは剣の稽古をしていた仲間達も気付いたらしく、合わせていた剣を下ろして顔を入り口の方に向けた。
「私が確認してきます」
剣の練習を遠巻きに見ていた仲間達の家族にその場を任せ、私は集落の入り口方向へと松葉杖を動かした。
仲間達のざわめきが聞こえるが、大声が張り上げられているわけでも、魔法や剣による戦闘が始まっているわけでもない。
なのに明らかに今までにない仲間達の空気が、入り口付近から漂ってくる。
「ジ、ジルヘイド様…」
入り口が近くなると、困惑顔の仲間達が言葉にならない様子で私を見て道を開けた。そして視線をその先に向けると、信じがたい人がいたのを見て驚いた。
自分に都合の良い夢か幻覚を見ているのではないかと思って、何度もまばたきをして目をこすった。
でも何度目をこすっても、5色の宝玉の額飾りをつけた黒髪の女性は視線の先から消えなかった。
「これは夢ではない、ですよね…?!」
不運続きの我々に幸運の黒髪の天使が舞い降りたと、私は思わず動かない足で跳び上るほどの衝撃と久しぶりに感じる歓喜に包まれた。
駆け寄って、跪いて、何とか治療して頂けるように土下座してでも懇願すべき相手なのに、不自由な両足は全く言う事を聞いてくれない。
必死に腕に力をいれて松葉杖を動かし、仲間達をかき分けてその方の前に進んだ。
「シェニカ様…?シェニカ様ですよねっ!?こんな場所でお会い出来るなんて!」
陛下に狼藉を働かれ、今にも泣きそうな顔をされていた時の儚い面影はなく、困惑しながらも堂々とした様子は変わりがなかった。
そして彼女の隣には、彼女を守ろうと殺気を滲ませてこちらを睨んでくる傭兵『赤い悪魔』がいるだけで、他には誰も居ない。
状況に困惑する兵士達を下がらせてテントの中にお通しすると、私を心配する中級兵士達が端に控えた。
ここは王宮でもないただの野営地。当然ながら普通の状況とは明らかに違う緊張感の漂う空気に、シェニカ様はずっと困惑したままだ。
彼女の隣りにいる『赤い悪魔』は、剣に手をかけて部下達を鋭く睨みつけ激しく牽制している。
「ここは、マードリアの現体制に不満を持つ者達が集まっているんです。所謂反逆者の集まる場所なのですが、それでも治療をお願い出来ますか?」
治療をお願いして断られても、それは『白い渡り鳥』様に認められた当然の権利だから仕方のないことだ。
でも、この偶然はもう2度とないことなど分かりきっているからこそ、脅迫してお願いするつもりはまったくないが、何としてでも治療をお願いしたかった。
シェニカ様に嘘偽りなくそう頼めば、彼女は困惑しながらも唇を横に結んで小さく頷いて下さった。
「治療の場が戦場ではないこと、私自身を害する目的の人でない限り、私は治療を拒否しませんから大丈夫です。ですがどうして反逆なんて…」
お尋ね者の私達を知らないシェニカ様のその言葉に、彼女が神殿に立ち寄っていないことが分かった。
事情を知らないシェニカ様の当然の疑問に嘘偽りなく説明すると、私の治療から始めて下さった。
もしシェニカ様が神殿に立ち寄って私達の話を聞かされていたら、『反逆者達は治療の後にシェニカ様達を襲う可能性があります』という様なことを吹き込まれ、治療して頂けなかったかもしれない。
私達は決してそんな意図なんてないが、シェニカ様が神殿に立ち寄らない唯一の人で本当に良かった。
シェニカ様の手が足にかざされると、感覚のなかった足にじわじわとあったかいものを感じてくる。
あの日から失っていた『足がちゃんとそこにある』という感覚が戻ってくることを、手に取るように感じることが出来た。
治療を終えると早速足の感触を飛んだり跳ねたりして確かめた。時間が巻き戻ったような喜びは、今までに感じたことのない歓喜だった。
それはテントの中と外から様子を伺っていた仲間たちも同様で、私の動ける姿を見て喜びの声を上げた。
それからは仲間達の治療に同席させて頂いて、あの日と同じようにその様子を見届けた。
ーーあぁ…。この時をどれ程待ちわびたか。
失明しても、喉を焼かれても、身体の一部を失っていても、全て時間が巻き戻ったように元通りになる。
毒に苦しむ仲間への治療はまだだが、我々が使えない高度な治療魔法は、仲間達の心に重くのしかかっていた不安や絶望を払拭してくれた。
夕食を終えてテントに戻る者達も出る中、いつも夜間の見張りをしてくれていたストロヴァの奥方に近寄って声をかけた。
「今夜は私が外の見張りをします」
「ですが…」
「今まで頼りきりで何も出来なかったのです。久しぶりに妻の顔を見たり話せた者も多いはずです。今夜くらいは夫婦でお過ごしなさい」
「ジルヘイド様…」
「言っていると寂しくなってくるので、素直に従いなさい。あまり独り身をイジメないで下さい」
「はい!ではそのように皆に伝えて来ます!」
そして明かりのない集落の入り口にある木の下に座り、色んなことを思い出していたところに1人の気配を感じた。
「ちょっと良いか」
「なんでしょう。シェニカ様は良ろしいのですか?」
その者は私の座る隣の木の下に座った。
「疲れたと言っていたから、もう寝ているはずだ」
「そうですか。訳ありの私達を快く治療して頂いて、シェニカ様には頭が上がりません」
怪我をした者の数は多いのに、シェニカ様は休憩を断って夕方まで休まずに怪我をした全員に治療を与えてくれた。
シェニカ様はかなりの魔力を使ったはずなのに、嫌な顔1つせず、回復した仲間達に慈愛に満ちた、まさに天使のような微笑を浮かべて下さった。
その微笑と仲間達の喜ぶ顔を見ていると、シェニカ様の優しさと責任感の強さを感じた。
その真摯な姿勢を見ていると、久しく感じていなかったあったかい感情が胸の奥底に芽生え、これから先に待ち構える困難へのやる気が満ちてくる。
「シェニカとあんたは顔見知りだったのか」
「ええ。気になりますか?」
「ああ」
シェニカ様が治療している時、少し離れた場所で護衛をしている『赤い悪魔』は、彼女に不用意に近寄ろうとする者がいないか、悪意を持って接近していないかと常に警戒していた。
たかが傭兵と軽んじて見られがちだが、この『赤い悪魔』は血筋から見ても黒魔法の適性は文句なく高く、そして強い。
戦場ではその荒い気性から『傲慢』と言われ、将軍や副官相手にも果敢に挑んでくる命知らずな者として知られている。
そして軍人とは決して馴れ合うことのない『悪魔』と呼ばれる傭兵の1人。
クセのある人物だが、シェニカ様の意思を尊重して治療を拒否させようとしなかったし、慎重で用心深いシェニカ様が信頼を寄せている。シェニカ様と常に同行しているこの者ならば、経緯を教えても問題はないだろう。
