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第1章 白い渡り鳥
1.始まりの話
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ここは緑豊かな小国セゼルのほぼ中央部にある田舎町ダーファス。
より豊かな国を目指してなのか、はたまた自分たちの持つ力を試したいのか。
世界地図を買ってもすぐに国境線が変わり、侵略やクーデターで頻繁に新しい国が興る。
そんな世界中の国が何年も飽きること無く戦争を繰り返しているというのに、この町は戦地に遠いからか比較的平和だった。
この国では6歳から9歳までを初等科として一般常識や読み書き計算の勉強を始め、10歳から11歳までを中等科とし、初等科の授業に馬術と魔法の勉強が加わる。
そして12歳から成人する18歳までを高等科とし、中等科の授業に加えて大人の礼儀作法と一般教養、適性に合わせた高等の魔法の授業が始まる。
私は初等科までは問題なく学校での授業を受けていたのに、中等科になり魔法の授業が始まると苦悩が始まった。
中等科は1年間しかないが、この1年間は今後重要になる魔法の基礎を固め、その人の適性を見極める重要な期間だ。
中等科に進級すると、初歩の初歩とも言える白魔法と黒魔法を習い始めたが、私は治療主体の白魔法はちゃんと出来るのに、攻撃主体の黒魔法はなぜだか発動しなかった。
周りが嬉しそうに成功させる中、1人だけ失敗続きなのが悔しくて、先生に頼み込んで放課後に補習を受けることになった。
「シェニカさん、今日はここまでにしましょう?明日には少し出来るようになっているかもしれませんよ」
「はい…。先生ありがとうございました」
先生にそう言われれば学校を後にするしかなかったが、私は毎日夕暮れになるまで公園で必死に練習した。
でもどんなに必死にやっても上手く行かず、私は心が折れそうになっていた。
「あのね。私、黒魔法が上手く出来ないの」
私は初級の黒魔法をちゃんと扱えないことを思い切って両親に相談してみた。
「上手くいかないって…初級でしょ?」
「うん…」
「初級でさえ上手くいかないとなると、ちょっと厳しいかもしれないわね」
お母さんは眉を顰めた。
その表情から、私がいかに落ちこぼれているかと現実を突きつけられて悲しくなった。
「そうだなぁ。今のご時世、黒魔法が使えないと話にならんからなぁ。
父さんも母さんも黒魔法は正直得意ではないから、それが遺伝してしまったのかな?」
お父さんは目に見えて落ち込む私を可哀想に思ったのか、フォローの言葉をかけてくれた。
私の両親は2人とも黒魔法は使えたが、どちらかと言うと白魔法の方が得意だった。
そうは言っても、黒魔法だってちゃんと使える両親の血を受けたはずなのに、どうして私は駄目なんだろう。
私は両親に励まされ、心配をかけながら放課後の練習を続けた。
そんな悲しい日々が1年近く続くと、とうとう1年の集大成とも言える高等科へと進学するための試験の日を明日に控えてしまった。
「シェニカ、遊ぼうよ!」
「ごめん。まだ明日の試験の練習しないといけないから」
私は明日の試験のために友達との遊びも我慢して、魔力が尽きるまで初級の黒魔法を練習し続けた。
そして試験の日。
「シェニカ・ヒジェイト。不合格ですね」
「はい…」
そして試験では白魔法は合格したが、やっぱり課題の黒魔法が出来なかった。
それから数日後。
生徒の進路を決める結果発表が行われた。
「名前を呼ばれたら、前に来て進学先への紹介状を受け取って下さい。
アイア・アーディントン…、イーザント・ウェニガー…」
壇上に立つ先生が生徒の名前を1人ずつ読み上げていくのを、私はドキドキしながら自分の番を待っていた。
「シェニカ・ヒジェイト」
「は、はい!」
私は壇上の先生の前に立つと、先生はにっこりと微笑んで封筒を渡した。
席に戻ってドキドキと早鐘を打つ心臓の鼓動を感じながら、封筒を開けて見た。
『シェニカ・ヒジェイト。
貴女は黒魔法の適性はありませんでしたが、白魔法に高い適性が認められました。
進学先にダーファスの神殿を紹介します』
私は封筒の中身を見ると机に突っ伏した。
ーーあんなに頑張ったのに、黒魔法に適性がないって…。
私はクラスで一人だけ黒魔法に適性がない上に、神殿に進学するのも1人だけという結果を受けて酷く落胆した。
「俺、学校卒業したら傭兵になって一獲千金を狙うんだ!」
「私は軍に入って、世界初の女性将軍になりたいわ!男社会に斬り込んでやるの!」
力なく机に突っ伏す私には、夢に満ち溢れたクラスメイトの声がやけに遠く聞こえる。
「おいシェニカ、お前結果どうだったんだよ?」
「シェニカは学校卒業したら何を目指すの?」
