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【失恋する二人】
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【★12000文字程の短編作品感覚でお読みください★】
「俺……今年は絶対、収穫感謝祭にエナを誘う!」
そう力強く宣言した黒髪の少年をいつも一緒につるんでいる少年二人が、驚きと呆れた表情で見返した。
「は? ノイン、エナの事好きだったのか……?」
「つか、上手くいってもオマケでリクスが付いて来るぞ? お前、リクスに喧嘩売るつもりか?」
「何でそこでリクスが出てくんだよ!! あいつは関係ないだろ!?」
友人二名から同時に似たような返答をされたノインが反論する。
だが、そんなノインに憐れむような眼差しを向けた後、二人は互いに顔を見合わせて盛大に息を吐く。
「だって、『エナ』と言ったら『リクス』だろう?」
「リクスってエナの保護者? いや、エナの方がリクスの保護者か……。何か、あいつらって恋人とかじゃないけれど、いつもセットでいるのが当たり前な感じだろう?」
「でも兄妹とは何か違げぇーよなぁー」
「あー、分かる。でも恋人同士みたいな雰囲気は一切ないんだよなー」
「空気か? 互いに空気みたいな存在になってる感じか?」
「それそれ! もうあいつら独自のよく分からん強固な絆みたいなモンが出来上がっていて、第三者は一切介入出来なさそうな……そんな雰囲気だよなー」
エナとリクスに謎の深い絆があるという話で盛り上がり始めた親友二人に再びノインが激怒する。
「やめろ!! お前ら親友の癖に俺の心を折ろうとするなよ!!」
「いや、だって……」
「どう考えても即死だと分かっている死地にお前が向かおうとしているから……」
「失恋確定だから、今すぐに諦めた方がいいぞ?」
「告白する前からダメだって決めつけんなよ!! お前ら、それでも友達か!!」
「友だからこそ、無駄に傷つくような自殺行為をしようとしているお前を止めてやってんじゃねーか」
「エナだけは、やめとけ。たとえ告白を受け入れて貰ったとしても後々リクスの存在が、お前を苦しめる事になるぞ?」
友人達の言い分も一理あるとは思いつつもノインはある事に気付いた。
「お前ら……もし俺がエナに告白して振られたら、三人全員振られた事になるから、それが嫌で止めにかかってんだろう……」
ノインのその推察を聞いた二人が同時にビクリと肩を震わせた。
友人の一人であるケビンは、昔から好意を寄せていたアリスに過剰に絡み過ぎて嫌われた挙句、自分が苛めていたエディと最近二人が付き合い出している。
コールも似たような状態で、過去思いを寄せていたレニーをその幼馴染のヨハンと取り合ったが、ヨハンの狡猾さに負けてしまい、こちらの二人も最近付き合い始めた……。
すなわち、これ以上自分達の中から失恋する人間を出したくない二人は、ノインのその決意を必死で折ろうとしているのだ。確かにこれでノインまで失恋したら、周囲から撃沈組と揶揄われる事は目に見えている。だからと言って、意気込んでいる友の決意をくじけさせようとするのはいかがなものだろうか……。
友人二人の考えに気付いたノインが、白い目を向ける。
だが、逆に二人からは呆れた表情を返されてしまった。
「つか、何でよりにもよってエナなんだよ……。あいつがつるんでるリクスは、俺らの天敵なんだぞ!」
「しかもリクスの所為で、俺らは失恋確定したんだからな!? あいつに関わるとろくな目に合わないから、お前も同じ目に遭う前にエナの事は諦めた方がいいぞ」
折角、固めた決意を全力でへし折りに来る二人にノインが反論する。
「何でそうなるんだよ!! そんなの告白してみなけりゃ分かんないだろう!?」
「いや、火を見るよりも明らかだ。それ完全に負け試合だから」
「もう別の女にした方がいいぞ? そもそも何でエナ? あいつお節介で生意気だし、チビで胸は抉れてるじゃねーか」
「エナはお節介なんじゃなくて面倒見がいいんだよ! あと小動物みたいにちょこまかと甲斐甲斐しく動き回っている様子が可愛いいだろ!? あと誰に対しても人懐っこいのも感じいいし……。何よりも料理上手な所はかなり高ポイントだ! ちなみに胸のサイズは、俺には関係ねぇぇぇー!!」
ひとしきりノインがエナの長所を上げたが、ケビン達は別の部分に食い付く。
「何だよ? お前、もしかして貧乳派か?」
「俺、デカい方がいい……」
「お前らの好みなんか聞いてねぇーよ!! 一生思春期やってろ!! とにかく! 俺は来月の収穫感謝祭にエナを誘って、その時に告白する!!」
そう意気込んだノインに呆れた表情を向けながら、コールがボソリと呟く。
「その前に感謝祭の誘いを断れる方に俺はエールを二杯賭ける」
「じゃあ、俺は感謝際の誘いは受けて貰えるけれど、リクスがオマケで付いて来て告白できない方にヨハンの店の牛肉の鉄板焼きを一枚!」
「お前ら……友を応援する気は欠片も持ってねぇーよな……」
「何を言う! 負け試合になると忠告しやったんだから、むしろ友思いだろーが!」
「たとえ上手くいっても常にリクスが付いて来る未来に幸せなんかないぞ?」
「くそっ! 言いたい放題言いやがって……。見てろよ! その舐め腐った予想を覆してやる!」
更に意気込んだノインは勢いよく立ち上がり、大股で村の広場の方に向かって歩き始める。
「おい! ノイン、どこに行くんだよ!!」
「エナのところだ!!」
「なら今日の夜はヨハンの店に集合なー。あとエール二杯と牛肉の鉄板焼きを俺らにおごる準備しておけよ~」
「何っで断られる事が前提なんだよ!! お前ら、本当ふざけんな!!」
友人思いの二人に悪態をつきながら、ノインはひとまずエナを探しに村の広場へと向う。すると途中で、エナと仲の良いフェリシアとレニーに偶然出くわした。どうやら二人で山菜を取りに行っていたらしい。籠いっぱいに山の幸を詰め込んでいる。
「よう、お二人さん。今日エナは一緒じゃねぇーの?」
「エナ? さぁ……今日は特に会う約束していないから」
「あっ、でも昨日、湖の桟橋で釣りするリクスの見張り役を頼まれたって言ってたよ?」
「見張り役って何だよ……。つか、またリクスと一緒か。まぁ、いいや。ありがとなー」
「待って、ノイン! エナに何の用?」
何故か訝し気な表情を浮かべたフェシリアに言及され、ノインが気まずそうに頭の後ろをポリポリと掻く。ケビンとリクスがいつも張り合っている所為か、ノインもケビンと同類扱いされる事が多い。その為、フェリシアはノインがエナに絡みに行くのではないかと懸念しているのだろう。
「あーっと……ちょっと頼み事があって……。特にエナに絡んだりしないから、そこは安心してくれ」
「本当? エナに意地悪したらリクスが暴れて面倒だから絶対にやめてね?」
「ケビンじゃあるまし……。俺はそんな事しねぇーよ!」
「なら、いいけど……」
「おう、じゃあな」
