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第17章 変化の時
7.刻まれた真実
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※更新を大変お待たせしました。(;´∀`)
今回のお話ですが、人によっては大変不快な話かもしれないので、十分お気をつけ下さい。(不快になると思った理由は後書きに書いています)
◆
「昼食までは時間がありますから、それまで休んではどうですか?」
「ううん、まだ全然大丈夫だよ。本と手帳を読もうか?」
サザベルとの面会を終えてウィニストラが使っている建物に戻る途中、隣を歩くディズは心配そうな顔をしてそう声をかけてくれた。
確かに疲れは抜けてないと思うけど、そんなに酷い顔をしているのだろうか。身支度を整えた時に鏡を見たけど、特に変わったところはなかったと思ったのに。
「ではこのまま会議室に行きますが、早めに昼食にしましょうね」
「気を遣ってくれてありがとう。でも本当に大丈夫だよ」
ファズ様に続いて会議室に入ると、部屋の奥にある長机の真ん中にはバルジアラ将軍が座り、1つ席を空けてエメルバ将軍が隣に座っている。ディズに促されてその長机と向き合うように置かれた机の前に座ると、机の上に置かれた本からは埃っぽさが感じられた。そのせいなのか、鼻がムズムズするなぁと思っていると、バルジアラ将軍が立ち上がって私の方を向いた。
「シェニカ様、お疲れのところ申し訳ありません。シェニカ様はかなり古い旧字が読めるとのことですが、本当でしょうか?」
「はい」
「ディスコーニから聞いたと思いますが、トラントの王宮内で気になる本や手帳を見つけたものの、字が古くて読めないのです。読めるか見て貰えませんか?」
「分かりました」
ディズに渡された古ぼけた手帳を開くと、確かに旧字で書いてあった。
1ページ目からパラパラと捲っていくと、鍾乳洞に関係する単語が羅列されているから、文章にする前の備忘録として使っていたのだろうか。
そんなことを思っていると、手帳の真ん中あたりから紙が真っ黒になるくらいびっしりと文字が書いてある。この手帳の主はメモですら綺麗な字で書いていたのに、途中から走り書きをするように崩れている。結構な文章量だけど、これを慌てて書き連ねたのだろうか。
「読めますでしょうか?」
「ええ、読めます。最初は鍾乳洞を調査したメモよりも短い、単語を羅列したものばかりですけど、途中から長い文章になっています。あ、呪文みたいなのも書いてありますね。文章部分を読みますか?」
「はい、お願いします」
「では読み上げます」
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この手帳を見つけた人が、もし国王陛下から首都の地盤沈下や落盤についての調査を依頼されたのであれば、すぐに穏便な理由をつけてその依頼を断って、一刻も早く別の国まで逃げて二度とこの国に足を踏み入れてはならない。すでに断ることが出来ない状況であれば、この手帳に書いた真実を読んで、無事に生き残れることを心から願う。
決して鍾乳洞の礼拝堂には近付いてはならないし、見たとしても決して口に出してはならない。
生命の瀬戸際にある私からの言葉を、どうか胸に刻んでいてほしい。
私は小国キベニラで地質学の学者をしていたが、トラント国王ナルアエル様から『首都を襲う地盤沈下と落盤についての調査を行ってほしい』と招きを受けた。首都に到着すると、すぐに謁見を許されたことから、国王陛下がこの調査を急いでいることが伺えた。
挨拶を終えると、国王陛下は地盤沈下と落盤についての調査をするには、地下に広がる鍾乳洞に入る必要があると仰った。調査を始める前の準備として、私は王宮内の書庫とその奥にある隠し部屋に入り、民衆には知らされていない事実を書いた書物や国史を読むことを許された。
そして、調査と同時に、鍾乳洞内の地図を作成するように命じられた。鍾乳洞は王族と一部の重臣のみしか知らない上に、立ち入りを厳しく禁じていると聞き、そんな場所を1人で調査出来るなんてと嬉しさに舞い上がっていた。
私は国王陛下から、鍾乳洞は賢王ガーファエル様が砂地を嫌って土地改良する時に、その入り口を見つけたこと。首都のあちこちに出入り口があったが、国民が迷路のような鍾乳洞に入って生命を落とさぬように、一部を除いてほとんど塞がれていると聞いた。
鍾乳洞の一番端と考えられる出口が首都の外にある貧民街にあり、そこから洞内に入って調査を開始することにした。鍾乳洞内の調査は基本的に1人で行うが、鍾乳洞から出て来た時には、出入り口を警備する兵士と共にすぐに王宮へ行き、国王陛下に直接報告を行って、王宮に用意された一室で報告書を書くこと。秘密保持のため、休息日であっても王宮から出ないようにと命じられた。
書庫の隠し部屋で、過去の学者達が調査した報告書を読んだが、実際に入ってみるとその規模の大きさにとても驚いた。
今まで鍾乳洞を調査したことはあるが、これほど深く広い場所に入ったのは初めてで、壁に触れる、温度を体感するという一つ一つが興奮の連続だった。鍾乳洞は途方もない時間をかけて水の侵食によって出来たものであるが、この場所の水は酸性で、場所によって速度に違いがあるものの、他の鍾乳洞に比べて速いスピードで侵食していることが分かった。そのため洞内ではあちこちで落盤が起き、壁や天井にはヒビが入っている。今はまだしっかりしている壁や天井、地面もそう遠くない未来には崩れ落ちることが予想された。
それを国王陛下に報告すると、侵食を止めて現状で保存する方法はないかと問われたが、今までの私の知識と経験から、侵食を進める水を止めなければならないため、水源を枯らして時間をかけて侵食を緩やかにしていくしかないのではないかと答えた。しかし、この鍾乳洞を侵食する水源は周辺にある川なのか、どこかにあるかもしれない地底湖から滲み出したものなのか見当もつかない。
ならば、鍾乳洞に氷の魔法をかけて凍らせてしまえば良いのではないかと問われたが、表面の水は氷の魔法で凍らせられるものの、岩の奥深くに染み込んだ水については凍らせることが出来ない。目に見えない内部での侵食が止まらないため、何かの衝撃で鍾乳洞が崩れてしまうことには変わりがないと答えた。有効な方法はその場では見出だせなかったが、陛下はその点は他の学者に調べさせると仰った。
そして鍾乳洞を調べ始めて1年が過ぎそうな頃。順調に地図を作り、鍾乳洞内の調査を進めていると、触れただけで崩れた壁の先に細い道を見つけた。うねる道を歩いていけば、礼拝堂のような洞穴に辿り着いたのだ。
見事な壁の彫刻に感動しながらそこを調べてみると、その下には最近まで使われていた形跡のある祭壇があり、そこに注目するように長椅子がいくつも置いてある。明らかに人の手で整備され、人の出入りも感じられるその場所には、扉があったが固く閉ざされていて先に進めなかった。
王宮の謁見の間には、女神と天使、悪魔、鳥、青年の姿を描いた壁画や彫像があったが、この礼拝堂の壁画には巨大な女神、天使、悪魔、鳥だけで、青年の姿はない。女神の羽衣には何かの呪文らしきものが刻まれていたが、自分が詠唱しても何も起きないから、彫刻した者が適当に作った言葉なのだろうと結論を出した。
仕方なく出口に向かって引き返していると、行きは気付かなかった狭い脇道を発見した。その道の先には朽ちた木が階段状に配置されていて、階段の上部には大小様々な岩が転がっている。人の手で塞がれた様子から、おそらくこの先には街のどこかに繋がる出入り口があったのだろう。塞がれていなければ、地図作成にもっと熱が入るのにと思いながら歩いていた。すると、地面が薄くなっていた部分に気付かずに、踏み抜いて1つ下の階層に落ちてしまった。
幸いなことに高さがあまりなかったから全身を軽く打撲した程度で済んだが、痛む身体を引き摺りながら周囲を見渡してみれば、初めて足を踏み入れる袋小路の洞穴だった。場所が分かる道に出ないかと細い道を歩いていけば、やがて壁に文字が刻まれた広い洞穴に出た。
この場所に人の出入りはないようだが、壁は水の侵食の影響は受けておらず壁の文字はくっきりと残っている。明らかな人の痕跡に興奮して、身体の痛みなんか吹っ飛んで夢中で書かれていることを書き写した。
『私はあの魔法がガーファエルに乱用されてはいけないと思い、自我を失ったフリをしていたのです。
私が正気だとガーファエルが知ったら、またあの魔法を使わせるでしょう。でも、私はもうあんな光景は見たくない。親友や子供を騙し続けるのは心がとても痛かったけど、こうするしかなかった。
あの前の晩。私はお婆さんの前で確認するために呪文を詠唱したのです。でもその時も、みんなに呪文を教えた時も発動しなかったのです。
でも、母が「ココパの昔話は歌うような抑揚をつけて読むのよ」と言っていたのを思い出し、抑揚と訛りを入れて詠唱すると魔法は発動してしまったのです。
あの時、あんな真似をしなければ、私は彫刻家として生きていけたのに。そしてなにより、罪なき人が生命を落とす必要はなかったのにと、悔やんでも悔やみきれない。