クラスメイト達が私の落胆に気を使うことなく声をかけてきた。
「私は黒魔法の適性がほとんどないらしくて…。神殿に進学になった」
突っ伏した顔を上げてそう言えば、周囲にいたクラスメイト達の顔が固まった。
そしてその反応を見ると泣けてきて再び机に突っ伏した。
「えっ!?神殿?!」
「シェニカ。そんなに落ち込まないで…」
「まぁ、何というか…ドンマイ」
さっきまで夢と希望に溢れた未来を話していたクラスメイト達は、私の落ち込み具合を見ていつもならからかってくる口を閉ざし、ただなんとなく宥めになっていない言葉を口にするだけだった。
黒魔法と白魔法の両方の適性がある場合は黒魔法の育成を優先するため、友達はみんな上級の学校に進学して黒魔法の指導を受ける。
一方、白魔法にしか適性を示さなかった私は、仲の良かった友達と離れ進学先の神殿へに行くことになった。
しかも神殿は寮生活だったので親元からも離れることになり、私は突然隔離されたような生活を送ることになった。
そんな不安な気持ちのまま、神殿の片隅に引っ越した。
神殿での授業の初日。
制服であるシンプルな巫女服に身を包み、私は孤独と不安で一人暗い顔をしてしまっていた。
のちに私の恩師と慕うことになる巫女頭のローズ様が、そんな私の様子を見て困ったように声をかけてくださった。
ローズ様は今でこそ白髪交じりの髪で目元に皺が刻まれている柔和なお婆ちゃんだが、若い頃は気の強いキレイで素敵な女性だったらしく、今でも他国からローズ様を訪ねて来るファンも居るそうだ。
「シェニカ、良いですか?
貴女が白魔法にしか適性を示さないことは何かの意味があるのです。
ですから黒魔法の適性がないからと言って、そんなに嘆く必要はないでしょう?」
「はい…。でも両親や友達と離れたことが悲しくて…」
実際、神殿に進学したのは私1人だったし、神殿の寮には先輩もいなくて友達なんて出来る見込みも無かった。
1人ぼっちがこんなに心細いなんて初めて知った。
「ではシェニカ、こう考えましょう。みんなが怪我をした時に真っ先に貴女が治療してあげられるように、白魔法をたくさん覚えましょう?
白魔法は治療魔法だけでなく、呪いの解呪、解毒、結界、浄化…いろいろ学ぶことはあります」
「みんなを治療してあげられるように…?」
「そうですよ。白魔法や黒魔法の適性関係なしに使える魔法もあるのですからそういうのも覚えましょう?」
「…はい!頑張りますっ!」
差し出されたローズ様の細い手を握り締め、私は前向きに頑張り始めた。
より豊かな国を目指してなのか、はたまた自分たちの持つ力を試したいのか。
世界地図を買ってもすぐに国境線が変わり、侵略やクーデターで頻繁に新しい国が興る。
そんな世界中の国が何年も飽きること無く戦争を繰り返しているというのに、この町は戦地に遠いからか比較的平和だった。
この国では6歳から9歳までを初等科として一般常識や読み書き計算の勉強を始め、10歳から11歳までを中等科とし、初等科の授業に馬術と魔法の勉強が加わる。
そして12歳から成人する18歳までを高等科とし、中等科の授業に加えて大人の礼儀作法と一般教養、適性に合わせた高等の魔法の授業が始まる。
私は初等科までは問題なく学校での授業を受けていたのに、中等科になり魔法の授業が始まると苦悩が始まった。
中等科は1年間しかないが、この1年間は今後重要になる魔法の基礎を固め、その人の適性を見極める重要な期間だ。
中等科に進級すると、初歩の初歩とも言える白魔法と黒魔法を習い始めたが、私は治療主体の白魔法はちゃんと出来るのに、攻撃主体の黒魔法はなぜだか発動しなかった。
周りが嬉しそうに成功させる中、1人だけ失敗続きなのが悔しくて、先生に頼み込んで放課後に補習を受けることになった。
「シェニカさん、今日はここまでにしましょう?明日には少し出来るようになっているかもしれませんよ」
「はい…。先生ありがとうございました」
先生にそう言われれば学校を後にするしかなかったが、私は毎日夕暮れになるまで公園で必死に練習した。
でもどんなに必死にやっても上手く行かず、私は心が折れそうになっていた。
「あのね。私、黒魔法が上手く出来ないの」
私は初級の黒魔法をちゃんと扱えないことを思い切って両親に相談してみた。
「上手くいかないって…初級でしょ?」
「うん…」
「初級でさえ上手くいかないとなると、ちょっと厳しいかもしれないわね」
お母さんは眉を顰めた。
その表情から、私がいかに落ちこぼれているかと現実を突きつけられて悲しくなった。
「そうだなぁ。今のご時世、黒魔法が使えないと話にならんからなぁ。
父さんも母さんも黒魔法は正直得意ではないから、それが遺伝してしまったのかな?」
お父さんは目に見えて落ち込む私を可哀想に思ったのか、フォローの言葉をかけてくれた。
