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駿馬

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第18.5章 流れる先に

10.因縁が生まれる演習2

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第18.5章は色んな名前が飛び交うため、少しでも分かりやすくなればと、出てくる人達を整理しておきます。ご参考までにどうぞ。

(バルジアラの副官)
●リスドー ※腹心
●イスト
●ヴェーリ
●モルァニス
●アルトファーデル

(下級兵士)
●ライン(リスドーの部隊所属)
●ロア(イストの部隊所属)
●マルア(ヴェーリの部隊所属)
●ロンド(ヴェーリの部隊所属)
●ワンド(アルトファーデルの部隊所属)
●ドルマード(モルァニスの部隊所属)

(階級章のない上級兵士)
●ダナン(イストの部隊所属)

(銅の階級章を持つ上級兵士)
●ダルウェイ(リスドーの部隊所属)
●リーベイツ(モルァニスの部隊所属)

■■■■■■■■■


首都を出て1週間。ようやくウィニストラとトラントを隔てる関所に到着した。
トラントとは事前に手続きがされているようで、隊列の先頭を行く人達は関所の一番端にある巨大な鉄扉を騎乗したままくぐり、列は歩みを止めることなく奥へと吸い込まれていく。


「これからトラントに入るが、その領内にいる間はトラントの将軍らが同行する。立ち寄る街では宿に泊まるが、基本的に部屋の外に出るな。自国以外は全部敵国だ。部屋の外に出たい用事がある時は前もって俺たちに言え。決して単独行動はするな」
「はい」

越境しようと関所前に列を作る一般人の顔がハッキリ見える位置に来た時、今まで前にいたバルジアラ様が自分の横に来て、そのような指示をされた。
独特の緊張感を感じながら分厚く頑丈な2枚の鉄扉をくぐってトラント領内に入ると、そこは砂利の隙間から雑草が生えた屋外で、多数の兵士を引き連れたトラントの将軍達が待ち構えていた。今までは1列になって街道を走っていたが、列の両側をトラント兵達に囲まれて大きな一団になってしまったから、街道を往来する民間人の邪魔にならないよう、街道脇を移動することになっているようだった。

何日もかけて領内を移動したが、休むために立ち寄るどの街も、宿がまるごと貸し切りとなっていた。各部屋と食事をするレストランの個室を除く宿の内部は、常にトラント軍による厳重な警備下におかれていた。うんざりするほど監視の目を向けられるから、バルジアラ様に注意されなくても部屋から出ようという気は全く起きなかった。それと同時に、軍服を着て他国に入れば常に監視され続けるのだと、一般人の旅行との違いを身を以て知った。


居心地の悪さを感じながら移動を続け、ようやくサザベルとの関所に一番近い拠点街に到着した。
レストランで料理を食べ終わると、給仕がティーセットと大皿に盛られた紅茶のクッキーを持ってきた。お茶を淹れ終わった給仕がいなくなると、自分の隣に座るイスト様は立ち上がり、円卓の中央に置かれたクッキーの乗る大皿に手を伸ばしたのだが。

「紅茶のデザートはどれもこれも美味いな」

イスト様の手が皿に届く前に、バルジアラ様は独り言を呟きながら大皿を持っていってしまった。立ったまま呆然とするイスト様に気付いていないかのように、バルジアラ様はご自分用の小皿にクッキーがこぼれ落ちそうな程の量を取り分けると、イスト様に半分になってしまった大皿を渡した。


「1人で半分だなんて。取り過ぎではないですか?」
「こういうのは早い者勝ちだ。それに半分残してるから良いだろ」
「何が早い者勝ちですか。私達だって美味しいクッキーをたくさん食べたいんです。ここは平等にしましょう」
「何言ってんだ。ここは上官に華を持たせるところだろ」
「いいえ、違います。ここは部下に対して懐の広さを示す場面です」