アスカードル島から比較的近い場所にあるココパは、ラントニバ諸島を構成するいくつもの島が1つの国になっていて、そんな島の1つが母の出身だった。
母によれば、この国の言葉は共通語なのに「らりるれろ」の部分が「らぃ、りぁ、るぇ、れぉ、ろぅ」と聞こえる特徴的な訛りがある。母は普通の人との会話だと訛りは消えていたけど、私に昔話をする時は独特の訛りで語っていたのです。普段の会話では出てこないながらも、私もその訛りは受け継いでいて、その訛りがあの魔法には必要だったのです。魔法に執着するガーファエルならば、訛りのことが分かればきっと練習して魔法を使おうとするでしょう。
この訛りはある意味血筋のせいだったのだろう。でも、私の血を引いた子に私が教えなければ伝わらない。だから、ガーファエルがどんなに私の子に期待しようとも、何も起こらない。私が教えなければ、あの魔法は消えていく。もうあの魔法を発動させてはいけない。私はこのまま口を開くことなく1人で死んでいく。それを私のささやかな償いにしようと決めたのです。
王宮に閉じ込められている時から、いっそのこと早く死んでしまいたいと思っていたのに、側にいる侍女が私を監視しているから自殺することは出来ない。愛してもいない男との間に子供を作らされたけど、どこか自分に似た所を感じる子供はとても可愛い。少し抱きしめることは出来たけど、ガーファエルに正気だと知られてしまわないように、笑顔を見せることも、声をかけることも、あやすことも出来ないのが辛い。ガーファエルはそんな私の気持ちを知らないはずなのに、子供や親友をたまに連れてくる。現世に留まりたくなるような、ささやかな人との繋がりは私の決意をグラグラと揺さぶるのです。
そして私がこの鍾乳洞に閉じ込められたその日、夢に天使と悪魔、大きな鳥が出てきたのです。
彼らは「我々をここで終わりにしないで欲しい」「一緒に遊んで。寂しいよ」「このまま誰にも伝わらずに消えて行きたくない。殺さないで」などと、一方的に訴えかけてくるのです。
こんな悪夢に苛まれるなんて、とうとう私は本当に心を病んでしまったのかと思い、私に出来ることを考えました。その結果、彫刻にしか能のない私は、この夢から解放されるようにと願いを込めて、その3体の姿を壁に彫ったのです。
すると、夢の中に毎晩出てくる彼らはとても喜び、「お母さんみたいに優しい顔をした女神様を作って!」「すごく似てる!」「もっと作ってくれ」と言うので、悪夢から解放されるために私は彫り続けました。
彫刻を止めるとまた彼らが悪夢を見せるかもしれないと思って、手を止めることは出来なかったし、何より私自身も次第に楽しめるようになったのです。寂しがり屋らしい彼らのために、楽しそうな、安心できるような彫刻を施すと、彼らはとても喜んだのです。
そんな毎日を送っていると、この鍾乳洞は水の侵食を受けているのか、あまり強度がないことに気付いたのです。そして、もうあの魔法のことは誰にも言わないと決めたのに、心のどこかで真実も呪文も誰かに伝えたい気持ちが沸々と湧き上がって、私を苦しめるようになりました。
いつの日かこの鍾乳洞は崩れて無くなる。ならば、その日まで呪文を残しておいても良いのではないか。誰かが彫った呪文に気付いても、きちんとした発音が出来なければ魔法は発動しない。アスカードル島にはもう誰もいないし、母によれば、ラントニバ諸島は船の往来が多くなり、外から来た人の影響を受けて訛りは失われていると言っていた。
閉じた口を無理矢理こじ開けるような苦しみに耐えきれなかった私は、こうして私の胸の内を刻み、羽衣の中に呪文を刻んだのです。このまま人知れず崩れゆく鍾乳洞と共に、どうかあの魔法も消えてくれることを祈って』
胸を打つようなこの告白を備忘録代わりのこの手帳に書き写した後、外に繋がる道を模索しながら色んなことを考えた。
隠し部屋にあったトラント国史の中に、ガーファエル王は王妃と寵姫の間にそれぞれ子をもうけた、と書いてあったから、これを書いたのは2人のどちらかだと思うのだが、こんな暗く環境の悪い鍾乳洞の中に、王の寵愛を受ける女性が長期間居ることはないだろう。でも「彫刻家として生きていけたのに」とあるから、隠された平民の愛人だろうか。その愛人が特殊な魔法を使ったことを悔いて正気を失ったフリをしていたら、用済みとばかりにここに閉じ込めたのだろうか。
いずれにせよ、こんな場所に閉じ込められたのは表立って出られぬ者で、深入りしてはならないことだと結論づけた頃、私は無事に地上に戻ることが出来た。貧民街の出口を開けると、すぐ側にいる兵士に連れられて、いつもどおり王宮へまっすぐに向かった。
すぐに謁見の間に通されると、玉座に座る国王陛下に鍾乳洞内の地質調査、侵食の具合などを報告し、最後に礼拝堂のことを言葉にした。
『鍾乳洞内を調査し続けたところ、礼拝堂のような場所に辿り着きました。その洞穴の壁には、かなりの時間をかけて作ったものだと思われる巨大な女神、悪魔、天使、鳥と呪文が刻まれていて、それを祀るように祭壇がありました。そこには扉がありましたが、固く閉ざされて開けることが出来ず、仕方なく戻ってきました』
と報告した。陛下に忠実であれば、壁に刻まれた告白文のことを言うべきだと思うのだが、どうにも彼女の気持ちが自分の胸に突き刺さって、報告するのは憚られた。
すると、この報告を聞いた国王陛下は、これまでにない満足そうな反応を示した。
王宮の一室でメモをまとめていると、今までは普通の食事だったのに、見たこともない豪華な食事やワインが振る舞われた。兵士から「国王陛下からの労いの食事だ」と聞いた私は、陛下がそれほど礼拝堂の発見を喜んでくれているのだと思い、寝る間を惜しんで報告書をまとめ始めた。
翌早朝、いつも報告書を取りに来る将軍から、鍾乳洞内で大規模な落盤が起きたため、調査はこれで中止となることが伝えられた。そして、礼拝堂の報告書と、そこまでの道を記した地図を提出した後、これまでの調査を項目ごとに総括した報告書を提出し、最後に全体を総括した最終報告書を提出するようにと命令された。
あの礼拝堂に誰が出入りしているのか、あの扉の先に何があるのか。気付いていない脇道があるかもしれないし、なにより扉の先があるから地図は完成していない。まだまだ調べたいことはたくさんあるのに、これで調査が終わりになるなんてと煮え切らない状態になった。行き場を失った情熱を込めるように、私は将軍に言われたとおり、地図と礼拝堂の報告書を提出し、項目ごとの報告書の作成に取り掛かった。
毎日、寝る間を惜しんで報告書を作るのだが、夕方になると忙しい将軍がわざわざ部屋に来て、報告書の進捗を確認し、書き上がるとすぐに提出を求められる。急かされるようなその行動は、私が感じている新たな事実を知る喜びを、陛下も待ちわびているのだと嬉しく思っていた。
だが、そんな生活が10日過ぎ、残りは鍾乳洞内の環境についての報告書と、全体の総括をする報告書の2つとなった。集大成となる最終報告書をどうしようかと、頭の中で構想を練り続けるあまり、眠れぬ夜を過ごしていた時。深夜、開けていた窓から、将軍と誰かが会話する小さな声が、どこからともなく風に乗って聞こえて来た。
耳を澄ませて聞いていれば、それは私を殺す方法についてであった。『用済みになれば、与えている食事の中に毒を入れて殺せば良い』と聞いた時は血の気が引いたが、部屋の窓には鉄格子がはまり、扉の外には兵士が常時待ち構えている。部屋の外に出ることは報告書が出来て以降だと許されず、脱出は不可能だった。
今から考えれば、調査を終えるとすぐに王宮に戻り、報告書を書くまで部屋の外に出られず、それが終わっても王宮の外に出ることも許されない。鍾乳洞内で都合の悪いことを私が知った場合には、最初から殺すつもりだったのだと、この時初めて気付いた。
自分の生命は報告書が終わるまでと知った私は、色んなことを考えた。でも、この部屋から出る術はなく、自分が必死に抵抗しようとしても、屈強な兵士を相手に歯が立つわけもない。どう考えても自分の生命が未来に繋がる希望はなかった。
どうにか部屋の外に出る機会はないかと考えたが、兵士や将軍は報告書の作成を終えてからと許してくれない。それでもなんとか足掻きたくて、書庫の隠し部屋に資料を取りに行きたいと訴えた。すると、副官の同行を条件にどうにか許された。
王宮の隠し部屋には、世界中の伝承にまつわる本も置かれている。特にアスカードル島についての伝承を調べていたらしく、どの本もそのページには折り目がついていた。
数冊ある地質学や鍾乳洞の書物の中に、地質学者なら一度は聞いたことがある有名な学者『レインフォード・タズファン』の幻の専門書があった。彼が書いた本はこの1冊だけなのだが、『彼の突拍子もない発想は面白いのに、説明が理論的というよりは空想的で、理解に苦しむ』という意味で有名で、彼の本は売り出された翌年には誰も見向きもしなくなって、古本屋でも見ることがなくなり世の中から消え去った。
