天使な狼、悪魔な羊

駿馬

文字の大きさ
上 下
91 / 260
第12章 予兆

6.ボンクラ王子の思惑

しおりを挟む



「患者も落ち着いたから、明日にはこの街を出発しましょ」

シェニカは治療院に来た全ての患者を片付けると、大きく背伸びをしていた。




「きちんと白魔道士がいると違うな。ナンパだらけの傭兵も少ないから、お前も気が楽そうだったな」


「そうね、とっても静かで治療が捗ったわ。まさかセゼルの将軍が来るとは思わなかったけど。
それにしても、首都だけじゃなく地方にも白魔道士に定期的に治療院を開かせるなんて、あの国王は長話だったけど意外と民衆思いなのかしらね」



王宮に挨拶した時の、あの長話の国王を思い出した。
あの国王はシェニカに矢継ぎ早に話題を繰り出し、シェニカが立ち去るのを阻止していた。
プライベートなことを聞かれた時は、シェニカが上手くはぐらかしながら返事をしていたが、ギルキアの王子達がシェニカをずっと見つめ、部屋の隅に控えていた文官達がシェニカの話をメモしていた。



王宮に治療完了の報告をしに行かないといけないが、またあんな異様な空気を感じなければならないのかと思うと面倒くさくなる。





「どうだろうな。よく分からんが油断は禁物だからな」


「うん。他国の将軍もまだいるから余計に気が抜けないね」


宿に戻って食事を済ませ、シェニカは結界を張って風呂に入った。その間、風呂場からシェニカの楽しそうな鼻歌が聞こえてきた。
誰でも知っている童謡を口ずさんでいる様だが、時折歌詞と音程を間違えていることに気付いて思わず笑った。




しっかりしている様で、どこか抜けているあいつは可愛い。
身分を振りかざすこともなく、誰にでも優しく接するあいつに愛おしさが込み上げてくる。


好きで愛おしくて堪らなくて、毎晩自分のものにしていないと落ち着かなくなってしまった。





「この町を出たら次はどこを目指すんだ?セゼルの筆頭将軍には北に行くって言ってたが、本当にアビテードに行くのか?」


風呂上がりのシェニカは、頬がピンク色に上気していて色っぽい。




「うん。アビテードに行ってみたいんだ。ルクトは行ったことある?」


シェニカはテーブルの上に世界地図を広げ、今いるギルキアの場所に指を置いて、北に伸びる街道をなぞって、その先にあるアビテードで指を止めた。




「アビテードって1年の内10か月くらいは雪が降ってるって国だよな。結構過酷な旅になりそうだけど大丈夫か?」




「うん。大丈夫だよ。じゃ、明日からアビテードを目指そう」


 地図を片付けてベッドに向かおうとするシェニカを腕の中に閉じ込め、キスをした。

明日から野宿なんだから今日はヤりたい。
今夜は後ろからにしようか。また跨らせて騎乗位も良いな。媚薬はまだ調達してないが、泣きながら俺を求めて腰を揺らす、あの乱れっぷりがまた見たい。





「ルクト、今夜はダメ」

シェニカのパジャマのボタンを外そうとした時、小さな手が俺の手を押しとどめた。



「なんでだよ」


「月のものがきたから…。しばらくお休みね」


シェニカは顔を赤くしながら、俺に抱きついてきた。
月のもののせいで抱けないのには腹立たしく思ってしまうが、妊娠していないという証拠なのだから諦めるしかない。




「仕方ねぇな。じゃあ脱がなくて良いから、身体を触らせろ」


「え…?あ、うん。分かった。上だけ優しく触って?」


シェニカは何をされるか分からないことに警戒しているのか、俺の顔をチラチラと見ながらベッドに入った。

俺は上着を脱ぎ捨ててシェニカの隣に身体を横たえると、シェニカを背中から抱きしめて、音を立てて耳やうなじにキスを繰り返した。



 
「ん…。あ、はぁ…。ルクト…」

シェニカは気持ちが良さそうな甘い吐息を漏らしながら、俺の名前を呼んだ。



「あ…。何だか優しくて気持ちが良い…」


「たまには優しくしてやるよ」


「あ、ん…。ルクト…。じゃあ、私もたまには…させて?」


シェニカが俺と向かい合うように体勢を変えると、俺の首筋に唇を寄せて、軽い羽で擽るように柔らかな唇でキスをしていく。
いつも俺がやっていることをシェニカがやるのは珍しい。



