天使な狼、悪魔な羊

駿馬

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第12章 予兆

2.不毛な授業 ※R18

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ここはギルキアの町にある、とある宿屋の1室。



ダブルベッド、文机を兼ねた小さな鏡台と小さな木の椅子、1人がけの2つのソファが小さなテーブルを挟んで置いてあるだけで、絵も花も飾られていない質素な部屋だ。





鏡台の木の椅子にルクトを座らせ、私はソファを移動させて彼の横に座って字の授業を始めた。



「はぁ~~」



彼にまともな字をかかせようと勉強を始めて既に1時間が経過しているが、私はもう彼に字を教えると言ったことを後悔し始めた。

だからこそ、こうして心と身体の奥底から出てきてしまう溜息を隠すことなんて出来なかった。






「ルクト…。ペンを持ったら机と平行になるように身体を向けてって言ってるじゃない!
なんで身体を斜めにして書くのよ!身体を捻って書いてたら腰痛めそう」





「あ?こういう格好が楽なんだよ。腰を痛めたらお前に治療してもらえば良いし」


ルクトは文机とセットになった椅子に座っているが、右足を左足の膝の上に置いて、身体が机に対して斜めを向いているから、机に置いてある便箋には身体を捻るようにして字を書いている。

この格好でお酒を飲むだけならかっこいいと思えるのだが、字を書くには適さない姿勢だ。





「身体が斜めだから字も斜めになるんじゃないの?そっちの方が絶対書きにくいよ!
あと、紙に書いてある罫線を無視しないで!罫線に沿って字を書いてよ」



ルクトの書いた便箋を見て、私は思わず声を荒げた。
彼の書いた字は便箋の罫線を無視して、斜めに傾いているのだ。









「俺は他人の敷いたレールの上には乗らねぇ主義なんだ」




ーーこの人…。便箋の罫線にそんな屁理屈言っちゃうの?罫線って字を書きやすいように目安として予め書かれているだけなのに、それを『他人の敷いたレールの上』とか言っちゃって、なんかおかしくない?