そして色々と話してみれば、噂と印象が違い、こちらに喧嘩腰になってくることのない青年だ。
この者ならば、我々の存在をサザベル軍にもマードリア軍にも密告することはないと信じても大丈夫だろう。
そして翌朝の太陽が昇り始めた早朝。食事を終えたシェニカ様は、すぐに毒を受けて衰弱が進む仲間達を治療し始めた。
昨日の治療とは違い、治療を始めた直後から顔色が悪く、時折手が震えているのに気付いたが、こちらが勧めても昨日と同様に休憩を拒んで気丈に治療を続けていた。
その姿勢に口を挟むことは憚られ、ただシェニカ様を見守るしか出来なかった。
全員の治療を終えたシェニカ様が『赤い悪魔』に連れられてテントの外に出た後、毒から回復した仲間にその家族達が駆け寄り、テントの中には隙間なく仲間達が入った。涙を流しながら回復を喜び合うテントは、人数だけでなく喜びでもぎゅうぎゅう詰めになった。
治療を受けた者達は、毒は抜けたが体力は落ちたままなので寝たままだ。喋れる喜びを噛みしめるように家族と言葉を交わしている姿を見ると、胸がいっぱいになった。
「長い間、苦しませて申し訳ありませんでした。私が不甲斐ないばかりに、あなた達までこの様な目に遭わせてしまいました。どうか許して下さい」
一通り喜びを分かち合ったの見届けた後、私がそう言って頭を下げるとテントの中は一気に静まり返ったが、すぐに横たわった仲間達から声が上がった。
「ジルヘイド様は悪くないのですから頭を上げて下さい。ここにいる誰も。ジルヘイド様を恨んでいません」
「あの時、ついていかないと判断していたら、きっと今頃後悔していました…」
「足手まといにしかならなかった我々を見捨てずにいて下さって、ありがとうございました」
仲間達から次々に上がる声は、次第にこれから先へのクーデターという具体的な目標への固い決意と絆に変わっていった。
恩人のシェニカ様を全員で見送った後、私達は仲間達の体調の回復を見ながらすぐに鍛錬を始めた。
1年半ぶりに元通りになった身体で鍛錬を始めると、投獄中から今までずっと不自由な中でもコツコツやってきた成果なのか、目を使えなかった者は気配に敏感になり、喉を焼かれた者は剣の腕が。私や身体の一部を切断された者は、使える部分の筋力が上がっていたことに気付いた。
これなら鍛錬を続けていけば、元のレベル以上の強さを得るかもしれない。
毒で動けなかった者はついてきてくれた中級兵士と一緒に鍛錬をしていくことになるため、ほとんどの者が上級兵士並のレベルに上がることになるだろう。
それから数日後の夜。移動場所の調査に行っていたナディアが、テントに入ってくるなり私が二本足だけで立っている姿を見て抱きついてきた。
「ジル!足が…ちゃんと戻ったんだな!」
「ええ。幸運なことにシェニカ様に治療して頂いたんです」
「そうか…!本当に良かった!」
そう言ってナディアは私に噛み付くようにキスをしてきた。つい数日前に会ったというのに、まるで数十年ぶりの再会を喜ぶような喜びだ。
彼女の頬に手をあてると、指が暖かな涙で濡れ始めたことに気付いた。
「ナディア、貴女が嬉しくて泣くなんて初めて見ます」
「もっと違う言葉をかけられないのか?相変わらず気が利かない男だな!」
強がりを言う彼女を抱き締めて頭を撫でていると、少しずつ彼女の呼吸が落ち着いてきた。彼女が泣くなんて、自分が拷問を受けた後に会った時以来だ。ナディアにはとても心配をかけてしまった。
「今まで迷惑をかけてすみませんでした。ナディア達が頑張ってくれたからこそ、ここまで辿りついたんです。これからは少しゆっくりして下さい」
「ゆっくりすることはない。目的が達成するまでは今までと変わらない」
「仕事熱心なジュアらしい言葉で頼もしいですね」
私がそう問いかけると腕の中にいたナディアは一瞬でジュアに変わって、身体を離して暗部らしい無表情な顔をして対峙した。
「そうそう。お前の治療のことを聞いて場所の偵察を中止して戻ってきたんだが、念のためと思って『再生の天使』一行を暗部に尾行させた。
一行は首都に向かう街道は進まずヤンゴートに到着したが、噂通り軍や神殿には近寄っていないから、密告されることもなさそうだ」
「有難い恩恵です」
「ジル達の身体が元に戻ったことは、当然あいつらは知らない。あいつらを倒す時が楽しみだな」
「ええ、もちろん」
そしてそれから2ヶ月。
場所を転々としながら鍛錬を続け、クーデターへの具体的な行動を始めた。
まず、ナディア達の暗部間の連絡のおかげで、先王時代に大臣を務めていたトラドーニ卿が療養している屋敷で、トライトと再会する約束を取り付けることができた。
トラドーニ卿の住まうこの地にも、サザベル兵が街を我が物顔で巡回している。街中を大人数で堂々と歩くことは出来ないから、万が一の場合には暗殺任務が出来る私と元将軍達、その副官達を連れて気配を隠して屋敷内に入った。
最後に王宮で見たトラドーニ卿は恰幅の良い好々爺の人だったが、今では随分とやせ細ってベッドから動けないそうだ。それでも身に纏う威厳に満ちた空気は現役の頃と変わりがなく、とても懐かしく感じた。
「トラドーニ卿、ご無沙汰しています。この度は我々に協力して頂いてありがとうございます」
「当然のことをしたまでだよ。今の治世を見て、先王はきっと泣いておられるだろう。私はこの通り老いに負けて動けないが、お前達の手でこの国を正しい方向へと正しておくれ。先王もそれを望んでおられるだろう。
この屋敷の者は全員口の固い者達だ。ここにいる間の情報が外に漏れることはないから安心してほしい。必要なことがあれば、執事のルニオに何でも命令しておくれ」
トラドーニ卿と挨拶を終えると、執事に案内されて窓のない廊下を通って地下室へと向かった。
魔力の光に包まれた部屋の中には、顎髭を蓄えた体格の良いトライトとその副官達が背筋を正して立っていた。
「ジルヘイド様!ご無事でなによりです!」
「トライト、貴方も元気そうで安心しました。筆頭将軍就任おめでとう」
私や仲間達の回復した姿を見たトライトは、最後に見た時に比べて随分と疲れたような顔をしていた。そんな彼は私の両手を強く握りしめると、涙を滲ませながら握手した手をブンブンと振り始めた。
「いいえ。この状態で名ばかりの筆頭将軍など、ジルヘイド様には何もかも及びません。ですから、全てが終わった後にはまたジルヘイド様の元で1将軍として働きたいと思います。