そう言ってノインは、フェリシア達が教えてくれた村唯一の観光スポットである湖の桟橋に向う。同時にそろそろケビンには、もう少し精神的に大人になるよう諭した方がいいと思い始める。
フェリシアがノインを警戒していたのは、幼少期にアリスを庇おうとしたエナがケビンと揉み合いになり、二人そろって浅い川に落ちた事があったからだ。その時、何故かエナだけが高熱を出して寝込んでしまい、その際リクスが烈火の如く怒り狂ってケビンをボコボコにした挙句、一週間近くも追い回し、ノイン達も巻き添えをくらったという悪夢のような出来事があった……。
リクスにとって、エナの敵も全て自分の敵という考えなのだ……。
幼少期からの思い込みとはいえ、何とも恐ろしく短絡的な思考である。
その為、この村の少年達の間では『エナにだけは絶対にちょっかいを出してはならない』という暗黙のルールが密かに出来上がっていた。
その暗黙のルールを見事にぶち破ってやらかしたのが、ケビンである……。
そんな事があった為、ノインとコールはエナの友人達からはケビンと同類と思われている。
だが、その原因となったケビンは、そこまで悪い奴ではない……。
友人として接しているノイン達にとっては、ごく普通の少々腕っぷしの強いガキ大将気味な少年である。ただケビンは、どうも好きになった相手に対して過剰に絡んでしまうタイプのようで、相手に嫌われやすい。
そんなケビンもやっとその不毛さに気付いたのか、近頃は大人しくなり始めたのだが……。現在、ケビンを取り巻く状況から考えると、その事に気付くのがあまりにも遅過ぎた。
その事を決定づけるようにケビンが長年片思いしていたアリスには、未だに毛嫌いされている。
更に追い打ちをかけるように、ついこの間アリスは、幼少期にケビンが苛めていたエディと付き合い始めたのだ。
そのショックから、ケビンは来年成人したら村を出て王都の城下町の警備隊に志願すると言っていたが、本当はもうこの村内の女性陣からは評判が悪すぎて相手にされない事を本人も薄々気付いているようだ。
その為、ノイン達もケビンが村を出る事には反対しない。
同時に捻くれた愛情表現しか出来ない不器用なケビンを不憫に思う。
だが、村を出る決意を固めているケビンが残すその悪い印象は、何故か一緒につるんでいたノインとコールにそのまま引き継がれるらしい……。理不尽だと思いつつもその当時、ケビンと一緒になって面白がりながら、その暴走を止めなかった自業自得な部分もあるので、周囲からのその扱いは甘んじて受けようとノインは思っている。
そんな状況下でもエナだけは、ノインとコールの事をケビンと同類扱いしなかった。エナはお節介な性格の反面、周囲に対する気遣い力が高い。その証拠にいつも一緒にいるリクスがあれだけ大暴走しても、エナが上手く調整役となっている為、二人セットいる事でリクスは周囲と上手くやれているのだ。
その為、ノインと同じようにエナに好意を寄せている輩は、確実に存在している。
だが、いつも番犬のようにくっ付いているリクスの存在が強烈過ぎて、誰もエナにアプローチ出来ずに終了する事が多いのだ。
そんなエナを生まれた頃から無意識に独り占めしているリクスには、色々と思う事があるノインだが……。この二人に対して、一つだけ不思議だと感じてしまっている事がある。
何故かあの二人には、男女の友情でありがちな展開の『恋愛感情』が芽生える気配が全くない事だ。
頻繁に言い合いをしている事が多いリクスとエナだが、仲はすこぶる良い。
だが、それはどう見ても男女間でよく見かける甘さのあるものではない。
一番しっくりくるのは、親兄妹間でよく見られる家族愛に近い仲の良さなのだ。
その関係を現在の思春期真っ只中でも続けられている二人はある意味、奇跡である。
だが、今後リクスがエナの事を異性として意識し始める可能性は捨てきれない。
またそれはエナの方でも言える事だ……。
その状況がやって来る前にリクスを出し抜きたいノインは、今年の収穫感謝祭に賭ける事にした。
しかし、意気込んでいたノインを尻目に目的地である湖の桟橋では、仲良く肩を並べて座っているリクスとエナの姿が視界に入って来る。
その状況を目の当たりにしたノインは、思わず舌打ちをした。
「あいつら……。何で、あれで付き合っていないんだよ……」
あまりにも近い距離間を当たり前のように維持している二人の様子に思わず悪態をついたノインだが、まだ付き合っていない今の状況がまさにチャンスなのである。
そう自分に言い聞かせ、とりあえずエナが一人になるまで待とうと、静かに二人との距離を詰める。
だがその時、自分とは別の人間が同じように二人の様子を窺っている事に気付いた。
「おい、アシュリー。お前、何やってんだ?」
「うひゃあ!!」
「あっ! バカ! 大声出すなよ!」
慌ててノインはアシュリーと呼んだ少女の口を塞ぎ、サッと木陰に身を隠す。
幸いな事にエナはもちろん、リクスにも気付かれていない様子だ。
その状況に安堵の息を漏らすと、手元でアシュリーがモゴモゴと暴れ出す。
「あっ、悪ぃ」
「ちょっと!! いきなり何なのよ!!」
「いや、それはこっちのセリフなんだけど……。お前、何やってんの?」
「何って……。えっと……」
ノインの追及にアシュリーは気まずそうな笑みを浮かべながら、視線を泳がせる。
だが、先程までアシュリーが向けていた視線の先には、リクス達の姿があった。
その事からノインがある事を推察し、ニヤリと口元を歪ませる。
「さては……今年の収穫感謝祭にリクスを誘おうとしてたな?」
「なっ……!!」
「趣味悪りぃーなー。何でよりにもよって、リクス?」
「はぁ!? 何言ってんの!? リクスはあんたより百倍カッコいいじゃない! 顔はもちろんだけど……中身も男前でしょ!!」
そのアシュリーの主張にノインが何とも言えない微妙な表情を返す。
「お前……あの狂暴食欲大魔王のどこに男前を感じるんだよ……」
「リクスは狂暴なんかじゃないわよ! あんた達に比べたら物凄く紳士的じゃない!!」
「どこがだよ!!」
「例えば女の子には絶対に手を上げないところとか? もし苛められている子がいたら、すぐに助けに来てくれるし」
「それはエナがリクスを引っ張ってきて助けるように訴えるからだろ?」
「重い物とか運んでいると、すぐに手伝ってくれるし……」
「それもエナに言われて、リクスが渋々手伝ってるだけじゃねーか!!」
ノインのツッコミが的確過ぎて、アシュリーが一瞬だけ怯む。
確かにリクスが村の女の子達に親切なのは、全てお節介なエナが気付き、リクスに手を貸す様に訴えかけるからだ。
「で、でも……皆が揉めている時に率先して仲裁役を買って出てくれるところとか、頼り甲斐があるでしょ!? それは別にエナに言われたからじゃないし。そういう所は男前じゃない?」
「確かにそういう場合は、リクス自身の判断で動いているとは思うが……。それって、この村の長の息子として皆をまとめようとする普通の動きだろ」
「何よりも強くて顔がいい!!」
「結局、顔じゃねぇーか!!」