ただ、彼の枠にとらわれない発想は、ある意味頭の固い学者にいい刺激になったので、煮詰まったら『レインフォードのように逆立ちをして物事を見よ』という言葉が生まれ、それは時が流れた今でも語り継がれている。そんな、ある意味珍獣のようなこの本が、どうしてこの隠し部屋にあるのだろうか。
異質に感じるその本を手に取ってパラパラと捲ってみると、旧字で彼の生い立ちが書かれた部分に、しおり代わりのように古ぼけた手紙が挟まっていた。差出人も宛名もない封筒から手紙を取り出すと、目が痛くなるほどの小さな文字でビッシリと埋め尽くされていた。私はその本を部屋に持ち帰って、早速手紙を広げて読み始めた。
すると、ガーファエル王の時代に宮廷画家をしていたミフェールという女性が、鍾乳洞で地図を作っていた地質学者に宛てた手紙だった。その手紙の内容をすべて書き写す時間はないため、ここには要約して記載するが、そこに書かれていたのは驚くべき内容だった。
以前、トラントの首都からベルチェ辺りまでは、クリーム色の水はけの良い土に鮮やかな緑の草や木が生い茂り、爽やかな風が吹き抜ける風光明媚な丘がいくつも連なっていた。
この丘の1つに、王族が使用する別宅の1つがあった。首都を囲む丸く高い城壁から飛び出た黒い王宮が輝いて見える、歴代の王族らが一番気に入っている場所だった。
そしてトラント国王ガーファエルの治世。その別宅で静養する時、王族の煌びやかな生活を記録すべく画家や彫刻家が沢山随行した。その中に、アルナと言う若い彫刻家の娘が居て、同行していた画家や彫刻家達は別宅からの景色の邪魔にならないようにと、丘の麓にテントの海を作った。
ミフェールを始めとした芸術家らがテントで夕食の支度をしていると、腹を空かせた老婆が近寄ってきた。
みすぼらしい身なりに白髪をボサボサにした老婆は、「街道を歩いてきたが、金がなくて宿に泊まれない上に何も口にしていない。どうか食事を恵んでくれないだろうか」と言った。ミフェール達は関わろうとしなかったが、アルナは自分の食事を恵んだだけではなく、狭い1人用のテントで寝床を提供することを申し出た。
アルナに感謝した老婆は、ミフェールらと共に食事を取る時、世界地図を広げてこんなことを言い出した。
「儂が面白い話をしてやろう。
ジナの遥か南の海に浮かぶこの島が、アスカードル島だ。この島は海から隔離するように切り立った山のような岩場に囲まれているが、その内側には周囲と同じ海と、1本の枯れた大樹しかないドナ小島が浮かぶのみ、という不思議な形をしている。どうしてこうなったかって話だ。聞きたいかい?」
街と違って娯楽もない場所だからと、その場にいた者達は老婆の話に興味を持った。
「この島の1番近くにある、ラントニバ諸島を纏めるココパって国を知ってるかい?その国に伝わる昔話なんだ」
アルナの母はココパの出身で、沢山の昔話をしてくれたがその話は聞いたことがないと老婆に言うと、嬉しそうに語りだした。
「その昔、アスカードル島は切り立った岩場の山の内側に緑の大地が広がり、島と同じ名前のアスカードルという国があった。だがある日、ココパまで揺れと津波が届く地震がこの島で起きた。
友好国だったココパは、すぐにアスカードル島に船を出して様子を見に行った。兵士達はいつもどおり岩場から上陸し、山のような岩場を登って目に入ったのは驚愕の光景だった。
岩場の麓から続いていた平坦な大地は海に沈み、島の中央にあったドナの大樹が根を張る僅かな地面しか残っていなかった。兵士達は流木を切ってイカダを作り、大樹まで行くと木の下にうずくまった1人の少女が居た。
その少女を保護した兵士はココパに連れ戻って事情を聞いたところ、少女は島の外から来た旅人に教わった呪文を使ったら、地面が揺れ始め、あっという間に街が海に沈んでしまったと言った。ココパの王族は、まだ魔法を習い始めたばかりの少女が、魔法を制御することが出来ずに暴走させてしまったのだと結論づけた。
白魔法が暴走すると、術者の魔力を使い切る程度で周囲に大きな影響を及ぼさない。でも黒魔法が暴走すると、自分の身や周囲にいる人に火傷や怪我をさせる。でも、自分の身体が傷付くことで、無意識に魔力を遮断して暴走は止まる。
だが不運なことに、少女が暴走させたのは地震の魔法だったんだ。この魔法は他の魔法と違い、暴走しても自分自身には怪我を負わないものだったから、少女は魔力切れを起こすまで止められなかったらしい。不幸は重なって元々少女の魔力量は多く、黒魔法の適性も高かったのだろうね。暴走した地震の魔法は、少女のいた大樹の下を除く島全体を海に沈めてしまったそうだよ。だから魔法を習う時、自分が制御出来ない魔法を使ってはいけないよ、まずは先生の教える魔法からしっかり学ばないといけないんだよ、というお話さ。おしまいおしまい」
その話に興味を抱いたミフェールは、老婆に呪文を知っているかと尋ねた。
「知ってはいるがねぇ。沢山の黒魔道士がその魔法を使おうとしたが、その魔法を使える者は誰もいなかった。世の中には、特定の一族や民族にしか使えない魔法がある。だから、その魔法は血筋が関係しているのではないかと言われている。少女はその後まもなく死んでしまったと言われているから、もう誰も使えない魔法さ」
老婆はそう返事をしたが、その場に居た者達は呪文を教えて欲しいと訴えた。すると老婆は笑い声を上げた。
「そんなに教えて欲しいのかい?なら一宿一飯の恩義だ。儂は何も持っていないから、お嬢さんだけに呪文を教えてやろう」
翌朝、老婆と別れた後、アルナや画家達はその存在を忘れる程に王族の優雅な休日を形に残そうと制作に勤しんだ。
そしてそれから5日後。王族らに自分達の渾身の一作を披露し、無事に首都へ向かって帰路に着いた時、ミフェールやその仲間達はアルナに呪文のことを尋ねた。アルナは教えられた呪文を口ずさんでミフェール達に教えたが、誰が詠唱しても何も起きなかった。
何も起きない呪文にガッカリしていると、アルナが聞き取れないような言葉で歌うように詠唱すると、彼女を中心に大規模な地震が起きた。
連なった美しい丘は崩れ落ち始め、パックリと開いた地割れに美しかった緑の草木は吸い込まれていく。丘を作っていたクリーム色の土は表面を固めていた緑を失ってサラサラの砂の雪崩を作り、木々を飲み込んだ割れ目をあっという間に埋め、その先にある首都に向かって津波のように押し寄せた。
そして全ての変化が止まった時、緑の大地は一面クリーム色の砂地に。緑の丘はクリーム色の砂丘に。丘に阻まれて見えなかったはずの首都が、クリーム色の砂地の先に見えていた。
揺れが収まるまで呆然と見ていた一行だったが、我に返ったミフェール達はこの地震が老婆の言った魔法だと思い当たった。
呆然としたアルナを揺さぶって、ちゃんと発動したのか確認しようと大声で呼びかけ続けた。ミフェール達の騒ぎを聞きつけた兵士は彼女達から話を聞き、それは将軍を介して国王にもその場で伝わった。
国王は地震の魔法に興味を持ち、ミフェール達やアルナをその場で直接問い詰めた。ミフェール達とアルナは知りうる限りのことを伝えたが、アルナは唱えたのは間違いないが、偶然ではないかと主張した。
クリーム色の砂地になった街道を通って首都に戻ると、頑丈な作りの王宮は無事だったが、城壁や軍の施設、城下町などは全て壊れていた。
兵士が壊滅した首都を調べると、住んでいた民間人や兵士達は、押し寄せた砂に埋もれるか崩れた建物の下敷きになって全滅し、生き残ったのは王宮内にいた者達だけだった。壊滅状態の中、唯一残った王宮をガーファエルが歩いていると、中庭に今までなかった鍾乳洞に繋がる穴を見つけた。
壊滅した首都を放棄して他の街に遷都すればいいのだが、見つけた鍾乳洞を利用したいと考えたガーフェルは、遷都はせずに首都を作り直すことにした。だが、首都が地震で壊滅状態になったことが知られると、他国からの侵略の機会を増やしてしまう。そこで、首都の砂地を嫌って大規模な土地改良をするとして、首都を一時的に離れた場所に置いて、他国からの使者や旅人を遠ざけた。
そして、首都の再建と土地改良をしている最中に、兵士に鍾乳洞の調査を行わせると、鍾乳洞はかなり広く、道は枝分かれして深い場所になっていることが分かった。鍾乳洞は有事の際の避難場所になり、貯蔵庫にも使えると考えて、街のあちこちから入る事ができるように入り口が作られた。
首都の再建を終えた国王は、アルナの魔法が本物だったのかを検証すべく、侵攻予定だった隣国の首都に彼女を送り込むことにした。一般人のアルナは警戒されることなく越境し、暗部に監視されながら首都に入った。彼女自身も半信半疑だったから、何も起こらない事を祈りながら呪文を唱えると、アルナを中心にして首都が崩れ落ちる地震が起きた。そしてガーファエルは地震で混乱している隙に侵攻し、領土を広げることに成功した。
この結果に歓喜した国王は、アルナを使い、同様にして領土を広げていったが、3つの小国がトラントに飲み込まれた直後、彼女はショック状態に陥って自我と言葉を失って意思の疎通が出来なくなった。
国王は言葉と自我を失ったアルナに、白魔道士や『白い渡り鳥』様の治療を受けさせたが、精神的なショックが根深いのか、白魔法の範疇を超えた何かが影響しているのかは分からないが、回復の見込みはないと言われて元に戻らなかった。