あの日、私が遠征から早く戻っていたらと、何度後悔したか…」
「貴方があの場に居なかったからこそ、牢を逃げ出す機会を得ました。秘密裏に助けてくれてありがとう」
「もっと色んなことをしたかったのですが、私も監視対象にされていましたのでなかなか動けませんでした。ですが、その監視も今では随分と油断だらけの雑なものになりました。
ジルヘイド様を始め、軍に残してあった全ての装備は持って参りました。隣の部屋にありますので、どうぞご確認下さい」
部屋の隅に控えていた執事が扉を開いて移動を促すと、隣りにある窓のない同じ規模の部屋に、大きなテーブルがいくつも置かれていた。
その上には、王宮に務めていた頃に使っていた剣や甲冑、道具類など一式、拷問の場で3人に取り上げられた物までズラリと並べられていた。
「トライト、苦労しただろう?」
「手入れもしてくれたのか。助かる」
自分が使っていた剣を取って鞘から引き抜くと、錆も刃こぼれもない、丁寧な手入れがされた状態になっていた。処分されていたはずの物を秘密裏に留め置き、これだけの数を丁寧に扱ってくれているとは思わなかった。
「いつか必ずこの日が来ると信じて、残った者達で出来る事をやらせて頂きました」
「そうか。サザベルの連中はどれほど入り込んでいるのか?」
仲間の1人がトライトに向かってそう尋ねると、嬉しそうな顔をしていたトライトの顔が一気に険しくなった。
「先週、また国籍変更した者達が入ってきました。特別部隊の人数は現在100名程。将軍になったのは3人です」
「そんなに増えたのか。そいつらは何をやっているんだ?」
「表向き、その部隊では王族や上流貴族の護衛を主とするものとなっていますが、裏の仕事はサザベルにとって目障りな貴族の暗殺です。
実際、その部隊の者が数人の有力貴族の暗殺をしています。国王に忠誠を誓って身の安全を約束されたエルシード殿下には暗殺の手は伸びていませんが、手のひらを返すかもしれないので、暗部による護衛は継続しています。
将軍になった3人は国防には関わっておらず、副官以上の上級兵士を失脚させるだけの材料を探したり、作る下地を作ったりと暗躍しています。この者達はあくまでも策略に重点を置いた人物なので、実力は正直言って中級兵士に毛が生えたくらいです」
「そうですか。他の貴族の所へ行き協力を仰ぎ、早くエルシード殿下を助け出しましょう」
「ではラードアエラ卿には私の方から連絡を入れておきます。我々も協力致しますので、暗部の者を介してご連絡下さい」
エルシード殿下が幽閉されているアグネアトは、マードリアの1番南の辺境の地にある。
誰にも気付かれずにトラドーニ卿の屋敷を出た後、アグネアトを治めるラードアエラ卿の屋敷へと移動した。
◆
マードリアは金脈を含んだ山を多数抱えているとは言っても、国内の全ての山に金脈があるわけではない。
国内の産業としては金を推奨していたが、アグネアトを含むラードアエラ卿の領地内には金脈を持つ山はなく、鉄鉱石がよく採れる山しかなかった。そのため金脈を抱える貴族達と比べると財政的に劣り、慎ましい生活をしていると聞いていた。
ラードアエラ卿が屋敷を構えるドトノアという拠点街が見えてくると、仲間達を街道から入った森の中に待機させた。
いくらこの地が辺境とはいえ、山を1つ越えた向こうは隣国との国境があるため、この場所にもサザベルの駐屯地がある。幸いドトノアにはサザベルの副官は来ていないが、街の中にはサザベル兵が我が物顔で歩き回っていることには変わりがない。
油断は出来ないので、元副官達を仲間達の元に残し、ラードアエラ卿の屋敷に元将軍だけが向かうことになった。
事前に連絡を取っていたから、朝方の兵士が交代する時間帯を狙って無事に屋敷に入ることが出来た。
執事に案内された部屋に入ると、窓に分厚いカーテンが引かれた薄暗い部屋を魔力の光が煌々と照らしていた。その部屋の中央に、赤茶色の短髪をした色黒の熊のような立派な体躯をしたラードアエラ卿が待っていた。
貴族というよりも屈強な鉱夫のような印象を与えるラードアエラ卿は、代々首都で要職にはつかずに鉱山の開拓に先頭を切って取り組んでいた。鉄鉱石の販路を増やそうと頻繁に国内外に足を運んでいるから、鉱石屋や武器屋に顔が広い。
ラードアエラ卿はどんな時も首都に来ないから、他の貴族や軍人とはあまり繋がりがなく孤立していると王宮や貴族達から思われている。
確かに貴族らとの繋がりは少ない人だと思うが、自分を含めた将軍が防衛戦で地方に出た時は、商機を得ようと出てきたラードアエラ卿とよく顔を合わせていたことから、軍人とは良く武器の話などで盛り上がる貴族だった。
だから私達の無事な姿を見たラードアエラ卿は、飛びつく勢いで私や仲間の元将軍達に駆け寄ると素晴らしい握力で握手をしてきた。
「ジルヘイド様!ご無事だったのですか!?」
「ラードアエラ卿。しばらくぶりです。相変わらずの剛力ですね」
最初に私が握手をしたので、他の者達がまた怪我をしないようにと笑顔で諌めると、ラードアエラ卿は苦笑いを浮かべた。
「失礼しました。つい感極まってしまって…。今日はトライト様から事情を聞いたバルベア卿やニルウェア卿、シュドメニア卿がジルヘイド様達に会いたいと、こっそり来て下さっているんです。同席しても良いでしょうか」
「ええ、構いません」
バルベア卿、ニルウェア卿、シュドメニア卿は、国王から金の採掘を急ぐように圧力をかけ続けられたが、『人員と安全の確保が前提なので、早急な採掘は危険で出来ない』と当たり前のことを意見した。
でも、それが気に食わなかった国王は金山を他の貴族に移譲させ、領地を減らすという行動に出た。
「ジルヘイド様!ご無事だったのですね…」
「良かった、本当に良かった」
「差し入れを持ち込もうとしても突き返されてしまい…。何も出来ずに申し訳ありませんでした」
執事に案内されて部屋に入ってきた3人の貴族は、私達を見ると泣きながら再会を喜んでくれた。
彼らは私達よりも一回りほど年齢が上で、先王時代から兄のような付き合いをしてきた方々だ。話を聞いていると、私達が投獄されてから随分と心配をかけてしまったようだ。
「ジルヘイド様達が居なくなってからというもの、この国は寂れ傾くばかりです。いくら金脈に恵まれ国の財政は安定しているとはいえ、産業が衰退していけば領地からの税収は減るばかり。私達は金山を奪われてから、領地が荒れても元に戻せなくなってしまいました」