「気持ちいい?」


「あんまりやるな。ヤりたくなる」


振り返ってみれば、ほとんど俺がシェニカを貪るように組み敷いているから、シェニカが俺の身体に触れることはあまりないことに今更気付いた。





「ルクトの身体、鍛えてあるよね…。すごくかっこいいな」


シェニカは俺の胸や腹の筋肉を確認するように指でなぞった。その表情は嬉しそうな顔をしていて、何だか俺まで嬉しくなった。




「傭兵やってれば、みんな似たようなものになる」


「私、鍛えてもこんな風にならないもの。いいな、こんなに筋肉質で…」


「お前に筋肉がガッツリついてたら、抱き心地が悪くなる。鍛えなくていい」


「ふふっ。うん、そうする」


今夜は、ただ触れ合うことを楽しむだけの穏やかな戯れの時間が続いた。
いつもなら喘がせて快楽を追い求めてシェニカを食い尽くすが、たまにならこういうのも悪くない。




シェニカとの穏やかで甘い時間を堪能した後、シェニカは幸せそうな笑顔を向けて眠りについた。
俺はそんなシェニカの寝顔を見ていると、いつの間にか眠っていた。






翌日。


私とルクトが王宮に出発の挨拶に行くと、謝礼は貰ったのに国王の長話が止まらない。
うかうかしていると迷物の長話の餌食になってしまいそうだが、今日こそは早く王宮を出たい。



「なんと…。もうここを発つと申すのか。もう少しこの街でのんびり休息しても良いのではなかろうか。
シェニカ殿のために明日の夜には我が国の王族や貴族、将軍らだけを招いた小規模の夜会を考えていたのだが、それまで滞在してはどうか?
貴殿の旅の話は誰もが耳にしたい話であるから、みなが楽しみにしておるぞ」



軍事会議の最終日ということもあってか、今日は王族も他国の将軍達も居なかったが、それでも多くの文官達が控えていた。


 
「お誘いありがとうございます。治療を必要としてる人は多くいますから、先を急ぎたいと思います。
しかし、この街には白魔道士の手が行き届いていて素晴らしいですね」


早く王宮を出たいが、褒めるべきところは褒めておかないと。そうしておけば、白魔道士の治療院は今後も続けてくれるはずだ。




「ははは!以前ローズ殿に白魔法について熱心に指導して貰ってね。
戦争を止めるわけにはいかないのなら、白魔道士を国で独占せずに多くの者に癒しを与えろと言われてから、このようにしておるのだよ」



流石ローズ様、しっかりお説教なさったんだなぁ。
私も王族に熱く指導して、こういう風に国の施策に反映させるくらいの説得力を持ちたいものだ。




「そうだ。我が息子のダグラスが、貴殿を王宮の薔薇園を案内したいそうだ。
薔薇園はローズ殿にも褒めてもらった我が国一番の場所なのだよ。シェニカ殿にも是非一度見てもらいたいものだが、出発はそれを見てからでも大丈夫であろう?」



「え、えぇ」


本当なら断りたいが、ローズ様が褒めた薔薇園という言葉を聞いてしまうと、少しだけ興味がそそられた。




「では、アンバート。シェニカ殿をダグラスの元へと案内して差し上げろ」


「シェニカ様、どうぞこちらに」


アンバートと言われた将軍に連れられて謁見の間を出ると、長い入り組んだ廊下をひたすら歩いた。
トラントの王宮のように、方向感覚を狂わせる様な迷路に私は何だか不安になるが、困った時はきっとまたルクトが教えてくれるだろう。



私の前を歩くアンバート将軍は、『この人本当に将軍として大丈夫なのかな?』と心配になるような細身で中性的な綺麗な顔立ちをしている。

廊下にある小さな窓から差し込む陽の光に当たると、暗めの茶髪の長い髪がサラサラと揺れて綺麗だし、軍服じゃなくて女物の服を着ていたら、少し背の高い女性と見違えてしまいそうだ。
この人は絶対女装したら、美女に違いない。声は少し低いけど、ハスキー声の女性でも十分通じる。