アルナに回復の見込みがないと知った国王は、ミフェール達が聞いた話を元に老婆の行方を追ったが発見出来ず、ココパの後継国であるロディアムの新王に伝承の話を聞こうと使者を送った。だが、伝承を記録した資料は先日起こった蜂起の時に焼失して残っておらず、その際に王族はすべて死亡しているから口伝など知らぬと返答され続けた。
打つ手なしと思われたが、地震の魔法に魅せられたガーファエルは諦めなかった。
アルナが元に戻る刺激になればと仲の良かったミフェール達に会わせてみれば、ミフェールが話しかけると僅かな表情の変化がみられたため、彼女だけはアルナと会うことが許された。
ミフェール達から聞いた老婆の話から、国王はこの魔法を使うには血筋が関係していると思い、自我を失ったままのアルナを側室として側に置いた。
そして、アルナが自我を失って1年が経つ頃、意思の疎通も会話も出来ないままのアルナは王子を産んだ。
王太子になることが決まっていた王妃の生んだ唯一の王子は、国王により臣下の身分に落とされ、生まれたばかりのアルナの子が王太子となった。
平民の生まれで、まともな状態にないのに側室となり、産んだ子が王太子とされたことを許せなかった王妃は、ガーファエルが城下に出た隙に、アルナが持っていた物なども全て持ち出して、赤児の王子と共に鍾乳洞の奥深くに置き去りにして閉じ込めた。
怒り狂った国王は王妃に拷問を与えて鍾乳洞に入ると、そこで見たのは赤児をおぶりながら鍾乳洞の壁に彫刻を施すアルナだった。アルナは意思の疎通は出来なかったが、身体に染み付いた行動は忘れていないのか、見事な彫刻を施していた。このまま彫刻をさせることで自我が回復するのではないかと思った国王は、アルナと彼女の世話をする侍女を鍾乳洞に残し、王子を地上に戻した。また、表情の変化をもたらすミフェールだけは鍾乳洞での面会も許し、アルナをそのまま鍾乳洞で好きにさせるようにした。
拷問により四肢を切断された王妃は、王族や臣下たちの前で斬首刑に処せられたため、アルナが王妃の座に就くのではないかと思われた。だが、正常な状態にないうえに鍾乳洞から出ようとしないため、寵姫として扱われることとなった。
それから年月が経ち、アルナの産んだ王子が10歳になると、ガーファエルは会談が行われる隣国に王子を連れていき、さっそく地震の魔法を使わせたが、魔法は発動しなかった。それから間もなく、外に出ることなく鍾乳洞で彫刻を施し続けたアルナは、結局回復しないまま鍾乳洞内で死んだ。
女神の羽衣の中にあの呪文が刻まれていることを知った国王は狂喜し、アルナの遺産である血筋と鍾乳洞、そこに刻まれた彫刻を守って行くことを今後の国王の最大の使命とした。
そして手紙の最後には、『誰にも言わないつもりでしたが、鍾乳洞を調査している貴方を見ているうちに、親友のアルナに必死に声をかけ、彫刻の道具を見せながら元に戻って欲しいと願っていた過去の私と重なったのです。
鍾乳洞の調査の助けになれば良いと思って手紙で伝えましたが、この話は国王陛下によって闇に葬られた事実。なので、誰にも言わずに貴方だけの胸にしまっておいて欲しいのです』とメッセージが残されていた。
この手紙によれば、私が国王陛下から聞き、国史にも書いてあった上に、既に提出した報告書にも書いた『鍾乳洞は、時の王であるガーファエルが土地改良をした時に発見された』という話は事実ではなかったのだ。そしてなにより、あの告白文を書いたのは隠された愛人ではなく、王宮内で神格化されている寵姫のアルナだったのだ。
もしかしたら、ガーファエル王が地震の魔法に固執した様に、その血を引く今の国王陛下もあの魔法に執着し、独占したいのではないだろうか。
礼拝堂を限られた者だけの秘密にしたかったのに、私がそこに足を踏み入れ、呪文の存在を知ったことが許せなかったのではないだろうか。
あぁ、なんてことだろう。そう仮定すると、すべての疑問が綺麗に解決していくではないか。
そうとも知らず、私は報告書に多くの事実を書いて提出してしまった。
それに、つい先日、将軍が何気ない会話の中で私が調査で使っている手帳を見せて欲しいと言ってきた。その時は中身をパラパラと見るだけで、すぐに返してもらえたが、私が死んだ後に確実に処分しなければならない物を確かめていたのだ。
この手紙をもっと早くに見つけていたのなら。鍾乳洞の調査に浮かれることなく、もう少し冷静になって物事を考えていれば。礼拝堂の存在を口にしなければ、私はこんな状況にならなかったかもしれない。
でも、こうなってしまっては、仮に私がここから脱出できたとしても、国境を越える前に必ず私を殺すだろう。
最終報告書には、地盤沈下と落盤についての調査を行った結果を書かなければならないが、私が知った真実を書けば、ガーファエル王が王妃に行ったような拷問を与えられるかもしれないし、そうでなくてもまともな死に方をしないだろう。
本当は死にたくない。でも、間近に迫っている生命の期限を具体的に考えると、恐ろしさが襲ってくる。拷問で痛みと苦しみを与えられながら死ぬのか、毒殺で死ぬのか。
どのみち死ぬのならば最低限の苦しみであってほしいと願ってしまうのは、仕方のないことだと理解して欲しい。事実を隠した偽りの最終報告書になることを、どうか許して欲しい。
その代わり、になるのかは分からないが、国王陛下へのせめてもの抵抗と、これから先、偽りの報告書を読む誰かへの謝罪の気持ちを込めて。私が辿り着いた事実と礼拝堂に続く鍾乳洞内の下書きの地図を隠して、未来の人に託したいと思う。
地図は既に提出しているから、下書きの地図があると誰も知らないし、アルナの告白をメモし、事実を書いたこの手帳も私以外は知らないから、将軍に見せた手帳だけ手元に残しておけば誰も気付かないはずだ。
できれば、善良な第三者の手にこの2つが渡って欲しいが、身動きの取れない私には限られた手段しかないため、上手くいくようにと祈るしかない。
鍾乳洞に隠された魔法は、使えないとしても人を惹きつける力がある。今は誰も使えない魔法でも、何かの偶然が重なり、使える者が出てくるかもしれない。でもどうか、悪しき者によってあの魔法が使われないことを切に祈る。
私が真実を書かずに、死に方を選択した我儘をどうか許して欲しい。
そして、私の隠した遺産が誰かの役に立つことを祈って。
ルーセント・オバルシオ
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「これで手帳は終わっています。お茶を頂いても良いですか?」
流石に長く喋っていたから喉が乾いた。私がお茶をお願いすると、ディズの副官の人達がササッと動いて、ファズ様が湯気の上がる紅茶を持ってきてくれた。一口飲めば、蜂蜜の良い香りと甘さが広がって、喉を優しく温めながら潤してくれた。
普段飲む紅茶よりも香りが良い感じがするから、高級茶葉を使っているのだろうか。私は普通の紅茶でも十分美味しくて満足しているのに、高級茶葉を使わせてしまって申し訳なく思ってしまう。でも、とっても美味しい。一気にゴクゴクと飲んでしまったけど、たまには高級茶葉のお茶を楽しむのも良いかもしれない。
「ありがとうございました。まさか地震の魔法があったとは。確かにそれを使われると壊滅的なダメージを受けるな。考えただけでも恐ろしい魔法だ」
「第2のアルナにふさわしい、と言っていた意味も納得いきましたな。それに貧民街に入り口があるとは。あそこは盲点でした。残党の将軍らは、そこから逃げた可能性が高いですな」
「地質学者のところで見つけた旧字の本を書いた奴が生き延びたのは、あの礼拝堂を見なかったからのようだな」
バルジアラ将軍とエメルバ将軍の話を聞きながら静かに茶色の手帳を閉じると、何だか手帳が嬉しそうにしている気がして首を傾げた。手帳は生命がある物ではないのに、どうしてそう感じたのか分からない。でも、もう少しこの手帳を読んでみたくなった。
手帳を膝の上に置いて机の上にある本を一冊手に取ってみると、世界各地の地方に伝わる伝承の話が書いてあった。こういう本は今まで読んだことがなかったから、少し興味をそそられる。
「シェニカ。疲れたでしょう?そろそろ昼食の時間になりますから、一緒にどうですか?」
「あ、うん。じゃあ一緒に。あの、バルジアラ様。この手帳と本、もう少し読みたいので預かっても良いですか?もし、何か今回の戦争に繋がりそうな情報が見つかればお伝えしますので」
「分かりました。他の本もお読みになるのならば、後ほどシェニカ様のお部屋にお持ちしますが」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「では、部屋に案内します」
私は手帳と本をしっかりと抱え、ディズの案内で会議室から出た。
◆後書き◆
地震のお話でしたので、被災された方には不快になる話だったのではないかと心配しております。
この話を編集している時、大阪北部地震が起きてしまったので更新するタイミングを正直悩みました。
それなら更新を止めたらどうかというご意見もあるかと思いますが、更新を待って下さる方もいるし……と悩んだ結果、地震から1ヶ月を経過した段階で更新しようと決めました。