あんなリクスだが……隣のケルン村では、口を開かなければ腕っぷしも強くて見た目も良い為、人気がある。だが、大半はあの異常過ぎる食欲と口の悪さが明るみになり、恋心を萎えさせる少女達が続出する……。
中にはそれらも受け入れてリクスに好意を抱き続ける猛者もいるにはいるが……。
あまりにもリクスとエナが当たり前のように一緒にいる姿を目撃する為、皆その事で心を折られてしまう。
もちろん、この村でもアシュリーのように密かにリクスに想いを寄せている少女は多い。しかし、告白されても恋愛に全く興味がないリクスは、面倒臭いと言って全て断ってしまう……。
中には食べ物で釣ろうとする猛者もいたが、毎回悪気なくリクスが料理上手なエナの味と比較するような感想を口にしてしまう為、見事に撃沈されていた。
「まぁ、確かにリクスは思いきりがいいから男前っていうのは、少し分かるけどな」
「でしょ? ところで……あんたこそ、ここへ何しに来たのよ?」
「まぁ、俺もお前と一緒なんだけど……」
「ええ!? ノインってエナの事、好きだったの!?」
「悪いかっ!」
「いやー……。まぁ、確かにエナって小さくて動き可愛いし、面倒見いいから付き合ったら甲斐甲斐しくお世話してくれそうだよね……。ただちょっと子供っぽくて、気が強いところがあるけれど」
「そこもいいんだよ!」
「恋は盲目だねぇー……。人の事言えないけれど」
やや呆れ気味でアシュリーが呟くが、ノインはその呟きを完全に無視する。
「それで? あの二人、単独行動になりそうな気配はあるか?」
「それが……10分くらい前から二人共、無言のままあそこで横並びして座ってるんだよね。私も二人がバラバラになったら、リクスを感謝祭に誘いたいんだけれど……」
「つか、あいつら、何やってんだ?」
「リクスは釣りだね。エナの方は、膝のあたりで何か作業しているみたい」
「リクス、釣り下手なのに何でそんなに好きなんだよ……」
「さぁ……。でもさ、そういう苦手な部分に必死で拘るところが、何か可愛くない?」
「いや、全く可愛くない」
そんな会話をしながらノイン達が二人を観察していると、膝の上で何かをやっていたエナが、おもむろにスッと立ち上がってリスクに近づき始める。
だが次の瞬間……エナはリクスの頭頂部に景気よく手刀を叩き込んだ。
「てい!」
「うおっ!!」
すると手刀を叩き込まれたリクスは一瞬だけ肩をビクリとさせた後、何事かと周囲をキョロキョロと見回した。
「あ、あれ? 俺、もしかして……また寝てた?」
「思いっきり寝てたよ!! ピープー鼻笛まで鳴らしてたよ!! だからティクス兄に魚釣りじゃなくて餌やってるって言われちゃうんだからね!?」
「くっそー、睡魔が急に襲ってきやがった……。つか、そうならないようにエナに俺の見張りを頼んでたんじゃねーか! 見ろ!! お前が起こすのが遅いから、また餌が取られちまったぞ!?」
理不尽としか思えない苦情をエナに訴えながら、リクスが手にしていた釣り竿をヒョイッと軽く持ち上げる。すると、その先端の釣り針に付いていたはずの餌が消えていた。そのリクスの言いがかりのような訴えにエナが反論する。
「それがおかしいんだよ! それじゃ、リクスが釣りしてるんじゃなくて、私が釣りしてるみたいじゃない!!」
「魚を釣るのは俺なんだから、釣りしてんのは俺だ! エナは……お魚ヒットお知らせ係だろ!?」
「何その変な名前の係! 私、そんな暇じゃないんだけれど!」
「さっきから暇そうに栗の皮むきしてんじゃねーか!」
「栗の皮むきしてるんだから、暇してないでしょ!?」
同世代の間では、もはやお馴染みとなっている二人の名物言い合いにノインとアシュリーが笑いを堪えるように自身の口元に手を当てる。
本人達は至って真剣だが……周囲の人間にとっては、この二人の掛け合いは面白すぎるのだ。
「つか、無言だから眠くなんだよ……。エナ、お前なんか面白い話ねぇーの?」
「ええ!? 何で私に振るの!? 言い出したリクスこそ、何かないの?」
「ねぇーから、お前に振ってんじゃねぇーか……」
「うーん。あっ! そう言えば、先週からエディとアリスが付き合い出し――」
「それ知ってるから! お前、俺の情報網を舐めすぎだろ!?」
「だって……リクス、少し前までエディがアリスを好きな事知らなかったでしょ?」
「流石に今回は皆が騒いでるから俺の耳にも入るわ!! つか、なんかこう……盛り上がって話せる話題とかねぇーの?」
「もう! さっきから人任せばっかり!! あっ、じゃあ来月の収穫感謝祭については? 確かリクス、今年から家の手伝いしなきゃいけないから、感謝祭回れないでしょ? もし食べたい物があれば私、フェリシア達と回るから早めに買っておいてあげるよ」
「バカ言え! 俺は今年も出店巡りは、しっかりやるぞ!」
「えっ? でもティクス兄が今年はリクスをこき使うって言ってたよ?」
「おう。だが開始30分までは、お祭り回っていいって兄ちゃんから言質取った! だからその間、エナと手分けして食い物の屋台を片っ端から制覇する!! エナ、協力、よろしくな!」
リクスのその宣言を聞いたノインとアシュリーが、思わず顔を見合わせる。
これではリクスもエナも二人が収穫感謝祭に誘う事が出来ない……。
「ええ~!? 嫌だよ!! それだとお祭り始まった30分間はリクスに引っ張り回されるから、フェリシア達と回る時には私、グッタリしちゃうじゃない!! 大体、何でリクスの都合に私が合わせなければいけないの!?」
「だって俺ら、ガキの頃から収穫感謝祭は必ず一緒に回って食べ物系の屋台を制覇するってのが恒例じゃねーか。お前、今年は俺を裏切んのか?」
「どちらかと言うと裏切ったのは家のお手伝いとは言え、一緒に回れなくなったリクスの方でしょう!?」
「俺の場合は不可抗力だ! それでも30分は何とか確保したんだから、協力しろよ! つかお前、夫持ちのフェリシアと回るってどういう事だよ! そこは気ぃ使って遠慮しろや!」
「フェリシアがいいって言ったんですぅー。ついでにレニーも一緒ですぅー」
エナの言い分を聞いたリクスが呆れるたような声を出す。
「お前……何、堂々とカップルイベントの邪魔してんだよ……」
「アッシュは当日、お祭り時の警備に回らなきゃいけないし、ヨハンもお店出す側だからレニーと一緒には回れないんですぅー!」
「だからって、あいつら夫と恋人を蔑ろにし過ぎだろ? つか、エナも友情に甘え過ぎだ!」
「甘えてないよ! 何さ! リクスだって独り者なんだから人の事言えないじゃない!!」
最早、泥仕合と化してきた二人の会話だが……何故かその論点は、おかしな方向に向かい始める。
「俺はエナと違って、何人かに一緒に収穫祭回りたいって誘われましたぁー」
「じゃあ、その子たちに屋台制覇を協力して貰えばいいでしょ!?」
「アホか! あいつら絶対、面白くもねぇー話しながら、ちんたら回るじゃねぇーか! 俺が求めている人材は、制限時間内にいかに効率よく食い物系屋台を回るかに命をかけられる奴だけだ! その点、エナには絶対的な信頼を寄せている。誇っていいぞー?」