「農業だけでなく、林業など、あらゆる産業がサザベルに置き換わっていっています。どの貴族も不満を募らせているんです」
「陛下に要望を申し上げても何も返事は頂けませんし、それどころか、要望の内容が気に食わなければ王妃に睨まれてしまい、我々のように領地を減らされたり、馬車が賊に襲われ不運な死を遂げたりするようになってしまっているのです」
「賊に襲われた?」
「エルニオ卿も、首都から領地に帰る途中で賊に襲われ亡くなりました。
トライト様の話では本来なら軍が調べる案件ですが、この件は特別部隊の者が調査したそうです。そして、賊は捕らえられることはなく、有耶無耶になったまま時間が経ってしまいました。十中八九特別部隊の仕業だろうとおっしゃっていました」
「ここにいらっしゃる皆様には、我々のクーデターに賛同頂きたいのです。貴殿らに頼みたいのは、全てが成功を納め、この国がエルシード殿下の手によって正しい道に進み始めた後に、殿下を国王としてサポートしてもらうことです。
血生臭いことは我々が担いますので、お願い出来ますか?」
仲間達の会話が一段落した所で私がそう言って本題を切り出すと、4人の貴族達は真剣な顔で私を見返して力強く頷いた。
「もちろんですよ。現在、国内の貴族は国王陛下に賛同する者は誰1人おりません。血判付きの誓約書も喜んでしたためましょう」
「ジルヘイド様がいつか我々の前に現れ、このように申し出てくれるのを待っていたんです。必ずや成功するように、我々に出来ることは何でも言って下さい」
「私達がアンテナとなって国内中の貴族達に水面下で連絡を取りましょう。すぐに誓約書が揃いますよ」
「武器などの準備は私もお手伝いさせて下さい」
「みなさん…。ありがとうございます」
それからはアグネアトにほど近い街にあるラードアエラ卿の別宅に身を隠させてもらって、国内の貴族達の協力を得るために動き始めた。
やはりサザベル寄りの政策は貴族達の懐に大打撃を与えていたからか、思っていた以上の短期間で貴族達の協力を得る約束をとりつけた。
そしてある日の夜。トライトが秘密裏に送ってきた自身の副官アスベルを囲んで、具体的な作戦を立てることになった。
「あの3人の普段の行動は?」
「あの者達は王妃の側に必ずいます。彼らが王妃の側を離れるのは、王妃が国王と一緒に閨を共にする時と、王妃が下がるように命じた時だけです。
そして3人の部屋は王妃の部屋の前と両隣にあり、常に王妃を護衛しています」
「そうですか。クーデターを決行するのに最適な日はありますか?」
「1ヶ月後に王妃の兄、メニベルというサザベルの第2王子が訪問予定です。
訪問中は王子が連れてきた将軍を含めた護衛達も手厚くもてなされて、国内に散らばった特別部隊の者達が全員首都に呼び戻され、サザベルの将軍により直接指導が行われます。
そしてサザベルに帰る時は、特別部隊の者達が総出で国境まで見送ります。王宮内に残るのはあの3人と僅かな特別部隊だけなので、この時にクーデターを起こせば良いかと」
「王子達がサザベルに入ったことを確認した上で、特別部隊の者達が首都に戻ってくるまでの間に一網打尽にして捕縛するのが良いですね。ということは、クーデター実行する部隊と国境に向かう部隊に別れたほうが良さそうですね」
「それと、王に意見し左遷された行方不明だった前任の宰相様や大臣達ですが。彼らは王宮の地下に造られた地下牢に入れられているようなのです」
王宮の地下の最下層は、あの拷問が行われた血壁の部屋が1つだけだった。私達が居ない間に地下牢まで作ったらしい。
「王宮の地下に?どこに入り口がありますか?」
私がアスベルに尋ねると、懐から出した王宮内の見取り図を開いて1か所を指し示した。
「入り口は血壁の部屋の隣にある部屋です。鍵は護衛の1人、カーバスが持ち歩いているようです」
私達が拷問を受けた部屋とその隣の部屋は小さなガラス窓で繋がっている。あの時、その部屋で国王と王妃が私達の苦しむ姿を見ていた。
そんな嫌な部屋の足元に宰相様達が幽閉されているとは。
「エルシード殿下を早々に解放し、すぐに首都に行かなくては。宰相様達の身の安全が心配ですね」
「エルシード殿下の幽閉されている場所は特別部隊の者が監視をしていて、その状況はイェネフが陛下と王妃に毎日報告しています。
殿下が大人しく過ごされていること、辺境の地であるためあの3人が確認しにくることもないので、最近は監視の者達はかなり適当な仕事をしているそうです。エルシード殿下を解放した後、背格好がよく似た者を用意しますのでおそらく発覚することはないでしょう」
「分かりました。では、エルシード殿下がいるアグネアトに向かいましょう」
アスベルからの具体的な情報とナディア達が集めた現地の情報を整理し、仲間達と作戦を立ててエルシード殿下の待つ地へと向かい始めた。
殿下の救出はクーデターに向けての失敗できない大きな作戦だ。私や仲間達の間には戦場に向かうのと同じくらい、ピンと張り詰めた緊張感が漂った。
虫も鳴かない静かな夜更けに、偵察と情報収集に出ていたナディアが自分の休んでいたテントに入ってきて、寝袋に入った自分の隣に胡座をかいて座った。
「ジル、この先のヤンゴートにサザベルのユドが来ている。予定だと奴らは10日後に山の上の街道を移動してトラントとの関所に行く。その時にこの場所に勘付くかもしれないから、 早目に移動した方が良い」
「ユドですか。たしかにここに留まるのは危険ですね。駐屯地に次期将軍を送り込むようになったということは、順調にサザベル寄りの政策が進んでいるんですね」
「流石に将軍レベルが駐屯地に陣取ることになるのはトライトが反対したが、国王はその意見を全く取り合わなかった。これから先、将軍レベルの奴らが街道を行くようになれば、街道沿いに留まるのは危険になる。森の奥に良い場所がないか調べてくる」
「ええ、頼みます。流石にユドくらいのレベルになると、見つかったら一巻の終わりです」
トラントとの関所と地方都市ヤンゴートを結ぶ街道の途中、山道から森の奥に入った場所に今の仮住まいの集落を構えた。
仮住まいに使っているテントは森に紛れるように深緑色のものを使っているし、街道が通る山の上から見ても、よほど目の良い人でなければ見つけることが出来ないだろう。
山の上は見晴らしの良い場所だが、傾斜のきつい山道を徒歩で行く者はほとんどおらず、大半の者は乗り合い馬車か馬での移動だ。徒歩なら数時間かけて登る山道だが、馬なら1時間少しで山を越えられるから山の上で休憩する者もいない。