もし不快な気持ちになってしまった方がいらっしゃれば、大変申し訳ありません。m(__)m
今回のお話ですが、人によっては大変不快な話かもしれないので、十分お気をつけ下さい。(不快になると思った理由は後書きに書いています)
◆
「昼食までは時間がありますから、それまで休んではどうですか?」
「ううん、まだ全然大丈夫だよ。本と手帳を読もうか?」
サザベルとの面会を終えてウィニストラが使っている建物に戻る途中、隣を歩くディズは心配そうな顔をしてそう声をかけてくれた。
確かに疲れは抜けてないと思うけど、そんなに酷い顔をしているのだろうか。身支度を整えた時に鏡を見たけど、特に変わったところはなかったと思ったのに。
「ではこのまま会議室に行きますが、早めに昼食にしましょうね」
「気を遣ってくれてありがとう。でも本当に大丈夫だよ」
ファズ様に続いて会議室に入ると、部屋の奥にある長机の真ん中にはバルジアラ将軍が座り、1つ席を空けてエメルバ将軍が隣に座っている。ディズに促されてその長机と向き合うように置かれた机の前に座ると、机の上に置かれた本からは埃っぽさが感じられた。そのせいなのか、鼻がムズムズするなぁと思っていると、バルジアラ将軍が立ち上がって私の方を向いた。
「シェニカ様、お疲れのところ申し訳ありません。シェニカ様はかなり古い旧字が読めるとのことですが、本当でしょうか?」
「はい」
「ディスコーニから聞いたと思いますが、トラントの王宮内で気になる本や手帳を見つけたものの、字が古くて読めないのです。読めるか見て貰えませんか?」
「分かりました」
ディズに渡された古ぼけた手帳を開くと、確かに旧字で書いてあった。
1ページ目からパラパラと捲っていくと、鍾乳洞に関係する単語が羅列されているから、文章にする前の備忘録として使っていたのだろうか。
そんなことを思っていると、手帳の真ん中あたりから紙が真っ黒になるくらいびっしりと文字が書いてある。この手帳の主はメモですら綺麗な字で書いていたのに、途中から走り書きをするように崩れている。結構な文章量だけど、これを慌てて書き連ねたのだろうか。
「読めますでしょうか?」
「ええ、読めます。最初は鍾乳洞を調査したメモよりも短い、単語を羅列したものばかりですけど、途中から長い文章になっています。あ、呪文みたいなのも書いてありますね。文章部分を読みますか?」
「はい、お願いします」
「では読み上げます」
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この手帳を見つけた人が、もし国王陛下から首都の地盤沈下や落盤についての調査を依頼されたのであれば、すぐに穏便な理由をつけてその依頼を断って、一刻も早く別の国まで逃げて二度とこの国に足を踏み入れてはならない。すでに断ることが出来ない状況であれば、この手帳に書いた真実を読んで、無事に生き残れることを心から願う。
決して鍾乳洞の礼拝堂には近付いてはならないし、見たとしても決して口に出してはならない。
生命の瀬戸際にある私からの言葉を、どうか胸に刻んでいてほしい。
私は小国キベニラで地質学の学者をしていたが、トラント国王ナルアエル様から『首都を襲う地盤沈下と落盤についての調査を行ってほしい』と招きを受けた。首都に到着すると、すぐに謁見を許されたことから、国王陛下がこの調査を急いでいることが伺えた。
挨拶を終えると、国王陛下は地盤沈下と落盤についての調査をするには、地下に広がる鍾乳洞に入る必要があると仰った。調査を始める前の準備として、私は王宮内の書庫とその奥にある隠し部屋に入り、民衆には知らされていない事実を書いた書物や国史を読むことを許された。
そして、調査と同時に、鍾乳洞内の地図を作成するように命じられた。鍾乳洞は王族と一部の重臣のみしか知らない上に、立ち入りを厳しく禁じていると聞き、そんな場所を1人で調査出来るなんてと嬉しさに舞い上がっていた。
私は国王陛下から、鍾乳洞は賢王ガーファエル様が砂地を嫌って土地改良する時に、その入り口を見つけたこと。首都のあちこちに出入り口があったが、国民が迷路のような鍾乳洞に入って生命を落とさぬように、一部を除いてほとんど塞がれていると聞いた。
鍾乳洞の一番端と考えられる出口が首都の外にある貧民街にあり、そこから洞内に入って調査を開始することにした。鍾乳洞内の調査は基本的に1人で行うが、鍾乳洞から出て来た時には、出入り口を警備する兵士と共にすぐに王宮へ行き、国王陛下に直接報告を行って、王宮に用意された一室で報告書を書くこと。秘密保持のため、休息日であっても王宮から出ないようにと命じられた。
書庫の隠し部屋で、過去の学者達が調査した報告書を読んだが、実際に入ってみるとその規模の大きさにとても驚いた。
今まで鍾乳洞を調査したことはあるが、これほど深く広い場所に入ったのは初めてで、壁に触れる、温度を体感するという一つ一つが興奮の連続だった。鍾乳洞は途方もない時間をかけて水の侵食によって出来たものであるが、この場所の水は酸性で、場所によって速度に違いがあるものの、他の鍾乳洞に比べて速いスピードで侵食していることが分かった。そのため洞内ではあちこちで落盤が起き、壁や天井にはヒビが入っている。今はまだしっかりしている壁や天井、地面もそう遠くない未来には崩れ落ちることが予想された。
それを国王陛下に報告すると、侵食を止めて現状で保存する方法はないかと問われたが、今までの私の知識と経験から、侵食を進める水を止めなければならないため、水源を枯らして時間をかけて侵食を緩やかにしていくしかないのではないかと答えた。しかし、この鍾乳洞を侵食する水源は周辺にある川なのか、どこかにあるかもしれない地底湖から滲み出したものなのか見当もつかない。
ならば、鍾乳洞に氷の魔法をかけて凍らせてしまえば良いのではないかと問われたが、表面の水は氷の魔法で凍らせられるものの、岩の奥深くに染み込んだ水については凍らせることが出来ない。目に見えない内部での侵食が止まらないため、何かの衝撃で鍾乳洞が崩れてしまうことには変わりがないと答えた。有効な方法はその場では見出だせなかったが、陛下はその点は他の学者に調べさせると仰った。
そして鍾乳洞を調べ始めて1年が過ぎそうな頃。順調に地図を作り、鍾乳洞内の調査を進めていると、触れただけで崩れた壁の先に細い道を見つけた。うねる道を歩いていけば、礼拝堂のような洞穴に辿り着いたのだ。
見事な壁の彫刻に感動しながらそこを調べてみると、その下には最近まで使われていた形跡のある祭壇があり、そこに注目するように長椅子がいくつも置いてある。明らかに人の手で整備され、人の出入りも感じられるその場所には、扉があったが固く閉ざされていて先に進めなかった。
王宮の謁見の間には、女神と天使、悪魔、鳥、青年の姿を描いた壁画や彫像があったが、この礼拝堂の壁画には巨大な女神、天使、悪魔、鳥だけで、青年の姿はない。女神の羽衣には何かの呪文らしきものが刻まれていたが、自分が詠唱しても何も起きないから、彫刻した者が適当に作った言葉なのだろうと結論を出した。
仕方なく出口に向かって引き返していると、行きは気付かなかった狭い脇道を発見した。その道の先には朽ちた木が階段状に配置されていて、階段の上部には大小様々な岩が転がっている。人の手で塞がれた様子から、おそらくこの先には街のどこかに繋がる出入り口があったのだろう。塞がれていなければ、地図作成にもっと熱が入るのにと思いながら歩いていた。すると、地面が薄くなっていた部分に気付かずに、踏み抜いて1つ下の階層に落ちてしまった。
幸いなことに高さがあまりなかったから全身を軽く打撲した程度で済んだが、痛む身体を引き摺りながら周囲を見渡してみれば、初めて足を踏み入れる袋小路の洞穴だった。場所が分かる道に出ないかと細い道を歩いていけば、やがて壁に文字が刻まれた広い洞穴に出た。
この場所に人の出入りはないようだが、壁は水の侵食の影響は受けておらず壁の文字はくっきりと残っている。明らかな人の痕跡に興奮して、身体の痛みなんか吹っ飛んで夢中で書かれていることを書き写した。
『私はあの魔法がガーファエルに乱用されてはいけないと思い、自我を失ったフリをしていたのです。
私が正気だとガーファエルが知ったら、またあの魔法を使わせるでしょう。でも、私はもうあんな光景は見たくない。親友や子供を騙し続けるのは心がとても痛かったけど、こうするしかなかった。
あの前の晩。私はお婆さんの前で確認するために呪文を詠唱したのです。でもその時も、みんなに呪文を教えた時も発動しなかったのです。
でも、母が「ココパの昔話は歌うような抑揚をつけて読むのよ」と言っていたのを思い出し、抑揚と訛りを入れて詠唱すると魔法は発動してしまったのです。
あの時、あんな真似をしなければ、私は彫刻家として生きていけたのに。そしてなにより、罪なき人が生命を落とす必要はなかったのにと、悔やんでも悔やみきれない。
アスカードル島から比較的近い場所にあるココパは、ラントニバ諸島を構成するいくつもの島が1つの国になっていて、そんな島の1つが母の出身だった。
