天使な狼、悪魔な羊

駿馬

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第20章 渦紋を描く

5.無愛想宰相の考察

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■■■前書き■■■
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更新お待たせしました!
今回はウィニストラ国王と宰相のやり取りを第三者視点で見たお話となります。
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ウィニストラ王宮内にある国王の執務室。そこには書類を手に難しい顔をした国王がいた。扉をノックする音に「入れ」と返事をすると、宰相が一礼をして入ってきた。

「フシュカード女王らと会談した際の報告が届きました」

視線で読むように促された宰相は、相変わらずの無表情で淡々と読み上げ始めた。


「大罪が起きる直前、トラントの宰相がフシュカードに来ていたか尋ねたところ、女王から『貴国が保有するシェニカ殿に関する全ての情報を開示するのであれば、証拠を示して返答する』と返されましたので、殿下がその場で断りました。
こちらからは金銭や貿易面での融通などを提案しましたが、フシュカード側はシェニカ様の情報以外のことを求めませんので、交渉は決裂しております」

「暗部を送って調査するから、交渉は決裂したままで良いと伝えよ」

「分かりました」

国王は持っていた書類を置くと、深いため息を吐いて天井を見上げた。


「ヴェンセンク、トラントの宰相はフシュカードに行っていたと思うか?」

「フシュカードの宰相は有能だとは思いますが、わざわざ視察するほどの人物ではないと思います」

「同意見だな」

国王が呆れた様子になると、宰相は「そもそも」と言葉を続けた。


「すべてとは言いませんが、トラント国王の話は真実だと限らないので、フシュカードやビステンには行っていないのではないかと」

「強制催眠で聞き出した話が嘘だと?」

「王というのは、国の政治や外交、治安などをすべて司る最終責任者です。しかし、陛下もご覧になったように、あの国王は内政や外交の話をしても、理解していないのでまともな返答が得られませんでした。
その一方、トラントの大臣らは『国王は戦争好きなところはあるが、内政や外交の指示も的確に行う素晴らしい方』と評価しているので、宰相が影であれこれと手を回し、自分の手柄を王の成果として支えていたのだと思います。
ただ、いくら宰相が優秀であっても、あそこまで人任せで国に無関心な国王を、長年『優秀な王』に仕立てあげ続けるのは大変だったと思います。優秀な王という仮面が剥がれないように、王には大まかなことだけを伝え、詳細は宰相に聞くようにという流れを作り、王が口を滑らせてしまっても問題が起こらないよう、普段から『嘘ではないが真実でもない』『どうとでも取れるような言い回し』で伝えていたのではないかと思います。
そういった王の扱い方は、宰相と共に内政や外交を任されていた王太子とアステラにも教えられていた、と推測できますので、王の話は話半分に聞く方がよいと思います」

「ふむ…」

「『白い渡り鳥』様たちの協力を得た、『聖なる一滴』だと特定されない、解毒薬がないということで、国王は計画が上手くいくと信じて疑わなかったようですが、宰相と王太子は現実的で合理的な思考を持っていたそうなので、失敗した場合のことを考えたはずです。
大罪の責任は王1人の生命で贖うのが原則なので、形式上宰相や王太子は生き延びることが出来ますが、大罪に深く関わった2人は危険視されるので、暗殺の手が及ばないよう、帰国していても離れた場所にいて、アステラに任せていたのではないかと思います。
そして王に責任を取らせて終結させるつもりだったから、捕縛されたと一報が出た後も、取り返そうとする気配すらなかったのかもしれません」

「なるほどな。裏付けはないが十分考えられるな」

「思った通りにいかず、追い詰められて本当に自殺したのかもしれませんが、失敗した場合の身の隠し場所くらいは用意していそうなものです。特に、ここ何年か王太子の外遊が増えていたようなので、密かに繋がったどこかの国に潜んでいるのかもしれません」

「長年の経験や習慣で身についた立ち居振る舞いや印象などは、そう簡単には変えられない。隠すなら、それなりの地位にある者の協力が必要になるが、護衛の将軍らも併せて匿って何の利益がある? 国を乗っ取られる可能性もあるというのに」

「すべてを失った彼らに何が残っているのか、と考えてみたところ、トラントが独自に進めていたシェニカ様の行動観察の情報であれば、国王の朧げな証言からでも、かなり踏み込んだ内容だったのは明らかなので、彼らを保護する利益にもなりそうです。しかし、強制催眠をかけられてしまえば、すぐに用済みとなってしまいます。
どんなに考えても推測の域を出ないので、新たな情報を得たいところですが、トラントの将軍や副官達だけでなく、暗部の気配すらまったく感じられないそうです。ひとまずは、大臣経験者や宰相の家族、捕えた副官らに聞き取りを行うなど、調査を進めたいと思います」

「国王を処刑しても根が残るとは。なんと厄介な」

「それと。トラントの王族は、代々あの鍾乳洞に異様にこだわっていたようなので、その執着は王太子にもあっておかしくありません。彼が生存している場合、鍾乳洞を取り戻そうとする可能性があります」

「あり得る話だが、鍾乳洞は崩壊が進んでおるし、その上にある街も周辺も安全に住める場所ではない。2人の生死に関わらず、鍾乳洞をどうするか考えねばならぬな。
しかしよく宰相の心理や考えを考察できたな」

「同じ立場ですし、問題児を相手にする苦労は私にも分かります。ただ、私と決定的に違うのは、ファーナストラ殿下は自由人ではありますが、愛情深い人なので、民を思って責務を果たしてくれるところでしょう。殿下はトラント国王のようにはならず、国民思いの良き国王になります」

「お前がそう言ってくれると心強い。これからも頼んだぞ」

ゆっくり頷いて返事をすると、宰相は表情を変えることなく書類を王の机に置き、一礼して扉から出て行った。
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