ーー女性にしては背が高い方になるから、マーメイドラインのドレスとか似合いそうだな~。いや、ここはマニア受けしそうなメイドの格好も捨てがたい。
いや、やっぱり女性物の軍服を着て『出来る女』をイメージしてみても良いな~。




勝手にアンバート将軍が女装した時の似合いそうな服を勝手に妄想しながら歩いていると、衛兵が立つ廊下の前で立ち止まった。
窓が無くて暗い廊下の先には、小さく光が見えるからその先に薔薇園があるのだろうか。




「シェニカ様、この先に王太子殿下がお待ちになっています」


「そうですか」


アンバート将軍は私を先に通すと、自分を壁にする様に私とルクトの間に立ち塞がった。





「申し訳ありませんが、ここより先は然るべきお立場の方のみが通る場所ですので、護衛の方はご遠慮ください」


「でしたら私はご遠慮致します」


私がルクトの方へと戻ろうとすると、将軍は今度は私を通せんぼをする様に振り向いて、隣の衛兵に目配せをした。
すると衛兵は私を取り囲むようにして私と将軍の前に立ちはだかった。



「シェニカ様はどうぞこの先にお進み下さい。殿下がお待ちになっております。衛兵、ご案内して差し上げろ」


「護衛が一緒でなければ行きません」


「殿下より、シェニカ様をお連れするようにきつく申し渡されておりますので」


「俺と一緒じゃないと行かねぇって言ってるのが聞こえないのか?身分が上の者の言うことを聞けよ」


「確かに『白い渡り鳥』様は私よりもご身分は上でいらっしゃいますが、私は王命を受けておりますのでそれに従うまでです」


将軍の言うように、私は客人だし身分は将軍よりも上だろう。
いくら『白い渡り鳥』が王族並みの身分を持っていても、国のために働く彼らは国王の命令を受けて動いているのだから、私の命令よりもそちらを聞くのは当たり前だ。

将軍はルクトを先に進ませないようにしているし、客人扱いの私を掴んで無理矢理連れて行くわけにもいかない衛兵は、先に進まない私に困り果てているようだった。




「アンバート、遅いではないか」


しばらく膠着状態が続いた時、廊下の奥の方から少し高めの男性の声がかけられた。
振り向けば、肩までの紺色の髪をサラサラと揺らした、白い上品な服を来た年若い青年が怒ったような顔をして立っていた。



「殿下、申し訳ありません。私は護衛を留め置いておきますので、シェニカ様をお連れ下さい」


「そうか。ではお前はここで邪魔なそいつを黙らせておけよ」


王太子は私の腕を掴むと、力任せに私の右腕を引っ張って私を廊下の奥へと引きずって行き始めた。




「痛っ!何するんですか!放して下さい!」


痛みを感じるほど腕を掴まれて、私は力任せに引っ張っていく王太子に叫ぶように声をかけたが、王太子は返事を返すこと無く無言で廊下の奥へと進んでいく。




「てめぇ!そこをどけ!」


振り返ってルクトの方を見れば、彼はアンバート将軍を押しのけて私の方に来ようとしているが、将軍はルクトを押さえつける様にしている。

いくら細身で女性っぽい印象を受けても、流石将軍なのか彼も上手く躱せない様だ。



「ルクトっ!」

私は足を踏ん張って踏みとどまろうとするが、細身の王太子でもやはり私との力の差があるからか、私の抵抗など無いようにどんどんルクトから引き離された。

あっという間にルクトの姿も声も聞こなくなってしまい、私は自由な左手で必死に掴まれた腕を振りほどこうと王太子の手を叩いたり、引っ張ったりしてみたものの全然効果はなかった。




「ちょっと、やめてっ!放してよっ!」


「大人しくしていれば悪いようにはしない。お前はただ黙って俺に任せていれば良いんだよ」



ーーはぁ?何が黙って俺に任せていれば良いんだって?!ふざけんじゃないわよ!!