「……あのさ。そのセリフ使う時を間違ってると思う。紙の罫線くらい従ってよ!」



「ほっとけ」





「それになんでそんなミミズの這ったような崩れた字になるのよ!誰も読めないよ?」





「俺は読める」


この人、真顔で何を言ってるのだろう。自分で書いた字が読めなかったら、そもそも字の意味がないと思う。





「そりゃ自分が書くからでしょうが!他の人に伝えるのが文字の役目なの!それが破綻してるじゃない…」




「読む奴が俺の基準に合わせれば良いだけのことだ」


ーーうわぁ~。どこまで自己中なんだ。もうちょっと他人のことを考えてくれればいいのに。ルクトって、絶対友達居なかっただろうなぁ…。





「何よその自己中心的な発言は!」



「俺は他人のことなんて一切考えない傲慢な『赤い悪魔』なんだよ。諦めろ」



ーー確かにルクトは傲慢なところはあると思う。でも、字くらい他人に分かるように書かないと、どうやって離れた人と意思の疎通をするのだろうか。





「いやいや、文字くらいまともに書こうよ」



「つべこべ言われてると腹が立って来たな。もう今日はこれで終いだ。さっさとベッド行くぞ」


ルクトはそう言うと、椅子から立ち上がって私の手首を強く掴み、ベッドの方へと引っ張った。






「ちょ、ちょっと!まだ字の勉強が終わってない!」




「お前に必要なのは、俺に字を教えることじゃなくて俺と寝ることだろ?」


私はベッドに行かないように必死に足を踏ん張って抵抗しているが、そんな抵抗なんて関係ないように涼しい顔をしてルクトはグイグイと引っ張っていく。





「ち、違っ!」



「違わない。俺はお前の勉強に付き合ってやった。だから今から俺に付き合えよ」


とうとうベッドまで連れて行かれると、ルクトは鋭い視線で私を見下ろし、膝を掬ってベッドに雑に投げればポスンとベッドが小さく跳ねた。





「付き合ってやったって…!私はルクトのためを思って!」



「あんまりゴチャゴチャ言ってると、他の女抱きに行くぞ」


私の上に跨ったルクトは真顔でそう言うと、私の胸は不安と悲しさで一気に塗り潰された。








「それはヤダ」



「なら、もうこれは終わりだ。これからは俺がお前に色々と教える番だ」



「まだ何か教えるの…?」


ルクトは私のパジャマのボタンに手をかけると、あっという間にすべてのボタンを外してパジャマをガバッと開いた。

他の女を抱きに行くと言われた不安と悲しさ、外気に晒された寒さ、何をされるか分からない不安がグチャグチャになって、私は不安が滲む小さな声で返事を返していた。





「そんな不安そうにするなよ。今日は媚薬使ってみるか」



「び、媚薬って!いつの間に!買ったの?」


ルクトは上着の胸ポケットから、子供の指ほどの小さく細長い赤い液体の入った小瓶を出した。





「さあな。こういうのは男の嗜みだ。ほら口開けろ」




「ちょっ!ん~!」


ルクトに顎を掴まれて、小瓶に入っていた赤い液体を入れられた。

液体は喉の奥に水のようにあっさりと入っていったが、舌に触れた部分からは水飴を舌になすりつけられたような強い甘さが感じられる。

甘い物は好きだが、流石にこうも甘ったるい味だと自然と顔を顰めてしまっていた。





「な、何?これ甘ったるい…」



「これは『アロベ』っていう媚薬だ。即効性があって、敏感になるがイきにくくなる」



「そ、そんなもの飲ませたの!?」


ルクトの言葉に私は彼の焦らして焦らしてという流れを嫌でも思い出してしまった。

彼は私に言わせたい言葉を口にさせるまで、散々焦らせて理性を溶かす。その時は何が何だか分からず、彼の言いなりになっているのだが、後で考えるとはしたない言葉を言っていたりして、私は恥ずかしくてたまらない。





「これは『スロベ』っていう強い媚薬を薄めたもんだから、まだ序の口だ。何か身体に変化起きてるか?」



「何か身体がポカポカする」


言われてみれば、温泉に長湯した時に似たような、段々と身体の奥底からポカポカと温かさを感じる気がする。





「そろそろ頃合いだな。俺を欲しがらせてやるよ」


ルクトはペロリと唇を舐めると、着ていた服を雑に脱いで逞しい身体を恥ずかしがることもなく私の前に晒した。
それだけで、私の中に生まれたポカポカする熱は一気に温度を上げた気がした。






「あ!あぁっ!ルクト…っ!もっと…!お願い挿れてぇっ!」


着ていたパジャマも下着もすべて脱がされ、お互いに直接肌を合わせていると、彼の硬い筋肉が私の身体に押し当てられる。

身体を密着させながらも彼は私の耳を舐め、首から肩にかけて何度も強く吸い上げてキスマークをつけていく。
いつもなら少し痛みを感じているのに、痛覚は鈍くなっているのか吸われる強い刺激でさえ快感に変わっていくのをまとまらない頭でぼんやりと思った。




「はぁ…。すっげぇヒクついてるな。俺が欲しくてたまんねぇって言ってるみたいだ」


ルクトは私の足を広げて焦らすようにゆっくりと挿入していくと、早く奥を突いて欲しいと、身体がしゃくりをあげて泣いているようにヒクつき、奥へと少しずつ入ってきた彼を締め付けているのが手に取るように分かった。




「あぁぁぁ!!ルクトっ!!」



「いつもより気持ち良いだろ?……っは、ぁ、っく!」


両手を私の顔の横に手を付き、ルクトがガンガンと激しく奥を突き上げるように腰を動かすと、私は欲しかった快楽を与えられて両足で彼の身体を密着するようにしがみついた。


彼は片手で身体を支え、むき出しになった私のお尻にもう片方の手を添えて、眉を顰めて小刻みに腰を振り始めた。
与えられる快感が少しずつ絶頂に向かって溜まっていった時、彼は急に硬くなったものを引き抜いてしまった。



「え……?どうして?もっと突いて?」


ぽっかりと空いてしまった喪失感に、私は泣き出す寸前の震える声で彼に懇願した。





「お前の中、たまんねぇぐらいイイんだよ。このままだと俺が先にイくから、もうちょっとお前のその姿を楽しませろよ」



ルクトはそう言うと、私の足を開かせたままで指を挿入して、グチュグチュと音を立てさせるくらい激しく抽送させ始めた。






「あああ!イイっ!イイのぉっ!」


指は3本入っているが、彼の太くて長いものには全然及ばなくて、なかなかイけない。
でも、指で与えてくれる快感も堪らなく気持ちが良い。



ーー目の前にいる快楽を与えてくれる人のものになりたい。もっと貴方を感じたい。もっと身体の奥で貴方の反り返ったモノで抉るように突き上げて、滅茶苦茶にしてほしい。もっと貴方のものにして欲しい。