私の両親は2人とも黒魔法は使えたが、どちらかと言うと白魔法の方が得意だった。
そうは言っても、黒魔法だってちゃんと使える両親の血を受けたはずなのに、どうして私は駄目なんだろう。
私は両親に励まされ、心配をかけながら放課後の練習を続けた。
そんな悲しい日々が1年近く続くと、とうとう1年の集大成とも言える高等科へと進学するための試験の日を明日に控えてしまった。
「シェニカ、遊ぼうよ!」
「ごめん。まだ明日の試験の練習しないといけないから」
私は明日の試験のために友達との遊びも我慢して、魔力が尽きるまで初級の黒魔法を練習し続けた。
そして試験の日。
「シェニカ・ヒジェイト。不合格ですね」
「はい…」
そして試験では白魔法は合格したが、やっぱり課題の黒魔法が出来なかった。
それから数日後。
生徒の進路を決める結果発表が行われた。
「名前を呼ばれたら、前に来て進学先への紹介状を受け取って下さい。
アイア・アーディントン…、イーザント・ウェニガー…」
壇上に立つ先生が生徒の名前を1人ずつ読み上げていくのを、私はドキドキしながら自分の番を待っていた。
「シェニカ・ヒジェイト」
「は、はい!」
私は壇上の先生の前に立つと、先生はにっこりと微笑んで封筒を渡した。
席に戻ってドキドキと早鐘を打つ心臓の鼓動を感じながら、封筒を開けて見た。
『シェニカ・ヒジェイト。
貴女は黒魔法の適性はありませんでしたが、白魔法に高い適性が認められました。
進学先にダーファスの神殿を紹介します』
私は封筒の中身を見ると机に突っ伏した。
ーーあんなに頑張ったのに、黒魔法に適性がないって…。
私はクラスで一人だけ黒魔法に適性がない上に、神殿に進学するのも1人だけという結果を受けて酷く落胆した。
「俺、学校卒業したら傭兵になって一獲千金を狙うんだ!」
「私は軍に入って、世界初の女性将軍になりたいわ!男社会に斬り込んでやるの!」
力なく机に突っ伏す私には、夢に満ち溢れたクラスメイトの声がやけに遠く聞こえる。
「おいシェニカ、お前結果どうだったんだよ?」
「シェニカは学校卒業したら何を目指すの?」
クラスメイト達が私の落胆に気を使うことなく声をかけてきた。
「私は黒魔法の適性がほとんどないらしくて…。神殿に進学になった」
突っ伏した顔を上げてそう言えば、周囲にいたクラスメイト達の顔が固まった。
そしてその反応を見ると泣けてきて再び机に突っ伏した。
「えっ!?神殿?!」
「シェニカ。そんなに落ち込まないで…」
「まぁ、何というか…ドンマイ」
さっきまで夢と希望に溢れた未来を話していたクラスメイト達は、私の落ち込み具合を見ていつもならからかってくる口を閉ざし、ただなんとなく宥めになっていない言葉を口にするだけだった。
黒魔法と白魔法の両方の適性がある場合は黒魔法の育成を優先するため、友達はみんな上級の学校に進学して黒魔法の指導を受ける。
一方、白魔法にしか適性を示さなかった私は、仲の良かった友達と離れ進学先の神殿へに行くことになった。
しかも神殿は寮生活だったので親元からも離れることになり、私は突然隔離されたような生活を送ることになった。
そんな不安な気持ちのまま、神殿の片隅に引っ越した。
神殿での授業の初日。
制服であるシンプルな巫女服に身を包み、私は孤独と不安で一人暗い顔をしてしまっていた。
のちに私の恩師と慕うことになる巫女頭のローズ様が、そんな私の様子を見て困ったように声をかけてくださった。
ローズ様は今でこそ白髪交じりの髪で目元に皺が刻まれている柔和なお婆ちゃんだが、若い頃は気の強いキレイで素敵な女性だったらしく、今でも他国からローズ様を訪ねて来るファンも居るそうだ。
「シェニカ、良いですか?
貴女が白魔法にしか適性を示さないことは何かの意味があるのです。
ですから黒魔法の適性がないからと言って、そんなに嘆く必要はないでしょう?」
「はい…。でも両親や友達と離れたことが悲しくて…」
実際、神殿に進学したのは私1人だったし、神殿の寮には先輩もいなくて友達なんて出来る見込みも無かった。
1人ぼっちがこんなに心細いなんて初めて知った。
「ではシェニカ、こう考えましょう。みんなが怪我をした時に真っ先に貴女が治療してあげられるように、白魔法をたくさん覚えましょう?
白魔法は治療魔法だけでなく、呪いの解呪、解毒、結界、浄化…いろいろ学ぶことはあります」
「みんなを治療してあげられるように…?」
「そうですよ。白魔法や黒魔法の適性関係なしに使える魔法もあるのですからそういうのも覚えましょう?」
「…はい!頑張りますっ!」
差し出されたローズ様の細い手を握り締め、私は前向きに頑張り始めた。
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