王太子の言葉と態度に腹が立った私は、普段ならナンパ傭兵に喋る汚い言葉で王太子を罵った。





「何するのよっ!嫌だって言ってるじゃないっ!この馬鹿っ!アホっ!放さんかボケ!それでも王族かっ!?」


「どうして嫌がる?俺はこの国の王太子だぞ。王太子のお手付きとなるのは名誉なことだろ?俺がお前を気に入れば愛人じゃなくて正妃にしてやる。
妃になって子供を1人生んだら、ちゃんと旅に行かせてやるから安心しろ」


口汚い言葉で罵ったと言うのに、私を蔑んだり非難するどころか、王族らしからぬ言葉と聞き捨てならないセリフを堂々と言い放った。




「はぁ?お手付きに子供生んだらって…!ふざけんじゃないわよ!そんな自分勝手なこと言って、あんた本当に王太子なの?!
私はそんなこと望んでないし、『白い渡り鳥』だから自由に旅を続ける立場なの!王族だろうが一般市民だろうが、あんたみたいな自分勝手な奴との付き合いは私は御断りよ!私はあんたみたいな自分勝手な奴との結婚なんか望んでないわよ!この最低男!!」




「一回俺とベッドを共にしたら良さが分かるって。父上も人気の『再生の天使』であるあんたなら、正妃にしても良いとおっしゃっているんだし」



「はぁ?!馬鹿じゃないの?私の方があんたなんかお断りよっ!放せ馬鹿!この馬鹿王太子っ!」


私が周囲に聞こえるような声で罵っているのに、誰も様子を見に来るものはいない。
薔薇園に行くどころか、暗い廊下をあちこちに曲がった後、大きな部屋の中に連れ込まれそうになった時に、不意に私を掴む王太子の手が離れた。




「殿下。それ以上はおやめになった方が良いですよ」


「貴様、他国の将軍のくせに何をする!」

王太子の手を掴むのは、黒いマントのついた紺色の礼装用の軍服を着た金髪の男性だった。その胸には、炎をかたどった金色の華々しい階級章が誇らし気に光っていた。



 
「殿下。『白い渡り鳥』様はどの国に行くかを自由に決めることが出来ます。
殿下の行いでこの国の心証を下げれば、もう2度とシェニカ様はこの国に足を踏み入れようとはしないでしょう。それどころか、ヘビガラスが何処かに飛んでいくかもしれませんね。
そうなれば、この国の国民は治療を受ける機会が失われるでしょうし、最悪の場合大きな戦争が起きるかもしれませんよ。折角この国は戦争を回避して内政も安定していたのに、殿下の行いでそれがすべて水の泡。それでもよろしいのでしょうか?

そもそも、将軍まで使って非力な女性から護衛を無理矢理引き離し、嫌がる相手を手籠めにしようなど、とても王太子のやることではないかと思いますが」


男性がそう言うと、王太子は品位のかけらもない苦々しげな舌打ちをした。



「くっ…!ディスコーニ将軍、覚えておけよ!」


王太子は悔しそうに自分の腕を掴む男性の手を外して睨みつけ、廊下の奥の方へとドカドカと品位のカケラもない乱暴な足音を立てて去っていった。



 
「あの、ありがとうございました」


助けてくれた金髪の男性を見上げると、少しタレ目の青い目を細めた柔和な笑顔を浮かべて私を見下ろした。
両耳に下がっている紫色の宝石が嵌ったピアスの銀のプレートが、小窓から差し込む光に反射してキラリと光った。




「いえ、この程度構いませんよ。あの王太子は甘やかされて育ったので、どの国の者達も迷惑してるんです。
普段言えないことをはっきり言えて、こちらもスッキリしました」




「本当に助かりました。なんとお礼を言ったらいいか…」



「この程度で礼など不要ですが、もし近くを旅することがあれば、是非我が国にお立ち寄り下さい。
ウィニストラは貴女様の訪問を心待ちにしております」



「ウィニストラ…」


ウィニストラと言えば、バルジアラ将軍がいる国だ。
ルクトがバルジアラ将軍を敵視しているから、今後はウィニストラに行っても首都には行くことはないだろうなと思っていたが、助けてもらったお礼はどこかでしなければならないだろう。