母によれば、この国の言葉は共通語なのに「らりるれろ」の部分が「らぃ、りぁ、るぇ、れぉ、ろぅ」と聞こえる特徴的な訛りがある。母は普通の人との会話だと訛りは消えていたけど、私に昔話をする時は独特の訛りで語っていたのです。普段の会話では出てこないながらも、私もその訛りは受け継いでいて、その訛りがあの魔法には必要だったのです。魔法に執着するガーファエルならば、訛りのことが分かればきっと練習して魔法を使おうとするでしょう。
この訛りはある意味血筋のせいだったのだろう。でも、私の血を引いた子に私が教えなければ伝わらない。だから、ガーファエルがどんなに私の子に期待しようとも、何も起こらない。私が教えなければ、あの魔法は消えていく。もうあの魔法を発動させてはいけない。私はこのまま口を開くことなく1人で死んでいく。それを私のささやかな償いにしようと決めたのです。
王宮に閉じ込められている時から、いっそのこと早く死んでしまいたいと思っていたのに、側にいる侍女が私を監視しているから自殺することは出来ない。愛してもいない男との間に子供を作らされたけど、どこか自分に似た所を感じる子供はとても可愛い。少し抱きしめることは出来たけど、ガーファエルに正気だと知られてしまわないように、笑顔を見せることも、声をかけることも、あやすことも出来ないのが辛い。ガーファエルはそんな私の気持ちを知らないはずなのに、子供や親友をたまに連れてくる。現世に留まりたくなるような、ささやかな人との繋がりは私の決意をグラグラと揺さぶるのです。
そして私がこの鍾乳洞に閉じ込められたその日、夢に天使と悪魔、大きな鳥が出てきたのです。
彼らは「我々をここで終わりにしないで欲しい」「一緒に遊んで。寂しいよ」「このまま誰にも伝わらずに消えて行きたくない。殺さないで」などと、一方的に訴えかけてくるのです。
こんな悪夢に苛まれるなんて、とうとう私は本当に心を病んでしまったのかと思い、私に出来ることを考えました。その結果、彫刻にしか能のない私は、この夢から解放されるようにと願いを込めて、その3体の姿を壁に彫ったのです。
すると、夢の中に毎晩出てくる彼らはとても喜び、「お母さんみたいに優しい顔をした女神様を作って!」「すごく似てる!」「もっと作ってくれ」と言うので、悪夢から解放されるために私は彫り続けました。
彫刻を止めるとまた彼らが悪夢を見せるかもしれないと思って、手を止めることは出来なかったし、何より私自身も次第に楽しめるようになったのです。寂しがり屋らしい彼らのために、楽しそうな、安心できるような彫刻を施すと、彼らはとても喜んだのです。
そんな毎日を送っていると、この鍾乳洞は水の侵食を受けているのか、あまり強度がないことに気付いたのです。そして、もうあの魔法のことは誰にも言わないと決めたのに、心のどこかで真実も呪文も誰かに伝えたい気持ちが沸々と湧き上がって、私を苦しめるようになりました。
いつの日かこの鍾乳洞は崩れて無くなる。ならば、その日まで呪文を残しておいても良いのではないか。誰かが彫った呪文に気付いても、きちんとした発音が出来なければ魔法は発動しない。アスカードル島にはもう誰もいないし、母によれば、ラントニバ諸島は船の往来が多くなり、外から来た人の影響を受けて訛りは失われていると言っていた。
閉じた口を無理矢理こじ開けるような苦しみに耐えきれなかった私は、こうして私の胸の内を刻み、羽衣の中に呪文を刻んだのです。このまま人知れず崩れゆく鍾乳洞と共に、どうかあの魔法も消えてくれることを祈って』
胸を打つようなこの告白を備忘録代わりのこの手帳に書き写した後、外に繋がる道を模索しながら色んなことを考えた。
隠し部屋にあったトラント国史の中に、ガーファエル王は王妃と寵姫の間にそれぞれ子をもうけた、と書いてあったから、これを書いたのは2人のどちらかだと思うのだが、こんな暗く環境の悪い鍾乳洞の中に、王の寵愛を受ける女性が長期間居ることはないだろう。でも「彫刻家として生きていけたのに」とあるから、隠された平民の愛人だろうか。その愛人が特殊な魔法を使ったことを悔いて正気を失ったフリをしていたら、用済みとばかりにここに閉じ込めたのだろうか。
いずれにせよ、こんな場所に閉じ込められたのは表立って出られぬ者で、深入りしてはならないことだと結論づけた頃、私は無事に地上に戻ることが出来た。貧民街の出口を開けると、すぐ側にいる兵士に連れられて、いつもどおり王宮へまっすぐに向かった。
すぐに謁見の間に通されると、玉座に座る国王陛下に鍾乳洞内の地質調査、侵食の具合などを報告し、最後に礼拝堂のことを言葉にした。
『鍾乳洞内を調査し続けたところ、礼拝堂のような場所に辿り着きました。その洞穴の壁には、かなりの時間をかけて作ったものだと思われる巨大な女神、悪魔、天使、鳥と呪文が刻まれていて、それを祀るように祭壇がありました。そこには扉がありましたが、固く閉ざされて開けることが出来ず、仕方なく戻ってきました』
と報告した。陛下に忠実であれば、壁に刻まれた告白文のことを言うべきだと思うのだが、どうにも彼女の気持ちが自分の胸に突き刺さって、報告するのは憚られた。
すると、この報告を聞いた国王陛下は、これまでにない満足そうな反応を示した。
王宮の一室でメモをまとめていると、今までは普通の食事だったのに、見たこともない豪華な食事やワインが振る舞われた。兵士から「国王陛下からの労いの食事だ」と聞いた私は、陛下がそれほど礼拝堂の発見を喜んでくれているのだと思い、寝る間を惜しんで報告書をまとめ始めた。
翌早朝、いつも報告書を取りに来る将軍から、鍾乳洞内で大規模な落盤が起きたため、調査はこれで中止となることが伝えられた。そして、礼拝堂の報告書と、そこまでの道を記した地図を提出した後、これまでの調査を項目ごとに総括した報告書を提出し、最後に全体を総括した最終報告書を提出するようにと命令された。
あの礼拝堂に誰が出入りしているのか、あの扉の先に何があるのか。気付いていない脇道があるかもしれないし、なにより扉の先があるから地図は完成していない。まだまだ調べたいことはたくさんあるのに、これで調査が終わりになるなんてと煮え切らない状態になった。行き場を失った情熱を込めるように、私は将軍に言われたとおり、地図と礼拝堂の報告書を提出し、項目ごとの報告書の作成に取り掛かった。
毎日、寝る間を惜しんで報告書を作るのだが、夕方になると忙しい将軍がわざわざ部屋に来て、報告書の進捗を確認し、書き上がるとすぐに提出を求められる。急かされるようなその行動は、私が感じている新たな事実を知る喜びを、陛下も待ちわびているのだと嬉しく思っていた。
だが、そんな生活が10日過ぎ、残りは鍾乳洞内の環境についての報告書と、全体の総括をする報告書の2つとなった。集大成となる最終報告書をどうしようかと、頭の中で構想を練り続けるあまり、眠れぬ夜を過ごしていた時。深夜、開けていた窓から、将軍と誰かが会話する小さな声が、どこからともなく風に乗って聞こえて来た。
耳を澄ませて聞いていれば、それは私を殺す方法についてであった。『用済みになれば、与えている食事の中に毒を入れて殺せば良い』と聞いた時は血の気が引いたが、部屋の窓には鉄格子がはまり、扉の外には兵士が常時待ち構えている。部屋の外に出ることは報告書が出来て以降だと許されず、脱出は不可能だった。
今から考えれば、調査を終えるとすぐに王宮に戻り、報告書を書くまで部屋の外に出られず、それが終わっても王宮の外に出ることも許されない。鍾乳洞内で都合の悪いことを私が知った場合には、最初から殺すつもりだったのだと、この時初めて気付いた。
自分の生命は報告書が終わるまでと知った私は、色んなことを考えた。でも、この部屋から出る術はなく、自分が必死に抵抗しようとしても、屈強な兵士を相手に歯が立つわけもない。どう考えても自分の生命が未来に繋がる希望はなかった。
どうにか部屋の外に出る機会はないかと考えたが、兵士や将軍は報告書の作成を終えてからと許してくれない。それでもなんとか足掻きたくて、書庫の隠し部屋に資料を取りに行きたいと訴えた。すると、副官の同行を条件にどうにか許された。
王宮の隠し部屋には、世界中の伝承にまつわる本も置かれている。特にアスカードル島についての伝承を調べていたらしく、どの本もそのページには折り目がついていた。
数冊ある地質学や鍾乳洞の書物の中に、地質学者なら一度は聞いたことがある有名な学者『レインフォード・タズファン』の幻の専門書があった。彼が書いた本はこの1冊だけなのだが、『彼の突拍子もない発想は面白いのに、説明が理論的というよりは空想的で、理解に苦しむ』という意味で有名で、彼の本は売り出された翌年には誰も見向きもしなくなって、古本屋でも見ることがなくなり世の中から消え去った。
ただ、彼の枠にとらわれない発想は、ある意味頭の固い学者にいい刺激になったので、煮詰まったら『レインフォードのように逆立ちをして物事を見よ』という言葉が生まれ、それは時が流れた今でも語り継がれている。そんな、ある意味珍獣のようなこの本が、どうしてこの隠し部屋にあるのだろうか。