「誇りたくないよ! そんな信頼感、ちっとも嬉しくないから! それよりも真剣にお祭りに誘って来てくれた子をそんな理由で断ったリクスにドン引きだよ!!」
「下心ある奴の誘いなんかホイホイ受けるわけねぇーだろ!! 俺にだって相手を選ぶ権利がある!」
「好きな子の好みなんてない癖に何言ってんの!?」
「はぁ!? 俺にだって女の好みぐらいありますぅー!」
「じゃあ、リクスはどんな子がいいって言うのよ!!」
その話題になった途端、アシュリーだけでなくノインも自然と前のめりになった。
しかし、この後リクスが口にし始めた内容を耳にした二人は、盛大に肩を落とす事になる。
「とりあえず、料理上手は必須条件だな!」
「うわぁー……。流石、食意地大魔王なリクスだ……」
「あとは見た目の良さも重要だ!」
「見た目って美人さんとか?」
「はぁ? 美人なんて三日で飽きるって言うじゃねぇーか。俺は美人よりも可愛い系がいい! なんかこう……小動物みたいなカワイイ奴?」
「レニーとか? ウサギっぽいから小動物系だよね?」
「いや、レニーだと打たれ弱そうだからダメだ。出来れば俺のツッコミをサクサク返せるくらいのメンタルの強さは欲しい。尚且つ、献身的に尽くしてくれるタイプだったら、もう完璧だな!」
何故か上から目線で自身の好みを熱く語ったリクスにエナが呆れだす。
だが、その内容を盗み聞きノインとアシュリーは、唖然とした表情で互いに顔を見合わせた。
何故なら、リクスが口にした女性の好みは、先程ノインが語った『エナの好きなところ』に全て当てはまるのだ……。
その事にアシュリーも気が付いたようで、やや顔色が悪くなっている。
だが、当人であるリクスとエナは、全くその事に気付いていない。
「何言ってんの!? そんな男性の理想の塊みたいな女の子、いる訳ないじゃない!! リクス、ちょっと理想が高すぎだよ!」
「何だとー!! じゃあ、お前の理想はどんな男なんだよ!!」
「私はもっと分かりやすくて謙虚だよ? 強くてー、優しくてー、頼り甲斐のある人!」
今度はエナが理想の男性像を口にするが、その事でも盗み聞き組はビシリと固まる。
それは先程アシュリーが熱く語った『リクスの好きなところ』と内容が丸かぶりだったのだ。
だが、エナもその自分の理想条件にリクスが該当する事に全く気付いていない……。
そんな二人の会話は、そのままどんどんと進んでいく。
「ほぉ~? じゃあ、その条件を満たしてれば、ヒキガエルみたいなブッサイクな男でもいいんだな?」
「か、顔は……まぁ出来ればカッコいい方がいいけれど……」
「じゃあ、それで顔が良ければ借金まみれでもいいんだな?」
「お、お金はあるに越した事はないでしょ!!」
「お前……その条件に合うのってアルバート様くらいしかいないぞ?」
「貴族の人は嫌! 窮屈なドレスとか礼儀作法の練習とかやりたくない!!」
「じゃあ……商家の息子のオリバーさん?」
「オリバーさん、ナヨナヨしていて頼り甲斐ないじゃない! しかも私より物凄い年上だし」
「つか、うちの村近辺にいるモテ男二人にダメ出しするお前の方が、よっぽど理想高くね?]
「そ、そんな事ないもん!!」
最後には顔の良さまでプラスされたエナの理想の男性条件に、ノインが片手で両目を覆いながら俯き出す。どう考えてもこの条件にピッタリな同世代の人物として該当するのは、リクスなのである。
その為、隣にいるアシュリーも同じように両手で顔を覆い、盛大に項垂れた。
これでは二人とも間接的に振られたと言ってもいい状況だ……。。
その為、二人はリクス達の会話を盗み聞きしていた事を後悔し始める。
だが、この後の二人の会話は、今話していた内容を全て覆す展開を見せる。
「でも結局は理想って、当てになんねぇーよなー」
「あー……確かに。どんなに高い理想を持っていても結局は、その時好きになった人が『理想の人』になるもんねー」
「うわー。何かエナが分かり切った風の口ぶりしてるー。恋愛経験ゼロな癖にー」
「う、うっさいな! リクスだってそうでしょう!? そもそもうちの村には、その代表的なカップルがいるじゃない!」
「ガイ兄とミリア姉だろ? あの二人、大っ嫌いから始まった癖に今や周りに胸やけを起こさせる程、イチャイチャ夫婦だもんなー……」
「ガイ兄が言ってたよ? 大っ嫌いから始まる恋は、それ以上嫌われる事がない状態からスタートだから最強だって」
「それ、ただのこじ付けじゃね? ガイ兄はたまたま上手くいったから、そんな事言えんだよ……」
「えー? でも何かその言い回し、素敵な響きじゃない? って、ああぁぁぁぁぁー!! リクス、釣り竿! 釣り竿が湖に落っこちてる!!」
「えっ!? うわぁぁぁぁぁー!! 嘘だろ!? この間、アルバート様に一本折られたから、今あれしか釣り竿持ってねぇーのに!!」
「もぉー!! 何やってんの!? 集中してないから、こういう事になるんだよ!?」
「お前がそれ言うか!? 白熱しやすい話題ふりやがったくせに!!」
「私の所為じゃないもん! よそ見していたリクスの自己責任だもん!」
「と、とにかく! ボート出して流された釣り竿、拾いに行くぞ!」
「ええ!? 私も!?」
「連帯責任だろ! エナもボート漕ぐの手伝え!」
「何で私が……。栗の皮むき、まだ途中なのにぃ……」
かなり焦り気味のリクスは、エナを引きずるように物凄い勢いでボートが泊めてある方へと走りだす。そんな慌ただしく目の前から消え去った二人をノインとアシュリーは呆然としながら眺めていたのだが……。
しばらくするとアシュリーが俯きながら、ある一言をポツリとこぼす。
「私……もうリクスの事は諦めるよ……」
その言葉を聞いたノインが、ゆっくりと自分の隣のアシュリーに視線を向ける。
すると、アシュリーもゆっくりと顔を上げ、ノインに視線を合わせると、二人は何かを共有するように大きく頷く。
そして次の瞬間、意気投合するようにガシッと力強く互いの腕を交わす。
「来月の収穫感謝祭は……思いっきり飲むぞ!」
「賛成! もう来月はヤケ酒だぁぁぁー!!」
この日、意中の相手を諦める結果となった二人だが……。
その代償として、強い仲間意識を共感出来る相手を得る事となった。
だが、結果的にケビン達の賭けに負けてしまったノインは、この後友人二人にエールと厚切りの牛肉鉄板焼きをそれぞれおごる羽目になる……。
しかし、この三カ月後。
この縁が切っ掛けで、ノインはアシュリーと付き合う事となり、友人間では真っ先に彼女持ちとなる。そんなノインが、ここ最近リクスとエナが一緒にいるところを見かける度につい口にしてしまう言葉がある。
「なぁ……。あいつら、あれで本当ぉーに付き合っていないんだよな?」
ノインが呆れながらそう呟くと、同じく呆れ気味な表情を浮かべたアシュリーが、その呟きに反応する。
「きっとあの二人には男女間の愛情よりも、もっと強力な何かで繋がってんだよ……」
「それ、ただの腐れ縁ってやつじゃないのか?」
「仮にそうだとしても相当、強固な腐れ縁だと思う……」
「確かに……」