私はそんなはしたないことで頭がいっぱいになりながら、シーツを握りしめて喘いだ。





「お願いっ!もっと…。もっと激しくしてっ!」



「お前の乱れる姿もそそるなぁ。いつもそんくらい言葉でも身体でもハッキリと俺を求めろ」


ルクトは指を激しく抽送して時折指を折って刺激を与えてくれた。
グッと指が入る一番奥まで挿れて、指を折って私の感じる場所を的確に責めながら引き抜いていく。


それがすごく気持ちが良い。






「あん!あん!ルクトお願い…っ!もう、挿れてっ!イかせてぇっ!」



「お前は媚薬に耐性がないなぁ。これはそんなに強くないのに、こんなに乱れるのかよ。これならもっと強い媚薬を試したくなるな」


ルクトが何を言ってるのかなんて頭の中で認識出来ないほど、私の頭の中は彼に与えてもらえる快感のことしか考えられなくなった。





「あぁぁぁぁぁ!!!」


そして待ち望んだ硬く力強いモノが、再び私の愛液で溢れる場所に一気に押し入ってきた。
いつもより太く感じるその存在は、圧倒的な存在感と、彼と居る時に感じる力強さで胎内を彼で満たして行った。




「はぁ、あぁん、ルクト…。イイっ!イイのっ!」



「挿れただけでこんだけ締め付けてくるのか?そんなに俺が欲しかったか?」


彼の太い首と広い背中に腕を回し、彼が腰を動かすのと同じように自分も腰を動かしていた。
その行動に気付いたルクトは、私を意地悪そうな微笑を浮かべて見下ろして、頬や額、額飾り、ピアスに軽くキスを落とした。




「あっ!あんっ!欲しかった、欲しかったのぉっ!」



「なら今日は騎乗位な。ほら、俺の上に乗れよ。もっとお前が腰を振るのを見せろ」


ルクトはそう言うと、腰を動かすのを止めただけでなく引き抜いて、私の隣にゴロリと寝転んでしまった。





「ルクト…。ルクト…」


私はうわ言のように彼の名前を呟きながら寝転んだルクトの上に跨ると、彼の大きくヌルヌルするものを掴んで、入る場所に挿れた。







「あああ!」


自分の体重で胎内の奥まで入った圧倒的な存在は、私の中でドクリと大きく脈打った。





「っ!締めつけんな。そんなにきついと俺が保たねぇんだよ」


彼にそう言われても、身体が気持ち良くなりたい、与えられる快感が欲しくて欲しくて、それ以外何も考えられなくなった。

必死に気持ちよくなれる場所を探して腰を動かし、悲しくもないのに涙を流して、泣きながら言葉にならない喘ぎ声を出していた。





「あっ!ああん!っは、はぁん!」


身体を持ち上げるだけの力が入らない私は、ルクトの浅黒い胸に手をついて夢中で腰を前後に揺らした。

胎内の奥に彼の大きなモノが擦られると、そこから得も言われぬような強い快感が生まれる。その快感が欲しくてたまらなくて必死に腰を揺らし続けた。




「乱れたお前も良いな。いつもこれくらい乱れろよ」



「ルクト、ルクト…!あああーっ!!やぁぁっ!」


ルクトの手が胸に伸び、敏感になっている尖端を摘んでクリクリと捻った。弱い場所を責められ、思わず動きを止めて身体を弓なりに反らせて叫んだ。




「っ!こんだけ締め付けてくるのは、初めてやった時みたいだな。すっげぇ気持ちが良い。お前はどうだ?」



「気持ちが良い…っぁぁぁ!」


胸を愛撫されながら無意識に腰をくねらせ、力が抜けかけている身体を必死に動かし、結合部からはヌチャヌチャと卑猥な音が聞こえていたのに、恥ずかしさは全く感じなかった。