でも、ユドのような実力者なら何気ない景色の中の僅かな異変を感じ取り、確認のためにこの場所に来るかもしれない。
マードリア兵や特別部隊の兵士、駐屯地で働く下っ端のサザベル兵なら何とかなるかもしれないが、流石に将軍に内定している有名副官となると、この不自由な身体では抵抗するだけ無駄だ。
『白い渡り鳥』様に出会える僅かな可能性にかけて街道に近い森の奥を移動していたが、ユドのような者達が街道を往来するようになれば今後はもう難しい。
今度は森の奥、誰も近寄らない山の中くらいしかないだろう。ナディアの偵察も時間がかかりそうだ。
「それと、使い物にならないお飾りの将軍3人は特別部隊の奴と交代になった」
「そろそろ1回目に送った者達が成長しましたか…」
「今のマードリア軍は完全に腑抜けの形骸化。お前達が見たら怒りを覚える程だろう」
「上級兵士だった者と有能な中級兵士はこちらにいますからね。トライトとその副官だった5人も、近いうち将軍職を交代となりそうですね。彼らが軍にいる間にクーデターを起こさなければ。時間がありませんね…」
刻々と残り時間が迫っているのに、どうにもならない状況が一向に変わらない。危機感と焦りに頭がいっぱいになり始めた翌日。
快晴の空の下、目と喉を奪われた元将軍達の剣の稽古を見ていると、何やら集落の入り口付近でいつにない空気と小さなざわめきを感じた。
それは剣の稽古をしていた仲間達も気付いたらしく、合わせていた剣を下ろして顔を入り口の方に向けた。
「私が確認してきます」
剣の練習を遠巻きに見ていた仲間達の家族にその場を任せ、私は集落の入り口方向へと松葉杖を動かした。
仲間達のざわめきが聞こえるが、大声が張り上げられているわけでも、魔法や剣による戦闘が始まっているわけでもない。
なのに明らかに今までにない仲間達の空気が、入り口付近から漂ってくる。
「ジ、ジルヘイド様…」
入り口が近くなると、困惑顔の仲間達が言葉にならない様子で私を見て道を開けた。そして視線をその先に向けると、信じがたい人がいたのを見て驚いた。
自分に都合の良い夢か幻覚を見ているのではないかと思って、何度もまばたきをして目をこすった。
でも何度目をこすっても、5色の宝玉の額飾りをつけた黒髪の女性は視線の先から消えなかった。
「これは夢ではない、ですよね…?!」
不運続きの我々に幸運の黒髪の天使が舞い降りたと、私は思わず動かない足で跳び上るほどの衝撃と久しぶりに感じる歓喜に包まれた。
駆け寄って、跪いて、何とか治療して頂けるように土下座してでも懇願すべき相手なのに、不自由な両足は全く言う事を聞いてくれない。
必死に腕に力をいれて松葉杖を動かし、仲間達をかき分けてその方の前に進んだ。
「シェニカ様…?シェニカ様ですよねっ!?こんな場所でお会い出来るなんて!」
陛下に狼藉を働かれ、今にも泣きそうな顔をされていた時の儚い面影はなく、困惑しながらも堂々とした様子は変わりがなかった。
そして彼女の隣には、彼女を守ろうと殺気を滲ませてこちらを睨んでくる傭兵『赤い悪魔』がいるだけで、他には誰も居ない。
状況に困惑する兵士達を下がらせてテントの中にお通しすると、私を心配する中級兵士達が端に控えた。
ここは王宮でもないただの野営地。当然ながら普通の状況とは明らかに違う緊張感の漂う空気に、シェニカ様はずっと困惑したままだ。
彼女の隣りにいる『赤い悪魔』は、剣に手をかけて部下達を鋭く睨みつけ激しく牽制している。
「ここは、マードリアの現体制に不満を持つ者達が集まっているんです。所謂反逆者の集まる場所なのですが、それでも治療をお願い出来ますか?」
治療をお願いして断られても、それは『白い渡り鳥』様に認められた当然の権利だから仕方のないことだ。
でも、この偶然はもう2度とないことなど分かりきっているからこそ、脅迫してお願いするつもりはまったくないが、何としてでも治療をお願いしたかった。
シェニカ様に嘘偽りなくそう頼めば、彼女は困惑しながらも唇を横に結んで小さく頷いて下さった。
「治療の場が戦場ではないこと、私自身を害する目的の人でない限り、私は治療を拒否しませんから大丈夫です。ですがどうして反逆なんて…」
お尋ね者の私達を知らないシェニカ様のその言葉に、彼女が神殿に立ち寄っていないことが分かった。
事情を知らないシェニカ様の当然の疑問に嘘偽りなく説明すると、私の治療から始めて下さった。
もしシェニカ様が神殿に立ち寄って私達の話を聞かされていたら、『反逆者達は治療の後にシェニカ様達を襲う可能性があります』という様なことを吹き込まれ、治療して頂けなかったかもしれない。
私達は決してそんな意図なんてないが、シェニカ様が神殿に立ち寄らない唯一の人で本当に良かった。
シェニカ様の手が足にかざされると、感覚のなかった足にじわじわとあったかいものを感じてくる。
あの日から失っていた『足がちゃんとそこにある』という感覚が戻ってくることを、手に取るように感じることが出来た。
治療を終えると早速足の感触を飛んだり跳ねたりして確かめた。時間が巻き戻ったような喜びは、今までに感じたことのない歓喜だった。
それはテントの中と外から様子を伺っていた仲間たちも同様で、私の動ける姿を見て喜びの声を上げた。
それからは仲間達の治療に同席させて頂いて、あの日と同じようにその様子を見届けた。
ーーあぁ…。この時をどれ程待ちわびたか。
失明しても、喉を焼かれても、身体の一部を失っていても、全て時間が巻き戻ったように元通りになる。
毒に苦しむ仲間への治療はまだだが、我々が使えない高度な治療魔法は、仲間達の心に重くのしかかっていた不安や絶望を払拭してくれた。
夕食を終えてテントに戻る者達も出る中、いつも夜間の見張りをしてくれていたストロヴァの奥方に近寄って声をかけた。
「今夜は私が外の見張りをします」
「ですが…」
「今まで頼りきりで何も出来なかったのです。久しぶりに妻の顔を見たり話せた者も多いはずです。今夜くらいは夫婦でお過ごしなさい」
「ジルヘイド様…」
「言っていると寂しくなってくるので、素直に従いなさい。あまり独り身をイジメないで下さい」
「はい!ではそのように皆に伝えて来ます!」
そして明かりのない集落の入り口にある木の下に座り、色んなことを思い出していたところに1人の気配を感じた。
「ちょっと良いか」
「なんでしょう。シェニカ様は良ろしいのですか?」
その者は私の座る隣の木の下に座った。
「疲れたと言っていたから、もう寝ているはずだ」