そんな風に陰で二人に囁かれている事を全く知らないリクスとエナは、この日もギャンギャン言い合いをしながら、当たり前のように無意識で常に行動を共にしていたそうだ……。
「俺……今年は絶対、収穫感謝祭にエナを誘う!」
そう力強く宣言した黒髪の少年をいつも一緒につるんでいる少年二人が、驚きと呆れた表情で見返した。
「は? ノイン、エナの事好きだったのか……?」
「つか、上手くいってもオマケでリクスが付いて来るぞ? お前、リクスに喧嘩売るつもりか?」
「何でそこでリクスが出てくんだよ!! あいつは関係ないだろ!?」
友人二名から同時に似たような返答をされたノインが反論する。
だが、そんなノインに憐れむような眼差しを向けた後、二人は互いに顔を見合わせて盛大に息を吐く。
「だって、『エナ』と言ったら『リクス』だろう?」
「リクスってエナの保護者? いや、エナの方がリクスの保護者か……。何か、あいつらって恋人とかじゃないけれど、いつもセットでいるのが当たり前な感じだろう?」
「でも兄妹とは何か違げぇーよなぁー」
「あー、分かる。でも恋人同士みたいな雰囲気は一切ないんだよなー」
「空気か? 互いに空気みたいな存在になってる感じか?」
「それそれ! もうあいつら独自のよく分からん強固な絆みたいなモンが出来上がっていて、第三者は一切介入出来なさそうな……そんな雰囲気だよなー」
エナとリクスに謎の深い絆があるという話で盛り上がり始めた親友二人に再びノインが激怒する。
「やめろ!! お前ら親友の癖に俺の心を折ろうとするなよ!!」
「いや、だって……」
「どう考えても即死だと分かっている死地にお前が向かおうとしているから……」
「失恋確定だから、今すぐに諦めた方がいいぞ?」
「告白する前からダメだって決めつけんなよ!! お前ら、それでも友達か!!」
「友だからこそ、無駄に傷つくような自殺行為をしようとしているお前を止めてやってんじゃねーか」
「エナだけは、やめとけ。たとえ告白を受け入れて貰ったとしても後々リクスの存在が、お前を苦しめる事になるぞ?」
友人達の言い分も一理あるとは思いつつもノインはある事に気付いた。
「お前ら……もし俺がエナに告白して振られたら、三人全員振られた事になるから、それが嫌で止めにかかってんだろう……」
ノインのその推察を聞いた二人が同時にビクリと肩を震わせた。
友人の一人であるケビンは、昔から好意を寄せていたアリスに過剰に絡み過ぎて嫌われた挙句、自分が苛めていたエディと最近二人が付き合い出している。
コールも似たような状態で、過去思いを寄せていたレニーをその幼馴染のヨハンと取り合ったが、ヨハンの狡猾さに負けてしまい、こちらの二人も最近付き合い始めた……。
すなわち、これ以上自分達の中から失恋する人間を出したくない二人は、ノインのその決意を必死で折ろうとしているのだ。確かにこれでノインまで失恋したら、周囲から撃沈組と揶揄われる事は目に見えている。だからと言って、意気込んでいる友の決意をくじけさせようとするのはいかがなものだろうか……。
友人二人の考えに気付いたノインが、白い目を向ける。
だが、逆に二人からは呆れた表情を返されてしまった。
「つか、何でよりにもよってエナなんだよ……。あいつがつるんでるリクスは、俺らの天敵なんだぞ!」
「しかもリクスの所為で、俺らは失恋確定したんだからな!? あいつに関わるとろくな目に合わないから、お前も同じ目に遭う前にエナの事は諦めた方がいいぞ」
折角、固めた決意を全力でへし折りに来る二人にノインが反論する。
「何でそうなるんだよ!! そんなの告白してみなけりゃ分かんないだろう!?」
「いや、火を見るよりも明らかだ。それ完全に負け試合だから」
「もう別の女にした方がいいぞ? そもそも何でエナ? あいつお節介で生意気だし、チビで胸は抉れてるじゃねーか」
「エナはお節介なんじゃなくて面倒見がいいんだよ! あと小動物みたいにちょこまかと甲斐甲斐しく動き回っている様子が可愛いいだろ!? あと誰に対しても人懐っこいのも感じいいし……。何よりも料理上手な所はかなり高ポイントだ! ちなみに胸のサイズは、俺には関係ねぇぇぇー!!」
ひとしきりノインがエナの長所を上げたが、ケビン達は別の部分に食い付く。
「何だよ? お前、もしかして貧乳派か?」
「俺、デカい方がいい……」
「お前らの好みなんか聞いてねぇーよ!! 一生思春期やってろ!! とにかく! 俺は来月の収穫感謝祭にエナを誘って、その時に告白する!!」
そう意気込んだノインに呆れた表情を向けながら、コールがボソリと呟く。
「その前に感謝祭の誘いを断れる方に俺はエールを二杯賭ける」
「じゃあ、俺は感謝際の誘いは受けて貰えるけれど、リクスがオマケで付いて来て告白できない方にヨハンの店の牛肉の鉄板焼きを一枚!」
「お前ら……友を応援する気は欠片も持ってねぇーよな……」
「何を言う! 負け試合になると忠告しやったんだから、むしろ友思いだろーが!」
「たとえ上手くいっても常にリクスが付いて来る未来に幸せなんかないぞ?」
「くそっ! 言いたい放題言いやがって……。見てろよ! その舐め腐った予想を覆してやる!」
更に意気込んだノインは勢いよく立ち上がり、大股で村の広場の方に向かって歩き始める。
「おい! ノイン、どこに行くんだよ!!」
「エナのところだ!!」
「なら今日の夜はヨハンの店に集合なー。あとエール二杯と牛肉の鉄板焼きを俺らにおごる準備しておけよ~」
「何っで断られる事が前提なんだよ!! お前ら、本当ふざけんな!!」
友人思いの二人に悪態をつきながら、ノインはひとまずエナを探しに村の広場へと向う。すると途中で、エナと仲の良いフェリシアとレニーに偶然出くわした。どうやら二人で山菜を取りに行っていたらしい。籠いっぱいに山の幸を詰め込んでいる。
「よう、お二人さん。今日エナは一緒じゃねぇーの?」
「エナ? さぁ……今日は特に会う約束していないから」
「あっ、でも昨日、湖の桟橋で釣りするリクスの見張り役を頼まれたって言ってたよ?」
「見張り役って何だよ……。つか、またリクスと一緒か。まぁ、いいや。ありがとなー」
「待って、ノイン! エナに何の用?」
何故か訝し気な表情を浮かべたフェシリアに言及され、ノインが気まずそうに頭の後ろをポリポリと掻く。ケビンとリクスがいつも張り合っている所為か、ノインもケビンと同類扱いされる事が多い。その為、フェリシアはノインがエナに絡みに行くのではないかと懸念しているのだろう。
「あーっと……ちょっと頼み事があって……。特にエナに絡んだりしないから、そこは安心してくれ」
「本当? エナに意地悪したらリクスが暴れて面倒だから絶対にやめてね?」
「ケビンじゃあるまし……。俺はそんな事しねぇーよ!」
「なら、いいけど……」
「おう、じゃあな」
そう言ってノインは、フェリシア達が教えてくれた村唯一の観光スポットである湖の桟橋に向う。同時にそろそろケビンには、もう少し精神的に大人になるよう諭した方がいいと思い始める。