「媚薬の効果は抜群だな。いつもと違って、焦らされてるわけじゃねぇのにイけないってつらいだろ?ほら、早くイかせて欲しいって言えよ」


彼の言う通り自分の動きだけでは快感の果てまでいくには足りず、私はルクトの言葉に期待を込めて返事を返した。





「は…。あ…。ルクト…。お願い、イかせて。お願い、お願い…っ!」



「泣き顔もたまんねぇな。随分とそそるねだり方が出来るんだな」


ルクトはベッドに手をついて上体を起こすと、ベッドの背もたれに背中を預け、私の頭の後ろに手を当ててキスをした。





「お前はイきにくくなってるから、俺の方が保たねぇかもしれないなぁ。そうなったら、お前はずっとこのままだな」



「やだ。ルクト、ルクト…。お願いイかせて」



今の私を助けてくれるはずのルクトからそう言われると、私は真っ暗な奈落の底に突き落とされたかのような不安と絶望感に襲われた。




「そんなに悲しそうな顔をすんなよ。安心しろ。ちゃんとイかせてやるから」



ルクトに抱きしめられながら、奥までググッと突き上げられ、私はまたピンと張った弓のように身体を反らした。






「ああっ!イイっ!あああーっ!!」



「俺もイイよ。すっげぇ気持ちが良い。癖になりそうなくらいだ」


ルクトは噛みつくようにキスをして、痛いくらいに吸い上げてキスマークをつけた。





「もっと…。もっとキスマークをつけて。もっと貴方のものにしてぇっ!」


ルクトにキスマークをつけてもらえるのが嬉しくて、私は涙をポロポロと零しながら彼の頭に手を入れて赤い髪をグシャグシャとかき乱した。





「お前は俺のモノだ。誰にもやらねぇ。もっと…もっとお前が欲しい」


ルクトは顔だけでなく全身に汗を滲ませながらそう言って、豪快に口の中を舐め回すように舌を動かし、口の端から唾液が垂れるほど長い時間そうしていた。





「はっ、あぁっ!ルクト…っ!」


私はルクトの少し伸びた赤い髪に手を入れて、彼に突き上げられる度に生まれる快感が堪らず、彼の髪を鳥の巣を作るかのように更にグシャグシャにしていた。








「俺の方が保たねぇかも…。もうイきそうだ」



「あっ、あっ、あっ、あっ!お願い、私も…。私もイかせてっ!」





ルクトに懇願すると、彼は嬉しそうに笑って手を繋がっている所へと伸ばして、敏感になっている花芽を擦り始めた。



「俺に中で出して下さいって言えよ」



「あっ!お願いっ!な、中で出して、下さい…っ!あぁんっ!」


花芽から指を離して割れ目の部分を何度か往復するようになぞり、繋がっている部分を確認するように指を這わせると、もう一度花芽を緩く擦り始めた。





「俺で満たしてほしいって言え」



「あ、あ、ああっ!ル、ルクトで満たしてぇっ!」



「っぅ!言いなりだな。ちゃんと言えたから、イかせてやる」


ルクトが私の花芽を摘み、胸の尖端を甘噛みした瞬間、私の目の前は真っ白になって、波にさらわれるような、どうしようもない大きな流れに攫われた。







「ああああーー!!!」



「ーーーっくぅ!!」



ルクトが動きを止めた時、ドクンドクンと大きく脈動して彼も果てたのが、繋がっているところから伝わってきた。


彼から注がれる体液がとても愛おしくて、もっといっぱい彼で満たしてほしいと思ってしまう。
今までそんな風に感じたことなんてないのに、そう思ってしまうのは媚薬のせいだろうか。






「はぁ、はぁ…。いつもより気持ち良かっただろ?まだヤリ足らねぇか?」


「もう…無理」


私はグッタリと彼に身体を預けると、ルクトは男っぽさ溢れる声に嬉しさを滲ませ、笑いながらそう言ってきた。






「『アロベ』は1回イけば満足するはずだから、安心しろ」



「うん…」


ルクトは私を汗の滲む硬い胸板に私を押し付けるようにして抱きしめると、優しく頭を撫でてくれた。
いつも彼は激しくしてくることが多いし、意地悪な部分も多いけど、こうして優しくされるととても嬉しく感じる。

もっと優しくしてほしいと思うのだが、彼はきっと私がそう願っても受け入れてくれない気がする。





「お前の乱れっぷりは、なかなか良かったな。また調達しておかないとな。今度はもっと強い『スロベ』を手に入れたいところだな」



「やだ…。もう十分だよ…」


この媚薬でこれだけ自分が何を言っているのか、やっているのか分からなくなる。頭の中は与えてもらえる快感でいっぱいになって、他のことが何も考えられなくなる。


もうこれ以上強い媚薬なんて使わなくていい。いや、これだけ自分が分からなくなる媚薬は、もう使わなくていいと思ってしまった。





「『スロベ』は市販されてないから手に入らない。とりあえずは『アロベ』ともう一段階強いやつだな」



「もう良いよ…。ルクトが飲めば良いじゃない」



「『アロベ』は女にしか効かない。男に効く媚薬もあるが、俺が媚薬飲んだらお前はずっと俺に付き合うことになるが良いのか?多分眠れないぞ」





「それはイヤ。絶対イヤ」


私は迷いなく即答した。

体力も精力もあるルクトに私が付き合いきれるはずもない。彼は絶対媚薬なんて飲まないほうが良い。飲んだらどうなるか私には想像も出来ないが、きっと私はベッドの上で動けなくなっているだろう。そんなの御免だ。





「ならお前が飲むしかねぇなぁ」


「ルクトの馬鹿…。『性欲の悪魔』…」


ルクトがククッと楽しそうに笑う声を遠くで聞きながら、襲ってきた疲労感と眠気に任せて目を閉じた。



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