「そうですか。訳ありの私達を快く治療して頂いて、シェニカ様には頭が上がりません」
怪我をした者の数は多いのに、シェニカ様は休憩を断って夕方まで休まずに怪我をした全員に治療を与えてくれた。
シェニカ様はかなりの魔力を使ったはずなのに、嫌な顔1つせず、回復した仲間達に慈愛に満ちた、まさに天使のような微笑を浮かべて下さった。
その微笑と仲間達の喜ぶ顔を見ていると、シェニカ様の優しさと責任感の強さを感じた。
その真摯な姿勢を見ていると、久しく感じていなかったあったかい感情が胸の奥底に芽生え、これから先に待ち構える困難へのやる気が満ちてくる。
「シェニカとあんたは顔見知りだったのか」
「ええ。気になりますか?」
「ああ」
シェニカ様が治療している時、少し離れた場所で護衛をしている『赤い悪魔』は、彼女に不用意に近寄ろうとする者がいないか、悪意を持って接近していないかと常に警戒していた。
たかが傭兵と軽んじて見られがちだが、この『赤い悪魔』は血筋から見ても黒魔法の適性は文句なく高く、そして強い。
戦場ではその荒い気性から『傲慢』と言われ、将軍や副官相手にも果敢に挑んでくる命知らずな者として知られている。
そして軍人とは決して馴れ合うことのない『悪魔』と呼ばれる傭兵の1人。
クセのある人物だが、シェニカ様の意思を尊重して治療を拒否させようとしなかったし、慎重で用心深いシェニカ様が信頼を寄せている。シェニカ様と常に同行しているこの者ならば、経緯を教えても問題はないだろう。
そして色々と話してみれば、噂と印象が違い、こちらに喧嘩腰になってくることのない青年だ。
この者ならば、我々の存在をサザベル軍にもマードリア軍にも密告することはないと信じても大丈夫だろう。
そして翌朝の太陽が昇り始めた早朝。食事を終えたシェニカ様は、すぐに毒を受けて衰弱が進む仲間達を治療し始めた。
昨日の治療とは違い、治療を始めた直後から顔色が悪く、時折手が震えているのに気付いたが、こちらが勧めても昨日と同様に休憩を拒んで気丈に治療を続けていた。
その姿勢に口を挟むことは憚られ、ただシェニカ様を見守るしか出来なかった。
全員の治療を終えたシェニカ様が『赤い悪魔』に連れられてテントの外に出た後、毒から回復した仲間にその家族達が駆け寄り、テントの中には隙間なく仲間達が入った。涙を流しながら回復を喜び合うテントは、人数だけでなく喜びでもぎゅうぎゅう詰めになった。
治療を受けた者達は、毒は抜けたが体力は落ちたままなので寝たままだ。喋れる喜びを噛みしめるように家族と言葉を交わしている姿を見ると、胸がいっぱいになった。
「長い間、苦しませて申し訳ありませんでした。私が不甲斐ないばかりに、あなた達までこの様な目に遭わせてしまいました。どうか許して下さい」
一通り喜びを分かち合ったの見届けた後、私がそう言って頭を下げるとテントの中は一気に静まり返ったが、すぐに横たわった仲間達から声が上がった。
「ジルヘイド様は悪くないのですから頭を上げて下さい。ここにいる誰も。ジルヘイド様を恨んでいません」
「あの時、ついていかないと判断していたら、きっと今頃後悔していました…」
「足手まといにしかならなかった我々を見捨てずにいて下さって、ありがとうございました」
仲間達から次々に上がる声は、次第にこれから先へのクーデターという具体的な目標への固い決意と絆に変わっていった。
恩人のシェニカ様を全員で見送った後、私達は仲間達の体調の回復を見ながらすぐに鍛錬を始めた。
1年半ぶりに元通りになった身体で鍛錬を始めると、投獄中から今までずっと不自由な中でもコツコツやってきた成果なのか、目を使えなかった者は気配に敏感になり、喉を焼かれた者は剣の腕が。私や身体の一部を切断された者は、使える部分の筋力が上がっていたことに気付いた。
これなら鍛錬を続けていけば、元のレベル以上の強さを得るかもしれない。
毒で動けなかった者はついてきてくれた中級兵士と一緒に鍛錬をしていくことになるため、ほとんどの者が上級兵士並のレベルに上がることになるだろう。
それから数日後の夜。移動場所の調査に行っていたナディアが、テントに入ってくるなり私が二本足だけで立っている姿を見て抱きついてきた。
「ジル!足が…ちゃんと戻ったんだな!」
「ええ。幸運なことにシェニカ様に治療して頂いたんです」
「そうか…!本当に良かった!」
そう言ってナディアは私に噛み付くようにキスをしてきた。つい数日前に会ったというのに、まるで数十年ぶりの再会を喜ぶような喜びだ。
彼女の頬に手をあてると、指が暖かな涙で濡れ始めたことに気付いた。
「ナディア、貴女が嬉しくて泣くなんて初めて見ます」
「もっと違う言葉をかけられないのか?相変わらず気が利かない男だな!」
強がりを言う彼女を抱き締めて頭を撫でていると、少しずつ彼女の呼吸が落ち着いてきた。彼女が泣くなんて、自分が拷問を受けた後に会った時以来だ。ナディアにはとても心配をかけてしまった。
「今まで迷惑をかけてすみませんでした。ナディア達が頑張ってくれたからこそ、ここまで辿りついたんです。これからは少しゆっくりして下さい」
「ゆっくりすることはない。目的が達成するまでは今までと変わらない」
「仕事熱心なジュアらしい言葉で頼もしいですね」
私がそう問いかけると腕の中にいたナディアは一瞬でジュアに変わって、身体を離して暗部らしい無表情な顔をして対峙した。
「そうそう。お前の治療のことを聞いて場所の偵察を中止して戻ってきたんだが、念のためと思って『再生の天使』一行を暗部に尾行させた。
一行は首都に向かう街道は進まずヤンゴートに到着したが、噂通り軍や神殿には近寄っていないから、密告されることもなさそうだ」
「有難い恩恵です」
「ジル達の身体が元に戻ったことは、当然あいつらは知らない。あいつらを倒す時が楽しみだな」
「ええ、もちろん」
そしてそれから2ヶ月。
場所を転々としながら鍛錬を続け、クーデターへの具体的な行動を始めた。
まず、ナディア達の暗部間の連絡のおかげで、先王時代に大臣を務めていたトラドーニ卿が療養している屋敷で、トライトと再会する約束を取り付けることができた。
トラドーニ卿の住まうこの地にも、サザベル兵が街を我が物顔で巡回している。街中を大人数で堂々と歩くことは出来ないから、万が一の場合には暗殺任務が出来る私と元将軍達、その副官達を連れて気配を隠して屋敷内に入った。