 
「シェニカ!」

廊下の奥の方からルクトが走ってきているのか、彼の声が段々と近付いてきている。その声の感じから、かなり心配してくれているのが分かる。




「護衛の方もいらっしゃったようですし、私はこれで」


「本当にありがとうございました」


私が礼を言うと目の前の将軍はニコリと笑って返した時、廊下の奥の方で誰かを呼ぶ声がかすかに聞こえた。






「ではシェニカ様、失礼しますね」


黒いマントを翻し、将軍は足早に声のした方向へと消えて行った。




将軍が立ち去って間もなくして、私の前に辿り着いたルクトは将軍が立ち去った方向を鋭い目で見つめていた。私は隣に立ったルクトを見上げた。





「ルクト、心配かけてごめんね」


「大丈夫だったか?」


ルクトは私の腰に手を回して、自分の身体に密着させた。それがとても嬉しくて、私は思わず彼の胸元に頭を倒した。



「うん、さっきの人が助けてくれたの。お礼を言ったら、是非ウィニストラに来て下さいって言われた」


「ウィニストラ……ね。こんなところ早く出るぞ」



ルクトは厳しい目のまま、私が駆け足になるくらいの速さで王宮と街を出ると、今度は街道をのんびりとした足取りで歩き始めた。




ーーーーーーーーー



黒髪の女性に背を向けて廊下の先へと進むと、めんどくさそうな目をした銀髪の男が金髪の男を待っていた。
銀髪の男の厚みのある肩の上には、茶色の体毛を隠すような服を着た、耳が大きくふさふさの尻尾、水色の切れ上がった目のリスのような小動物が乗っている。




「お待たせしました、バルジアラ様。ユーリ、こちらにおいで」


金髪の男が片手で襟の留め具を外しながら小動物に向けて手を差し出せば、小動物は「チチチッ」と鳴いて金髪の男の方へと軽々と跳び、開いた首元から軍服の中へと潜り込んだ。



「さっさと行くぞ」


窓から差し込む陽光が直線的に照らす煉瓦造りの薄暗い廊下を、ウィニストラの礼装用の紺色の軍服を身に纏った2人の男が淡々と歩いていた。



1人は背が高く軍服の上からでも逞しい筋肉に覆われていると分かる、背も身体付きも大きな銀髪の男。
その隣には、銀髪の男に比べてふた回りは小さいが、それでも普通に見れば背は低くなく柔和な空気を纏う金髪の男。

2人ともウィニストラの将軍を表す金色の階級章を胸に着けていた。




「まったくあのボンクラ王子は節操がありませんね」


金髪の男は先ほどまで浮かべていた柔和な笑顔ではなく、呆れたような苦笑を口元に浮かべていた。





「おおかたあの父王に唆(そそのか)されたんだろ。なんせ来たのは、どんな傷も呪いも治療してしまう『再生の天使』だからな。
彼女が訪れれば軍の士気も上がり、民衆からの高い支持を得られる。
ついでに他国の将軍のいる前で彼女と親しくなれば、貴重な彼女との繋がりを自慢出来るからここの国王はそれを狙ったのだろう。

普通生国とは繋がりが深いはずなのに顔見知りでもないときては、特に生国のセゼルは焦るよなぁ。見たか、あのリニアクトとイルートの悔しそうな顔!傑作だったな。
訪れたらすぐに取り込みたいのも無理はないが、もう少しやり方があるだろうに。いきなり手籠めにするなど、とても王族が考えることではない。
あれが王太子とはこの国も末期だな」




「本当です。ですが、その代わりにウィニストラを宣伝する良い機会になりました」


「お前は本当に抜け目がないな。まぁ、こういう機会でもなければ、俺達が彼女に近付くことは出来ないからな」


銀髪の男が疲れたように溜息を吐いた。



「シェニカ様は公的な者達はおろか、神殿でさえも繋がりを持とうとしない神出鬼没な方ですから、どの国も招くのに苦戦しているのに。
この場でやっと会えたのに、ギルキア、セゼル、トラントの3国はシェニカ様に近付けても、我が国は貴方様のおかげで近付くことすら出来ませんでしたからね」



「仕方ないだろう。あの『赤い悪魔』がまさか『白い渡り鳥』様の護衛をしているなど誰が思うか?
最初見た時は何かの間違い、もしくは罠かと思ったが、あの様子だときちんとした護衛をしているから驚きだ。
まぁ、奴ほどの傭兵であれば彼女の護衛に適任だろう。欲を言えば同じくらいの傭兵をあと2、3人付けるくらいが丁度良いだろうがな」



銀と金の2人は真っ直ぐ先を見据え、そんな会話をしながら廊下の先へと消えて行った。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...