異質に感じるその本を手に取ってパラパラと捲ってみると、旧字で彼の生い立ちが書かれた部分に、しおり代わりのように古ぼけた手紙が挟まっていた。差出人も宛名もない封筒から手紙を取り出すと、目が痛くなるほどの小さな文字でビッシリと埋め尽くされていた。私はその本を部屋に持ち帰って、早速手紙を広げて読み始めた。
すると、ガーファエル王の時代に宮廷画家をしていたミフェールという女性が、鍾乳洞で地図を作っていた地質学者に宛てた手紙だった。その手紙の内容をすべて書き写す時間はないため、ここには要約して記載するが、そこに書かれていたのは驚くべき内容だった。
以前、トラントの首都からベルチェ辺りまでは、クリーム色の水はけの良い土に鮮やかな緑の草や木が生い茂り、爽やかな風が吹き抜ける風光明媚な丘がいくつも連なっていた。
この丘の1つに、王族が使用する別宅の1つがあった。首都を囲む丸く高い城壁から飛び出た黒い王宮が輝いて見える、歴代の王族らが一番気に入っている場所だった。
そしてトラント国王ガーファエルの治世。その別宅で静養する時、王族の煌びやかな生活を記録すべく画家や彫刻家が沢山随行した。その中に、アルナと言う若い彫刻家の娘が居て、同行していた画家や彫刻家達は別宅からの景色の邪魔にならないようにと、丘の麓にテントの海を作った。
ミフェールを始めとした芸術家らがテントで夕食の支度をしていると、腹を空かせた老婆が近寄ってきた。
みすぼらしい身なりに白髪をボサボサにした老婆は、「街道を歩いてきたが、金がなくて宿に泊まれない上に何も口にしていない。どうか食事を恵んでくれないだろうか」と言った。ミフェール達は関わろうとしなかったが、アルナは自分の食事を恵んだだけではなく、狭い1人用のテントで寝床を提供することを申し出た。
アルナに感謝した老婆は、ミフェールらと共に食事を取る時、世界地図を広げてこんなことを言い出した。
「儂が面白い話をしてやろう。
ジナの遥か南の海に浮かぶこの島が、アスカードル島だ。この島は海から隔離するように切り立った山のような岩場に囲まれているが、その内側には周囲と同じ海と、1本の枯れた大樹しかないドナ小島が浮かぶのみ、という不思議な形をしている。どうしてこうなったかって話だ。聞きたいかい?」
街と違って娯楽もない場所だからと、その場にいた者達は老婆の話に興味を持った。
「この島の1番近くにある、ラントニバ諸島を纏めるココパって国を知ってるかい?その国に伝わる昔話なんだ」
アルナの母はココパの出身で、沢山の昔話をしてくれたがその話は聞いたことがないと老婆に言うと、嬉しそうに語りだした。
「その昔、アスカードル島は切り立った岩場の山の内側に緑の大地が広がり、島と同じ名前のアスカードルという国があった。だがある日、ココパまで揺れと津波が届く地震がこの島で起きた。
友好国だったココパは、すぐにアスカードル島に船を出して様子を見に行った。兵士達はいつもどおり岩場から上陸し、山のような岩場を登って目に入ったのは驚愕の光景だった。
岩場の麓から続いていた平坦な大地は海に沈み、島の中央にあったドナの大樹が根を張る僅かな地面しか残っていなかった。兵士達は流木を切ってイカダを作り、大樹まで行くと木の下にうずくまった1人の少女が居た。
その少女を保護した兵士はココパに連れ戻って事情を聞いたところ、少女は島の外から来た旅人に教わった呪文を使ったら、地面が揺れ始め、あっという間に街が海に沈んでしまったと言った。ココパの王族は、まだ魔法を習い始めたばかりの少女が、魔法を制御することが出来ずに暴走させてしまったのだと結論づけた。
白魔法が暴走すると、術者の魔力を使い切る程度で周囲に大きな影響を及ぼさない。でも黒魔法が暴走すると、自分の身や周囲にいる人に火傷や怪我をさせる。でも、自分の身体が傷付くことで、無意識に魔力を遮断して暴走は止まる。
だが不運なことに、少女が暴走させたのは地震の魔法だったんだ。この魔法は他の魔法と違い、暴走しても自分自身には怪我を負わないものだったから、少女は魔力切れを起こすまで止められなかったらしい。不幸は重なって元々少女の魔力量は多く、黒魔法の適性も高かったのだろうね。暴走した地震の魔法は、少女のいた大樹の下を除く島全体を海に沈めてしまったそうだよ。だから魔法を習う時、自分が制御出来ない魔法を使ってはいけないよ、まずは先生の教える魔法からしっかり学ばないといけないんだよ、というお話さ。おしまいおしまい」
その話に興味を抱いたミフェールは、老婆に呪文を知っているかと尋ねた。
「知ってはいるがねぇ。沢山の黒魔道士がその魔法を使おうとしたが、その魔法を使える者は誰もいなかった。世の中には、特定の一族や民族にしか使えない魔法がある。だから、その魔法は血筋が関係しているのではないかと言われている。少女はその後まもなく死んでしまったと言われているから、もう誰も使えない魔法さ」
老婆はそう返事をしたが、その場に居た者達は呪文を教えて欲しいと訴えた。すると老婆は笑い声を上げた。
「そんなに教えて欲しいのかい?なら一宿一飯の恩義だ。儂は何も持っていないから、お嬢さんだけに呪文を教えてやろう」
翌朝、老婆と別れた後、アルナや画家達はその存在を忘れる程に王族の優雅な休日を形に残そうと制作に勤しんだ。
そしてそれから5日後。王族らに自分達の渾身の一作を披露し、無事に首都へ向かって帰路に着いた時、ミフェールやその仲間達はアルナに呪文のことを尋ねた。アルナは教えられた呪文を口ずさんでミフェール達に教えたが、誰が詠唱しても何も起きなかった。
何も起きない呪文にガッカリしていると、アルナが聞き取れないような言葉で歌うように詠唱すると、彼女を中心に大規模な地震が起きた。
連なった美しい丘は崩れ落ち始め、パックリと開いた地割れに美しかった緑の草木は吸い込まれていく。丘を作っていたクリーム色の土は表面を固めていた緑を失ってサラサラの砂の雪崩を作り、木々を飲み込んだ割れ目をあっという間に埋め、その先にある首都に向かって津波のように押し寄せた。
そして全ての変化が止まった時、緑の大地は一面クリーム色の砂地に。緑の丘はクリーム色の砂丘に。丘に阻まれて見えなかったはずの首都が、クリーム色の砂地の先に見えていた。
揺れが収まるまで呆然と見ていた一行だったが、我に返ったミフェール達はこの地震が老婆の言った魔法だと思い当たった。
呆然としたアルナを揺さぶって、ちゃんと発動したのか確認しようと大声で呼びかけ続けた。ミフェール達の騒ぎを聞きつけた兵士は彼女達から話を聞き、それは将軍を介して国王にもその場で伝わった。
国王は地震の魔法に興味を持ち、ミフェール達やアルナをその場で直接問い詰めた。ミフェール達とアルナは知りうる限りのことを伝えたが、アルナは唱えたのは間違いないが、偶然ではないかと主張した。
クリーム色の砂地になった街道を通って首都に戻ると、頑丈な作りの王宮は無事だったが、城壁や軍の施設、城下町などは全て壊れていた。
兵士が壊滅した首都を調べると、住んでいた民間人や兵士達は、押し寄せた砂に埋もれるか崩れた建物の下敷きになって全滅し、生き残ったのは王宮内にいた者達だけだった。壊滅状態の中、唯一残った王宮をガーファエルが歩いていると、中庭に今までなかった鍾乳洞に繋がる穴を見つけた。
壊滅した首都を放棄して他の街に遷都すればいいのだが、見つけた鍾乳洞を利用したいと考えたガーフェルは、遷都はせずに首都を作り直すことにした。だが、首都が地震で壊滅状態になったことが知られると、他国からの侵略の機会を増やしてしまう。そこで、首都の砂地を嫌って大規模な土地改良をするとして、首都を一時的に離れた場所に置いて、他国からの使者や旅人を遠ざけた。
そして、首都の再建と土地改良をしている最中に、兵士に鍾乳洞の調査を行わせると、鍾乳洞はかなり広く、道は枝分かれして深い場所になっていることが分かった。鍾乳洞は有事の際の避難場所になり、貯蔵庫にも使えると考えて、街のあちこちから入る事ができるように入り口が作られた。
首都の再建を終えた国王は、アルナの魔法が本物だったのかを検証すべく、侵攻予定だった隣国の首都に彼女を送り込むことにした。一般人のアルナは警戒されることなく越境し、暗部に監視されながら首都に入った。彼女自身も半信半疑だったから、何も起こらない事を祈りながら呪文を唱えると、アルナを中心にして首都が崩れ落ちる地震が起きた。そしてガーファエルは地震で混乱している隙に侵攻し、領土を広げることに成功した。
この結果に歓喜した国王は、アルナを使い、同様にして領土を広げていったが、3つの小国がトラントに飲み込まれた直後、彼女はショック状態に陥って自我と言葉を失って意思の疎通が出来なくなった。
国王は言葉と自我を失ったアルナに、白魔道士や『白い渡り鳥』様の治療を受けさせたが、精神的なショックが根深いのか、白魔法の範疇を超えた何かが影響しているのかは分からないが、回復の見込みはないと言われて元に戻らなかった。
アルナに回復の見込みがないと知った国王は、ミフェール達が聞いた話を元に老婆の行方を追ったが発見出来ず、ココパの後継国であるロディアムの新王に伝承の話を聞こうと使者を送った。だが、伝承を記録した資料は先日起こった蜂起の時に焼失して残っておらず、その際に王族はすべて死亡しているから口伝など知らぬと返答され続けた。