フェリシアがノインを警戒していたのは、幼少期にアリスを庇おうとしたエナがケビンと揉み合いになり、二人そろって浅い川に落ちた事があったからだ。その時、何故かエナだけが高熱を出して寝込んでしまい、その際リクスが烈火の如く怒り狂ってケビンをボコボコにした挙句、一週間近くも追い回し、ノイン達も巻き添えをくらったという悪夢のような出来事があった……。
リクスにとって、エナの敵も全て自分の敵という考えなのだ……。
幼少期からの思い込みとはいえ、何とも恐ろしく短絡的な思考である。
その為、この村の少年達の間では『エナにだけは絶対にちょっかいを出してはならない』という暗黙のルールが密かに出来上がっていた。
その暗黙のルールを見事にぶち破ってやらかしたのが、ケビンである……。
そんな事があった為、ノインとコールはエナの友人達からはケビンと同類と思われている。
だが、その原因となったケビンは、そこまで悪い奴ではない……。
友人として接しているノイン達にとっては、ごく普通の少々腕っぷしの強いガキ大将気味な少年である。ただケビンは、どうも好きになった相手に対して過剰に絡んでしまうタイプのようで、相手に嫌われやすい。
そんなケビンもやっとその不毛さに気付いたのか、近頃は大人しくなり始めたのだが……。現在、ケビンを取り巻く状況から考えると、その事に気付くのがあまりにも遅過ぎた。
その事を決定づけるようにケビンが長年片思いしていたアリスには、未だに毛嫌いされている。
更に追い打ちをかけるように、ついこの間アリスは、幼少期にケビンが苛めていたエディと付き合い始めたのだ。
そのショックから、ケビンは来年成人したら村を出て王都の城下町の警備隊に志願すると言っていたが、本当はもうこの村内の女性陣からは評判が悪すぎて相手にされない事を本人も薄々気付いているようだ。
その為、ノイン達もケビンが村を出る事には反対しない。
同時に捻くれた愛情表現しか出来ない不器用なケビンを不憫に思う。
だが、村を出る決意を固めているケビンが残すその悪い印象は、何故か一緒につるんでいたノインとコールにそのまま引き継がれるらしい……。理不尽だと思いつつもその当時、ケビンと一緒になって面白がりながら、その暴走を止めなかった自業自得な部分もあるので、周囲からのその扱いは甘んじて受けようとノインは思っている。
そんな状況下でもエナだけは、ノインとコールの事をケビンと同類扱いしなかった。エナはお節介な性格の反面、周囲に対する気遣い力が高い。その証拠にいつも一緒にいるリクスがあれだけ大暴走しても、エナが上手く調整役となっている為、二人セットいる事でリクスは周囲と上手くやれているのだ。
その為、ノインと同じようにエナに好意を寄せている輩は、確実に存在している。
だが、いつも番犬のようにくっ付いているリクスの存在が強烈過ぎて、誰もエナにアプローチ出来ずに終了する事が多いのだ。
そんなエナを生まれた頃から無意識に独り占めしているリクスには、色々と思う事があるノインだが……。この二人に対して、一つだけ不思議だと感じてしまっている事がある。
何故かあの二人には、男女の友情でありがちな展開の『恋愛感情』が芽生える気配が全くない事だ。
頻繁に言い合いをしている事が多いリクスとエナだが、仲はすこぶる良い。
だが、それはどう見ても男女間でよく見かける甘さのあるものではない。
一番しっくりくるのは、親兄妹間でよく見られる家族愛に近い仲の良さなのだ。
その関係を現在の思春期真っ只中でも続けられている二人はある意味、奇跡である。
だが、今後リクスがエナの事を異性として意識し始める可能性は捨てきれない。
またそれはエナの方でも言える事だ……。
その状況がやって来る前にリクスを出し抜きたいノインは、今年の収穫感謝祭に賭ける事にした。
しかし、意気込んでいたノインを尻目に目的地である湖の桟橋では、仲良く肩を並べて座っているリクスとエナの姿が視界に入って来る。
その状況を目の当たりにしたノインは、思わず舌打ちをした。
「あいつら……。何で、あれで付き合っていないんだよ……」
あまりにも近い距離間を当たり前のように維持している二人の様子に思わず悪態をついたノインだが、まだ付き合っていない今の状況がまさにチャンスなのである。
そう自分に言い聞かせ、とりあえずエナが一人になるまで待とうと、静かに二人との距離を詰める。
だがその時、自分とは別の人間が同じように二人の様子を窺っている事に気付いた。
「おい、アシュリー。お前、何やってんだ?」
「うひゃあ!!」
「あっ! バカ! 大声出すなよ!」
慌ててノインはアシュリーと呼んだ少女の口を塞ぎ、サッと木陰に身を隠す。
幸いな事にエナはもちろん、リクスにも気付かれていない様子だ。
その状況に安堵の息を漏らすと、手元でアシュリーがモゴモゴと暴れ出す。
「あっ、悪ぃ」
「ちょっと!! いきなり何なのよ!!」
「いや、それはこっちのセリフなんだけど……。お前、何やってんの?」
「何って……。えっと……」
ノインの追及にアシュリーは気まずそうな笑みを浮かべながら、視線を泳がせる。
だが、先程までアシュリーが向けていた視線の先には、リクス達の姿があった。
その事からノインがある事を推察し、ニヤリと口元を歪ませる。
「さては……今年の収穫感謝祭にリクスを誘おうとしてたな?」
「なっ……!!」
「趣味悪りぃーなー。何でよりにもよって、リクス?」
「はぁ!? 何言ってんの!? リクスはあんたより百倍カッコいいじゃない! 顔はもちろんだけど……中身も男前でしょ!!」
そのアシュリーの主張にノインが何とも言えない微妙な表情を返す。
「お前……あの狂暴食欲大魔王のどこに男前を感じるんだよ……」
「リクスは狂暴なんかじゃないわよ! あんた達に比べたら物凄く紳士的じゃない!!」
「どこがだよ!!」
「例えば女の子には絶対に手を上げないところとか? もし苛められている子がいたら、すぐに助けに来てくれるし」
「それはエナがリクスを引っ張ってきて助けるように訴えるからだろ?」
「重い物とか運んでいると、すぐに手伝ってくれるし……」
「それもエナに言われて、リクスが渋々手伝ってるだけじゃねーか!!」
ノインのツッコミが的確過ぎて、アシュリーが一瞬だけ怯む。
確かにリクスが村の女の子達に親切なのは、全てお節介なエナが気付き、リクスに手を貸す様に訴えかけるからだ。
「で、でも……皆が揉めている時に率先して仲裁役を買って出てくれるところとか、頼り甲斐があるでしょ!? それは別にエナに言われたからじゃないし。そういう所は男前じゃない?」
「確かにそういう場合は、リクス自身の判断で動いているとは思うが……。それって、この村の長の息子として皆をまとめようとする普通の動きだろ」
「何よりも強くて顔がいい!!」
「結局、顔じゃねぇーか!!」
あんなリクスだが……隣のケルン村では、口を開かなければ腕っぷしも強くて見た目も良い為、人気がある。だが、大半はあの異常過ぎる食欲と口の悪さが明るみになり、恋心を萎えさせる少女達が続出する……。
中にはそれらも受け入れてリクスに好意を抱き続ける猛者もいるにはいるが……。