リスドー様はそう言うと、有無を言わせない雰囲気を漂わせ、隣に座るバルジアラ様の山盛りの小皿からご自分用の皿に半分移動させた。それを見たイスト様は安心した様子で自分との間に皿を置いたのだが、バルジアラ様は不満そうな顔でクッキーを頬張っている。

トラントの名産品の一つに紅茶がある。その影響か、これまで利用したレストランでは食後に紅茶のゼリーやケーキ、クッキー、紅茶の風味と香りが特徴のカステラなどが出てきた。料理も美味しいが、この紅茶のデザートがとても美味しいので、自分も上官方も楽しみにしていたのだが。今までは個別に出されていたが、今回は取り分ける大皿ということで多めに食べたかったらしい。


「やっぱりここは上官を敬って、俺が一番多めに」
「バルジアラ様、明日のことをディスコーニに伝えていないでしょう? こういうのは直前ではなく前もって話しておかなければ、心構えというのが十分に出来ませんよ」

リスドー様に言葉を遮られたバルジアラ様は、眉間に深いシワを寄せしながら自分に説明を始めた。


「明日の早朝、関所に一番近いカシーっていう街に入ったら、すぐに会場のコロシアムに向かう。準備が整い次第演習が始まって、終わったらすぐに越境してこの街でもう1泊することになる。
サザベルとは国境を接してはいないが、ここ以上に敵国だ。余計なことをすれば下級兵士だろうと大問題に発展するから、絶対に勝手な行動をしたり軽率な発言をするな。俺のそばを離れるなよ」

「はい」

「イスト、その皿を」
「土産は何にするか決まりましたか?」

バルジアラ様が大皿を指差してイスト様に話しかけた瞬間、リスドー様が近くのマガジンラックから『トラント名産品ガイドブック』という冊子を取り出してバルジアラ様に渡した。イスト様から『早く食べて』と口の動きで促され、2人で急いで大皿のクッキーを食べきると、バルジアラ様は深い深い溜め息を吐き、ゆっくりとガイドブックのページを捲っていった。


「あいつらには紅茶の茶葉、紅茶のクッキー、紅茶のブランデー、紅茶で燻製した肉の塊。家族持ちには紅茶の石鹸、紅茶の茶葉、クッキー、ベルチェピンクのハンカチを追加するのが良いかな」

「皆が喜びそうなものばかりですね。特に、燻製肉をワンドが見たら目を輝かせて喜びそうです」

「あいつから出発前に手紙を渡されたんだが。激励や安全を願う内容かと思ったら、『お土産は大きめのお肉がいいです。満腹で寝込むくらい食べたいです』って書いてあった」

「ワンドは食べることになると抜け目がないですね」

「あいつ、いっつも腹を空かせてるからなぁ。『満腹で寝込む』って一体どんだけの量を用意すればいいんだよ」

目の前で起こったクッキーのやり取りと、ご飯を前にキラキラした笑顔を浮かべるワンドの顔とが重なって、思わず小さく笑ってしまった。それはイスト様も同じく、ぷぷっと笑った声が聞こえた。


「お前が演習に勝ったら奮発してやろう。豪華な土産で仲間を喜ばせるためにも、しっかりやれよ」
「頑張ります」

負けるな、というプレッシャーをかけられるのは荷が重かったのだが、仲間たちがお土産を前に喜ぶ姿を思い浮かべると、少しだけ頑張ろうという気持ちが出てきた。



翌日。夜明けと同時に街を出発してサザベルに入国すると、今度は多数のサザベル兵と一緒に少し離れた場所にある大きな街へと向かった。街の中は早朝ということもあって民間人の姿はほとんどないのだが、その代わりのようにサザベルの将軍や兵士達が大勢待ち構えていて、鋭い視線に晒されながら騎乗したまま街で一番巨大な建物へと向かった。
コロシアムの前で馬を降りると、馬を預かりに来たサザベルの兵士が無表情で近付いてきた。襲ってきそうな様子はないのだが、憎悪や敵意に満ちて殺気立っているのが伝わってくる。