打つ手なしと思われたが、地震の魔法に魅せられたガーファエルは諦めなかった。
アルナが元に戻る刺激になればと仲の良かったミフェール達に会わせてみれば、ミフェールが話しかけると僅かな表情の変化がみられたため、彼女だけはアルナと会うことが許された。
ミフェール達から聞いた老婆の話から、国王はこの魔法を使うには血筋が関係していると思い、自我を失ったままのアルナを側室として側に置いた。
そして、アルナが自我を失って1年が経つ頃、意思の疎通も会話も出来ないままのアルナは王子を産んだ。
王太子になることが決まっていた王妃の生んだ唯一の王子は、国王により臣下の身分に落とされ、生まれたばかりのアルナの子が王太子となった。
平民の生まれで、まともな状態にないのに側室となり、産んだ子が王太子とされたことを許せなかった王妃は、ガーファエルが城下に出た隙に、アルナが持っていた物なども全て持ち出して、赤児の王子と共に鍾乳洞の奥深くに置き去りにして閉じ込めた。
怒り狂った国王は王妃に拷問を与えて鍾乳洞に入ると、そこで見たのは赤児をおぶりながら鍾乳洞の壁に彫刻を施すアルナだった。アルナは意思の疎通は出来なかったが、身体に染み付いた行動は忘れていないのか、見事な彫刻を施していた。このまま彫刻をさせることで自我が回復するのではないかと思った国王は、アルナと彼女の世話をする侍女を鍾乳洞に残し、王子を地上に戻した。また、表情の変化をもたらすミフェールだけは鍾乳洞での面会も許し、アルナをそのまま鍾乳洞で好きにさせるようにした。
拷問により四肢を切断された王妃は、王族や臣下たちの前で斬首刑に処せられたため、アルナが王妃の座に就くのではないかと思われた。だが、正常な状態にないうえに鍾乳洞から出ようとしないため、寵姫として扱われることとなった。
それから年月が経ち、アルナの産んだ王子が10歳になると、ガーファエルは会談が行われる隣国に王子を連れていき、さっそく地震の魔法を使わせたが、魔法は発動しなかった。それから間もなく、外に出ることなく鍾乳洞で彫刻を施し続けたアルナは、結局回復しないまま鍾乳洞内で死んだ。
女神の羽衣の中にあの呪文が刻まれていることを知った国王は狂喜し、アルナの遺産である血筋と鍾乳洞、そこに刻まれた彫刻を守って行くことを今後の国王の最大の使命とした。
そして手紙の最後には、『誰にも言わないつもりでしたが、鍾乳洞を調査している貴方を見ているうちに、親友のアルナに必死に声をかけ、彫刻の道具を見せながら元に戻って欲しいと願っていた過去の私と重なったのです。
鍾乳洞の調査の助けになれば良いと思って手紙で伝えましたが、この話は国王陛下によって闇に葬られた事実。なので、誰にも言わずに貴方だけの胸にしまっておいて欲しいのです』とメッセージが残されていた。
この手紙によれば、私が国王陛下から聞き、国史にも書いてあった上に、既に提出した報告書にも書いた『鍾乳洞は、時の王であるガーファエルが土地改良をした時に発見された』という話は事実ではなかったのだ。そしてなにより、あの告白文を書いたのは隠された愛人ではなく、王宮内で神格化されている寵姫のアルナだったのだ。
もしかしたら、ガーファエル王が地震の魔法に固執した様に、その血を引く今の国王陛下もあの魔法に執着し、独占したいのではないだろうか。
礼拝堂を限られた者だけの秘密にしたかったのに、私がそこに足を踏み入れ、呪文の存在を知ったことが許せなかったのではないだろうか。
あぁ、なんてことだろう。そう仮定すると、すべての疑問が綺麗に解決していくではないか。
そうとも知らず、私は報告書に多くの事実を書いて提出してしまった。
それに、つい先日、将軍が何気ない会話の中で私が調査で使っている手帳を見せて欲しいと言ってきた。その時は中身をパラパラと見るだけで、すぐに返してもらえたが、私が死んだ後に確実に処分しなければならない物を確かめていたのだ。
この手紙をもっと早くに見つけていたのなら。鍾乳洞の調査に浮かれることなく、もう少し冷静になって物事を考えていれば。礼拝堂の存在を口にしなければ、私はこんな状況にならなかったかもしれない。
でも、こうなってしまっては、仮に私がここから脱出できたとしても、国境を越える前に必ず私を殺すだろう。
最終報告書には、地盤沈下と落盤についての調査を行った結果を書かなければならないが、私が知った真実を書けば、ガーファエル王が王妃に行ったような拷問を与えられるかもしれないし、そうでなくてもまともな死に方をしないだろう。
本当は死にたくない。でも、間近に迫っている生命の期限を具体的に考えると、恐ろしさが襲ってくる。拷問で痛みと苦しみを与えられながら死ぬのか、毒殺で死ぬのか。
どのみち死ぬのならば最低限の苦しみであってほしいと願ってしまうのは、仕方のないことだと理解して欲しい。事実を隠した偽りの最終報告書になることを、どうか許して欲しい。
その代わり、になるのかは分からないが、国王陛下へのせめてもの抵抗と、これから先、偽りの報告書を読む誰かへの謝罪の気持ちを込めて。私が辿り着いた事実と礼拝堂に続く鍾乳洞内の下書きの地図を隠して、未来の人に託したいと思う。
地図は既に提出しているから、下書きの地図があると誰も知らないし、アルナの告白をメモし、事実を書いたこの手帳も私以外は知らないから、将軍に見せた手帳だけ手元に残しておけば誰も気付かないはずだ。
できれば、善良な第三者の手にこの2つが渡って欲しいが、身動きの取れない私には限られた手段しかないため、上手くいくようにと祈るしかない。
鍾乳洞に隠された魔法は、使えないとしても人を惹きつける力がある。今は誰も使えない魔法でも、何かの偶然が重なり、使える者が出てくるかもしれない。でもどうか、悪しき者によってあの魔法が使われないことを切に祈る。
私が真実を書かずに、死に方を選択した我儘をどうか許して欲しい。
そして、私の隠した遺産が誰かの役に立つことを祈って。
ルーセント・オバルシオ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「これで手帳は終わっています。お茶を頂いても良いですか?」
流石に長く喋っていたから喉が乾いた。私がお茶をお願いすると、ディズの副官の人達がササッと動いて、ファズ様が湯気の上がる紅茶を持ってきてくれた。一口飲めば、蜂蜜の良い香りと甘さが広がって、喉を優しく温めながら潤してくれた。
普段飲む紅茶よりも香りが良い感じがするから、高級茶葉を使っているのだろうか。私は普通の紅茶でも十分美味しくて満足しているのに、高級茶葉を使わせてしまって申し訳なく思ってしまう。でも、とっても美味しい。一気にゴクゴクと飲んでしまったけど、たまには高級茶葉のお茶を楽しむのも良いかもしれない。
「ありがとうございました。まさか地震の魔法があったとは。確かにそれを使われると壊滅的なダメージを受けるな。考えただけでも恐ろしい魔法だ」
「第2のアルナにふさわしい、と言っていた意味も納得いきましたな。それに貧民街に入り口があるとは。あそこは盲点でした。残党の将軍らは、そこから逃げた可能性が高いですな」
「地質学者のところで見つけた旧字の本を書いた奴が生き延びたのは、あの礼拝堂を見なかったからのようだな」
バルジアラ将軍とエメルバ将軍の話を聞きながら静かに茶色の手帳を閉じると、何だか手帳が嬉しそうにしている気がして首を傾げた。手帳は生命がある物ではないのに、どうしてそう感じたのか分からない。でも、もう少しこの手帳を読んでみたくなった。
手帳を膝の上に置いて机の上にある本を一冊手に取ってみると、世界各地の地方に伝わる伝承の話が書いてあった。こういう本は今まで読んだことがなかったから、少し興味をそそられる。
「シェニカ。疲れたでしょう?そろそろ昼食の時間になりますから、一緒にどうですか?」
「あ、うん。じゃあ一緒に。あの、バルジアラ様。この手帳と本、もう少し読みたいので預かっても良いですか?もし、何か今回の戦争に繋がりそうな情報が見つかればお伝えしますので」
「分かりました。他の本もお読みになるのならば、後ほどシェニカ様のお部屋にお持ちしますが」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「では、部屋に案内します」
私は手帳と本をしっかりと抱え、ディズの案内で会議室から出た。
◆後書き◆
地震のお話でしたので、被災された方には不快になる話だったのではないかと心配しております。
この話を編集している時、大阪北部地震が起きてしまったので更新するタイミングを正直悩みました。
それなら更新を止めたらどうかというご意見もあるかと思いますが、更新を待って下さる方もいるし……と悩んだ結果、地震から1ヶ月を経過した段階で更新しようと決めました。
もし不快な気持ちになってしまった方がいらっしゃれば、大変申し訳ありません。m(__)m
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