あまりにもリクスとエナが当たり前のように一緒にいる姿を目撃する為、皆その事で心を折られてしまう。
もちろん、この村でもアシュリーのように密かにリクスに想いを寄せている少女は多い。しかし、告白されても恋愛に全く興味がないリクスは、面倒臭いと言って全て断ってしまう……。
中には食べ物で釣ろうとする猛者もいたが、毎回悪気なくリクスが料理上手なエナの味と比較するような感想を口にしてしまう為、見事に撃沈されていた。
「まぁ、確かにリクスは思いきりがいいから男前っていうのは、少し分かるけどな」
「でしょ? ところで……あんたこそ、ここへ何しに来たのよ?」
「まぁ、俺もお前と一緒なんだけど……」
「ええ!? ノインってエナの事、好きだったの!?」
「悪いかっ!」
「いやー……。まぁ、確かにエナって小さくて動き可愛いし、面倒見いいから付き合ったら甲斐甲斐しくお世話してくれそうだよね……。ただちょっと子供っぽくて、気が強いところがあるけれど」
「そこもいいんだよ!」
「恋は盲目だねぇー……。人の事言えないけれど」
やや呆れ気味でアシュリーが呟くが、ノインはその呟きを完全に無視する。
「それで? あの二人、単独行動になりそうな気配はあるか?」
「それが……10分くらい前から二人共、無言のままあそこで横並びして座ってるんだよね。私も二人がバラバラになったら、リクスを感謝祭に誘いたいんだけれど……」
「つか、あいつら、何やってんだ?」
「リクスは釣りだね。エナの方は、膝のあたりで何か作業しているみたい」
「リクス、釣り下手なのに何でそんなに好きなんだよ……」
「さぁ……。でもさ、そういう苦手な部分に必死で拘るところが、何か可愛くない?」
「いや、全く可愛くない」
そんな会話をしながらノイン達が二人を観察していると、膝の上で何かをやっていたエナが、おもむろにスッと立ち上がってリスクに近づき始める。
だが次の瞬間……エナはリクスの頭頂部に景気よく手刀を叩き込んだ。
「てい!」
「うおっ!!」
すると手刀を叩き込まれたリクスは一瞬だけ肩をビクリとさせた後、何事かと周囲をキョロキョロと見回した。
「あ、あれ? 俺、もしかして……また寝てた?」
「思いっきり寝てたよ!! ピープー鼻笛まで鳴らしてたよ!! だからティクス兄に魚釣りじゃなくて餌やってるって言われちゃうんだからね!?」
「くっそー、睡魔が急に襲ってきやがった……。つか、そうならないようにエナに俺の見張りを頼んでたんじゃねーか! 見ろ!! お前が起こすのが遅いから、また餌が取られちまったぞ!?」
理不尽としか思えない苦情をエナに訴えながら、リクスが手にしていた釣り竿をヒョイッと軽く持ち上げる。すると、その先端の釣り針に付いていたはずの餌が消えていた。そのリクスの言いがかりのような訴えにエナが反論する。
「それがおかしいんだよ! それじゃ、リクスが釣りしてるんじゃなくて、私が釣りしてるみたいじゃない!!」
「魚を釣るのは俺なんだから、釣りしてんのは俺だ! エナは……お魚ヒットお知らせ係だろ!?」
「何その変な名前の係! 私、そんな暇じゃないんだけれど!」
「さっきから暇そうに栗の皮むきしてんじゃねーか!」
「栗の皮むきしてるんだから、暇してないでしょ!?」
同世代の間では、もはやお馴染みとなっている二人の名物言い合いにノインとアシュリーが笑いを堪えるように自身の口元に手を当てる。
本人達は至って真剣だが……周囲の人間にとっては、この二人の掛け合いは面白すぎるのだ。
「つか、無言だから眠くなんだよ……。エナ、お前なんか面白い話ねぇーの?」
「ええ!? 何で私に振るの!? 言い出したリクスこそ、何かないの?」
「ねぇーから、お前に振ってんじゃねぇーか……」
「うーん。あっ! そう言えば、先週からエディとアリスが付き合い出し――」
「それ知ってるから! お前、俺の情報網を舐めすぎだろ!?」
「だって……リクス、少し前までエディがアリスを好きな事知らなかったでしょ?」
「流石に今回は皆が騒いでるから俺の耳にも入るわ!! つか、なんかこう……盛り上がって話せる話題とかねぇーの?」
「もう! さっきから人任せばっかり!! あっ、じゃあ来月の収穫感謝祭については? 確かリクス、今年から家の手伝いしなきゃいけないから、感謝祭回れないでしょ? もし食べたい物があれば私、フェリシア達と回るから早めに買っておいてあげるよ」
「バカ言え! 俺は今年も出店巡りは、しっかりやるぞ!」
「えっ? でもティクス兄が今年はリクスをこき使うって言ってたよ?」
「おう。だが開始30分までは、お祭り回っていいって兄ちゃんから言質取った! だからその間、エナと手分けして食い物の屋台を片っ端から制覇する!! エナ、協力、よろしくな!」
リクスのその宣言を聞いたノインとアシュリーが、思わず顔を見合わせる。
これではリクスもエナも二人が収穫感謝祭に誘う事が出来ない……。
「ええ~!? 嫌だよ!! それだとお祭り始まった30分間はリクスに引っ張り回されるから、フェリシア達と回る時には私、グッタリしちゃうじゃない!! 大体、何でリクスの都合に私が合わせなければいけないの!?」
「だって俺ら、ガキの頃から収穫感謝祭は必ず一緒に回って食べ物系の屋台を制覇するってのが恒例じゃねーか。お前、今年は俺を裏切んのか?」
「どちらかと言うと裏切ったのは家のお手伝いとは言え、一緒に回れなくなったリクスの方でしょう!?」
「俺の場合は不可抗力だ! それでも30分は何とか確保したんだから、協力しろよ! つかお前、夫持ちのフェリシアと回るってどういう事だよ! そこは気ぃ使って遠慮しろや!」
「フェリシアがいいって言ったんですぅー。ついでにレニーも一緒ですぅー」
エナの言い分を聞いたリクスが呆れるたような声を出す。
「お前……何、堂々とカップルイベントの邪魔してんだよ……」
「アッシュは当日、お祭り時の警備に回らなきゃいけないし、ヨハンもお店出す側だからレニーと一緒には回れないんですぅー!」
「だからって、あいつら夫と恋人を蔑ろにし過ぎだろ? つか、エナも友情に甘え過ぎだ!」
「甘えてないよ! 何さ! リクスだって独り者なんだから人の事言えないじゃない!!」
最早、泥仕合と化してきた二人の会話だが……何故かその論点は、おかしな方向に向かい始める。
「俺はエナと違って、何人かに一緒に収穫祭回りたいって誘われましたぁー」
「じゃあ、その子たちに屋台制覇を協力して貰えばいいでしょ!?」
「アホか! あいつら絶対、面白くもねぇー話しながら、ちんたら回るじゃねぇーか! 俺が求めている人材は、制限時間内にいかに効率よく食い物系屋台を回るかに命をかけられる奴だけだ! その点、エナには絶対的な信頼を寄せている。誇っていいぞー?」
「誇りたくないよ! そんな信頼感、ちっとも嬉しくないから! それよりも真剣にお祭りに誘って来てくれた子をそんな理由で断ったリクスにドン引きだよ!!」
「下心ある奴の誘いなんかホイホイ受けるわけねぇーだろ!! 俺にだって相手を選ぶ権利がある!」