最後に王宮で見たトラドーニ卿は恰幅の良い好々爺の人だったが、今では随分とやせ細ってベッドから動けないそうだ。それでも身に纏う威厳に満ちた空気は現役の頃と変わりがなく、とても懐かしく感じた。
「トラドーニ卿、ご無沙汰しています。この度は我々に協力して頂いてありがとうございます」
「当然のことをしたまでだよ。今の治世を見て、先王はきっと泣いておられるだろう。私はこの通り老いに負けて動けないが、お前達の手でこの国を正しい方向へと正しておくれ。先王もそれを望んでおられるだろう。
この屋敷の者は全員口の固い者達だ。ここにいる間の情報が外に漏れることはないから安心してほしい。必要なことがあれば、執事のルニオに何でも命令しておくれ」
トラドーニ卿と挨拶を終えると、執事に案内されて窓のない廊下を通って地下室へと向かった。
魔力の光に包まれた部屋の中には、顎髭を蓄えた体格の良いトライトとその副官達が背筋を正して立っていた。
「ジルヘイド様!ご無事でなによりです!」
「トライト、貴方も元気そうで安心しました。筆頭将軍就任おめでとう」
私や仲間達の回復した姿を見たトライトは、最後に見た時に比べて随分と疲れたような顔をしていた。そんな彼は私の両手を強く握りしめると、涙を滲ませながら握手した手をブンブンと振り始めた。
「いいえ。この状態で名ばかりの筆頭将軍など、ジルヘイド様には何もかも及びません。ですから、全てが終わった後にはまたジルヘイド様の元で1将軍として働きたいと思います。
あの日、私が遠征から早く戻っていたらと、何度後悔したか…」
「貴方があの場に居なかったからこそ、牢を逃げ出す機会を得ました。秘密裏に助けてくれてありがとう」
「もっと色んなことをしたかったのですが、私も監視対象にされていましたのでなかなか動けませんでした。ですが、その監視も今では随分と油断だらけの雑なものになりました。
ジルヘイド様を始め、軍に残してあった全ての装備は持って参りました。隣の部屋にありますので、どうぞご確認下さい」
部屋の隅に控えていた執事が扉を開いて移動を促すと、隣りにある窓のない同じ規模の部屋に、大きなテーブルがいくつも置かれていた。
その上には、王宮に務めていた頃に使っていた剣や甲冑、道具類など一式、拷問の場で3人に取り上げられた物までズラリと並べられていた。
「トライト、苦労しただろう?」
「手入れもしてくれたのか。助かる」
自分が使っていた剣を取って鞘から引き抜くと、錆も刃こぼれもない、丁寧な手入れがされた状態になっていた。処分されていたはずの物を秘密裏に留め置き、これだけの数を丁寧に扱ってくれているとは思わなかった。
「いつか必ずこの日が来ると信じて、残った者達で出来る事をやらせて頂きました」
「そうか。サザベルの連中はどれほど入り込んでいるのか?」
仲間の1人がトライトに向かってそう尋ねると、嬉しそうな顔をしていたトライトの顔が一気に険しくなった。
「先週、また国籍変更した者達が入ってきました。特別部隊の人数は現在100名程。将軍になったのは3人です」
「そんなに増えたのか。そいつらは何をやっているんだ?」
「表向き、その部隊では王族や上流貴族の護衛を主とするものとなっていますが、裏の仕事はサザベルにとって目障りな貴族の暗殺です。
実際、その部隊の者が数人の有力貴族の暗殺をしています。国王に忠誠を誓って身の安全を約束されたエルシード殿下には暗殺の手は伸びていませんが、手のひらを返すかもしれないので、暗部による護衛は継続しています。
将軍になった3人は国防には関わっておらず、副官以上の上級兵士を失脚させるだけの材料を探したり、作る下地を作ったりと暗躍しています。この者達はあくまでも策略に重点を置いた人物なので、実力は正直言って中級兵士に毛が生えたくらいです」
「そうですか。他の貴族の所へ行き協力を仰ぎ、早くエルシード殿下を助け出しましょう」
「ではラードアエラ卿には私の方から連絡を入れておきます。我々も協力致しますので、暗部の者を介してご連絡下さい」
エルシード殿下が幽閉されているアグネアトは、マードリアの1番南の辺境の地にある。
誰にも気付かれずにトラドーニ卿の屋敷を出た後、アグネアトを治めるラードアエラ卿の屋敷へと移動した。
◆
マードリアは金脈を含んだ山を多数抱えているとは言っても、国内の全ての山に金脈があるわけではない。
国内の産業としては金を推奨していたが、アグネアトを含むラードアエラ卿の領地内には金脈を持つ山はなく、鉄鉱石がよく採れる山しかなかった。そのため金脈を抱える貴族達と比べると財政的に劣り、慎ましい生活をしていると聞いていた。
ラードアエラ卿が屋敷を構えるドトノアという拠点街が見えてくると、仲間達を街道から入った森の中に待機させた。
いくらこの地が辺境とはいえ、山を1つ越えた向こうは隣国との国境があるため、この場所にもサザベルの駐屯地がある。幸いドトノアにはサザベルの副官は来ていないが、街の中にはサザベル兵が我が物顔で歩き回っていることには変わりがない。
油断は出来ないので、元副官達を仲間達の元に残し、ラードアエラ卿の屋敷に元将軍だけが向かうことになった。
事前に連絡を取っていたから、朝方の兵士が交代する時間帯を狙って無事に屋敷に入ることが出来た。
執事に案内された部屋に入ると、窓に分厚いカーテンが引かれた薄暗い部屋を魔力の光が煌々と照らしていた。その部屋の中央に、赤茶色の短髪をした色黒の熊のような立派な体躯をしたラードアエラ卿が待っていた。
貴族というよりも屈強な鉱夫のような印象を与えるラードアエラ卿は、代々首都で要職にはつかずに鉱山の開拓に先頭を切って取り組んでいた。鉄鉱石の販路を増やそうと頻繁に国内外に足を運んでいるから、鉱石屋や武器屋に顔が広い。
ラードアエラ卿はどんな時も首都に来ないから、他の貴族や軍人とはあまり繋がりがなく孤立していると王宮や貴族達から思われている。
確かに貴族らとの繋がりは少ない人だと思うが、自分を含めた将軍が防衛戦で地方に出た時は、商機を得ようと出てきたラードアエラ卿とよく顔を合わせていたことから、軍人とは良く武器の話などで盛り上がる貴族だった。
だから私達の無事な姿を見たラードアエラ卿は、飛びつく勢いで私や仲間の元将軍達に駆け寄ると素晴らしい握力で握手をしてきた。
「ジルヘイド様!ご無事だったのですか!?」
「ラードアエラ卿。しばらくぶりです。相変わらずの剛力ですね」
最初に私が握手をしたので、他の者達がまた怪我をしないようにと笑顔で諌めると、ラードアエラ卿は苦笑いを浮かべた。