「堂々と胸を張って、まっすぐ前を向いて歩け」
「はい」

かすかな音を立てることも許されないような緊張感と重々しい空気を感じると、自分はなんて場違いなところに来てしまったのかと不安になってくる。トラント領内にいる時よりも緊張感が漂っているが、バルジアラ様に言われたように真っ直ぐ前を向いて歩いた。

演習が行われる石造りのコロシアムは3階建ての円形で、中心にある舞台を取り囲むように階段状の観覧席が整備されていた。会場全体に屋根はないのだが、2階の一部に石で屋根と壁を作った複数の貴賓室があり、ガラス張りになった特等席からサザベルの王族が観覧するらしい。観覧席にはウィニストラ側の席も用意されているが、そのほとんどをサザベルの兵士が埋め尽くしているせいで、試合が始まる前からウィニストラは圧倒されているようにも見える。


「私達は観覧席に行くけど、緊張しすぎないように」
「悔いのないように全力を尽くすんだ!」

観覧席に向かうイスト様とリスドー様と分かれ、バルジアラ様と一緒に舞台に続く階段を上ると、続々とここに集まってくるサザベルの出場者を横目で見た。細身の人もいれば大柄な人もいるのだが、どの人も威圧感がすごくて強そうな人ばかりだった。


「これより合同演習の説明を始めます。試合は時計の砂が落ちきる10分間。勝敗は降参をするか、審判の判定で決まります。出場者は名前が呼ばれるまで舞台横の席で控え、試合が終わった者は地下通路を通って観覧席へ行ってください」

説明を聞きながら舞台横に置かれた2つの巨大な砂時計や治療にあたる白魔道士達を見ていると、自分を値踏みするような視線を感じた。誰だろうかと横目で見てみると、視線の主は背が高く、明るい茶髪のサザベルの軍服を着た青年だった。


「あいつがお前の対戦相手になるユドって奴だ」
「彼が…ですか」
「そいつの隣にいるのがディネードだ。相手をよく観察して戦い方を考えろ。お前なら出来る。絶対負けるな」
「はい」
「他の奴が試合をしている時も、じっくり相手を観察して性格、戦い方、魔法の適性、武器の扱い方とか得られる情報を漏らさず記憶しろ。お前の対戦相手じゃなくても目を離すなよ」

説明が終わると、自分の出番が来るまで舞台横に置かれた席にバルジアラ様と並んで座った。
試合が始まる前も、試合中も、試合後も、剣が合わさる音や魔法の音をかき消すような大きな声援が観覧席のサザベル兵から飛んでくるから、演習ではなくコロシアムに出場しようとしているのではないかと錯覚してしまいそうだ。
今回はサザベルが開催国だから仕方ないとはいえ、サザベルが勝てば割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こるが、ウィニストラが勝てばまばらな拍手だけが響く。
自分はたくさんの目に晒されたくないし、居心地の悪い場所からは早々に離れたい。そんな気持ちと緊張が入り混じって、もう逃げたくてたまらなかった。

そうこうしていると目の前で行われていた試合が終了し、落ちきっていない砂時計に黒い布がかけられた。そしてもう1つの砂時計にかけてあった布が取られ、いつでも反転出来るようにサザベル兵が控えた。


「次! ウィニストラ、ディスコーニ・シュアノー! サザベル、ユド・ディフェニエス!」
「行ってきます」

名前を呼ばれて席を立ち、舞台に行こうとした時。バルジアラ様から背中をゴツンと少し強めに小突かれた。今まで理不尽な暴力など受けたことはないから、思わぬ衝撃に少し驚いたものの、『頑張ってこい』という応援だと分かると、少し緊張がほぐれた気がした。


「頑張れ~!!」
「派手にぶちかませ~!」
「思い知らせてやれぇぇ!!」

舞台に立つと、今回の合同演習で一際注目を集める試合らしく、今までにない視線と歓声に圧倒されそうになった。ウィニストラとサザベルは国境を接していないが、互いを意識しあう大国同士。この演習はこの2国間の代理戦場のようなものだと分かった気がした。