「好きな子の好みなんてない癖に何言ってんの!?」
「はぁ!? 俺にだって女の好みぐらいありますぅー!」
「じゃあ、リクスはどんな子がいいって言うのよ!!」
その話題になった途端、アシュリーだけでなくノインも自然と前のめりになった。
しかし、この後リクスが口にし始めた内容を耳にした二人は、盛大に肩を落とす事になる。
「とりあえず、料理上手は必須条件だな!」
「うわぁー……。流石、食意地大魔王なリクスだ……」
「あとは見た目の良さも重要だ!」
「見た目って美人さんとか?」
「はぁ? 美人なんて三日で飽きるって言うじゃねぇーか。俺は美人よりも可愛い系がいい! なんかこう……小動物みたいなカワイイ奴?」
「レニーとか? ウサギっぽいから小動物系だよね?」
「いや、レニーだと打たれ弱そうだからダメだ。出来れば俺のツッコミをサクサク返せるくらいのメンタルの強さは欲しい。尚且つ、献身的に尽くしてくれるタイプだったら、もう完璧だな!」
何故か上から目線で自身の好みを熱く語ったリクスにエナが呆れだす。
だが、その内容を盗み聞きノインとアシュリーは、唖然とした表情で互いに顔を見合わせた。
何故なら、リクスが口にした女性の好みは、先程ノインが語った『エナの好きなところ』に全て当てはまるのだ……。
その事にアシュリーも気が付いたようで、やや顔色が悪くなっている。
だが、当人であるリクスとエナは、全くその事に気付いていない。
「何言ってんの!? そんな男性の理想の塊みたいな女の子、いる訳ないじゃない!! リクス、ちょっと理想が高すぎだよ!」
「何だとー!! じゃあ、お前の理想はどんな男なんだよ!!」
「私はもっと分かりやすくて謙虚だよ? 強くてー、優しくてー、頼り甲斐のある人!」
今度はエナが理想の男性像を口にするが、その事でも盗み聞き組はビシリと固まる。
それは先程アシュリーが熱く語った『リクスの好きなところ』と内容が丸かぶりだったのだ。
だが、エナもその自分の理想条件にリクスが該当する事に全く気付いていない……。
そんな二人の会話は、そのままどんどんと進んでいく。
「ほぉ~? じゃあ、その条件を満たしてれば、ヒキガエルみたいなブッサイクな男でもいいんだな?」
「か、顔は……まぁ出来ればカッコいい方がいいけれど……」
「じゃあ、それで顔が良ければ借金まみれでもいいんだな?」
「お、お金はあるに越した事はないでしょ!!」
「お前……その条件に合うのってアルバート様くらいしかいないぞ?」
「貴族の人は嫌! 窮屈なドレスとか礼儀作法の練習とかやりたくない!!」
「じゃあ……商家の息子のオリバーさん?」
「オリバーさん、ナヨナヨしていて頼り甲斐ないじゃない! しかも私より物凄い年上だし」
「つか、うちの村近辺にいるモテ男二人にダメ出しするお前の方が、よっぽど理想高くね?]
「そ、そんな事ないもん!!」
最後には顔の良さまでプラスされたエナの理想の男性条件に、ノインが片手で両目を覆いながら俯き出す。どう考えてもこの条件にピッタリな同世代の人物として該当するのは、リクスなのである。
その為、隣にいるアシュリーも同じように両手で顔を覆い、盛大に項垂れた。
これでは二人とも間接的に振られたと言ってもいい状況だ……。。
その為、二人はリクス達の会話を盗み聞きしていた事を後悔し始める。
だが、この後の二人の会話は、今話していた内容を全て覆す展開を見せる。
「でも結局は理想って、当てになんねぇーよなー」
「あー……確かに。どんなに高い理想を持っていても結局は、その時好きになった人が『理想の人』になるもんねー」
「うわー。何かエナが分かり切った風の口ぶりしてるー。恋愛経験ゼロな癖にー」
「う、うっさいな! リクスだってそうでしょう!? そもそもうちの村には、その代表的なカップルがいるじゃない!」
「ガイ兄とミリア姉だろ? あの二人、大っ嫌いから始まった癖に今や周りに胸やけを起こさせる程、イチャイチャ夫婦だもんなー……」
「ガイ兄が言ってたよ? 大っ嫌いから始まる恋は、それ以上嫌われる事がない状態からスタートだから最強だって」
「それ、ただのこじ付けじゃね? ガイ兄はたまたま上手くいったから、そんな事言えんだよ……」
「えー? でも何かその言い回し、素敵な響きじゃない? って、ああぁぁぁぁぁー!! リクス、釣り竿! 釣り竿が湖に落っこちてる!!」
「えっ!? うわぁぁぁぁぁー!! 嘘だろ!? この間、アルバート様に一本折られたから、今あれしか釣り竿持ってねぇーのに!!」
「もぉー!! 何やってんの!? 集中してないから、こういう事になるんだよ!?」
「お前がそれ言うか!? 白熱しやすい話題ふりやがったくせに!!」
「私の所為じゃないもん! よそ見していたリクスの自己責任だもん!」
「と、とにかく! ボート出して流された釣り竿、拾いに行くぞ!」
「ええ!? 私も!?」
「連帯責任だろ! エナもボート漕ぐの手伝え!」
「何で私が……。栗の皮むき、まだ途中なのにぃ……」
かなり焦り気味のリクスは、エナを引きずるように物凄い勢いでボートが泊めてある方へと走りだす。そんな慌ただしく目の前から消え去った二人をノインとアシュリーは呆然としながら眺めていたのだが……。
しばらくするとアシュリーが俯きながら、ある一言をポツリとこぼす。
「私……もうリクスの事は諦めるよ……」
その言葉を聞いたノインが、ゆっくりと自分の隣のアシュリーに視線を向ける。
すると、アシュリーもゆっくりと顔を上げ、ノインに視線を合わせると、二人は何かを共有するように大きく頷く。
そして次の瞬間、意気投合するようにガシッと力強く互いの腕を交わす。
「来月の収穫感謝祭は……思いっきり飲むぞ!」
「賛成! もう来月はヤケ酒だぁぁぁー!!」
この日、意中の相手を諦める結果となった二人だが……。
その代償として、強い仲間意識を共感出来る相手を得る事となった。
だが、結果的にケビン達の賭けに負けてしまったノインは、この後友人二人にエールと厚切りの牛肉鉄板焼きをそれぞれおごる羽目になる……。
しかし、この三カ月後。
この縁が切っ掛けで、ノインはアシュリーと付き合う事となり、友人間では真っ先に彼女持ちとなる。そんなノインが、ここ最近リクスとエナが一緒にいるところを見かける度につい口にしてしまう言葉がある。
「なぁ……。あいつら、あれで本当ぉーに付き合っていないんだよな?」
ノインが呆れながらそう呟くと、同じく呆れ気味な表情を浮かべたアシュリーが、その呟きに反応する。
「きっとあの二人には男女間の愛情よりも、もっと強力な何かで繋がってんだよ……」
「それ、ただの腐れ縁ってやつじゃないのか?」
「仮にそうだとしても相当、強固な腐れ縁だと思う……」
「確かに……」
そんな風に陰で二人に囁かれている事を全く知らないリクスとエナは、この日もギャンギャン言い合いをしながら、当たり前のように無意識で常に行動を共にしていたそうだ……。
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