「失礼しました。つい感極まってしまって…。今日はトライト様から事情を聞いたバルベア卿やニルウェア卿、シュドメニア卿がジルヘイド様達に会いたいと、こっそり来て下さっているんです。同席しても良いでしょうか」
「ええ、構いません」
バルベア卿、ニルウェア卿、シュドメニア卿は、国王から金の採掘を急ぐように圧力をかけ続けられたが、『人員と安全の確保が前提なので、早急な採掘は危険で出来ない』と当たり前のことを意見した。
でも、それが気に食わなかった国王は金山を他の貴族に移譲させ、領地を減らすという行動に出た。
「ジルヘイド様!ご無事だったのですね…」
「良かった、本当に良かった」
「差し入れを持ち込もうとしても突き返されてしまい…。何も出来ずに申し訳ありませんでした」
執事に案内されて部屋に入ってきた3人の貴族は、私達を見ると泣きながら再会を喜んでくれた。
彼らは私達よりも一回りほど年齢が上で、先王時代から兄のような付き合いをしてきた方々だ。話を聞いていると、私達が投獄されてから随分と心配をかけてしまったようだ。
「ジルヘイド様達が居なくなってからというもの、この国は寂れ傾くばかりです。いくら金脈に恵まれ国の財政は安定しているとはいえ、産業が衰退していけば領地からの税収は減るばかり。私達は金山を奪われてから、領地が荒れても元に戻せなくなってしまいました」
「農業だけでなく、林業など、あらゆる産業がサザベルに置き換わっていっています。どの貴族も不満を募らせているんです」
「陛下に要望を申し上げても何も返事は頂けませんし、それどころか、要望の内容が気に食わなければ王妃に睨まれてしまい、我々のように領地を減らされたり、馬車が賊に襲われ不運な死を遂げたりするようになってしまっているのです」
「賊に襲われた?」
「エルニオ卿も、首都から領地に帰る途中で賊に襲われ亡くなりました。
トライト様の話では本来なら軍が調べる案件ですが、この件は特別部隊の者が調査したそうです。そして、賊は捕らえられることはなく、有耶無耶になったまま時間が経ってしまいました。十中八九特別部隊の仕業だろうとおっしゃっていました」
「ここにいらっしゃる皆様には、我々のクーデターに賛同頂きたいのです。貴殿らに頼みたいのは、全てが成功を納め、この国がエルシード殿下の手によって正しい道に進み始めた後に、殿下を国王としてサポートしてもらうことです。
血生臭いことは我々が担いますので、お願い出来ますか?」
仲間達の会話が一段落した所で私がそう言って本題を切り出すと、4人の貴族達は真剣な顔で私を見返して力強く頷いた。
「もちろんですよ。現在、国内の貴族は国王陛下に賛同する者は誰1人おりません。血判付きの誓約書も喜んでしたためましょう」
「ジルヘイド様がいつか我々の前に現れ、このように申し出てくれるのを待っていたんです。必ずや成功するように、我々に出来ることは何でも言って下さい」
「私達がアンテナとなって国内中の貴族達に水面下で連絡を取りましょう。すぐに誓約書が揃いますよ」
「武器などの準備は私もお手伝いさせて下さい」
「みなさん…。ありがとうございます」
それからはアグネアトにほど近い街にあるラードアエラ卿の別宅に身を隠させてもらって、国内の貴族達の協力を得るために動き始めた。
やはりサザベル寄りの政策は貴族達の懐に大打撃を与えていたからか、思っていた以上の短期間で貴族達の協力を得る約束をとりつけた。
そしてある日の夜。トライトが秘密裏に送ってきた自身の副官アスベルを囲んで、具体的な作戦を立てることになった。
「あの3人の普段の行動は?」
「あの者達は王妃の側に必ずいます。彼らが王妃の側を離れるのは、王妃が国王と一緒に閨を共にする時と、王妃が下がるように命じた時だけです。
そして3人の部屋は王妃の部屋の前と両隣にあり、常に王妃を護衛しています」
「そうですか。クーデターを決行するのに最適な日はありますか?」
「1ヶ月後に王妃の兄、メニベルというサザベルの第2王子が訪問予定です。
訪問中は王子が連れてきた将軍を含めた護衛達も手厚くもてなされて、国内に散らばった特別部隊の者達が全員首都に呼び戻され、サザベルの将軍により直接指導が行われます。
そしてサザベルに帰る時は、特別部隊の者達が総出で国境まで見送ります。王宮内に残るのはあの3人と僅かな特別部隊だけなので、この時にクーデターを起こせば良いかと」
「王子達がサザベルに入ったことを確認した上で、特別部隊の者達が首都に戻ってくるまでの間に一網打尽にして捕縛するのが良いですね。ということは、クーデター実行する部隊と国境に向かう部隊に別れたほうが良さそうですね」
「それと、王に意見し左遷された行方不明だった前任の宰相様や大臣達ですが。彼らは王宮の地下に造られた地下牢に入れられているようなのです」
王宮の地下の最下層は、あの拷問が行われた血壁の部屋が1つだけだった。私達が居ない間に地下牢まで作ったらしい。
「王宮の地下に?どこに入り口がありますか?」
私がアスベルに尋ねると、懐から出した王宮内の見取り図を開いて1か所を指し示した。
「入り口は血壁の部屋の隣にある部屋です。鍵は護衛の1人、カーバスが持ち歩いているようです」
私達が拷問を受けた部屋とその隣の部屋は小さなガラス窓で繋がっている。あの時、その部屋で国王と王妃が私達の苦しむ姿を見ていた。
そんな嫌な部屋の足元に宰相様達が幽閉されているとは。
「エルシード殿下を早々に解放し、すぐに首都に行かなくては。宰相様達の身の安全が心配ですね」
「エルシード殿下の幽閉されている場所は特別部隊の者が監視をしていて、その状況はイェネフが陛下と王妃に毎日報告しています。
殿下が大人しく過ごされていること、辺境の地であるためあの3人が確認しにくることもないので、最近は監視の者達はかなり適当な仕事をしているそうです。エルシード殿下を解放した後、背格好がよく似た者を用意しますのでおそらく発覚することはないでしょう」
「分かりました。では、エルシード殿下がいるアグネアトに向かいましょう」
アスベルからの具体的な情報とナディア達が集めた現地の情報を整理し、仲間達と作戦を立ててエルシード殿下の待つ地へと向かい始めた。
殿下の救出はクーデターに向けての失敗できない大きな作戦だ。私や仲間達の間には戦場に向かうのと同じくらい、ピンと張り詰めた緊張感が漂った。
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