「はじめっ!」

試合の始まりが告げられると、目の前に対峙する青年は肌をビリビリと刺激するような殺気を放ち剣を抜いたが、そんな殺気は戦場で感じるものと同じくらいで痛くも痒くもない。そんな風に思いながら自分も剣を抜いた瞬間、相手がこちらに向かって一気に間合いを詰めてきた。

剣を弾くような下からの突き上げを避けて、予め唱えておいた炎の魔法を発動させると、彼は向かってくる炎の波と同じ形をした氷の魔法で相殺してきたが、炎はわずかに残った。すると相手は燻る炎と自分を覆い隠すような広範囲に無数の氷の礫を生み出す魔法を放ってきたから、自分は剣に炎を纏わせ、避けながら当たりそうな礫だけを薙ぎ払って消し始めたのだが。彼は早々にこの魔法に見切りをつけたようで、すぐに氷の魔法に魔力を注ぐのを止めた。
そして彼は自分に向かって駆けながら剣に雷の魔法を纏わせると、青白い色を帯びた剣を振り下ろしてきた。自分がその一撃を後ろに跳んで躱すと、彼は剣を大きく薙ぎ払って纏わせた魔法をこちらに飛ばしてきた。彼は『飛ばした雷は魔法で相殺されずに躱される』と読んでいたようで、避けた先を見越して剣を振り上げたのだが、身体を捻って別の位置に着地した。
時間はあまり経過していないが、なんとなく魔法での戦いよりも剣での戦いに持ち込もうとしている気がする。彼が何を考えているのか知るためにも、しばらくは防戦に徹してみることにした。

防戦一方の状況を時計の砂が半分になるまで続けていると、彼は徐々に苛立ちを隠せなくなってきたようで、剣の動きがだんだん荒くなり、力任せに振り回すような動きをするようになった。彼の剣が空を切った時に聞こえる鈍い音からすると、自分が持っている一般的な剣と同じ見た目をしていても、かなり重量があるように思えた。
質量のある剣を息切れすることもなく自在に振り回せるから、彼も怪力と体力の持ち主なのだろう。そんな相手とは出来るだけ剣を合わせないで済むように、もう少し防衛に努めることにした。


「俺が怖いのか? この小物が!」

イライラが募ったのか、挑発する一言を大声で叫んできたものの、特に熱くなっていない自分には何の挑発にもなっていない。そもそも彼は何で自分にそんなに殺気立っているのか理解できない。特に返事をする必要もないかと思って、ニッコリ笑いかけたら。それが逆に相手の癇に障ったらしく、彼の眉間には盛大にシワが寄って、今まで戦場で見た人達以上に怒りと憎しみを孕んだ目で睨んできた。


「馬鹿にしやがって!!」

相手は怒りのボルテージを一気に上げ、剣を振りかざして力任せの一撃を放ってきた。
もうすぐ砂が落ちてしまうからと覚悟を決めて剣を構え、後先考えないような力加減で振り降ろされた一撃を剣で受け止めると、すごい勢いで身体が後ろに押されたが、足にグッと力を込めて踏み止まった。
実際に剣を受けてみると、たしかに剣は重いし力も強いがバルジアラ様には及ばない。バルジアラ様との鍛錬のことを思い出しながら短い詠唱を終えると、剣が合わさった部分に向けて息を短く吹きかけた。すると、その場所から凍りつき始めた氷が、彼の剣と腕を一瞬で飲み込んだ。怯んだ彼は炎の魔法を纏うことで氷を溶かしたが、彼の気が氷に向いているうちに、脛を力一杯に蹴った。


「ーーっく!!!」

呻き声を飲み込んだものの、苦悶に満ちた顔で剣を構える彼に雷の魔法をまとわりつかせた剣で何度も攻撃した。防戦一方の相手の身体が押されてぐらついた隙に、剣で突き上げて彼の重たい剣を弾き飛ばした。そして、彼が脇に隠している短剣を掴む前に、勢いをつけて彼の腹に蹴りを入れた。


「がはっ!!」

堪えきれなかった呻き声を上げて崩れた彼の首筋に、剣をピタリと突き付けた。


「勝者、ディスコーニ・シュアノー!」

試合終了が告げられると、観覧席からはまばらな拍手では消せない『あ~…』という露骨な声があちこちから聞こえてきた。場内に満ちた落胆の空気や冷たい視線を浴びせる人数の多さを感じると、ディネードの部隊から選ばれたということもあって、かなり期待されていたようだ。
自分は上官達や部隊の仲間たちに期待されてプレッシャーを感じていたが、彼は軍全体からプレッシャーを感じていたのだろう。そう思うと、彼の肩にかかった重荷は自分の何倍も何十倍も重いものだったと想像出来た。


「ディスコーニ、よくやった」

バルジアラ様は舞台から降りてきた自分を満足気な顔で迎えると、背中を力一杯バンバンと叩いた。笑い声も大声も上げていないが、バルジアラ様はその体格故にとても目立つから、地下通路に入るまで会場中の視線がつきまとっていた。


「いやぁ、あそこまで完膚なきものにするとはなぁ。体術をみっちり仕込んでおいて良かったよ。しかし、あんなに防戦一方にして観察する必要もなかったと思うが。あれは戦略か?」

「気付いたらあの時間になっていました」

「じっくり観察して情報を得るのも大事だが、延々と様子見されて気持ち悪くてたまんなかっただろうな。その上、ひょいひょい躱されて苛立つのは理解出来るが、やっぱり感情的になりやすいところが弱点だな。技術だけでなく、手玉に取ったお前の戦術勝ちだ」

「ありがとうございます」

「しかし、ユドはお前の表情を崩せない上に、ニッコリされて激昂していたな。お前の顔や飄々とした性格も戦場で武器になるんじゃねぇか? あっはっは!」

「元々の顔が笑っているように見えるタレ目なだけですよ」

無機質な地下通路を歩く人は他にいないが、今まで普通の声量だったのにバルジアラ様の声が急に小さくなった。


「それと。ディネードにはまだ育成能力は備わっていないって分かったな」

「そうなのですか?」

「ディネードは2年前に下級兵士として入隊したが、去年には副官、今は将軍だ。普通なら出世しながら部下を育てるもんだが、早すぎる出世のせいで育成能力は育ってないんだろ。まぁ、サザベルは頻繁に侵略戦を仕掛けられるし、受け入れた難民が国内で独立しようと動くんだから、魔法じゃ手も足も出ないディネードを将軍として誇示するメリットは大きいから、スピード出世させる意味は十分あるんだが。
いくらディネードが強かろうと、永遠に生きるわけじゃない。国の防衛を長く安定させるためにも、優秀な人材を育てるっていうのは大事だから、部下の功績も自分の評価に繋がる。
部下は自分を映す鏡みたいなもんだ。あの試合内容を見れば、ディネード自身にも問題があるって分かる。これから先、ユドだけでなくディネードもどう伸びていくのか気になるな」


角を曲がると、長い一本道の先にディネードとユドが歩いているのが見えた。2人との距離はまだあるが、ユドはこちらを射殺すほどの殺気を滲ませ、今にも襲い掛かりそうな勢いで睨みつけている。

互いに音を立てずに歩みを進め、こちらとすれ違う瞬間。立ち止まることはなかったが、ディネードはバルジアラ様を横目で睨みつけながらハッキリとした声を出した。


「バルジアラ殿、見事な試合でしたね。将来が楽しみです」
「そうですなぁ。互いに優秀な部下を持ち切磋琢磨するのは良いことですからね」

ディネードはバルジアラ様よりも更に若いが、纏う冷たい空気は大国の将軍にふさわしいもので、有無を言わさない高圧的な印象を受けた。
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